軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

155.メガネ君、再び取り囲まれる

一人で大通りを歩くのは、クロズハイトに来た時以来かな?

相変わらず狭い道に行き交う人たちで、なかなかの賑わいである。

天気もいいし、俺も色々見ながらゆっくり行くことにしよう。

確か向こうが俺の来た正門で、鍛冶場街は逆……入り口から見て奥の方の区画だ。

地形を無視した屋根伝いだと早いけど、陸路沿いだともう少し時間が掛かるだろう。そもそも大まかな方向しかわからないので、最短を行く道順がわからないんだよね。

まあ、それも含めてゆっくり行こうか。

――そういえば、あれからリッセはどうしたかな?

昨夜は、リッセをレストランに置いたままアディーロばあさんと一緒に帰途に着いたけど、あのあとリッセはどう動いただろう。

まず、夜間から動いたとは思えないけど。

でもまあ高確率で、貧民街のフロランタンとは会えるだろう。

忌子はやはり目立つ。どこででも情報くらい耳に入るだろう。

それに、あのゼットを半殺しにして街から追い出したらしいから。フロランタンは街中の噂になっているのではなかろうか。

……あれ?

街中で噂になっている?

確かに具体的な内容や個人名は出なかったけど、フロランタンがゼットをぶっ飛ばした、でいいんだよな?

忌子自体も珍しいけど、「ゼットを倒せる忌子」と限定するなら、猶更絞られるはずだし。

だから間違いないとは思うけど。

となると、もしかして、ゼットの仲間たちにフロランタンが狙われたりしないだろうか?

…………

――まずい!

俺は踵を返すと、一直線に貧民街へ向けて走り出した。

フロランタンなら大丈夫だと思う。大丈夫だとは思う。

彼女は本当に強いから。

だが、それはまともにぶつかった場合の話だ。

相手が強者と知り、それでも報復したいというなら、それなりのやり方がある。

罠だの毒だのといった強者を仕留める手段がいくらでもある。

これがリッセやセリエ、サッシュ辺りなら放っておく……いや……一応探して確認くらいはしてみるだろうけど、フロランタンだけはダメだ。

たとえ甘いと言われようと、年下の面倒は見るものだ。俺はそうやって育てられたし、世話になった分くらいは返したいから。

「――おい。ここは……ちょっと待て!」

「――ヒュー。お嬢ちゃん、おじさんと遊……待ておい!」

「――おいそこのメガネ! あんたこの辺の者……えっ早っ! 止まれ!」

大通りから何本か路地を折れるだけで、極端に周囲の建物が粗末でボロくなる。

ここら辺りから貧民街になるようだ。

突っ走る俺の前やら横やらを、塞ぐように絡んでくる連中を軒並み無視し避けて走り抜け、…………立ち止まる。

突っ走ってきたはいいが、情報がない。

ここからフロランタンに辿り着くための情報がない。

まさか大声で名前を呼びながら歩くわけにもいかないし、そもそも「特定の誰かを探している」という体も誰かに付け入られる隙になるだろう。

周りを見回すと、路地も狭ければ入り組んでいて、正直現在位置がよくわからない。

上から見ても建物も道も不規則で、入り組んでいるとは思っていたが、実際入り込んでみればまるで迷路のようだ。

そして、物陰などから感じる視線。

どういう理由かはわからないが、確実に見張られている。まあそれがわかる程度の相手ならどうとでもなるが。

ただ、見張るってことは警戒してもいるってことだ。

警戒している相手に素直に聞いても、何も教えてくれないだろう。

――となると……取れる手は限られるか。

店として機能しているのかわからないが、看板が出ている店らしき建物に入ってみた。

……ここは古着屋かな? ボロい服からツギだらけの服が吊られていたり、穴の開いたブーツなどが乱雑に床の一角に転がっていたり。

一応防臭、防虫剤の独特な臭いがするので、売っている服はボロであっても悪臭が立ち込めている、というわけでもないようだ。

そして、 商品(・・) だからこその防臭・防虫である。

つまり店として機能している、ということだ。

「――おやぁ」

奥に座っていたおばあさんが、俺を見てニヤァと笑った。やっぱりボロい服を着ていた。

「お嬢ちゃん、ご入用かい? いい服だねぇ。高く買うよぉ」

ご入用? 高く買う?

…………

あ、そういうことか。

ここで服を買い取ってくれて、お金とボロ服とに交換してくれると。そして貧民街に住む住人として相応しい格好になるわけだ。

この街に来たばかりの何も持っていない者が、まず頼る場所なのだろう。

まあ、それはいい。

服には困っていない。

「ゼットさんを探しているのですが、知っていますか?」

フロランタンの名前は出せない。

忌子を探している、という情報も出せない。

となれば、「誰が探していても不思議じゃない名前」を出すしかない。

ゼットなら、誰が探していてもおかしくないだろう。

犯罪者集団のリーダーなんだから。

昨夜、フロランタンとゼットは、確実に関わったはず。

それも生半可な関わり方じゃない。

ちょっとした因縁が生まれた俺よりも、がっちり深く絡んだはずだ。

ならば今ゼットを探せば、ゼットに至る途中でフロランタンに会える、もしくは情報くらいは入るだろう。

「はぁ? ぜっとぉ?」

おばあさんの表情は……変わらない。ニヤァっとしたままだ。

「知らないねぇ。ああでも、何か買ってくれれば思い出すかもねぇ?」

うん。

時間が惜しいし、その上更に「ゼットを探る者」として、あまり長くこの貧民街にはいられない。絶対に揉め事に巻き込まれるから。

俺はあえておばあさんに近づくと、いかにも周囲の目と耳を避けている風を装って囁いた。

「――然る方からの使いです」

と、ダイナウットから預かった手紙の封蝋をチラリと見せて戻した。

おばあさんの顔は……お、変わった。笑みが消えたな。よかった、封蝋の印を見て誰の使いかわかったのだろう。

娼館街の支配人は、やはり有名ってことだ。

……まあ、全然ゼットへの使いじゃないんだけどね。手紙は鍛冶場街の支配者へ当てたものだから。

あんまり褒められた使い方をしていないのはわかっているが、今はフロランタンの安否を確認するのが最優先だ。

そのための手段は選ばない……とは言わないが、多少の無理はする。するべきだ。

それが理由で手遅れに、なんて事態になったら、シャレにならないから。

「例の噂かい?」

笑みが消えたどころか、真面目な顔でおばあさんは問う。ゼットとの関係はわからないが、この反応を見るに浅からぬ関係がありそうだ。

「ええ。昨夜ゼットさんに何が起こったのか、その真偽を確かめにきた……というのも大きいのですが、何より彼が消えては困ると、あの方はお考えのようです」

真っ赤な嘘だけどね。

「デマだよ」

ん?

「詳しくはあたしも知らんがね。

ただ、もしあの“悪ガキ”に本当に何かがあれば、この手の噂が広まらんからねぇ。明らかになんらかの目的があって広められたデマだよ。

そうじゃなけりゃこの街の連中みーんな動き出してるよ。あたしも含めてね。あの“悪ガキ”がいなくなると困る奴ぁ多いのさ」

……そうか。

ここの住民とゼット、どこまで深い関わりがあるかはわからないけど。

でもゼットはこの街で顔が利くようだ。

でも、支配者、というわけでもないのかな?

まあその辺はいい。

ゼットが半殺しにされて街を出ていった、という情報がデマだと言うのなら。

それをやったと思しきフロランタンも、実際はやっていないということになる。

「ちなみに、私はどこぞの忌子にゼットさんがやられたという話を聞きましたが」

念のために話を振ってみると――おばあさんはひぇっひぇっと笑った。

「やられたのは本当さぁ。奥の建物ごとぶっ壊されるほど、連中は派手にやられたそうだねぇ」

あ、やられてはいるのか。あ、そう。

…………

つまりゼットは半殺しにされてはいないが、多少やられはしたと。

情報の流布は故意にされたことで、ゼットは街を出て行っていない。そこには何かしらの裏がある、と。

……ふむ。

「今の話は全て本当ですか?」

あとは、このおばあさんが本当のことを言っているかどうかだ。

「娼館街の支配者と揉める気はないね。それはあの“悪ガキ”も同じだろうさ。あんたらと敵対する気はないよ。

ただ、あたしは“悪ガキ”の居場所は知らないよ。手紙を渡したいなら別口を当たってほしいね」

……嘘を吐いているようには見えない、けど。

「ちなみに問題の忌子というのはどこに?」

「孤児院にいると思うよ。動いたって話は聞いてないしね。会いたければ行ってみな」

孤児院……そこが今のフロランタンの居場所か。

「はい」

「はい?」

「情報料。まさか娼館街からの使いが、タダで情報を買ったってわけじゃあないだろうねぇ?」

……うーん。さすがに抜け目がないなぁ。

セヴィアローお嬢様から貰っていた護衛料からお金を出し、古着屋を出た。

情報料を要求したってことは、あのおばあさんが話したことは本当に事実ってことだ。

もし情報と違えば、後から何らかの報復に来ることくらいは考えるだろう。

抜け目なさそうだし。

お金を貰ってもいい情報を話した、という自負があるから要求したのだ。たぶん。

「……よし」

必要な情報は手に入れた。

ゼットのあの情報がデマであるなら、フロランタンは大丈夫だろう。その辺で聞いて居場所までわかるのであれば、なおのこと大丈夫だと思う。

……大丈夫、だと思うけど。

でもまあ、せっかくここまで来たんだし、無事な顔だけでも見ていこうかな。

一応孤児院の場所も聞いたので、ちょっと行ってみよう。

思えばこれが失敗だったのだろう。

「――確保ぉーーーーーー!!」

え。

孤児院らしき建物を見つけ、近づいたその時。

突然高らかに張り上げられた「確保」の声に合わせ、二十人を超える人が物陰や路地から出てきて、一瞬で俺を取り囲んだ。

……え? 何これ?

というか……こういうの二回目なんだけど。