軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

212.メガネ君、その気はなかったけど情報収集する

「――そっちはどうだった?」

座学が終わり、昼食の時間となった。

誰が言ったのかはわからないが、そんな言葉から、コースが別れた者同士が情報交換をし始めた。

一つのテーブルに大勢が集まって話し込んでいる。

俺も気になっているが、たぶんまだそんなに差異は出ていないと思う。だから強いて今聞く必要はないかな。

というわけで一人で飯である。

いいね、一人で食う飯って。落ち着くなぁ。

…………

しかし、それにしてもうまい。

なんなんだこれは。これは俺の知っているシカ肉じゃないぞ。

「――うまー!」

「――ええのう! これええのう!!」

昨日に引き続いて、今日も猫獣人トラゥウルルとフロランタンが吠えている。わかる。声を上げたくなるほどうまい。すぐおかわりに行ける台所に近いテーブルを陣取っているのも微笑ましい。たっぷりお食べ。俺も食べるけど。

――昨日の晩は、すごくシンプルなシカ肉のステーキだった。ベルジュが配合したという独自のスパイスが変わっていて、非常にうまかった。ちょっとぴりっとしていた。

そして、今朝はなかったが朝から仕込みはしていたようで、今俺たちの食事には、シカ肉の煮込みシチューの姿があった。

これがうまい。

ゴロッとたくさん入っているシカ肉もうまいが、彩を添える野菜の甘味にシチュー味の染み具合も最高だ。

これがベルジュの腕前か。

これが料理人の仕事なのか。

俺の「とりあえず素人でもそれなりに作れる簡単料理」なんて霞むくらいうまい。

この味が野宿で作れたらなぁ。

やっぱりスパイスについては教えを乞うしかないなぁ。

ちなみにベルジュとハイドラの諍いは、一品だけ作る的な方向で落ち着いた。

あれだけ揉めたのに、ハイドラは俺と同じく一人飯で、今満足げにシチューを食べている。

まるで争いなど忘れたかのように。

あるいはなかったことであるかのように。

ベルジュが料理作るのは反対と、あんなにも恐ろしい顔で主張して揉めたのになぁ。もう食べづらくなりそうなものなのになぁ……

あそこまで綺麗さっぱり割り切れるところも、ちょっと怖いな。

そういえば昨日の晩もしっかりステーキ食べてたしな。

――おっと危ない。目が合うところだった。ハイドラの真顔はかなり怖い。今後はちょっと距離を置かねば。

「こんにちは」

……距離を置こうと思った傍から、こっちのテーブルに来ただと……?

ハイドラは、シチューにサラダにパンといった昼食を乗せたトレイごと、一人で食べていた俺のテーブルにやってきた。

というか、隣に来た。

「あ、もうすぐ食べ終わるから」

「ゆっくりしていいのよ?」

「いやあ、ハイドラの一人の時間を邪魔したくないし」

「エイルの一人の時間を邪魔されたくないのよね?」

笑顔でチクリと突いてくる。

……元からハイドラは強いとは思っていたが、昨日のアレを見て確信を持ち、今では想定以上の強さにやや及び腰といったところか。

もちろん、今の俺の心境だ。

「どうせ話す時間は作ろうと思っていたから。あなたの意見を聞きたくてね」

……ん?

「漏れ聞こえる話によると、暗殺者コースとそっちのコース、まだあまり違いはないみたいね。

そっちも七つの秘術の説明を受けたのでしょう?」

うん、まあ。……やっぱり暗殺者コースもか。

「あなたはどの秘術を修めるの?」

「まだわからないよ」

歩行術、走行術、疾行術、隠行術は覚えたい。

できれば残りの探行術、遠行術、禁行術も捨てがたい。

ならば考えるまでもなく――可能な限り、だ。それが俺の答えだ

「私は――」

と、ハイドラはスプーンを持ち、シチューに潜らせる。

「――全部修めるつもり」

…………

「ハイドラって結構野心家?」

「ふふ、そうね。なかなか欲深いと思うわよ? でも――私はあなたも全部修めるつもりなんじゃないかと思ったけれど?」

「命懸けで修めたいとは思わないよ」

「そう。勘には自信があるのだけど、はずれたみたいね」

勘か。

女の勘ってやつかな。それ当たってるよ。

「命懸けで修めたい」とは思わないけど、「できる範囲でがんばって修めたい」とは思っている。嘘はついていない。

――きっと、たぶんハイドラも思ったんだろうな。

今この時を逃したら習得できないかもしれない、と。

「それにしても、エイルはそっちなのね」

「そっち?」

なんだ? コースの話かな?

「だって、知れば知るほど暗殺者にしか見えないのよね。あなた」

……ああそう。どっかで聞いた言葉だなぁ。

その気はなかったけど、やはりこう、波長みたいなものが合うんだと思う。

気が付けば、ハイドラといろんな話をしていた。

もちろん隙あらば逃げようとは思っていたが、なかなか隙がなくてね……

「――どうやら四班が集まったみたいね」

まず、ハイドラ、ジオダイン、シュレンの三人。

この三人は、俺たちと同じようにスカウトを受けて集められた。

俺たちがいた村とは違う暗殺者の村で出会い、しかし、わずかな期間しか一緒に生活しなかったそうだ。

なので互いにあまり馴染みがないらしい。

エオラゼル、ハリアタン、カロなんとか組。

彼らは暗殺者を育成する孤児院から来たエリートで、本来はリッセもここの組に入っていた。

ベルジュ、トラゥウルル、マリオン組。

彼らとはここで会ったばかりなので、ハイドラもよくわからないそうだ。まあ、ベルジュだけは料理人志望だって全員が知るところになったけどね。

そして、俺、サッシュ、セリエ、フロランタン、リッセ組。

以上の四班がそれぞれ集まったのが、ここにいる十四人というわけだ。

「ハイドラたちはどこから来たの?」

「守秘義務に引っかかりそうだから、それは言わないでおくわ。お互いのために。どうしても聞きたいわけでもないでしょう?」

……なるほど、そうだね。

恐らくナスティアラ王国のどこかから来たのだとは思うが。

しかし、もしかしたら隣国からスカウトを受けているかもしれない。優秀な人材の引き抜き的なアレがあったりなかったしたかもしれない。

うん、真実がなんであろうと、少なくとも俺は知らなくていい情報っぽいな。

「でもフロランタンの訛りは気になるわ。彼女、出身はどこなの? あんなにひどい言葉の訛りは聞いたことがないわ」

それは俺も気になっています。

……ただ、でも、その、うん……

「聞きづらいよね」

「そうね。とてもじゃないけど本人には聞きづらいわ」

だよね。何せ「ドン」に「ファミリー」だからね。知らない方がいいことって世の中には確実に存在するからね。

うまい料理と情報交換が主となった昼食と昼休憩が終わり、今日も午後からは訓練である。

確か、昨日と同じことをするとか言っていたけど……

塔の前に集まった俺たちに、エヴァネスク教官が説明を始める。

「今日も狼煙を回収する訓練を行う――が」

……が?

「――せっかくコースを分けたところなので、暗殺者コースチームとそれ以外……暫定で魔物狩りチームとする。

今日の訓練は、暗殺者チームと魔物狩りチーム、双方が競い合う対抗戦とする」

……対抗戦だと?