軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

330.メガネ君、ワイズ・リーヴァントと再会する

「――久しぶりだね。エイル君」

お、おお。おう。うん。……ワイズ・リーヴァントだ。

ヨルゴ教官からは夜の到着だと聞いていたが、ワイズ・リーヴァントはまさかの夕食前――陽は落ちて真っ暗だが、夕方頃に粉雪亭へやってきた。

白く染まった髪にヒゲ。相変わらず品の良い恰好でかっこいいおじいちゃんだ。どこからどう見ても貴族ーって感じである。

まあ、暗殺者の頭なんだけどね。

……来る来るとは聞いていたけど、本当に来たんだなぁ。

俺は正直、ナスティアラ王国で別れてから、もう二度と会うことはないだろうと思っていたんだけどな。

それがまさか、ナスティアラからはるか離れた大帝国で再会するなんて、予想もしなかった。

ワイズ・リーヴァントがやってきたその時、俺はヨルゴ教官の部屋で、カードを使ったイカサマの訓練をしていた。

クロズハイトから大帝国へ走ってきた時に学んだアレである。

技術的には身に付けた感じだが、今度は使いどころ……相手の視線や注意をいかに逸らすか、掻い潜るか、騙すかを教えてもらっていた。

俺、このイカサマで、嫌いな冒険者から巻き上げてやるんだ。

…………

まあ、やらないけどね。

なんかの役に立ちそうだから教えてもらっているだけである。

「――久しぶりだな、ワイズ。腰は大丈夫か?」

いきなり自分たちのトップが、ノックもなく部屋にやってきたのだが、ヨルゴ教官は何も気にせず声を掛けた。

いや、いきなりではなかったのかな。

気配なんかで気づいていたのかもしれない。俺は全然察知できなかったけど。

「――よくはないな。この時期の大帝国の寒さは骨身に沁みる」

ああ、おじいちゃん腰やってるのか。……あ。

今気づいたが、ワイズの他に二人ほど……俺と同年代くらいの男女がいた。

どこにでもいそうな特徴のない見た目だが……

まあ、見た目だけだね。

あの二人もやっぱり暗殺者関係みたいだ。気配とか雰囲気とか、明らかに常人じゃない。

ワイズが歩きながら脱ぎかけた黒いコートを少年が、外した革の手袋を少女が受け取り――当人は俺たちが座るテーブルに着いた。

そして彼は、俺の手許から一枚のカードを引いてニヤリと笑う。

「腕を上げたね?」

しかしひっくり返して見せたカードは、今俺から取ったカードじゃなかった。

……え?

今、いつすり替えたんだ。

というかいきなり来てすり替えるなんて芸当、インチキの仕込みがないってことだよな。どんなトリック使ったんだよ。

……いろんな意味で俺の腕は上がったと思うけど、この人にはまだまだだ。

初めて会った時は、いろんなことを冷静に見られる状態ではなかったけど……

ほんの少し暗殺者業の技を身に付け、こうして冷静に見てみれば、恐ろしいまでの距離を感じる。

教官たちでさえ逆立ちしたって勝てる気はしないのに、この人はまた……比べるのもおこがましいって感じである。

本当に、本当にまだまだ追いつけない、遠い存在のようだ。

「報告したいこともあるかもしれんが、まず要件から言っておこう」

来て早々に本題に入るのか。忙しない話だ……と思えば、ワイズは「あ」と漏らして後ろを振り返る。

「――君たちはもういい。部屋でゆっくりしていなさい」

ワイズから預かったコートなどを持って後ろに控える男女は、すーっと音もなく部屋を出ていった。

「あの二人は前年の卒業生だ」

同年代くらいだろうな、と思って見ていた俺にヨルゴ教官が教えてくれた。ああ、去年はあの二人がブラインの塔で生活していたのか。俺の先輩ってわけだ。

「わざわざ呼び立ててすまなかったね、エイル君。ヨルゴもご苦労だった」

ああ、はい。

俺が今ここにいる理由は、この人から呼び出しの手紙が届いたからである。

それから、「こんなことは前例がないから」という理由で教官たちにいろんな疑いを掛けられて、可愛い邪神像 (真)と寝食をともにすることになったわけだ。

会ったら皮肉の一つも言ってやろうかと思っていたけど……言わない方が幸せになれそうだ。それはもういろんな意味で。

この人に逆らうとか、絶対に考えちゃダメだと思う。

「事の発端は、君が暗殺者の村に旅立ってすぐのことだ。

実はあの頃、ナスティアラ城には竜人族の来客が来ていてね。その人が『君のメガネ』に強い関心を示したのだ」

…………

ん? え? ちょっと待って。

「竜人族? 客人?」

なんの話をしているのか、本当にわからなかった。

教官たちに散々疑われてきたせいか、俺には何かしらの嫌疑や疑惑が掛かっていると、自然とそういう方向に考えていたが。

しかしいざ本題に入ったら、竜人族?

本気で予想外すぎて頭に入らない。

「あの、何かしらの疑いがあるとか、確かめたいことがあるとか、そういう用事じゃなかったんですか?」

「ははは、ないない。故郷がわかっていてどんな子供でどんな生活をしてきたかまで把握できている君になんの疑いがあるのかね」

……おい、笑ってるぞ頭。ヨルゴ教官、笑ってますよあの人。散々俺のこと疑ってくれましたけど全然違うみたいですよ。……ちっ、強い。やましいはずなのに目を逸らさずまっすぐ俺を見てくる。「なんか文句あるか」と言いたげに。

「何か言いたいことでもあるのか?」

しかも踏み込んでくるか。なんてメンタルだ。姉か。

「何かね? もしやそういう方面で嫌疑を掛けられたのかね?」

「はい。この人です。この人がすごく疑ってきたんです。無実の俺を」

俺はビシッとヨルゴ教官を指差して告げ口してやった。上役に疑われる心労を少しでも思い知れ。

「ふむ――なるほど。放置できんかったか」

「うむ。さすがはワイズが自ら拾った者である」

頭と教官は、言葉少なに何やらわかりあったようだ。俺には全然わかんないけど。

「エイル君、誇っていい。彼は君に若干の脅威を感じているらしい。だから疑った。万が一にも敵に回したくないからだ」

……えぇ……

「迷惑なんですけど……」

個人の感情だけで疑われる方の身にもなってほしい。面倒臭い。

「何がだ。むしろ昨夜の一件で確信に変わったくらいである。生意気な小僧だ」

おい。それが本心か。ヨルゴ教官。

「色々と気になる話もありそうだが、話を戻そうか。質問なら後から受け付けるから、まずは私の話を聞いてくれ」

そうだ。ワイズの話を聞かないと。

えっと……竜人族がなんだって?