軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

290.それぞれの今 2

後続のアネモア、レクストン、ライラと、ロロベル・ローランを筆頭にした「黒鳥」以外の冒険者数名に後を任せ。

忘郷の森から撤退したグロックたちと一時メンバーのゼットは、最寄りの街であるロジカへと戻ってきた。

ロジカ。

村と呼ぶには大きいが、ナスティアラ王国の街としてはかなり小規模。

村と街の中間のような、小さな田舎の街である。

ちなみに特産品は、やはり大葱だ。

全員が疲れ果てていた。

もう飯も酒も程々に、とにかく今は休息だとばかりに、さっさとベッドに身を投げて。

ゼットが起きたのが、翌日の昼過ぎである。

まだまだ疲れが残っているゼットが二度寝しようとした矢先、部屋を訪ねてきた者がいた。

――見上げるほどの大男。「夜明けの黒鳥」のリーダー・リックスタインである。

「寝起きで厳ついおっさんの顔とか、あんまり見たくねぇなぁ」

冒険者でも怖がる威圧感と強面を前に、物怖じせずにそれだけ言えれば大したものである。

まあ出会い頭の挨拶などどうでもいいとして、ゼットはリックスタインを部屋に招いた。

そこそこの一人部屋の宿で、ベッドがあり、小さいながらも客人を迎えられるテーブルと椅子が二脚ある。

足を投げ出して座るゼットの正面に、大柄なリックスタインには小さすぎる椅子ではあるが、彼は窮屈そうに座った。まあ、椅子がギィィと悲鳴は上げたが。

「――悪かったね、ゼット君。どうも想定を大きく越えた仕事だったようだ」

開口一番、リックスタインは詫びの言葉を口にした。

きっと昨日のことである。

足長竜(フットドラゴン) の討伐は、ゼットは経験がなかったものの、グロックたちは何度かやったことがあった。

リックスタインは、足長竜の群れの一つくらいなら、ゼットを除いた昨日のメンバーでどうにかなると踏んで、その上でゼットを加える采配をした。

ちなみにリックスタインは、別の仕事から昨夜ロジカに到着し、依頼人となるこの街の領主に挨拶し、冒険者ギルドに挨拶し、と面倒な挨拶回りをこなしていた。

到着した時は、ちょうどグロックたちが宿に帰った直後だったと聞いたので、なんの問題もなく仕事は達成されたと思っていたのだが。

実際は違っていた、と聞いた。

――魔物の討伐に関しては、「楽に勝てた」くらいでちょうどいい。

怪我をすれば次の仕事に障るし、楽に勝てる相手でも絶対に安全な戦いなどないと、リックスタインは思っている。

全員が無傷で勝ち残り帰ってきてこそ、本当の討伐成功である、と。

グロック、ベロニカ、ホルン、アインリーセの四人で充分だと読み、その上でゼットを付けた。

想定なら、朝始めて昼には終わるような、「楽に勝てる」相手だった。

だが――グロックの報告を聞くに、かなり厄介な状況になってしまったらしい。

「どうもリーダー格が優秀すぎたようだ」

「ああ、わかるぜぇ。グロックのおっさんもベロニカも、おんなじこと言ってたしよぉ」

――何より、あの足長竜のボスは、ゼットの全開の攻撃を避け続けた相手でもある。

平気な顔こそしていたものの、内心あれはかなりショックだった。

「グロックたちは一時撤退を考えたようだが、君は討伐を続ける意向を示したそうだな?」

「……正直、後悔してるぜぇ。それに関してはおっさんたちに謝りてぇくらいだぁ」

魔物を舐めていた。

いくら魔物たちが群れて、チームワークが強かろうと、自分に勝てるわけがないと。

――その魔物の群れのチームワークで、何度も命の危険を味わった。

しかも自分だけならまだしも、臨時チーム全員の命さえも危険に晒してしまった。

後悔がないわけがない。

「君は強いからな。だが、魔物と相対するには強さの系統が違うようだ」

「あぁ?」

「――君が強いのは対人だろう? それも一対一なら、たとえ王宮騎士相手でも早々負けん。いや、負けないどころか余裕で勝つかもしれんな」

リックスタインは、ベロニカたちが拾ってきたゼットという青年の強さに驚いた。

訓練で手合わせしているのを見て、一対一なら、「黒鳥」のメンバーの誰よりも強いと思った。

恐らく自分よりも強いだろう、とも。

ゼット本人も、自分でそれがわかっている節があった。

そしてかなり好戦的で、冒険者連中の何人かとケンカしてぶちのめしている。

それに、言動の端々に、悪事の臭いがする。

あれは犯罪に関わる者の臭いではなく――犯罪にどっぷり浸かっている者の臭いだ。

――確かに拾うはずだ、と思った。

彼が王都で暴れていたら、どれだけの被害が出ていたことか。

大人しい内に、騒ぎを起こす内に、今の内に。

油断している内にゼットを始末してしまう暗殺行為さえも、本気で考えたくらいだ。

ただ、なぜだか意外と「黒鳥」のメンバーと馬が合ったようで、見た目の割にはすごく真面目に仕事をこなしてくれた。

これもまた想定外だったと、今でこそ思う。

「だが、魔物を相手にするには、少し種類の違う強さが必要になる。

用心深さ、状況を把握し想定する思考。

そして少しの臆病さと、引く勇気。

君にはずっと必要じゃなかったものばかりが必要になる」

リックスタインはそう言い置き、持ってきた革袋をテーブルに置いた。

「今まで我々の仕事を手伝ってくれてありがとう。これは約束の金だ。昨夜の苦労の分だけ少し色を付けさせてもらったよ」

そして立ち上がった。

「ぜひとも『 黒鳥(うち) 』に欲しいが、敢えて誘うことはせんよ。君には帰るべき場所があるようだからな」

リックスタインはそう言い残し、部屋から出ていった。

――約束通りである。

これまでにいくつか仕事をし、この仕事――昨日の仕事を終えたらまとまった金を貰い、ゼットはクロズハイトへ帰ろうと思っていた。

実際そう話した上で、この金を用意してもらったのだ。

旅費としては充分だ。

贅沢に陸竜を借りても、いや、何なら空虫便を使っても、クロズハイトまで余裕で帰れるだろう。

「…………」

さっきまでリックスタインが座っていた無人の椅子を眺め。

テーブルにある、大きな革袋を眺め。

「真面目に働いちまったなぁ」

クロズハイトでは悪いことばかりしているゼットが、「黒鳥」に世話になっている間だけは、本当に真面目に働いた。

真面目に働く者から、散々略奪や強奪をしてきたのに。

「……平和だなぁ」

外から聞こえる子供たちのはしゃぐ声に、ポツリと呟いた。

しばらくぼーっとしていたら、また客が来た。

返事をする前にドアが開き、もうすっかり見慣れたバカみたいに肉好きな女がそこにいた。

「――おーいゼットー。飲もー」

ホルンである。

「あぁ? うるせぇのが来やがったなぁ」

などとぼやきながら、ゼットは立ち上がった。

「グロックの使いかぁ?」

「うん。今回の仕事でゼットが抜けるから、最後にみんなで飲もうって。抜けるの?」

「おう。故郷に帰るぜぇ。そのためにめんどくせぇ魔物狩りとかして金作ってたんだからなぁ」

ホルンの脇を抜けて部屋を出ようとした時。

「――いろよ。『 黒鳥(ここ) 』に」

その言葉を聞いたゼットは――自分でも意外なほどに動揺し、しかし、努めて冷静を装った。

「……ハッ。もう誰かに命令されんのはごめんだぜぇ。俺は俺の好きなようにやるからよぉ」

そう応えながら、ちょっと馴染み過ぎたな、とゼットは思った。

「黒鳥」に世話になってから関わったメンバーは、昨日の四人が主である。

――ゼットより一つ二つ年下だろう、剣士ホルン。

最初は肉好きのただのバカだと思っていたが、最後まで割と印象は変わらなかった。

だからこそ付き合いやすかった。

わかりやすいし、何か裏を考えている素振りもまったくなく、そもそも表向きでさえ肉のことしか考えていないような奴だった。

なんだかんだ言って一番気を許してしまったのは、ホルンである。

――槍使いの無精ヒゲ、グロック。

手合わせの訓練で、割と本気でゼットに「負けるかもしれない」と思わせたおっさんだ。

普段はどこでもいそうな調子乗りのおっさんなのに、事戦闘に関わることには怖いくらい本気になる。

あれは怒らせたら相当怖いタイプと見た。

あと酒、ギャンブル、女遊びと、ゼットの好きなことや趣味とがっちり一致し、一番仲が良くなったメンバーかもしれない。

――長弓使いのアインリーセ。

のんびりした独特の空気を持ち、いつもホルンの面倒を見ている、貧乏くじを引かされた女だ。

……と思っていたが、魔物討伐中の動きを見て、認識が変わった。

ホルンとアインリーセのコンビネーションは、あまりにも噛み合いすぎていて、なるほど普段の付き合いがこういうところに活きるのかと感心した。

特に視野が広く、ゼットも何度も後方からの援護射撃で助けられた。

だが、気づいてしまった。

あれに背中を預けることの頼もしさと紙一重に存在する、あれに背中を見せているという無防備さに。

結果、一番怖いメンバーとなった。

――眼帯の女ベロニカ。

剣を二本使う女戦士で、世話になっていた間、一番ゼットの傍にいた者である。

立場や動機は違うかもしれないが、同種だな、とゼットは思っていた。

ゼットと同じ、戦うのが大好きな戦闘狂だ、と。

訓練と称して半ば殺し合いのような勝負を何度もして、何度も楽しませてもらった。

ベロニカの悔しがる顔を見下ろすのも好きだったし、ぶちのめされて上から見下ろされるのも嫌いじゃなかった。

悪いことができない鬱憤の発散は、間違いなく彼女との訓練で果たされていた。

あれで胸が大きかったら完全に口説いていたところだ。

最初は利用し合うだけの関係だと思っていたのに、気が付けばすっかり仲間だと認めてしまっていた。

命懸けの仕事を、普通に一緒にこなすくらいには。

互いの命を背負い合って戦い、生き抜いた。

あんなことをすれば、嫌でも信頼が生まれてしまう。

クロズハイトではなかなかできない「誰かを信じて肩を並べて戦う」という体験を、味わいすぎた。

昨日の足長竜討伐だって、誰かが裏切るかも、なんて一度も思わなかった。

――すっかり平和ボケしたな、と首を振る。

「それに、待ってる奴らがいるからなぁ」

コードとキーピックが待っている。

きっと今頃は、自分がいなくなった穴埋めをどうするか考え、動いていたりするだろう。

いずれ帰ってくることを信じて、待っているはずだから。

「なんだよいろよー。寂しいだろー」

「てめぇは気楽にストレートだなぁ。羨ましいぜぇ。……おら行くぞ」

――こうしてゼットは「夜明けの黒鳥」を去り、ナスティアラ王国から移動するのだった。