軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

316.メガネ君、見た顔ぶれとすれ違う

あれ?

「――お疲れさん」

「――お疲れ様です。あとよろしくお願いします」

狩場へとやってきた俺たちは、今まで狩りをしていた人たちと入れ替わりで入ることになる。

なんでも敵を呼び寄せる巨大な魔法陣が敷いてあるそうで、基本的にそこで待つだけ、という形になるそうだ。

しかも、周囲に影響が出ないように地形保護の効果もあり、たとえば地面がえぐれたり、魔晶の森を構成する水晶樹に傷がついても、ある程度は修復されるそうだ。

つまり、「多少は周囲の迷惑を考えずに派手にやってもいい」という、本当に魔物と戦うためだけの場所が整えられているわけだが――それはともかく。

キーロが気軽に挨拶すると、すでに撤収準備を済ませていた彼らの中の一人、礼儀正しい青年が返事をし、それぞれ荷物や 戦果(・・) を持って立ち上がる。

あ、やっぱりか。

遠目で見てなんか違和感があると思えば、知っているメンツだった。

先日の馬車襲撃事件で会った、馬車の護衛に付いていた冒険者たちだ。

俺が「紐型メガネ」で縛った七人組の冒険者チームだね。

縛られてなお反骨精神剥き出しにびたんびたんしていた女戦士のことは、強く記憶に残っている。

まあ、ついこの間のことだし。忘れるにはまだ早い。

「――二ツ星の冒険者チーム『雪熊の爪』ですね。最近伸びているって噂の有名な人たちです」

と、俺の耳元でアロファが囁く。へえ、「雪熊の爪」っていうのか。

……うん。

彼らの場合、対人戦より対魔物の方に長けているのだろう。

得意な武器のバラつき方からして、あらゆる魔物と戦うことを想定しているパーティーだ。

あの時は「紐型メガネ」が異様にハマッただけであって、単純な身体能力や狩りの腕を比べるなら、やはり個々の熟練度と俺とは、そんなに差はないと思う。

俺自身がどの程度なのかがいまいちわからないんだけど、彼らと比べるなら、俺は贔屓目に見て二ツ星くらいの腕はある……のかもしれない。

見られるのを気にしないで「メガネ」をフル活用したら、もうちょっと評価も上がりそうだけど。

そんな彼らは、狩った魔物を担いだり荷車に乗せたりしている。ちなみに俺たちも荷車を持ってきている。

「ようアロファ。時間があったら今夜飲もう」

あのびたんびたんしていた女戦士が、巨大な「灰色のシッポ」を担いでこちらに来て――顔見知りらしいアロファに挨拶した。

ちなみに彼女は「剛力の素養」を持っていて、今発動している。まああの時も見たけどね。

「お久しぶりです、イスミナさん。護衛の仕事は無事終わったみたいですね」

「……あんま無事じゃなかったけどな」

「え?」

「詳しくは今夜な。酒でも飲まないと話せないよ」

彼女の渋面の理由は、俺かもしれない。……というかたぶん俺だと思う。

「……あ? おまえどっかで会った?」

そんな渋面の彼女が、アロファの隣にいる俺を見た。

「どこかで会ったかな? 俺が大帝国領に来たのは数日前なんだけど」

「そうか。気のせいかな……」

気のせいじゃないと思う。

変装はバッチリしていたから、見た目ではほぼわからないと思うけど。

でも、彼女はなんかこう、ごちゃごちゃ考えない直感的な姉みたいなタイプだろう。

こういう理屈で生きてないタイプは怖いんだよね。

理屈も根拠も証拠もなく、いきなり核心に迫ったりするから。

「――行くぞイスミナ」

「――ああ。じゃあな、おまえらも怪我しないようにな」

彼女は、すでに先に行っている仲間を追っていった。

意外な再会もあったが、さておき。

眼前には、白く濁った輝きを見せる、全てが魔水晶でできている水晶樹の森が広がっている。

遠目で見ても綺麗だったけど、近くで見ても綺麗なものだ。

よくよく見ると白く濁っているんだけど、それでも群生している様は神秘的としか言いようがない。

迷路蔦や幻燈花も美しいが、これもまた美しい景色である。

美しい水晶仕立ての森は、見る限りでは果てしなく広く、そして未だ踏破した者はいないという、未開拓地。

結果的に国を築くことになった武者修行の流れ者は、この水晶樹が生えた森を開拓し、今の大帝国を築いたのだ。

で、軽く聞いた話によると、水晶樹は植物の性質を持った水晶であるらしい。葉はなく、ただ幹が太くなり、枝が伸びていくそうだ。

そして、倒したら――木の一部でも砕いたら、水晶ではなく樹木になるんだとか。不思議極まりない生態である。

要するに、水晶樹は水晶としての資源にならないってことだ。

昔から、どうにか水晶として切り出せないか、という研究もしているらしいが……まあこの辺の進捗は国のトップシークレットだろう。

そんな水晶樹が広がる森の前に、巨大な魔法陣がある。

まだ新鮮な血の臭いして、先客の「雪熊の爪」が倒したのであろう魔物の血の跡が残っている。残骸も近くに捨ててあるかも。

これも魔法陣の効果で、一晩くらいで完全に地に還るのだとか。

難しい理屈はわからないけど、さっきも思った通り、「とにかく戦うための環境」ができているということだ。

「じゃあしばらくは魔物待ちってことで――あ、もう来たね」

煙草を咥えたキーロだが、火を点ける間はなかった。

日中やってくる主な魔物は三種。

二種ははずれで、一種は当たりだ。

「あ、あれが 陽炎(かげろう) です」

アロファが指差す先には、霧の塊が飛び出して来た。

おお、あれが陽炎か。

森側に、いわゆる魔物が来る方向にマヨイとキーロが立ち、俺とアロファが少し離れた後方に位置している。

陽炎は、その名が示すがごとく、霧をまとった狼のような魔物だ。実際には狼の形をした霧、らしい。

「――っ」

「――よいしょ」

それこそ狼のように駆けてきた真っ白な狼型の霧は五つ。

声もなく、足音もなく、気配も希薄で、いきなり森側に立つマヨイとキーロに襲い掛かったのだが――

二人はしっかり警戒していたようで、素早く対応する。

俺が反応する前に、マヨイとキーロがさくっと斬り捨ててしまった。

あの二人の剣速すごいな。

抜き手がかろうじて見えたけど、二つ目の太刀筋からまったく見えなかった。

陽炎は、大きさからしても狼だし、見た目は白い狼……ちょっとシロカェロロを思い出してしまう見た目だったが、斬られたと同時に霧となって消えてしまった。

「あれは本当に生き物なの?」

「どうなんでしょうね」

魔物の定義は、魔核があるかどうかである。

動物の定義は……大まかに言えば血肉があるかどうか、かな。

でも、霧の塊って言われると。

あれは魔物でも動物でもないのではなかろうか。

……すごく興味深いけど、調べる時間はないかもなぁ。誰か詳しく知らないかなぁ。

「まあでもどちらにしろ」

「はずれだね」

それも大はずれだ。

陽炎はいくら狩っても毛皮も肉も魔石も取れない、魔物としては得るものがなさすぎる魔物だ。

しかも、それなりに素早いし、群れで襲ってくる。

霧の中央以外は攻撃がまったく利かない、本当に霧の塊のような厄介な魔物だ。弓で狙うのは難しいだろうなぁ。

なお、火を焚くと寄ってこないらしい。

「ねえ舞鶴。陽炎、任せていい?」

「いいえ。キーロ殿の剣を見る機会は少ないので、ぜひその手で狩ってください」

「若者ががんばってよ。おじさん働きたくないなぁ」

「大帝国軍人が軟弱なことを言わないでください」

だらっとしたおっさんがブツブツ駄目なことを言っている間に、早くも次の魔物がやってきた。

「あ、 薄羽竜(ウスバリュウ) だ」

おお、あれが。

確かに昆虫の特徴を持つドラゴンである。

なんでもレッサードラゴンの一種で、長い年月を掛けて進化してきた一つの形だとか。

密集した魔晶の森で生きてきたらしく、かなりの小型だ。

人一人食べれば胃は満たされるだろう。それくらいだ。空蜥蜴より二回り大きいくらいかな。

ドラゴンなら、暗殺者の村からクロズハイトに移動する際に運んでくれたあのドラゴンの方が、やはりドラゴンらしいかな。ドラゴンドラゴンしてたし。

ただ、この薄羽竜も伊達にドラゴンの名はついていない。

かなりの強敵であるそうだ。

基本的には四足歩行のドラゴンだが、形としては大きなトカゲに昆虫が持つような透き通った四枚の羽がある、という感じだ。

全身は灰色の鱗で覆われ、この森にいれば保護色になる色合いである。

さっきびたんびたんの女戦士イスミナが担いでいたのは、これのシッポだな。

肉も安いし、強いくせに魔核の質は悪いので、割に合わないはずれの魔物である。ちなみに肉はまずくはないらしい。今夜辺り試してみたいものだ。

「じゃあエイルさん、よろしくお願いします」

「うん」

打ち合わせ通りアロファが動く。

マヨイとキーロはすでに動いている。

そして、俺も動く。

ギョオオオオオアアアアアアアアア!!!!!

甲高い威嚇の声を上げて、薄羽竜が俺たちに向かって走ってくる。

すでに退避しているマヨイとキーロの代わりに、アロファが前に出て薄羽竜の気を引く。

武器らしい武器を持たないアロファは、攻撃を捨てている。

その代わりに、防御と回避に専念するのだ。

簡単に言えば囮である。

そう――ほんの少し注意を引いてくれるだけでいい。

薄羽竜の鼻先をかすめるように左に抜けるアロファ。

そんな彼女を追うように首を曲げ――

俺に横っ面を見せた。

瞬間、俺が狙いを付けて引いていた矢が走る。

風切り音も軽く、矢は一直線に飛び――

ギャアアアアアアアアア!!!!

寸分違わず、薄羽竜の左目に突き刺さった。

痛みと予期せぬ攻撃に悲鳴を上げのたうち回る薄羽竜は、隙だらけだった。

そして、そんな大きな隙を、大帝国軍人が見逃すはずもなかった。

「いい腕だな」

四人掛かりで素早く薄羽竜の解体に掛かっていると、マヨイが俺にそんなことを言った。

「俺のセリフでもあるけど」

マヨイとキーロの剣の腕、すごすぎないか? ドラゴンの鱗を結構簡単にスパスパ斬ってたし。

タツナミじいさん作 黒皇狼(オブシディアンウルフ) の牙のナイフでも、鱗に刃を立てるのは困難だ。

動いていない時でさえ難しいのに、動いている鱗に斬るとか。

信じられないほどの凄腕だと思うんだけど。

「できなきゃ軍人になれないからねぇ」

「えっ」

キーロの言葉は、衝撃だった。

――つまり大帝国軍人は、全員ドラゴンの鱗を斬れるってこと? というか斬れることが前提で軍人になってるってこと?

……恐ろしい国もあったもんだ。個々が強すぎだろ。