軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

264.メガネ君、気を遣われる

「――潜入向きではあるけど、言うほど潜入には向いてないんだよね」

ちょっとした移動時間に、「 形態模写(レプリカ) 」についてマリオン本人に聞いてみた。

第一印象から、俺が「別人にすり替わっての潜入に向いているのではないか」と質問したところ、意外とそうでもないようだ。

「まず、潜入が必要になるほどの組織や集団となると、すごく大きいか、高い機密性を保持しているかのどちらになるよね。たとえば国の中枢みたいな場所とか」

うん。そうだね。

「私の『 形態模写(レプリカ) 』は全てを『模写』できるけど、唯一どうしても再現できないものがある。

それは『記憶』。これだけはどうしようもないんだ」

あ、そうか。

「知り合いと話をしても噛み合わないとか」

「そう。それにしゃべり方や仕草、ものの考え方、趣味嗜好なんかもわかんないね。結構些細なことからバレることも多いんだ」

だろうね。

それに、だ。

「すり替わって潜入する以上、バレた時に逃げ場所がないね」

「それもあるね。

そもそも潜入する理由からして、中枢部分の調査や要人の暗殺なんかが割り当てられるだろうからね。

かなり奥に行くことを強いられる。

でも奥に行けば行くほど、組織の警戒も強くなる。

そもそも『素養封じ』とか、その辺の『見破る』ことに特化した『素養』なんて使われたら、一発でバレちゃうし。

でもって、機密性の高い組織ほど、その手の警戒はしっかりしてるから。言うほど万能じゃないんだよね」

だからこそブラインの塔に来たんだけど、とマリオンは気楽に言う。

口調からして、マリオンは……いや、マリオン も(・) 、本物の暗殺者を目指しているのかもしれない。

――というわけで、孤児院に到着した。

少し用事があるというハイドラとセリエは後から合流するので、変装のために少し時間が必要な俺と、用事のないマリオンにシロカェロロと、一足先にやってきたのだ。

今朝も会ったが、今夜また、コードとキーピックに会うことになる。

こちらのメンバーの面通しも兼ねて、全員で具体的な馬車強襲作戦の話をする予定である。

色々と作戦の候補は上がっているが、獲物や土地の情報がまったくないので、その辺の擦り合わせも行われることになる。

できれば今夜中に作戦を立てて、明日にはゼットの部下たちを動かしたいとハイドラは言っていた。

まあ、そんな話をするのは、この後のことである。

「メイドのエル、噂には聞いてたよ」

ぜひ見たいぜひ見たいとマリオンにせがまれたので、見せることになってしまった。

あんまり見せたくはないが、マリオンは目の前で「 形態模写(レプリカ) 」を見せてくれたので、ちょっと断りづらかったのだ。

というか、そもそも噂になる程度には知れ渡っているようなので、今更隠したところでって感じである。

シロカェロロは狼だから、まあいいかと。

おしゃべりなタイプでもなさそうだし。

二人と一頭で、今回の仕事のために使わせてもらうことにした、前に俺が使っていた個室に入る。

仕事が終わるまでは借りるつもりだ。

だから化粧道具や服、その他の荷物は、この部屋に置いてある。

「――ほうほう。なかなかの腕前ですな」

ささっと化粧を施し、顔を変えていく俺を仔細に眺めつつ、マリオンは二度三度と頷く。

「化粧できるの?」

「うん。見た感じ0点君よりは上手いかも。というか『素養』がアレだし、私は変装専門なんだよ」

あ、そうか。

そう考えればよかったのか。

マリオンは変装関係の人材。

魔物への効果は薄いかもしれないが、対人専用と考えると、これほど暗殺向きの技術もないだろう。

「でも化粧での変装って、結構リスク高いよね。雨で流れるし、何かが当たって擦れても落ちちゃうし」

まあ、そうだね。

「でも今だけだから、これで充分だよ」

「今だけ?」

「ほら、俺も男だし、そのうち背も伸びて筋肉も付いて、内に秘めた隠しきれない男らしさが胸毛となってわさわさ出てくるから。そうなったら化粧での変装も無理でしょ」

「…………」

…………

「……お、おう。そうだね。その……なるといいね……」

…………

今、確実に気を遣われたのは、よくわかっている。

「…………」

同情的な目で見るな、胸毛の立派な狼。なるんだよ。……俺もそんな風にわさわさになるんだよっ。

若干変な空気になったが、すぐに新風が吹き込んだ。

「遅れました」

セリエがやってきた。

「遅いよもうー! 遅いよー! もー!」

変な空気に参っていたのだろうマリオンが、バッシバッシとセリエを叩いて熱烈な歓迎の意を表す。音からして結構痛そうだ。

「ハイドラさんと一緒に来ましたが、あの人は向こうの二人と今夜会う約束を取り付けに行ったので、もう少し遅れます」

だそうだ。

責任者は大変である。

「じゃあセリエ、早速だけど馬車を止める話をしていい?」

「ええ、もちろん」

どこかでこの話をしたかった。

予定は結構タイトである。

この先、話し合う時間が満足に取れるかどうかわからないので、空いた時間を見付けては意見を交わしておきたい。

「話をするということは、ハイドラさんが予定していた落とし穴は使わない方向で?」

「できればね」

ハイドラが言っていた方法でやるならば、話す必要もないからね。

でも、俺に任されるのであれば、違う方法を取りたい。

「穏便に済ませたいっていう注文もあるし――ファーストコンタクトでかなり成否が左右されると思うんだ」

「というと……」

「すごく簡単に言うと、馬車を止める方法が大事だって話。

その方法によっては、向こうの戦意や抵抗意識をかなり殺ぐことができると思うんだ。

抵抗しても無駄だと判断させる。

要するに『賊は強い、手慣れている、歯向かえば皆殺しにされる』と早い段階で思わせ、向こうから荷を出させるんだ。

無血襲撃を狙うなら、一番最初……馬車を止める方法が、すごく大事だと思う」

ここがしっかり決まれば、戦闘さえ起こらないと思う。

ゼットは賊としてはもう有名だろうし、その無類の強さも有名であるはずだ。

その証拠として、これまで生き残れたのだ。

そして今回の仕事は、むしろゼットの名前を前面に出していくのが目的である。

ゼットの名前を出せば、その名を知る者の戦意は殺げる。

それに加え、馬車を止める方法で抵抗感を殺ぐ。

二つの要素があれば、無用な戦闘はない……と、思いたい。

この辺の意見は、コードに聞いて当たっているかどうかを確認しなければならないが。

でも、どうであれ、やはりファーストコンタクトは大事だと思う。

――どれだけ効果的な先制ができるか。

俺とセリエには、それが課せられている。