軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

363.メガネ君、「黒鳥」と顔を合わせる

「……起きたくないなぁ」

思わず漏れるこの言葉は、もう六回目である。

このまま猫の腹だけ撫でていたい。愛でていたい。

……でも、もう朝なんだよなぁ。

深い深いため息を一つ。

――よし、起きるか。いいかげん。

蜜月の夜は、こうして終わりを迎えたのだった。

無事に猫と一晩過ごした俺は、ベッドから起き上がれないままぐずぐずしていた未練を断ち切り、ようやく立ち上がった。

チラリと見ると――巨大な猫が、ベッドに仰向けに、本当に見事に仰向けになって寝ている。人間じゃないのかってくらいまっすぐに仰向けだ。猫ってこんなに仰向けになって寝ることあるんだな。

顔を洗ってこようと部屋を出る寸前で、最後に腹毛を一撫でしておく。

今日からまた移動で、宿に泊まるだのなんだのという予定も未定である。もしかしたら野宿かもしれないし、誰かと相部屋になったりするかもしれない。

次また一緒に居られるのがいつになるかわからないので、今の内に存分に撫でておく。

――「朝ごはんはぁ?」と、寝ているようにしか見えない猫からアンニュイな意識が飛んでくる。

「何が食べたい?」

そう聞くと――「トカゲの肉でいいわぁ。片面だけ強火でジャッと焼いてぇ、少し脂が溶けて生、半生、こんがりの三層に焼いてぇ」とこだわりのリクエストがやってきた。

なんという細かな指定。

しばらくリッセたちに世話を任せていた間に、すっかりそういう加工肉に慣れてしまったようだ。

……一応、少し前までは完全なる野生で生きてたはずなんだが……

…………

仰向けで寝ている隙だらけな猫を見る限り、早くも野生は忘れてしまっているようである。まあそんな猫も大好きだが。

猫にリクエスト通りのトカゲ肉を食べさせて一旦召喚解除し、俺もちゃんと準備をする。

まずハイドラから登録した「 圧潰膨裂(リバース) 」で、「圧縮」していたワンピースを「戻して」取り出す。

この「 圧潰膨裂(リバース) 」は本当に便利だ。

「圧縮」すれば質量も重量も小さくなるので、道具類の持ち運びが非常に楽になる。もちろん「膨張」すれば逆の作用となる。

ただ、「圧縮」も「膨張」もやり過ぎると、その道具自体が破損する。

この辺の加減が難しい。

特に、固い物は余計に難しい。

使い込んでいけば、この一線を越えたら壊れるという感覚がわかったりするのだろうか。

――まあ、その辺は追々の課題である。

ワンピースを着て、カツラを被り、鏡の前に座る。

次は化粧だが――実はもう必要ない。

ゼットの仲間であるコードから登録した「素養・ 色彩多彩(カラフルカラー) 」を使えば、瞬時に見た目を変えられるからだ。

「俺のメガネ」の劣化板であっても、顔一面くらいなら自由に色を付けられる。鏡を見てやれば細かい調整も可能だ。

――この「素養」の一番優れているところは、「瞳の色」さえ変えられることだ。少しだけ変えておくことにしよう。これだけでもかなり印象は違うはずだ。

これでよし、と。

鏡で仔細に確認し、立ち上がる。

メイド服ではないが、「メイドのエル」のできあがりだ。

それから待つこと少し、サジータが呼びに来たのでロビーまで一緒に向かい。

「初めまして、『夜明けの黒鳥』です」

ここから竜人族の里まで、護衛として同行する冒険者チーム「夜明けの黒鳥」と顔合わせをした。

というか、驚いた。

やってきた「黒鳥」のメンバー六人中、五人は知っている顔だった。いや正確に言うと全員知ってはいたが。

まず、「黒鳥」の代表として挨拶をした無精ヒゲのグロック。

ハイディーガで会ったのは、約半年前になるかな。あれ以来だが変わりはなさそうだ。

危険な冒険者家業の中、変わらず無事っていうのは何よりの情報である。

次に、姉ホルンとアインリーセ。

彼女らもハイディーガで会ったので、半年ぶりだ。やはり変わりはなさそうである。

意外だった二人が、レクストンとライラである。

レクストンは、俺と姉とは同じ村出身の幼馴染だ。

村にいた頃は姉に並ぶとも劣らないバカだったが、今では身体の大きさが売りの一端の戦士のようだ。

春、王都で会った時と比べるなら、見違えるほど強くなっている気がする。

もう片方のライラは、魔術師だ。彼女とも春に王都で出会い、一緒に狩りに出たこともある。

あの頃は「弱い魔法が使える村娘」という素人同然だったが、こっちも見違えるほど逞しくなっていると思う。

どれほど才能が開花しているのかはわからないが……いや、「黒鳥」のメンバーの一員としてここにいるという事実からして、相応の実力も付いたのだろう。

そして、最後の一人。

額に大きな角が生えている、大柄なレクストンより更に大きな男。

彼が、暗殺者組織からスパイとして潜り込んでいるオールドブルーだ。そうそう、「黒鳥」の住処に行った時にちょっと見かけただけだったが、あんな人だった。

立派な角に立派な体格だが、穏やかな表情をしている。

荒事が得意という感じはしないが――そんなわけないよな。彼の場合は暗殺者でもあり「黒鳥」のメンバーでもあるわけだから。

俺がさりげなく「黒鳥」の六人を確認する間に、サジータがグロックに返答する。

「初めまして、僕はサジータと言います。竜人族の里に行く親善団体の代表を務めています。

――こちらは僕の助手のエルです」

あ、俺か。

「エルです。よろしくお願いします」

挨拶をし、観察する。……バレてる様子はなさそうだが、油断はできない。

問題なく顔合わせを済ませると、俺たち調査団と「黒鳥」の総勢十二人は、予定通り 港街ババリリデアを発つのだった。