軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

258.メガネ君、コードの話を聞く

コードと名乗った男は、俺……いや、ハイドラに手伝いを要求した経緯を話し出した。

俺はハイドラに巻き込まれただけだからね。直接の関係はない。

本人も「手短に」と前置きして話しただけに、概要みたいな説明となったが。

それでもハイドラから聞いていたものと一緒だった。

貧民街の支配者のようなゼットが行方不明になった。

ゼット不在で荒れてきている。

ゆえに、さもゼットがいる体で仕事をして「ゼットは不在じゃない」と周囲に知らしめたい、と。

俺がハイドラから聞いていた通りの流れである。

「――それで、手伝ってくれると思っていいのかな?」

俺たちが口を挟まず最後まで聞いていたのを見て、コードは意志の確認をしてくる。

「私からの条件は?」

「飲む」

条件? 報酬関係のことかな?

向こうは条件を飲むらしいけど、俺はわからない。疑問の目をハイドラに向ければ、彼女はつらつらっと言葉を発した。

「私たちが手を貸す条件は三つ。

一つ目は、事前にこの二人の『素養』を明かすこと。

二つ目に、作戦自体は相談して決めるけど、最終的な決定権は私たちが持つこと。

そして最後に、できるだけ血を流さない方向で努力すること。

……相違ないわね?」

コードが頷く。俺も納得である。

まず、コードとキーピックの「素養」を明かすことだが、これは俺たち側の保険だ。

この二人は、周囲の裏切りを警戒して外部に手伝いを求めた。

それと同じように、俺たちもこの二人を警戒している、という証だ。

俺たちを裏切らないように秘密を明かせ、裏切ったらバラすぞ、と。

そういうことだ。

二つ目三つ目は、考えるまでもないだろう。

俺たちが……いやハイドラが主導で動きますよ、できるだけ戦わない方向でやりますよと。指揮系統の掌握だ。

極論だけど、いくら依頼を受けた俺たちだって、捨て駒同然の扱いや、無謀すぎる指示とか受けたら、そりゃやってられないからね。

「――どう?」

「――はい?」

なんで俺に話を振るの? ハイドラが主導でハイドラが責任者で何かあったらハイドラが全部責任を取って俺は全然責任がない立場でやるっていう方向でいいと思うんだけど。実際俺は巻き込まれただけなんだし。師匠命令で巻き込まれただけなんだし。

「ここまでで、あなたから何か質問はある?」

……ああ、そう。質問ね。

「一つ聞いていいですか?」

コードが頷いて、俺は言った。

「ゼットさんが行方不明になって一ヵ月以上が過ぎています。

しかも狩りに出て、帰ってきていない。

行方不明になった場所が場所なだけに、死んでいてもおかしくないと思われます。其の7可能性は決して低くない。

もし彼が死んでいることを考えると、こんな時間稼ぎをしても焼け石に水では?」

俺の質問は、言い換えると「ゼットが存命なことを知っているのかどうか」ということである。

ハイドラも言っていたが、今回俺たちが手伝ったところで、根本的な解決にはならないのだ。

これからやることは、ゼット不在の穴を一時的に埋める、ただの時間稼ぎでしかないから。

この時点で、考えるべき選択肢は二つだ。

ゼットが死んだことを前提に次の行動を考えるか。

それとも、ゼットが死んだことを前提に、ゼットに代わるリーダーを立てるか。

だがこの二人は、ゼットが死んだことを前提にした選択ではなく、死んでいないことを前提にした時間稼ぎを選んだ。

その理由は、つまり――

「キー、石を」

「ん? おう」

コードとキーピックはポケットを探り、テーブルに置いた。

――なんの変哲もない石である。いや……なんか魔法陣が描かれているな。

「これは僕ら三人の命と繋がっている絆石……正確に言うと 共鳴陣(シンクサークル) を施した石だ」

共鳴陣(シンクサークル) ……初耳だし、初めて見た。

「三人の内、誰かが死ねば石が砕ける。そういう仕様にしてもらった。だからこの絆石が存在するなら、ゼットは生きている。間違いなく」

へえ。

そういう魔法アイテムもあるのか。

「ゼットは僕らを見捨てない。いつか必ず帰ってくる。

だから僕らは、彼を信じて彼が帰ってくるのを待つことにした。彼の居場所を守りながらね」

それなら納得できる。

そうか、ゼットが生きているという証拠か。

それを持っているから時間稼ぎを選んだのか。

まあ俺もあいつが死んだとは全く思っていなかったけど。

物証として見せられ、確信に変わった。

「でも、僕らは担当が違うんだ。

実行するのはゼットで、僕は作戦を考える役割で、キーは調査担当。

肝心の『実行犯』がいない。これじゃ何もできない。

だから今君たちと話をしている」

その「ゼットが担っていた実行犯」に外部の力――ハイドラを入れることを考えた、と。

なるほどね。

その後も、ちょっと気になったことを細々聞いてみた。

まず、仲間内にゼットの代わりになる実行犯役はいないのか、とか。

答えは、いるけどダメ、って感じだった。

「――いるにはいるけど、ゼットのやり方に反感を持つ者も多いから。もしゼット不在でどうこう、なんて話をしたら、本格的な反乱が起こる気がする。

ゼットがいる時ならいいんだ。

彼は何度も仲間の反乱を潰してきたから。

でも今はダメだ。

仲間内で揉め出した時点で、外部から敵が来る。それも一つや二つじゃなく、周囲で睨んでいた敵が一斉に来る。

この流れになったら、もう手の打ちようがない」

だそうだ。

確かにベッケンバーグ辺りは、ゼットが不在と聞いた瞬間に動き出しそうである。

そしてあのおっさんのような野心家が、ここクロズハイトにはゴロゴロいるって話だろう。俺の知らない連中がね。

ちなみに話の流れで「ゼットのやり方」について聞いてみたら。

「――殺さない。傷つけない。奪いすぎない。僕らはこの三つを重要視していたよ。ゼットもだ。意外かな?」

いや。わかる。

山菜や薬草と一緒だろう。

殺さないは、根ごと採らない。

傷つけないは、あまり傷をつけると結局殺すことになる。

奪いすぎないは、次に採る山菜や薬草がなくなるから。

要するに、全部「次の収穫のため」だよね。

「――貧民街の連中なんて、根こそぎやればいいとか、殺してでも奪えばいいとか、短絡的に考える奴が少なくないから。

単純に狙える獲物が減るとか、徹底的にやられた方が命懸けで復讐に来ることとか、考えてないんだよ」

だからゼットのやり方に反感があるのか。

まだまだ細々とした気になる部分はあるけど、最低限必要な情報はこれくらいで充分だ。

特にコードという男。

この人はだいぶ理知的な印象を受けた。

彼と仕事をするなら、そこまでひどい結果にはならないと思う。

ハイドラに視線を向けると、彼女は頷いた。

「――この仕事、やるわ」

こうして俺たちは、一時的かつ間接的に、ゼットの仲間となったのだった。