軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

222.メガネ君、そこそこえげつないことを認める

「――全員動くな!! …………あ、もう終わった……?」

フロランタンが狼煙球を提出して勝敗が決した直後だった。

用を済ませた砂嵐が晴れた頃、駆けてきたハイドラがこの場の全員を威嚇し――状況を察したようだ。

「……」

シュレンは口を覆う黒い布を下げると、黙したままその場に坐した。確か東洋で言うところの「正座」というやつだったかな。

「……そう」

そんな神妙な味方の態度に、ハイドラには結末もわかってしまったようだ。

「え? もう決着が?」

一足遅れでやってきたセリエと、更に遅れてきたカロなんとかも顔を出す。

更には、塔の近くで待ち伏せしていたリッセとマリオンもだ。

さっきのハイドラの大声を聞いて出てきたようだ。

このタイミングで出てきたってことは、彼女らは砂煙のせいで、本当に何も見えなかったのだろう。

俺が塔に登っていたことも。

狼煙が頭上を飛んできたことも。

塔の窓越しに、俺とフロランタンで罠を仕掛けたことも。

もちろん、塔から降りた俺と、その俺から狼煙球を奪ったシュレンとの一件も。

色々と情報量は多い内容だったが、過ぎた時間は相当短かった。

普通に昼飯を食うくらいの時間で、すべてが終わったのだ。

「――おい! 今どうなってる!? つーかどうなった!?」

サッシュ、ハリアタン、トラゥウルルも戻ってきた。なぜか暗殺者チームのエオラゼルも一緒だが。

「――もう終わったのか?」

ベルジュも、リオダインを背負って戻ってきた。

さっきまで砂嵐を起こしていたリオダインは、がんばりすぎたようで魔力を使い果たしたらしく気を失っていた。俺も経験あるから知ってるよ。

なぜだか皆が俺に視線を向けるので、俺は何も言わずエヴァネスク教官を見た。俺を見たって何の情報も出ないからね。

先にシュレンに渡された革袋は、今はヨルゴ教官が持っている。

フロランタンのものを受け取る際に手渡したのだ。

「狼煙の提出はもう済んでいる。これより開封し、中身を検める。ヨルゴ氏が持っている方は暗殺者チームのシュレンが提出したものです――お願いします」

エヴァネスク教官がヨルゴ教官に頷いて見せると、彼は革袋をひっくり返し、中身を地面に放り出した。

一目瞭然だった。

赤い煙を吹く球が四個。残り五個は芋である。

「こちらは魔物狩りチームのフロランタンが提出したものです」

と、ヨルゴ教官と同じように、エヴァネスク教官は持ってきた革袋を逆さまにした。

これも、一目瞭然だ。

赤い煙を吹く球が五個。ちなみにこっちには芋は入っていない。本命には必要ないからね。

――ちなみに、フロランタンは訓練初日に負けて一週間の料理当番である。だからこそ地下の食糧庫に入り、芋を調達することができた。

料理当番以外の立ち入りは禁止だからね。

「――今日の訓練は、魔物狩りチームの勝利とする」

正式な宣言が下り……俺の肩の荷も下りた気分である。

「よっしゃあ!」

「へっ、この俺が本気を出したんだから当然だな!」

「にゃははー。これが猫獣人の実力だー」

サッシュ、ハリアタン、トラゥウルルは喜んでるなぁ。……俺は喜びより安心の方が強いよ。やれやれ終わったか。よかったよかった。

「リオダイン! おまえの作戦大当たりじゃねえか!」

ハリアタンとトラゥウルルが、我らのリーダーを背負うベルジュへと走っていく。喜んでるなぁ。

いや、本当によかった。

これで追い出されずに済むだろう。

「――あなたでしょ?」

お、びっくりした。

いつの間にか傍にいたハイドラが、囁くような声で俺に言う。

「あなたが立てた作戦でしょ?」

「いや違うよ。全然違うよ。リオダインががんばって考えた作戦だよ。まあ強いていうなら俺が一割くらいちょこちょこっと口を出してあとは全部リオダインのおかげだよ」

嘘はついていない。

俺にとってはリーダー面してメンバーをまとめることの方が、作戦立案より十倍以上は大変なことだから。

だから、比重で言えば俺一割でリオダイン九割だ。間違いなく。

「次は負けないから」

ああそう。ハイドラは意外と負けず嫌いなんだな。

でもまずいな。

これで妙な因縁が生まれたら、今後も絡まれる可能性が高い。

……ある程度がんばってうまいことハイドラに負けつつも教官には怒られない、そんな路線を狙うか?

……いや、まずいか。

俺の性格を知っているソリチカ教官もいるし、教官たちには俺の手抜きがバレそうだ。

「――注目! まだ訓練は終わっていない!」

喜んだり落ち込んだり気絶したり正座したりしている面々を、ヨルゴ教官の腹に響く重い声が襲う。

そうだね。

勝敗の通達はあったけど、訓練終了の合図はまだなかったからね。

全員が注目すると、エヴァネスク教官が口を開く。

「魔物狩りチーム。

昨日に比べて目を見張る実力を発揮したこと、認めます。

特にチームメンバーの特性・特徴を活かした高度な策には、一定水準以上の評価をしたい」

……ということは、やっぱり追い出される心配はなさそうだな。あーよかった。

「暗殺者チーム。

昨日今日とあなたたちは過不足ない動きを見せました。

今回に関しては、個々がどうこうより作戦に負けたという部分が多かったと判断する。

しかしそれでも、今落ち着いて振り返れば、作戦を止められる瞬間はいくつかあったと思う。

各自、自分が失敗したと思うところはしっかり反省し、次に繋げるように」

失敗か。

俺の失敗と言えば、やはりシュレンと対峙した時かな。

あの時は色々と考えていた。

塔から降りたら彼が来るだろうことは予想できていたので、対策は考えていたのだが……

まず、囮として逃げる。

これでシュレンを塔から遠ざけ、フロランタンに届けさせる。

これが主となる作戦だった。

が、シュレンの速度があまりにも早くて、逃げる行動さえ起こすことができなかった。あいつはかなり戦闘力が高いと思う。

俺は囮なので、負けてもよかった。

狼煙入りの革袋を奪われるのも、想定内のことだった。

だが、もし次同じ状況が来たらどうだろう。

もしまたシュレンと対峙し、なんらかの理由で敵対関係にあったら。

――今回は狼煙の回収という勝負方法とルールがあったから結果勝てたが、内容としては一対一ではっきり負けてるんだよね。

勝てないまでも、俺はもっと近接戦闘を学んだ方がいいかもしれない。

もしくは逃げ足を磨くか。

七つの秘術を身に付けたら、解決するだろうか?

「皆、今ならわかるはず。

今の自分に何が足りず、また何が欲しいのか。必要なのか。

今回のチーム対抗戦は、それぞれの実技による自己紹介と、自分に足りないものを見直す意味も兼ねていた。

互いのチームも、戦力や能力を加味してバランスを取ったわけでもない、即席のチームだ。有利不利はあったかと思う。

いずれまた違う形で対抗戦をやると思うけれど、しばらくはしない。各々自分への課題を考え、有意義な日々を過ごすように。

――以上、解散」

こうして、チーム対抗戦が終わった。

なんというか、疲れたなぁ。

「――作戦考えたのおまえだよな?」

「――違うよ。リオダインだよ」

「――あない純朴そうな子ぉに、あないえげつない作戦考えられんじゃろ」

「――失礼だな。俺がえげつないみたいな言い方して」

「――割と普通にえげつないこと考えるだろ? 村でよくえげつない作戦立ててたじゃん」

「――なあ? われは見た目に反してそこそこえげつないけぇのう」

ひどい言われようである。

俺は決してえげつなくない。

…………

……まあ、どっちかと言えば。

あえて強いて言えば、そこそこくらいは、えげつないかもなぁ……という感じくらいだと思いますよ。