軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

141.メガネ君、情報収集する

「そろそろちゃんとした情報が必要みたいだから」

焼いた肉の匂いをまとって屋敷に戻り、セヴィアローに「私と風呂に入るか? 遠慮しなくていいぞ。さあ来い早く来い。早く。早くっ!」と手を引っ張られたりもしたが、無事に部屋まで帰ることができた。

…………

タイランに思いっきり脇腹を殴られて悶絶していたけど、セヴィアローお嬢様は大丈夫だったのだろうか。

何事もなかったように担いで行ったから、俺も何事もなく戻って来たけどさ。

……まあ、今更気にしても仕方ないか。

セヴィアローに言われた通り、匂いのついた服を着替えようと脱ぎ始めた時、声を掛けておいたダイナウッドとアーシュがやってきた。

早速ダイナウッドに「何の用だ」と不機嫌そうに言われて、「情報が欲しい」と答えつつアーシュに脱いだメイド服を渡す。

「ごめん。洗濯よろくしく」

「かしこまりました」

アーシュは、俺がここに来た時に色々と世話になったメイドの彼である。

顔見知りになったのだから、という理由でダイナウッドが専属として俺に付けたのだ。

まあ専属と言っても、部屋の掃除や洗濯など、身の回りのことをしてもらう以外何もないが。

それ以外の時は、普通に屋敷の仕事をしているみたいだしね。

ちなみに彼の「素養」は「家事全般」である。

彼には悪いが、メイドであることがとても似合う「素養」と言わざるをえない。

「情報だと? なんの情報だ」

「今日は支配人が外に出るでしょ? 俺も同行することになってるから。ある程度の予備知識があるとやりやすいからね」

ベッド下の収納から新しいメイド服を出し、着ながら言う。もうスカートにも慣れたものである。

「いらんだろう。おまえはただ支配人の身を守ればいい」

「そのために必要だって言ってるんだけど。必要あるかどうかは俺が決めるよ」

狩場で一番嫌なのは、「必要ない」と思って仕入れなかった知識や道具が必要になる場合だ。

備えあれば、という経験を何度もしてきた。

道具類なら入手に難度がつくが、情報はそうじゃないから。

必要になりそう、程度のレベルでも耳に入れておきたい。

「……何が知りたい?」

不機嫌そうだが、付き合ってくれるようだ。

やっぱりダイナウッドはいいな。

適度に嫌われているおかげで必要以上に踏み込んでこないし、でもこっちの頼みは割と聞いてくれるし。

俺は非常に付き合いやすい。そうそう、これくらいがいいんだよ。

メイド服に着替えた俺はベッドに腰掛け、ダイナウッドは出入り口のドアに寄り掛かって腕を組んでいる。

彼は顔もいいし長身だから、非常に様になっている。

やっぱりなんか、こう、……品がある気がするなぁ。声も渋いし。

冗談でも、カエルを追いかけてぬかるみにズボッとハマり、腰まで埋まったもんで己の力では出られず半日行方不明になっていた姉みたいなドジはしなさそうだ。

「まず、今日会う人って誰?」

「俺はただの使用人だ。支配人の交友関係を逐一知らされる立場にない」

なるほど。

言われてみればその通りか。

じゃあ、方向を変えてみようか。

「このクロズハイトの支配者って何人くらいいる?」

「支配者? ……支配人のような権力のある人のことか?」

「うん。まとめている人でも、有力者でも、一番のお金持ちでもいいかな。とにかく偉い人。街の代表とかそういうの」

ダイナウッドは考え込み、「五人いる」と答えた。

「まずはここ娼館街をまとめる支配人アディーロ。

栄光街で一番の金持ちであるベッケンバーグ。

鍛冶場街で職人を束ねるオーリーズ商会のタツナミ。

どこにも属さない犯罪者集団のリーダー・ゼット。

そして、裏社会を牛耳っていると言われる組織、ブラインの塔の首領」

…………

ん? ブラインの塔?

「ブラインの塔の首領は、誰も知らないが確実に存在はするらしいという噂だ。支配人なら何か知っているかもしれない」

……ああ、はい、そうですか。

俺もわかっちゃったから、ブラインの塔のことはいいや。

というか、俺はたぶんその首領の上の人を知っているから。その人に誘われて今ここにいるし。

しかしブラインの塔ってそういう位置づけなんだな。ここでは。

裏社会を牛耳っている、か。

すごいんだね。

「おまえはブラインの塔の関係者なんだろう?」

そう言えば、この屋敷に来た時、ダイナウッドの前でアディーロばあさんがそれっぽい話題を出したなぁ。

……あ、だから警戒されてるのか?

もしや俺、ダイナウッドに裏社会の人間だと思われてる?

まあ実際に、今現在は一時的に裏社会に属してはいるわけだけど。……あれ? あながち誤解でもなんでもないのか。

まあこればっかりは仕方ない。

ただの事実でしかないのだから。

「違うよ。ブライ……ンの……塔?」

「さすがにとぼけるのは無理がある」

ですよね。

初対面の時、アディーロばあさんがカマかけてきた時、ダイナウッドもその場にいたしね。

「あんまり話すと口封じされちゃうから、これ以上聞かないで」

「やはりか! おまえは支配人やお嬢様に何かをする気だな!?」

「理由がないよ。そもそも俺が自発的にこの屋敷に潜り込んだわけじゃないよ。支配人だって知ってて雇ったんだから」

「……チッ。そうだったな」

うわ、残念そうな顔。露骨に追い出そうしすぎだろ。

まあ、ブラインの塔は除外として、だ。

「昨日の夜見てきたけど、栄光街ってのは大きな屋敷が並んでる辺り?」

「そうだ」

ダイナウッドの話をまとめると、だ。

栄光街っていうのは、昨夜見た富裕区のことらしい。

そして、その栄光街で幅を利かせているのが、代々金持ちで権力もあるベッケンバーグという男なんだそうだ。

ベッケンバーグは財力に物を言わせて方々に根を張り、いろんなところに仲間を置いて、この無法の国の情報を仕入れている。

規模としてはこの国で一番大きな組織だろう、とのことだ。

次に、鍛冶場街を支配するオーリーズ商会のタツナミ。

昨日見かけた鍛冶場辺りの支配者だ。

そもそもオーリーズ商会とは、この国でも一番古くからある大店だそうで、鍛冶屋や職人をすべてまとめ上げているとか。

で、現頭取がタツナミって人なんだそうだ。

犯罪者集団のリーダー・ゼット。

これははっきり言って、力も弱く立場もなく後ろ盾も持たない子供たちが、生きるために集まった集団らしい。

全容はよくわからないが、ゼットという少年が現リーダーで、滅法強くて誰も捕まえることができないとか。

……子供たちの犯罪者集団、か。

昨日見てしまったアレが思い起こされる。

貧民街で、子供が外で寝てたもんなぁ……ああいうのを見ると、子供が身を守るためにそういう連中も必要なのかなって思うなぁ。

……まあ、それは今の俺がどうこうできる問題じゃないので、置いておくが。

ただ、気になることはある。

――たとえば、俺と同じように、誰かがどこかの支配者の下にいる可能性とか。

俺にはソリチカに出された課題がある。

一番難問かつ不条理な、三つ目の「一番最後にブラインの塔に来ること」がある。

まず、これをやり遂げるには、サッシュ、セリエ、フロランタン、リッセの居場所を割り出しておかねばならない。

彼らがブラインの塔に到着したことを確認しないと、「一番最後に来ること」が達成できないからだ。

次に、果たして全員がブラインの塔を見つけることができるのか、というやや根本的な問題。

みんな強いから大丈夫だとは思うが……

でも、世の中強いだけじゃどうしようもないこともある。

昨日のヘンタイみたいなのもいるんだ。

ああいう感じで濡れ衣を着せられて拘束されて……というケースもあるかもしれない。

もしかしたら、なんらかの手助けが必要な状況に陥ったりするかもしれない。

「ブラインの塔を探す」という大本の課題は、力押しだけでなんとかなるものではないと思うから。

だから、やはり、全員の居場所くらいは割り出しておきたい。

割り出しておかないと、それこそ二つ目の課題「仲間と合流しない」が達成できなくなるし。

俺が彼らを避けるために、俺が彼らの居場所を知るのだ。

どこかで偶然ばったり出会ってしまう、という事故も、なくはないのだから。

――しかしまあ、今夜の外食で、一人は判明するのだが。

――偶然ばったり出会ってしまうわけだが。