軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

124.メガネ君、一時保留とする

「メガネを掛ける」。

これが基本的な思考で、あたりまえのように考えていた。

だから、それ以外を考えなかった。

「相手にメガネを掛けさせる」。

まさか 自分以外(・・・・) に装着させることで、なんらかの効果が発揮できるなんて考えもしなかった。

「俺の生み出したメガネ」は「他のメガネ」と繋がっている。

あるいは俺と繋がっているのかもしれないが。

しかしこうなってくると、やはり必要になってくる。

第三者の存在が。

俺の「メガネ」の試行に付き合ってくれる、誰かの存在が。

「メガネ」に関しては、誰にも話すつもりはない。

その気持ちは今も変わらない。

いやむしろ強固になったくらいだ。

だが、今回判明した特性は、突き詰めると一人では完全に解明できない領域に達すると思う。

どうしても、一人で試行錯誤するのは、限界が来る。

しかし誰かに全てを話すことは、やはり考えられない。

色々特殊だと理解しているゆえに、自分の身の安全のためにも話せない。本気で誰かに命や身柄を狙われる気がするから。

協力者を作るか、否か。

この判断は、今はできない。

少々事情を知っているロダやザント、ソリチカと言った人たちもいるが……

でも彼らは、知り過ぎた結果どう出るかがわからない人たちだ。国の意志でまた行動も変わってくるだろうし。

というか、「俺のメガネ」は、もう国が放っておくレベルではない気がするし。

「メガネ」に関して新しい事実が判明するのにあわせて、とてもじゃないが暴露できないものになっていっている気がするし。……というか気のせいじゃないと思うし。

……うーん……

いったん保留だな。

「相手にメガネを掛けさせる」方面の使い方は、人間に使うのは禁止にしておこう。

もしかしたらフロランタンやザントの「二つ目の素養」も、これでわかるかもしれないが。

でもバレずに使える保証がないし、リスクを冒す理由もない。

なので、しばらくは封印しておこう。

でも周囲の目がない時は、魔物には使える。

当分はそっちだけで、一人でできる範囲だけで調べることにする。

「魔物の素養」なんて聞いたこともなかったのだ。

これも、俺に必要な「素養」を登録できる、大いなる可能性だから。

――という結論を出したのが、走る旅が始まって二日目の夜であった。

今回は地獄の馬車の旅と違い、移動は二本の足で走るというものだが。

疲れはするが、しかし環境が劣悪というわけではない。

特に宿を借りて安心して眠れるのは、大きかった。

徒歩移動の理由は、街道を無視して森や林、川などを通過したからだ。

どこを目指しているかはまだ聞かされていないものの、最短ルートをまっすぐ進んでいるわけだ。

一日目の夜は、小さな村でベッドを借り。

二日目の晩を、中規模ほどの街で宿を取り、一泊した。

基本かなりの速度を維持して走りっぱなしなので、たとえベッドで休んでも完全に疲れが取れているわけではない。

が、セリエの回復魔法なども駆使して、それなりに余裕のある旅だった。

そして三日目の朝である。

「――今日は昼から出発する。午前中は自由行動とし、身体を休めるなり観光なり好きに過ごせ。ただし昼までに戻らない奴は置いていく。以上」

宿の食堂で朝食を取っていると、引率している“ 霧馬(ホース) ”がそんなことを言ったのだ。

走り続けで疲れている者、元気は有り余っているが観光したい者、ただ単に今は眠い者と、俺たちの反応はまちまちだが、誰も反対する者はいなかった。

「エイル、武器屋見に行こうぜ」

ここぞとばかりにサッシュが誘ってきた。

武器屋か。

見に行きたい好奇心はあるけど、それより何より矢を補充したい。

走る旅の最中でも、俺は獲物を狩り、食糧事情に貢献していた。その間になんだかんだ二本失っている。

「お? そろそろ訓練用を卒業するの?」

リッセの問いに、サッシュは「おう」と頷く。

「最後の最後で、師匠からマジモンの槍持っていいって許可が下りたからな。でもそのあと買う機会がなかったからよ」

そういえば、この旅にサッシュが持ってきた槍は、最初から使っている訓練用の刃がない槍である。

いや、率直に言えば、ただの槍状の鉄の棒である。

魔物を狩る時は、鍛冶場のおっさんからその都度借りていたらしいが、そもそもその槍もあまりいいものではなかったそうだ。

サッシュがおっさんに「くれ!」と言ったら、おっさんは「自分に合ったものを自分で買え。これはあくまでも間に合わせだ」と言われたそうだ。

間に合わせ、か。

そういえば、俺が貰った解体用ナイフも、そこまでいいものではなかったんだよな。

やはり武具の調達も、自給自足の生活の内に入っていたのだろう。

ちなみに 黒皇狼(オブシディアンウルフ) の牙は、まだ加工してないまま持っている。鍛冶場のおっさんに相談したけど、断られたんだよね。

「われ、金あるんか?」

フロランタンが現実的なことを言った。そういえばお金の問題があるな。村では全然使わなかったから忘れていたけど。

「魔核がいくつかある。いくらくらいになるかは知らねえけど、売ればいくらかにはなるだろ」

あ、そうか。それがあったか。

俺も村に戻ってから、主にフロランタンにせがまれて空蜥蜴を四匹ほど狩り、その魔核を所持している。

つまり俺も、お金はないが金目の物はあるわけだ。

「私もそろそろ剣のストックはしときたいな……エイルは? 行くの?」

リッセも行きたいのか。ならば好都合だな。

サッシュと二人きりだと、この街の不良やらチンピラやらとケンカとか揉め事とかになって面倒なことになりそうな予感がしていた。

だけど、リッセが一緒ならまだ安心だ。

何やら揉めたらこの二人に任せて、俺は逃げればいい。

サッシュ一人だとちょっと心配だけど、リッセがいれば大丈夫だろうから。

「じゃあ俺も行こうかな」

何か掘り出し物があるかもしれないし。どうせ一人なら部屋にこもってのんびりするだけだし。矢の補充もしたいし。せっかくだから同行しよう。

「おう、おまえらは?」

と、サッシュはフロランタンとセリエに目を向ける。

「うちはええわ。日課をやっときたい」

日課。

その言葉に、全員が一瞬ピタリと止まる。

フロランタンの言う「日課」とは、「素養」のコントロールを兼ねた木彫り――可愛い邪神像シリーズの制作である。

そう、シリーズの制作である。

もう手遅れだったのだ。

村に帰ったら増殖していたのだ。

通りすがりにチラッと見えた彼女の部屋を見て、悲鳴を上げそうになったよ。

あの光景が忘れられない。

狭い部屋に、何十体も並ぶ、この世のものとは思えないほど邪悪なフォルムを持つ邪神像たち。

あんなの自覚ある邪教の信者だって震えあがるだろう。

しかして一体たりとも同じデザインがないという念の入れっぷりだ。

きっと十人中九人が「作者病んでるだろ」と言い、残りの一人が「早く教会の関係者を呼んで来い! これは悪魔の所業だ!」と叫ぶはずだ。

寮ごと燃やしてしまいたいと何度思ったことか。

俺たち訓練生は元より、引率の“ 霧馬(ホース) ”まで引いているのだ。アレがどれだけの問題行動なのかうかがい知れるというものだ。

……誰がやらせているのか知らないが、もういいかげんやめさせてほしい。一つ屋根の下に邪神を作っている奴がいるこっちの身にもなってほしい。

「先生……次の新作ですか……?」

そして、心底眠そうだった上に普段は虚ろな瞳でぼんやりしているソリチカが、この話には瞳を輝かせてよく食いつく。

どうもやはり彼女には、あの邪神像が魅力的に見えてしまうようだ。

周囲と自分たちの温度差を感じてほしい。

伝わりませんか師匠?

こっちとそっちを隔てる壁の存在を。

「あ、あー! フロちゃん、なんか甘い物食べに行かない!? きっと探せば何かあるよ!」

ナイスだセリエ。

彼女は前に出ないし目立たないが、俺たちの中では一番ちゃんと周囲に気を遣える稀有な存在である。彼女はもっと評価されていい。

「甘い物かぁ……ええのう」

やった。肉も好きだが砂糖などの甘味にも目がないフロランタンの興味が動いた。

「ほなら日課を手早く済ませるけぇ待っとれ」

…………

誰が、どの師匠がやらせているのかわからないけど、本当にやめさせてください。