軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

232.メガネ君、仲間が増えることを予期する

「問題は、教官が『ゾンビ兵団の討伐』って言ったことなんだよね」

そんなリオダインの言葉には、同意せざるを得ない。

そう、エヴァネスク教官は「ゾンビ兵団の討伐」って言ったんだよね。

「 死霊召喚士(サモングール) の討伐」とは言わなかった。

だから正確に言うなら、ゾンビだけを討伐すればいいんだと思う。

あくまでも討伐対象はゾンビ兵団に限っているから。

だが、 死霊召喚士(サモングール) がいる限りゾンビは増殖し続けるから、根源を絶たないと達成できないだけだ。

「そうなんだ。だとすると、たくさんのゾンビを凛々しく狩る必要があるんだね」

エオラゼルの言う通りである。凛々しく狩る必要はないと思うけど。

「でもリオなら、可憐な広範囲魔法で一瞬で片が付くのでは?」

あ、俺もそう思う。可憐である必要はないと思うけど。

「可憐な広範囲の聖魔法は拾得してないんだ」

そういえば、リオダインの「大功の魔術師」は、属性の偏りなく魔法を使うことができるんだよな。

普通は、なんらかの属性や種類に特化するらしいけど。

セリエなら魔法陣とか、ソリチカ教官も精霊魔法が使えるし。

確かに聖属性の広範囲攻撃魔法があれば、一瞬で片付きそうだけど……残念ながら使えないらしい。

――そもそもを言えば、古今から聖属性と闇属性の魔法は使い手が少なすぎて、現代にはあまり残っていないらしい。リオダインも二つ三つしか知らないとか。

「火も有効みたいだけど、場所によっては使えないしね」

そうだね。

もしゾンビ兵団が森なんかを拠点にしていたら、火なんて使えないよね。

「まあ、その辺も含めて追々詰めていけばいいよね」

そうだね。リーダーの顔を立てる方向で俺もがんばるよ。

――エオラゼルは別班だけど、この程度の問題提起なら、セリエたちも考えているだろう。だからこのくらいの話なら問題ないだろう。

でも、ここから先の話は、作戦に深く関わってきそうなので言えないかな。

暗殺者チームのやり方や作戦にも興味があるので、ぜひともこっちとは関係ない方向から立案してほしい。

やっぱりなんというか、考え方の方向性が違うんだよね。

俺はこれが最良だと思う。

でも他の人から考えた違う最良も存在する。

課題のたびに、それがまざまざと見せつけられるのだ。

暗殺者チームの作戦はすごく興味深い。

だから、個人的にも意見のすり合わせなんてしたくはない。彼らにはぜひとも違う切り口から作戦を立ててほしい。

――ほんとに来てよかったよ。

ブラインの塔に誘われた時、俺が興味を抱いた「複数名での狩り」を、課題のたびに実感している。

これだけでも来てよかったと思うし、ヨルゴ教官の弓の扱いも興味深いし、例の秘術もあるし。

もっとたくさんのことを吸収したい。

そしてしっかり強くなりたい。

「――準備ができたぞ」

来た! やっと!

火を囲んでいるとは言え、寒い潮風を浴びつつ待っていた甲斐があった。

強くなるなりゾンビ兵団へ向けた作戦を考えるなりは、これを食ってからだ。

今日の海辺の間食にベルジュが用意したメニューは、貝鍋と網焼きである。

岩場で集めた貝と海藻、釣った魚と野菜を鍋に敷き詰め、火に掛けて煮立てるそうだ。

俺たちが囲んでいる火に網を置き、ぎっしりと中身が詰まった鍋を仕掛ける。沸騰したら完成らしい。

そして、鍋の横の網の空いたスペースに、ぴったりと閉じた貝を置く。

俺の手のひらほどもある、大きな貝である。

殻は鬼のように硬く分厚いが、中身が煮えたら自然と開くのだ。これは 怨蛤(うらみはまぐり) という種類だそうだ。

鳥や動物、肴などがどんなに割ろうとしても決して割れない、怨み言の一つも言いたくなるほど堅牢なる殻を持つ貝、という名前の由来だとか。

実際相当硬いのだ。

俺が石で殴っても、小さな傷が付く程度である。

だが、熱すれば話は別である。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

待つ。

じっと待つ。

無言で貝を見つめて、今か今かと開くのをじっと待つ。

鍋が煮えるのも待ち遠しいが、怨蛤が開くのも待ち遠しい。

初めて食べた時からもう夢中である。

めちゃくちゃうまいのだ。

正直、肉に並ぶほどうまいものがこの世にあったのかと思うくらいうまいのだ。

俺だけがそう思っているわけではないだろう。

怨蛤を見る男たちの顔が、気持ちは同じだと物語っている。

いつも優雅な微笑みを絶やさないエオラゼルでさえ真顔になるほどである。

――ん?

ふと林の方……塔がある方を見る。

…………

何かを感じた気がしたけど……空が薄暗くなってきた空の下、特に異常はない。

気のせいか――

「あ、開いた」

お、ついにか! 俺の蛤! 俺の蛤!

「――へー。おいしそうだねー」

…………

なんだとっ!?

いつの間にか、いや、よそ見していた隙に、だろう。

気が付けば俺の隣に、女の子が座っていた。

「うわ、びっくりした!」

俺はよそ見していたが、リオダインらにとってはいきなり目の前に出てきたことになる。

――猫獣人トラゥウルルである。

「消える素養」を持つとは聞いていたが、実際には見る機会がなかった。

人の「素養」は軽々しく聞かない、というマナーがあるから、直接確かめるわけにもいかない。

だから、この時初めて実感したことになる。

恐らくはそれを使用して近づいてきたのだろう、と。

……気配、全然感じなかったな。砂浜なのに足音もなかった。

彼女も俺とは違うやり方だが、狩人をしていたって聞いている。……そうか。かなり腕がいいんだろうな。びっくりした。

「トラか。ついに見つかっちまったな」

「ウルルって呼べよー」

ベルジュはあまり驚いていないようだ。彼女の「素養」のことを俺より知っているのかもしれない。

「可愛い仔猫ちゃんならいつでも歓迎さ」

「じゃー君のその貝、貰っていーいー?」

「…………いいとも」

やめて。エオラゼルが即答してない時点で本心は違うから。やめてあげて。

「時々焼き魚のにおいがしてたから、何か食べてるんだろうなーとは思ってたよー」

ああそうか。匂いか。やっぱり付いちゃうものなのか。

「にゃははー。突き止めたぞー。男だけでー。おいしいもの食べてー。ずるいなー」

…………

まあ、別に問題はないわけで。

「食べていく?」

俺が普通に問うと、「いいの?」と聞かれて首肯する。

「元は俺とベルジュが始めたことだけど」

そこからリオダインにバレて、エオラゼルにバレて、今の四人になったのだが。

別に隠しているわけじゃない。

秘密にしているわけでもない。

ただ、誰にも言わないだけ。

ちょっと海産物で小腹を満たすだけの集まりなので、強いて誰かに言う必要もないだろう。

森でちょっと果実を取って食べたことをいちいち話すだろうか?

その程度のことだ。

「――貝かー。実は食べたことないんだよねー」

全員、食べる前からわかっていた。

明日からトラゥウルルも仲間に加わるんだろうな、と。