軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

244.メガネ君、作戦会議する

出発する前も出発したあともトラゥウルルが激しくごねる、というトラブルもあったりなかったりしたが、調査は概ね順調に進んだと言える。

「――うわぁぐろいよー」

どうやらトラゥウルルはかなり目が良く、しかも非常に夜目が利くらしい。

だから、かなり離れていても、林の中にいるゾンビがそこそこ鮮明にはっきりくっきり見えてしまうのだとか。

「――えっ!? なに!? なんて!? なんて言った今!? 今エイルなんて言った!?」

驚きにシッポの毛を逆立てる猫獣人に、俺は繰り返した。

「――林の中に入って『君の素養』が有効かどうか試してほしいって言ったんだけど」

「――本気で!? こんなに嫌がってるのに!? シッポの毛とかすっかり逆立っていつもの倍くらい膨らんでるのに!?」

ああ、うん。膨らんでるね。ぶわっと膨らんでるね。威嚇とか警戒とかしている猫っぽいね。

「――ごめんね。君が完全体だったらこんなこと言わなかったんだけどね」

「――完全体ってなに!?」

そりゃもちろん猫だよ。完全な猫だったらって話だよ。ほんと猫ならいいのに。

「――作戦に必要なことだから、ぜひ試してほしいんだ」

トラゥウルルの「素養・影猫」は、己の身体と身の回りの物を完全に透明化するというものだ。

視覚なら確実に騙せる。

しかし、もしゾンビが視覚以外……体温などで生物を感知できるとすれば、彼女の「素養」は通用しないことになる。

これはぜひとも、作戦の前に確かめておきたい。

実際、「俺のメガネ」の「体熱視」でも見えるからね。

消えたトラゥウルルが。

だから、熱を感知するなら、見つかるのだ。

ちなみに「影猫」も登録済みだ。

浜辺で海の幸を食べている時に、話の流れでトラゥウルルの「素養」の話になり、かなり軽いノリで本人に名前も効果も教えてもらったのだ。

まあ、本人的には軽いノリで教えてもいいことだったのだろう。

何せ警戒がしづらいから。

ただ「消えるだけ」ならまだしも、トラゥウルルの体術だの身のこなしだのが付加すると、どうしようもない。

知られたら知られたでやりようがあるのだろう。

いや、むしろ逆に、知られたからこそメリットが発生する使い方も色々考えられるからね。

でも、登録はしたものの、「俺のメガネ」は劣化した再現である。

なんだかぼんやりと消えるだけで、こう、向こう側が透けて見える程度の半透明にしかなれず、完全な透明化は不可能だった。

今のところ使い道に迷う「素養」である。

完全透明化なら色々できることも増えそうなんだけど。

「――できるだけ近づいてほしい。なんならちょっとちょっかい出して反応も見てほしい」

「――え!? なんで!? なんでやるって言ってないのに具体的な指示を!?」

「――もしちょっかいを出してもゾンビが無反応なら、君は一方的に攻撃ができる立場になる。これも確かめたいんだ。何、危ないと思えば逃げればいいんだよ。君の足なら余裕で逃げ切れるからさ。危ないことなんて何もないよ。で? これでも何か問題でも? 行かない理由が?」

「――や、やめてぇ……リッセぇ、このメガネ止まらないよぉ……」

あたりまえである。

なんのために調査に来ているんだ。

泣きそうな顔のトラゥウルルにすがられるリッセだが……彼女は目を閉じた。

「――……ごめんウルル。課題のことを考えると、エイルの言っていることの方が理解できるんだ。私もウルルに確かめてほしい」

だよね。

別に不要なこと、無駄なことをしろと言っているわけではない。

むしろ相当大事なことをしろと言っているのだ。

この課題は俺だちの試験で、彼女の試験でもある。

できるのにやらない、というのは、通用しない……と、俺は思う。どうしても嫌なら代わってあげたいとも思うけどね。助け合う気はあるから。

でも今回の場合は、トラゥウルルにしかできないことだ。こればっかりは仕方ない。

「――……にゃぁ……もいちど調査に来るのも嫌だったのにぃ……」

すまない。

でも行ってくれ。

「――えっ!? また行くの!? 今度は大まかな数を調べるために林の中に!?」

すまない。

「――ええっ!? 今度は 死霊召喚士(サモングール) を探しに林の中心部に!?」

悪い。行ってくれ。

「――ええっ!? 林の外にいるゾンビを中に連れていけって!?」

うん。いってらっしゃい。

「――はいはい行きますにゃー。もうなんか見慣れてきたし。これを置いてくればいいんだね。他になんかあるならついでにやってくるけど?」

最終的にはトラゥウルルが若干やさぐれた感を帯び始めたが……

まあ、とにかく、調査は順調に進んだのだった。

調査は夕方……少し急いで視界が悪くなる前に済ませ、待機組と合流して空が赤い内に拠点に戻ってきた。

村人たちが物珍しそうに俺たちを見ている。

まあ、どこの村でもこんな感じなんだろうね。

故郷のアルバト村でも、顔も知らない客ってすごく珍しかったから。俺の村でもよそ者にはこんな反応だったと思う。

色々と訳ありなので、俺たちから村人に関わることはない。

ぽろっと暗殺者関係のことでも漏らしたら、お互いまずいことになりかねないから。

「――ちょっとここで育ててる野菜と郷土料理のことを聞いてくる」

地元の情報収集に意欲的なのはベルジュくらいである。

彼は本当に、良くも悪くもブレないなぁ。

「――エイルのばかがぁ、嫌だっていっぱい言ったのにぃ」

「――よしよし。ようやったようやった。あいつはあとでしばいとくけぇ」

泣きつくトラゥウルルをフロランタンが慰めつつ、二人は借りている建物に消えていった。……フロさん冗談ですよね? しばくって冗談ですよね?

ちょっと追いかけてまで確かめる勇気はさすがに湧かないので、もしもの時のために、言い訳だけは考えておくことにする。

そんなこんなで面々が散っていく中、リオダイン、リッセ、そして俺の三人が残った。

「早速始める?」

俺に異存はない。

リッセもそのつもりでどこにも行かない。

調査は終わった。

これから調査してきた情報を伝え、作戦の詰めに入るのだ。

これも、これまでこなしてきた課題の中で確定した、いつもの流れである。

「リオ、早く終わらせたいんでしょ?」

俺もうっすら思っていたことを、リッセも考えていたようだ。

調査に全員出した辺り、確実に急いでるもんね。

そうリッセが問うと、リオダインは頷いた。

「これから日を追うごとに、どんどん寒さが厳しくなるだろうから。本格的な冬が始まる前にブラインの塔に戻りたいんだ」

なるほど。

そうか、寒波と競争するのか。

――賛成だ。冬支度をして来ている者はあまりいないので、ここで冬を迎えると確実に活動に障るだろう。

それに、冬のゾンビの動きにも、なんらかの変化が現れるかもしれない。

そうしたらまたトラゥウルルを調査に出す必要が出てくるので、冬が来る前に済ませてしまいたい。俺の安全のためにも。……フロさんさっきのしばくって冗談だよね?

「じゃあ始めようか」

考えつく限りの成功と失敗の可能性を上げ、三人で意見を交わしてリスクとメリットとデメリットを取捨選択していく。

毎回思うけど、この時間、結構楽しい。

今までは、だいたい一人ですべて考え、一人でこなしてきたから。師匠と一緒の時は師匠が主導だったしね。

きっと今、簡単には得難い経験をしているのだろう、と思う。

それと同時に、あまり接点がない暗殺者チームのことも、ちょっと気になっている。

果たして向こうのチームは、どんな流れで課題をこなしているのだろう?

一度くらいは向こうのチームで課題をこなしてみたいな。

まあ、これは叶わない願いかもしれないけど。

話し合いは深夜まで続いた。