軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

250.ゾンビ兵団討伐作戦 5

魔法と魔術について。

「魔術師の素養」を持たない者の方が圧倒的に多い結果、魔法に関して知る者は少なく、知らない者は非常に多い。

というか、ちゃんと知ろうと思う者が、主に魔術師の「素養」を持つ者だけである。

そんな閉鎖的な情報を知ろうとすれば、どうしても金や手間、時間、縁に運と言ったものが必要になる。

そして苦労して知り得た「魔法に関する情報」を、魔術師が分け隔てなく広める理由はない。

何より、わざわざ自分の手の内を明かす理由がない。

ゆえに、肝心の内容について具体的に広まることなど、ほぼ皆無と言っていい。だから余計知られないのだ。

魔法に魔術。

精霊魔法と魔法陣。

物理召喚。

あくまでも魔法・魔術と括れば大体こんなものだが、実際魔力を消耗して使用される「素養」も多い。

リッセの「闇狩りの剣」や、サッシュの「 即迅足(ファストブーツ) 」も、実は魔法や魔術といったものと同じカテゴリーに属する。

使用者の自覚はない者も多いが、魔力を消耗して発動している。

だからこそ、魔術師は「他の素養を魔法・魔術として再現できる可能性」があるのだ。

――そういう意味では、リオダインは幸運だったのだろう。

ブラインの塔で出会ったエヴァネスクという教官役の女性は、あらゆる魔法と魔術――総じて言うところの魔道に精通していた。

そして、彼女は知っている魔道の知識を、リオダインが使用できると判断すれば、惜しみなく教えてくれた。

リオダインは、持っていた「素養」のおかげで、想像で放つ魔術ならばいろんなものを身に付けている。

が、正確な手順を知らないと放てない魔法は、あまり知らなかった。

そんな彼は、塔に来てからエヴァネスクに師事と仰ぎ、すでに十数に及ぶ魔法を伝授されている。

そんな中に、この魔法があった。

「――これは伝説と言われた魔法よ。かつては悪魔を屠り、堕天使を堕とし、魔王を挫くために使用されたそうだけれど……

でも逆に言うと、 それしか(・・・・) できない(・・・・) 魔法なの」

伝説の魔法と聞いて、思わず前のめりになる貪欲な好奇心と。

それを教えられたところで、使いこなせるか自信がないというマイナス思考に囚われつつ。

しかし頭は割と冷静だった。

――つまり、使い道が局所的すぎるということか、と。

いずれ使う時が来るだろうか。

そう思いつつ、その時はとりあえず習得したのだが。

――今回課題という形で、その機会が巡ってきたのだった。

東西南北に一味加えた魔集魔法陣を敷き、大地に眠る魔力を集める。

いったん四方の魔法陣から見て中心の地に魔力を集め、それを術者たるリオダインが吸い上げるように受け止める。

受け止めた異物のような魔力を、身体の中で自分の魔力と練り合わせていく。

これで、一時的に自分の魔力量を超えた魔法を放つことができるようになる、と同時に、魔法陣に一味加えたことで、伝説の魔法を使う準備も同時に進行させている。

あとはその時を待つばかりで――

その時は、もう来ていた。

罠結びのロープでまとめられた数百体のゾンビたちが、折り重なって山のように積みあがっている。

予定通り、四方を囲む魔集魔法陣のほぼ中央。

点々と取りこぼしのゾンビも散らばっているが、間違いなく今が魔法を唱えるべき機会だろう。

地に眠る魔力を一時的に集め、その身から光となって溢れるほどの魔力を宿したリオダインが、リッセにこれから使用する旨の合図を出して前に出る。

人体に影響はない。

だが、もしものことがあるので、誰も巻き込まないようにするためだ。

リッセが離れた仲間たちにハンドサインを送る中、リオダインの詠唱が始まった。

「 闇切り裂きし白の色

暗き堕天に手向けの華

我ら一切の我欲を捨て

唯々翼を広げるのみ 」

手を結ぶ。

聖なる存在を呼ぶために、聖なる儀式を紡ぐ印を結ぶ。

リオダインの鳶色の髪と瞳が、一瞬白く染まる。

そして、偉大なる存在と重なるための言葉を唱えた。

「―― 聖華光(セルフィ・レイ) 」

言葉と共に溢れんばかりだった魔力が抜け、四方に敷いた魔法陣から光の帯が天に昇る。

と――

昇った四本の帯が広がり、天空に巨大な魔法陣が描かれた。

それは緩やかに回転していて、見上げる者を圧倒する。

術者たるリオダインさえ、練習で使用した時よりはるかに大きなそれに驚いていた。

ふわり。

天空の魔法陣から、小さない白い光が生まれた。

それは雪のようにゆらめき、頼りなくふわふわと揺らぎ降りてくる。

雪。

いや、白い光で構成された、花である。

一つ降り出したと思えば、二つ、三つ。

あっという間に数えきれないほどの光の花が舞い落ちてくる。

そしてそれは、地面を這っているゾンビに触れた瞬間、ゾンビと一緒に消滅する。

――伝説の魔法・ 聖華光(セルフィ・レイ) 。

本来なら、悪魔を屠り堕天使を堕とし魔王を挫く魔法。

地面の四方にある魔法陣と空の魔法陣とで光の檻に閉じ込めて、降り注ぐ光の花で浄化する。

そう、これは浄化だ。

つまり、不死者などにしか効果がないものだ。

そんな魔法である。

――見た目は美しいが、確かに使用する時と場合を選ぶものである。

それからしばらく伝説の魔法を見守り、光の檻に囚われたゾンビが全部消えた頃には、天空の魔法陣も消え失せた。

沼地の中心は、光の花で埋め尽くされている。

この花は一時的なもので、物質でさえないので触ることもできないし、風で飛ばされることもない。

放っておけば地に帰る、強いて言うなら視覚化された魔力そのものである。

「――綺麗だけど、やることはやらないとね」

ふと気づけば、リオダインの傍にリッセがいた。――リッセはリオダインの護衛でもあるので、傍にいて当然なのだが。

いや、リッセどころか、ほかに四人もいた。

囮の三人エイル、サッシュ、トラゥウルルと、比較的近いところで投石の援護をしていたハリアタンである。

目の前で繰り広げられた大魔法に全員が見惚れていたが、まだ仕事は終わっていない。

すっかり一仕事終わってしまった感はあるが、本当に何も終わっていないのだ。

ここに来た目的は、ゾンビ兵団討伐だから。

大部分は浄化して消し去ったが、まだ根本的な問題は残ったままである。

だが、リッセはそんなことを言うが、

「のんびりしてるのは君だけじゃない?」

そんな可愛くないことを言いながら、リッセたちを追い抜くように前に出るメガネの少年が一人。

もちろん、しっかり見惚れていた一人でもある。

「なんだと。みんな見惚れてたでしょ。すごかったし」

確かにすごかった。

光の花という、すごかった残滓さえ残っているくらいだ。

実際エイルもそうだったが、そんなことはおくびにも出さない。

「そんなことないよ。ねえサッシュ?」

「お、お!?」

急に話を振られたサッシュは、驚きながらも「おう!」と力強く、それはそれは力強く頷くのだった。

まるで嘘を隠す虚勢のように。

「おう! だからおまえはリッセなんだよ! これからは『詰めの甘い女』と書いてリッセと読むぜ!」

「なんだこら。青髪こら」

「おうハリア、おまえも言ってやれ!」

「あ!? あ、ああ、……ああ! もっと俺に優しくしろ! あと殴るのもナシな! 落ち込むから!」

「今優しくするしないは関係ないだろ」

なんだかごたごたしてきたが、本当に何も終わっていないのだ。

「こんな時に何遊んでるの?」

「あんたが始めたんでしょ! しかも私だけに言うのかよ! ぶっ飛ばすぞ!」

リッセが激しく怒り始めたが、エイルは無視して告げた。

「――これから 死霊召喚士(サモングール) を探しに行く。あとゾンビの残党狩りがあるから」

今回の課題である、ゾンビ兵団の討伐。

ゾンビたちの数も問題だったが、根本的な討伐を目指すのであれば、ゾンビを増やす 死霊召喚士(サモングール) を狩らねばならない。

――そしてエイルは、すでに 死霊召喚士(サモングール) を見付けている。

色々と隠したいことが多いので告げないが。

「リオダインは休憩。サッシュは彼の護衛に付いてほしい。残りは全員林に行くから」

副リーダーであるエイルは、テキパキと指示を飛ばす。

確かに消耗しているリオダインは、待機が妥当だろう。

何より彼は近接戦闘が弱い。

無理をさせて同行させるべきタイミングではない。

「はいはーい! リオの護衛はあたしがいいと思いまーす!」

「俺はサッシュがいいと思う。だから護衛はサッシュに任せるよ。トラゥウルルは林の探索に参加してね」

「え、でも、もうゾンビはおなかいっぱいというか」

「はは面白い冗談。さあ行こうか」

「……にゃー……」

こうして、林の探索が始まる。