軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

304.メガネ君、大帝国の話を聞く

「――ほう。シュレンに貰ったのか」

ブラインの塔からクロズハイトに移動し、崩れた外壁から無法の国を出た。

やはり安定の徒歩移動となるようで、大帝国へ向けて走り出し――昼休憩でようやく落ち着いて、同行するヨルゴ教官と話ができるようになった。

日頃の自主訓練のおかげで体力が増している。

教官のスピードにも余裕で着いていけるので、今後もこれくらいのペースならそんなに疲れないかな。

やはり街道を無視して目的地に一直線の行程なので、街道から外れた林の中、風除けに使えそうな岩の脇で火を起こして軽い昼食を取る。

火で暖を取りつつ、干し肉だの堅パンだのを腹に入れる。

休んだらまた走ることになるので、あまり量を腹に入れるとつらくなるので、食べるのは少しだけだ。

食ったあと激しく動くと脇腹が痛くなるから。

身体を休めつつ、ヨルゴ教官に今後の予定と、ハシの使い方について聞いてみた。

今後の予定については「急ぎ足で行くだけだ。四日か五日くらいである」としか言われなかったが。

ハシの使い方については教えてくれた。

「良い出来である」

馴染みが薄すぎる物だけに俺には良し悪しがわからないが、ヨルゴ教官は仔細に観察していたハシを俺に返してきた。

「丁寧な仕事ぶりだ。無骨な見た目だが、ずいぶんとやすりを掛けて磨いてある。使いやすそうだ」

……まあ、確かに。

ただ彫った木の棒と言うには、触りごこちがなめらかだ。どれだけ触っても肌に引っかかりがなく、木の繊維が丸くしてある。

多少歪みがあるのと、いくつか角が立っているのは、あえて残した部分なんだと思う。

俺は美的センスがあまりないみたいだからよくわからないが、きっとまっすぐ綺麗に整えられたハシより、こういうのの方が「味がある」とか「手作り感が高級感ある」とか言うのだろう。

まあどうであっても、友人、とは言えないけど、知人から貰ったと言えば、少しばかり大事にしたいかな。

「使い方は、ペンを握るように――」

と、軽く使い方を教わった後。

「大帝国か」

カチカチと先端を打ち鳴らして習った通りにハシを動かし練習していると、ヨルゴ教官は今後の予定ではなく、これから行く場所について話してくれた。

「自分から見れば、あの国は面白いな。ちなみに今回自分が同行するのは、大帝国に土地勘があるからである」

どうもヨルゴ教官は、何年か大帝国で暮らしていたことがあるらしい。

「先も長いゆえ手短に話そう。詳しく聞きたくばその時また質問するがいい」

いや、国のことより予定を聞きたいんだけど……話したそうなので黙って聞くか。

興味がない、とは言わないし。

見るからに堅物っぽいヨルゴ教官からして「あの国は面白い」というのだから、気にはなるし。

「あの国――大帝国エヴァルツレールは、武者修行の旅をしてきた流れ者の東洋人が、あの未開拓地に住み着いたことで始まったのだ。

大陸北部に位置し、冬の寒さが滅法厳しく、土も痩せている。

人が済むには過酷な環境である。

それに生息する魔物も非常に強くてな。ナスティアラとは比べ物にならん」

冬が厳しく、土も痩せていて、魔物も強い、か。

確かに人が済むには過酷な環境だと言える。

「だが、武者修行が目的の東洋人には、それらが都合がよかったのだろう。

特に魔物の強さや生態・形態が気に入ったようで、しっかりと腰を据えたらしい。

狩りに生きてきた貴様には言うまでもないが――魔物が強いということは、それゆえ旨味があるということだ」

うん、そうだね。

「肉はわからないけど、魔物の素材と魔核は、確実に貴重品ですね」

だいたいにおいて魔物の強さと素材の貴重性、稀少性は比例する。

「うむ。

ただ強さを欲して魔物を狩り続ける東洋人。

そして狩った魔物を欲する人々と、魔物の脅威がない安住の地を欲する人々。

それらの利害が一致した結果、東洋人の周りに人が集まり、開拓が進み、村が始まり、街となり、そして国となった。

遠い昔の話ゆえ正確なことはわからんそうだが、その流浪の東洋人は東方の王に仕える存在であったらしく、ある程度生活が安定したところで手紙を出した。

その結果、植民地とされたのか、それとも東方の王が支配地としたかったのか、多くの東洋人がやってきた。

そこから東洋の文化と、こちらの文化が入り混じった。――シュレンの言う通り、ハシの文化もしっかり根付いている」

ふうん。

「ということは、大帝国は東方の国の属国みたいな感じで?」

「東方の王はそれを狙っていたのだろうな。

だが歴史のどこかで対立し、今ではなんの関わりもない……とも言い切れんが、何があったか東方と大帝国の間にわだかまりはないようだな」

なるほど……興味はあるけど、詳しく聞いたら長そうだから今はパスしよう。

「今でこそ未開拓地を含めて広大な大帝国領となった。

そして開拓自体は今も続いている。

まあ、誰が見ても開拓は難航しているが。

その理由は強い魔物たちにある。

一進一退ばかりを繰り返し、遅々として進んでいないようだ。しかしまあ、それである意味安定もしているのだろうな。

危険が伴うものの、魔物もまた資源であるからな」

へえ。魔物が強い、か。

それはちょっと興味あるな。

国の発祥が魔物の素材にもあるというなら、大帝国の魔物の魔核や素材は、かなり貴重なんだろう。

狩人としては、ちょっと挑戦はしてみたいかな。

「国の興りが『武』であったせいで、あの国では武を尊び、武を基準とした実力主義の社会となっている。

……というのが一昔前の話で、今は武だけではなくなりつつある。

今では外交の門が大きく開き、武以外の力……勉学や算術といったものも広く受け入れられているそうだ。

が、やはり根幹は武……強さが求められることが多いようだな。今代の皇帝も世襲ではなく、実力でのし上がったと言われている」

……ふうん。

「確かに変わってますね」

面白いかどうかは、ちょっとわからないが。

特に皇帝……いわゆる王様でしょ? 国のトップでしょ? そんな人が「ただ強い」ってだけで選ばれるとか、結構異質だと思う。

まあ、「ただ王様の子供だから」って理由で次の王様になる、というのも、冷静に考えたら横暴な気もしないでもないけど。

……いや、それこそ「ただの田舎者」にはわからない苦労なんかもあるんだろうけどね。

それにしても、実力主義か。

俺はあんまりいいイメージはないかな。

だって武だの強さこそどうこうだの、実力主義だの、その話だけ聞くと冒険者ギルドを思い出してしまう。

――弱い奴、弱そうな奴は強い奴に絡まれて嫌な思いをする、そんな国なんじゃないかと。

だとしたら俺は全然面白くない。

ただただ迷惑なだけだ。

「特にあの国の兵は強いぞ。なりたての新人兵士でもな」

兵。

そう言われれば、思い出すのはやはりあの人だ。

――馬車襲撃事件で危うく殺されそうになった大帝国の軍人、カルシュオク・シェーラー。

なんて言ってたかな……確か、……あ、ダメだ。思い出せない。

なんか、師団長とかなんとか言ってた気がするんだけど。違ったかな。

出会い頭に色々よくわからないままいきなり一回名乗られたっきりだから、ちゃんと憶えていない。

「話は聞いている。遭遇したそうだな。大帝国の師団兵長に」

あ、そう! 師団兵長だ!

ヨルゴ教官は、この前の馬車襲撃事件のことを聞いているらしく、そこで大帝国の軍人と遭遇したことを知っていた。

「第四師団と名乗ったそうだな? ならば現在の第四師団兵長はカルシュオク・シェーラーであろう。ハイドラもそう名乗っていたと言っていた」

さすがハイドラ。

俺は忘れていたけど、ハイドラはちゃんと憶えていたようだ。

それにこの口調だと、ヨルゴ教官は別口の情報……大帝国側からの情報も掴んでいるようだ。

きっとナスティアラの諜報員だか暗殺者が潜り込んでいて、しっかり情報収集しているのだろう。

「よし、休憩はこれくらいでいいだろう」

ヨルゴ教官が立ち上がる。俺も焚火を消して立ち上がった。

色々と興味深い話ではあった。

四日五日掛かると言っていたし、道中もう少し色々質問してみようかな。

――と、思っていたのだが。

「エイル」

「はい?」

「少し急ぐぞ。貴様に大帝国を見て回る時間を作ってやろう」

……え。

「それって旅程を足で縮めるって意味ですか……?」

「うむ」

……ああ、はい。

どうやら大帝国の話をしていたら、ヨルゴ教官の気分が盛り上がってきたらしい。

さも「興味津々のエイルのために」みたいな、ありがた迷惑な気持ちも湧いてきたのだろう。

……いや、ありがた迷惑はさすがにないな。

ヨルゴ教官から見て、俺にとってきっと得るものが多い国だと、判断したのだろう。

話を聞いた限りでは、ナスティアラ王国とはかなり違うようだから。

「今日を含めて二日で行く。しっかりついてこい」

…………

四日か五日の行程を、半分に……?

「そんなに急ぐんですか? 俺、付いていけるかな……」

「楽をしていては訓練にもならんだろう」

……確かにここまでは楽でしたけど。

仕方ない……必死にがんばって走ろう。