軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

347.それぞれの思惑 1

「お、悪い顔」

部屋に戻ると、来客が二人来ていた。

その片方――ニヤリと笑うマリオンに、いきなり指摘された。

「そう?」

ハイドラは、普段は絶対に見せないなかなか邪悪な笑みを、隠そうともしない。

――わかっている。

――さっきから笑いが止まらないのは、自分でもわかっている。

「話はうまくいった、と解釈すればいいのかな?」

もう一人の客であるエオラゼルは、ハイドラのいつに見ない笑みに何の変化もなく、穏やかに微笑んでいる。

「うまくいった……とは、言えないわね。むしろ逆かしら」

そう、逆だ。

それもこれ以上ないほどの逆。

成功も失敗もわからなかった。

だから何一つ予想が立てられない。

それゆえにハイドラは喜んでいる。

想像通りか想像以上かはまだ判別できないが――絶対に想像以下ではないことは確定した。

「エイルは欲しい。是が非でも」

つい先ほど、ハイドラはメガネの少年エイルと「個人的な話」をしてきた。

初めて己の「素養・ 圧潰膨裂(リバース) 」について、自分の口から誰かに明かした。

一生誰にも話すことはないだろうと思っていたのに。

我ながらかなり身を削ったと、ハイドラは思っている。

――なんだかんだあっちこっち行きまくって忙しいエイルを、ようやくゆっくり口説けそうな状況になってきたと思った矢先だった。

教室も課題も違うだけに、ハイドラとエイルの接点はあまりなかったのだが。

しかし秘術の訓練に入った途端、双方が入り乱れての合同訓練の様相になったのだ。

チャンスである。

この機会に、エイルと共に過ごす時間をしっかり作って、しっかり口説き落としてやろう。

そう思っていた矢先の、竜人族の里行きの話である。

さすがのハイドラも、エイルのこの隙間のないスケジュールにはかなり焦った。

昨日一昨日、ようやくエイルがブラインの塔に帰ってきたと思えば、今度は獣人の国に行くという。

しかも、ただでさえ移動時間込みで長期に渡るであろう調査任務なのに、その上エイルは長期戦で挑む姿勢を連想させる人選をした。

ハイドラは突き詰めて考えた。

もしかしたら、これがエイルと顔を合わせる、最後の機会になるかもしれない。と。

暗殺者育成学校の卒業も、卒業後の動向も、現時点では何一つわかっていないのだ。

一堂に会して「はい解散」なのか、それとも時間も場所もバラバラに一人ずつ散っていくのか。

エイルの調査結果如何によっては、彼はブラインの塔に戻ることなく卒業という扱いになるかもしれない。

というかその可能性は高いと思われる。

何せ暗殺者側からの任務である。

訓練中の候補生に下った異例の仕事である。

訓練期間を削る采配であるだけに、利ける融通、本人のささやかな希望くらいは叶えるだろう。

――彼が長期の調査の指揮を執るというなら、間違いなくそれは長期になるだろうとも思うのだ。エイルが下手を打つ可能性が見えない。しっかり人選したことも加味して。

そう考えたら、ハイドラは身を削るリスクを負うしかなかった。

――少しでも「ハイドラに借りを作った」と思わせるために。

彼の心にトゲの一本でも刺さっていてくれれば、先の展開もあるだろう。

そうじゃなければ……まあ、それはその時考えよう。

エイルは「他人の素養」を触れ回るようなタイプじゃないので、秘密が漏れる心配はしていない。

仮に一生再会できなくても、その辺の心配はしていない。

「僕は仕事や課題でエイルと一緒に行動したことがない。彼はそんなにすごいのかい?」

「んー。私もいまいちわかんないんだよねー。優秀だとは思うけど、あれくらいなら他にもいると思うし」

エオラゼルとマリオンも、エイルと一緒に動いた経験が少ない。

いや、それで言うならハイドラも同じくらいだ。

むしろ現段階で異様なほど高く見積もっているハイドラの判断の方が、行き過ぎという気さえするが……

「エイルは欲しい」

ハイドラはもう一度、言った。

ハイドラが「個人的な話」をしている間の、エイルの反応に笑いが止まらない。

――何もなかったから。

眉一つ動かさず、ハイドラをじっと見つめて話を聞いていた。

エイルの反応はそれだけだった。

ハイドラとしては自分の命と同じくらい大切な話をしたと思っているし、エイルも「重要な秘密を明かされている」くらいは思ったことだろう。

しかし、予想以上の無反応だった。

聞きたくないと言うこともなく、「重要な秘密を聞かされた」という気負いも動揺もなく、本当に普段通りだった。

嘘も推測も 本当のこと(・・・・・) も、すべて織り交ぜて話したが、どれにも反応しなかった。

見抜いているのか騙せたのかさえわからない。

全部まるっきり信じた、なんて簡単な相手なら話は早いのだが。

しかしそれだけはないと、ハイドラはなんの根拠もなく確信している。

まさか同年代の反応一つに、しびれるほどの感動と焦燥感に、本能を食われるとは思わなかった。

――あれはきっと同類だ。

ハイドラも、言葉だけでは他人を信じないタイプだ。行動や人となりを見て、ようやく少し歩み寄る……その程度である。

そして、信じた相手は信じ抜くタイプだ。

エイルほど用心深い者は少ないだろうが、エイルほど信じた相手を裏切らない者も少ないだろう。

あれと手を組めれば、きっといろんなことができるだろう。

特に――卒業後の初仕事。

「エオラゼル。エイルを確保できるかどうかで、初仕事の過程も結果も大きく変わると思う。でも今必要なことは秘術の訓練だわ。精一杯やりましょう」

「そうだね。でも一応準備だけは進めておくよ」

「となると、私は秘術の訓練に専念か。移動系は全部習得したいなぁ」

――今のところ、ハイドラの仲間は二人。

元々少数精鋭の組織にするつもりだったので、人数はいい。

これから増える予定もあるし、まだ目を付けている候補生もいるし。

ただ、そう、やはり――エイルは欲しい。

彼がいれば、国宝を盗むどころか、国を盗めるかもしれない。

そのためにも、しっかりと策を練らねば。