軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

126.メガネ君、ドラゴンに運ばれるついでに素養を登録する

「クラーヴ。そういう個人的なことは後にしろ」

俺の頭を掴んだまま、「レンズ」の曇っている「ゴーグル」を上げて仔細に観察していた竜人族の男は、“ 霧馬(ホース) ”に言われて我に返った。

瞳孔が縦になっている青い瞳に、短く刈った白に近い金髪。見た目は二十半ばくらいだと思うが、見た目より上にも下にも思える。

サッシュと体格が似ているので、中肉中背である。

あと、「素養」は「耐風」。

風に強くなる、という類のものだったと思う。いまいち効果がわかりづらいが、登録はしておいた。

「そうだな。いきなり悪かったな、小僧」

いや全然。

彼が見ていたように、俺も「ゴーグル」を見ていたから。

素材はわからないが、分厚いレンズに、蔓に何らかの獣皮を貼り付けた加工。

眼球周りを密閉して、砂埃などから保護する作りになっている。

激しく動いても絶対にズレないよう、メガネとは違って耳ではなく皮のバンドで後頭部で固定しているようだ。

ああ、激しく動いているで思い出したが、「俺のメガネ」もその辺は結構しっかりしているらしい。

恐らくは物理的な物でなく、魔法的な要素で固定されているようだ。

だから激しく動いてもほとんどズレないし、不意の接触で外れて飛ぶといったこともない。

これはいつだったか、村にいた時にセリエから聞いて気づいたことだ。

「前のメガネと違って、大きく動いても外れないしズレない」と。

思い返せば、彼女が馬車の事故に遭った時も、「メガネ」は装着されていた。

装着した本人は、馬車の下敷きになるほど激しく身体が上下したと思われるのに。というか馬車から投げ出されたのに。

更に思い返せば、「メガネ」に慣れてなかった頃、俺も矢を撃つ時に何度か弦が「メガネ」に当たったことがある。

普通のメガネを知らなかったのでなんとも思わなかったが、普通に考えて、「耳に乗せているだけの物」なら何かが当たれば飛んだりズレたり普通にする。普通に。

あとリッセに殴られた時とか。

普通に考えて、ちょっとメガネに手が当たるだけで、普通は飛んだりズレたりしてもおかしくなかったはずだ。なのにちゃんと顔に残っていた。

この辺は魔法的な効果があるのだろう、と推測している。セリエの「粘着」みたいなものが。

まあ、メガネ事情はさておき。

竜人族の男は俺から離れると、“ 霧馬(ホース) ”の隣に立ち、俺たちを見回す。

「俺の名前はクラーヴァエロシュテンス。クラーヴと呼んでくれ」

一度聞いただけでは覚えられない、聞き馴染みのない名前である。やはりここからはるか遠い地で生まれ育ったのだろう。

「ここ数年はナスティアラやベルギラート、カイロン辺りで運び屋をやっている。

表の依頼か裏の依頼かも俺には関係ない。払うものさえ払えば何でも運ぶ。

それで、今日はおまえらを運ぶために呼ばれたわけだ」

ああ、なるほど……

詳しくは聞く気もないが、法律スレスレか微妙にアウトな境界線で活動している、あまり真っ当ではない運び屋さんだ、と。

まあ、暗殺者からの依頼を受けて暗殺者候補生たちを運ぶ仕事を請け負ったのなら、まず真っ当ではないか。

「依頼を確認するぞ、“ 霧馬(ホース) ”。このガキどもを『あの場所』に運べばいいんだな?」

「そうだ。わかっていると思うが他言無用だぞ」

「もちろんだ。俺は仕事と こいつ(・・・) に誇りを持って飛んでいる。空からも一流の運び屋からも墜ちるつもりはないね」

こいつ(・・・) と言いながら、暗い色のドラゴンの翼をぺしぺし叩く。

……小型なんだろうけど、ドラゴンだなぁ。

遠くを飛んでいる姿は見たことあるけど、こんなに近くで見る機会が来るなんてなぁ。

うーん、ドラゴンもかっこいいな。カブトムシくらいかっこいい。

「料金は先払いだ。それと 荷物の不注意(・・・・・・) で紛失した場合、責任は負えない。俺は運ぶだけだからな。荷物の中身にも運ぶ理由にも関わる気はない」

「ああ、それでいい」

…………

うん、ちょっと嫌な予感がする言葉だね。「荷物の不注意」か。

「少し嫌な予感しません?」

セリエがこそこそと囁く。リッセが「私はかなりする」と答えた。

「おい! おい忌子! 俺たちドラゴンに乗れるみたいだぜ!」

「すごいのう! すごいのうチンピラ! チンピラぁ!」

言葉の意味に気づいているのかいないのか、サッシュとフロランタンは無邪気に盛り上がっている。楽しそうでいいですね。

…………

察するに、「ドラゴンで運ぶけど、 荷物(ガキども) が落ちても知らないよ」って意味でしょ?

となると、運び方が非常に気になるけど。

まさか露骨に落ちそうな運び方はしないよね?

「注意事項は以上だ。六人分の料金はもう貰っている」

ん? 六人?

俺、サッシュ、セリエ、フロランタン、リッセ、“ 霧馬(ホース) ”、ソリチカ。

ここには七人いるんだけど……あ、そうか。

「俺を除いた六人だ」

そうそう、“ 霧馬(ホース) ”はあの暗殺者の村の責任者って話だから。長く空けることはできないのだろう。

「よし、交渉成立だ。おいガキども、運ぶ準備をするから少し待ってな」

クラーヴが“ 霧馬(ホース) ”と話を付けるや否や、

「――おっちゃん! ドラゴン触っていいか!?」

楽しそうなサッシュとフロランタンが、すでに触りそうな勢いでドラゴンににじり寄っていた。うわー。ドラゴンすごい見てる。すごい警戒してる。近づき方が怪しいからだろうね。

「お兄さんと呼び直したらいいぜ。あとそいつが拒否したら運べないから気を付け……聞けよおい」

前半も後半も聞かず、「いいぜ」辺りしか耳に入らなかったのだろう二人は、待ちきれないとばかりにドラゴンに駆けた。

……警戒はしているけど、ドラゴンは大人しくしている。すごいな。人に慣れているって解釈でいいのかな。それとも「魔獣使い」のような契約で成り立っているのかな。

はしゃいでいるサッシュとフロランタンに釣られたのか、セリエとリッセも近づいていく。まあドラゴンに触れる機会なんて早々ないから、珍しいのだろう。

でも俺は別にいいや。

心に決めた猫がいるから。

…………

あ、そうだ。「別にいいや」じゃなかったな。俺も行こう。

特に危害を加えてこないと判断したのか、ドラゴンは目を伏せて頭を下げ、頭だの角だの鱗だのをベタベタ触られるままである。

慣れているのか忍耐力に優れているのかはわからないが、知能は高そうである。

――非常に好都合である。

俺は前にいるサッシュたちの後ろにいて、様子を見ている。

この分だとなんとかいけそうな気がする。

準備はできている。

あとはチャンスを待つだけだが……

「おい、誰か手伝ってくれ」

クラーヴが声を発した瞬間――今だ!!

全員の注意が逸れた。

俺は素早くドラゴンに歩み寄り、真正面から両手で頭を撫でた。

――あの夜。

寝ていることをいいことに、俺は猫でいろんな試行をした。

そして最後に辿り着いたのが、これの練習だった。

――「メガネ」発動。

――「レンズ」を読み取り。

――「メガネ」解除。

何度も何度も繰り返すことで、約1秒でこの三つの行程を完了することができるようになった。

いわゆる、ごく短時間で成立する「素養」の登録方法だ。

「相手にメガネを掛けさせる」ことで使用できる「強制情報開示」を、いかにして相手にバレずに使用するかを考えた結果。

まずは、とにかく短い時間で全行程を完結すること、という結論に達した。

特に魔物に使う場合は、襲い掛かってくる魔物の隙をついてやらねばならない。短ければ短いほど、登録する確率も身の安全さも格段に上がる。

最終的にはもっと短くしたいが、今はこれが限界。

撫でているように見せかけて、全員の死角をついて「強制情報開示」を仕掛け、

「お、なんだ。おまえも興味あったのかよ」

そして誰も見ていないごく短時間で登録を終える。

仕掛けられたドラゴンさえ気づいていない。

誰しもの目が一瞬逸れた間に、俺はすでに「ドラゴンの素養」の登録を済ませている。

ただし、登録ができるだけの話だ。

今ドラゴンから登録した「素養・暴風竜」がどんなものなのかは、鑑定しないとわからないのだが。

しかし「強制情報開示」から鑑定までこなすには、まだ四秒は必要だ。この場で誰にもバレずにこなすのは不可能である。

クラーヴだって、俺がドラゴンに何かしているのを見たら、見逃しはしないだろう。

つまり、現状は、よくわからない「素養」が増えただけのことである。

……試しに使用して、自爆しても、死なないよな? 大丈夫だよね?

全員の胴体を縄で縛り、それをドラゴンの足に括りつける。

これが命綱となる。

そして俺たちは、違う縄で端と端を結んだ、椅子代わりの長板に並んで座らされ、それから全体を布で覆われた。

「見えねーぞおっちゃん!」

「飛ぶとこ見せんかい!」

「お兄さんだ!」

ブーイングを食らって、布の向こうのクラーヴが怒鳴る。

「空は風が強いんだよ! こうして風除けをしないと、すぐに体温を奪われた上に下手すりゃ落ちるぞ! あと運ぶ場所を見せるなってのも仕事の条件に入ってるんだ!」

風除けと視界を防ぐため、そして安全対策らしい。

「元気でな。また会おう」

ここでお別れとなる“ 霧馬(ホース) ”からそんな声を掛けられ――すぐに浮遊感に襲われる。

「――さあ、快適な空の旅の始まりだ! 良い眺めだろ? おっと見えないか! ははは!」

「煽ってんじゃねーぞオヤジこらぁ!!」

「われがすごいんやのうてドラゴンがすごいんじゃろうが! うちはドラゴンにしか感謝せんぞ! この金の亡者が!」

「――ははは! 風の音で全然聞こえないね!! でも青髪と白髪は後で殴るわ!」

あ、たぶん聞こえてるなこれ。

こうして、俺たちはドラゴンに連れられ、次なる地へ向かうのだった。