軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

361.メガネ君、サジータに相談する

色々と考えなければならないことは増えたが、

「それはそうとエイル君。すまないが、私は今夜発つ」

えっ。

……ああ、そうか。今日は七日目か。

ワイズが秘術の訓練を見てくれる期限は今日までなので、予定通りなのか。

――道中も忙しそうにしていたし、この街に来てからもどこぞへ挨拶へ行ったりしていたし。

俺を始めとした候補生たちとは違い、非常に忙しかったに違いない。

それなのに、俺のためにわざわざ時間を割いてくれたんだよな……感謝しかないと思ったが、恐縮も強くなってきたな。

「君は将来を決めたかね? ――ああ答えなくて結構。ただもしナスティアラ王国暗殺者組織に属するつもりなら、諦めなさい。我々はもう長くない」

……えっ!?

「まさか、組織解散ですか!?」

「うむ。恐らく次の代……セリエの代で解散となるだろう。そして組織は名前を変える。

以降は逆に『殺しの任がない暗部』として、主に諜報活動を主体とする機関として生きていくことになるだろう」

まあ今でさえ殺しの仕事などないがねハッハッハッ、とワイズは笑う。だからおじいちゃんの自虐はやめてくれ。

「私も散々手を汚して来たがね。

しかし、殺しで解決すると余計歪むことが多かった。

歪みを直すために手を下したはずなのに、結果としてもっと大きな歪みとなるのだ。

予想外と言っていいのか、それとも世の中は得てしてそういうものなのか。

我らが王はそれに気づいた。

だから我々の仕事は激減した――思うことはあるが名君の名に恥じない采配だと思う。

私が生涯を費やした組織だ、惜しむ気持ちがないわけがない。

だが、私はそれでいいと思っている。

時代に取り残された我々がいたら、最悪、戦争の火種になる可能性もあるからね。

我々は人知れず存在し、人知れず消えていく。歴史にその名を刻むこともなく。

それでいいのだ」

そう、か……

ワイズや教官たちを始めとした暗殺者たちとは、まだ一年も付き合いがあるわけではない。

それでも、なんだか寂しいな。

――普通にそう思うくらいには、俺も意外としっかりと、暗殺者に馴染んでいたのかもしれない。

「組織が解散となれば、私もどうなるかわからない。

――ゆえに、君と会うのはこれが最後になるかもしれない。

ありがとう、エイル君。

数多の命を散らしてまで生み出し、結晶とした、私たちの秘術を継いでくれて」

なんとも軽々しく返せる言葉も見つからず、ワイズの部屋を後にした。

「組織解散、か……」

名前を変えて、諜報機関になるとか。

……俺は殺しの仕事なんてできないし、やるつもりもないけど。

でも名前が変わると言われると、承服しかねる気持ちが湧いてくるのはなぜだろうか。

「魔力の変質」や、ワイズが例題としてくれた「釣り師」の応用など、考えたいことはたくさんあるのだが――どうしてもそっちに思考が向いてくれない。

暗殺者組織、解散。

今現在でも仕事はないみたいだし、実質すでに解散しているようなものなのかもしれない。

でも、それでもやっぱり、解散は寂しい。

――ダメだダメだ! 気持ちを切り替えよう!

考えたって仕方ない。

そもそも一年も付き合いがない俺が、一丁前に惜しんでどうする。

そういうのは、長年そこでやってきた教官たちや関係者、孤児院から育ててもらったリッセたち、小さな頃から暗殺者になりたいと決めていたセリエたちが抱くべき感情だろう。

俺が言ったって薄っぺらいだけだ。

それより、もし本当に惜しむ気持ちがあるなら、ワイズから直接下った任務を過不足なくこなす方が、何よりの恩返しになるだろう。

竜人族の里の調査。

かならずやり遂げよう。

――そして、ワイズは宣言通り、夜になったら姿を消した。

サジータと、恐らく場の流れでなんとなく伝えられた俺以外の者……候補生たちには一言も告げなかったようだ。義娘であるセリエも何も聞いていなかったとか。

「それより明日のことだけど」

自室に用意した夕食のテーブルに全員を呼び出し、ワイズが去ったことを告げたサジータは、「それより」と次の情報を通達した。

「明日、僕らの護衛として竜人族の里へ同行する冒険者たちと合流し、移動を開始する」

お、ついに竜人族の里へ向かうのか。

「まず事前に言っておく。冒険者たちは、ナスティアラ王国で活動している『夜明けの黒鳥』という腕利きのチームだ」

えっ?

……えっ? 「黒鳥」? あの?

まさかこんなところでその名前を聞くとは思わなかった。

というか、明日には名前どころかメンバーに会うことになるのか。

……姉は来てないだろうな?

大事な仕事の前には特に、あんまり会いたくないんだけど。

「あ、あの人たちだ」

声を上げたのはリッセだ。

冒険者の街ハイディーガに滞在していた時、 黒皇狼(オブシディアンウルフ) を討伐する時に同行したので、知っているはずである。

「そしてここからが重要なんだけど――『黒鳥』には僕らの仲間が属していて、今回同行してもらっている」

…………

ワイズにもたくさん驚かれたが、サジータも充分驚かせてくれるものだ。

何?

「黒鳥」に暗殺者のメンバーが入り込んでるって?

なぜ? なんのために?

…………

いや、考えるまでもない、かも。

民間にありながら強大な戦力を保持する組織だから、監視のためだろう。完全に野放しにしておくには危険すぎるから。

「名前はオールドブルー。とても大きな男だ。

彼は人知れず僕たちのフォローをしたり、動きやすいよう場を調整してくれる。

だから、彼の言動にはそれとなく従ってくれ。もちろん過度の接触や内密な話などは厳禁だからね。

もし彼に話があるなら、僕に伝えてくれればいいから」

オールドブルー。

……確か、「黒鳥」が住んでいる倉庫に挨拶しに行った時、見た気がする。頭に角が生えている、大柄ななんらかの獣人だったはず。

「出発は朝食後だけど――エイル」

と、サジータは俺に視線を向ける。

「我々の代表として、君は朝食の前に彼らと顔合わせをして、挨拶してもらいたい。もちろん僕も一緒にいるから」

…………

「サジータさん。あとで相談いいですか?」

「ん? 相談?」

さすがに言っておかねばなるまい。

――「俺、『黒鳥』とちょっと付き合いがあるんですけど、まずいですかね?」と。