軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

103.メガネ君、二頭目を発見して再び怒られる

最初に確かめておきたいことがある。

「問題は、どこで一頭目と二頭目が入れ替わったかです」

騎士のおっさんたちは、二頭目が目当ての 黒皇狼(オブシディアンウルフ) だった。

彼らにとっては一頭目が目当ての奴だと思うけど、今は二頭目がそうだということで進めよう。

一頭目はさっき狩った獲物で、二頭目が彼らが追ってきた黒皇狼だ。

「追跡する最中で入れ替わったんでしょうか?」

だとしたら、この山付近にはいない可能性も充分考えられる。

なんなら、今はもう、ここナスティアラ王国領内にさえいないかもしれない。まったく見当違いの土地に行ってしまっていることもありえるだろう。

「ない。と、思うが……結果だけ見ればそうだったのかもしれん」

追ってきた側から見たら、入れ替わったタイミングはわからなかったのか。

というか、一頭目と出会うまで、一頭目が自分たちの追ってきた獲物だと確信を持っていたみたいだ。

「私は何も気づかなかった。黒皇狼の血の痕跡も見つからなくなった辺りからは、目撃情報だけを頼りにここまでやってきた。

目撃情報を信じるのであれば、どこかで入れ替わったなどとは考えられない。

人間が入れ替わりをして追手を翻弄したならともかく、よりによって黒皇狼がやったとは思えん。さすがにそこまではできんだろう」

まあ、そうだね。

黒皇狼は頭はいいけど、それはあくまでも獣としては、が付く。人間ほどに知恵を巡らせるとは考えづらい。

「アロロ、何か意見はあるか? なんでもいい、気になることはないか?」

周囲に人が来ないよう警戒する日焼けの女性は、おっさんに問われて閉じていた口を開いた。

「私もルハインツ殿と同じ意見です。目撃情報からして、どこかで入れ替わったとは思えません。私たちが追ってきたルート上もしくは近くにもう一頭いた、という可能性さえ見当たらなかった。

……というより、私にはいまだに信じられない。

なぜここにいる黒皇狼は、私たちが追ってきたそれではないのか。いったいどんな偶然が起こってこんなことになってしまったのか。

……偶然と考えるべきなのか、それとも何か明確な理由があるのか。この結果はあまりにも奇怪です」

うーん……偶然かそうじゃないか、か。

確かにわかる気がする。

偶然入れ替わった、と考えるよりは、明確な理由があって入れ替わった、と考えた方が自然な気はする。

何せ、一頭でもなかなかお目に掛かれない魔物である。

それが同時期に二頭、偶然近くにいた。

……そう考えるよりは、逆に、同時期に二頭近くに来る理由があったと考えた方が、しっくり来るかな。

この入れ替わりは偶然じゃない。

だとしたら、なんなんだろう。

「――お困りかしら」

あ、色白が来た。……うわっナチュラルに腰抱かれそうになった。避けたけど。日焼けが舌打ちして色白を睨んでるけど。二人で俺を挟んで何かしないでください。

「どうしたセリアラ? 何かあったか?」

「皆がルハインツ殿の撤収命令を待っています。見張りの任に着き、もう何日も街に帰っていない者たちもいます。討伐が済んだのなら早く帰りたいと言っています」

……? あれ?

「そうか。解体は……まだ済んでいないか」

だいぶ進んではいるようだが、胴体と頭はまだそのまま残っている。あ、あれが黒皇狼の魔核か。大きいな……俺の頭くらいあるな。あれは相当高値で売れるんだろうなぁ。

「では、それぞれ運ぶ分を持ったら帰還していいと伝えてくれ」

「わかりました。伝えてきます」

あ、ちょっと待った。

「もう何日も帰ってない人がいるの?」

「え? ええ、黒皇狼の動向を探るのと、ここ一帯に住んでいる魔物を外へ漏らさないよう見張りに立っている冒険者がいるようです」

…………

「正確には、何日前かわかる?」

「三日前だと言っていました。帰ったらまとまったお金ができるので、飲みに行こうと誘われましたよ?」

あ、それはお好きにどうぞ。俺に言わなくてもいいんですよ。意味ありげにウフフと笑う必要もないですよ。

「あなたもわたくしを誘ってもいいのですが?」

「チッ! チッチッチッチッチッ……チッ! チィィィッ!」

「……だそうなので、遠慮しますね」

真後ろからすごい舌打ちが聞こえるから。こんなに連発する人もいるんだね。

初めて会った時は仲良さそうだったのになぁ。

いまいち色白と日焼けの関係性がわからないなぁ。

「あら残念。――ただ、見張り自体は七日以上前から、それとなく始まっていたようですね」

「七日前の当時は黒皇狼の情報は伏せられていましたが」と補足も入る。そうなんだ。七日前からかぁ。結構前から始まってたんだ。

「黒皇狼の追跡の間隔はどうなっていたんですか? 時間軸的にはどのくらい遅れて、獲物を追いかけていたんでしょう?」

「入国の際に少しもたついた。恐らく二日か三日くらいだと思うが」

……ふうん。

伝言を持って行った色白を見送り、順番立てて考えてみる。

七日前から黒皇狼の見張りは始まっていた。

二日か三日くらい開けて、騎士たちが追跡を再開し、目撃情報を追って昨日ハイディーガに到着。

同じく目撃情報から、どこかで一頭目と二頭目が入れ替わった時はなかった。

…………

ん? ちょっとおかしいところがあるな。

「時間軸で言うと、黒皇狼は七日前にはこの山にいた。でもあなた方の目撃情報から考えると、追っていた黒皇狼は二日か三日前に山に入ったことになる」

「…! もしや一頭目は最初から山にいたのか!?」

うん、まあ、その可能性は高いと思う。

冒険者たちが七日前から見張っていたなら、少なくとも「出ていった」とは思えない。

ここらの魔物も黒皇狼から逃げるようにして山から散っていっていたらしいし。

「しかし、同じように見張りが立っていたはずだ。その監視の目を盗んで、二頭目は山に入ったということか?」

おかしくはないと思う。

「手負いでしょ? それも足一本を失うほどの大怪我。その状態じゃ、さすがの黒皇狼も人間を避けると思う。人間にやられたなら尚更人間には近づきたくはない。同じ目に遭わされるから。少なくとも傷が癒えるまでは関わらない。

そう考えて、人間を避けて、見張りにバレないようこっそり山に侵入したって考えられないかな」

そして、そうだとすれば、「偶然」が「必然」と考えらえるようになる。

「手負いの黒皇狼は、助けを求めて、仲間である黒皇狼がいる場所にあえてやってきた。これで二頭が同時にいる、という理由になると思うんだけど」

穴はあるだろう。

状況証拠を無理やりまとめている、という自覚もある。

でも、わかっていることを組み立ててれば、この可能性もないことはないと思う。

そもそも目撃情報に誤りがあれば、ここにある情報では何一つ、どんな推測さえ成立もしないのだから。

ただ、はっきりわかっていることがある。

もう一頭の黒皇狼が忽然と消えた、という事実。

そして、もし山に入ったのなら、山から出た可能性は低いということ。

冒険者の見張りもあるしね。

彼らは山の中へ入る魔物より、外へ出る魔物の警戒をしていたはずだから。出ていったなら見つけている可能性は高いと思うし。

だから、もしかしたら――

「……ちょっと痕跡を探してみますね」

なんとなく方針が見えたので、ここからは少し足を使うことにする。

日焼けの女性も付いてきたが、それには構わず、黒皇狼の足跡を辿ってみる。

たぶんこの辺はもう、黒皇狼の寝床に近い場所のはず。

手負いの黒皇狼が仲間に助けを求めたなら、そいつがいる場所は、同じ寝床だと思う。

黒皇狼の生態はよくわかっていないが、狼の生態は、群れを成して生きている。

似ているだけで別種の存在だが、そこまで習性が違うという話も聞かない。子供の黒皇狼は親と一緒に過ごす、という情報もあるにはあるし。まあ、定かではないらしいが。

だから、手負いの仲間を爪はじきにするとは思えない。

俺の「体熱視」では、やはり黒皇狼らしき赤い光は見えない。

だが、それでも手負いの黒皇狼がこの山から出ていないとすれば。

――「メガネ」に「青の地図」をセットする。

「青の地図」は、自分の周囲にある特定の何かを探す「素養」だ。探すものは自分で指定できる。

例のボイン事件もあるので、きっともっと細かな制約だのなんだのもあると思うが、今は書物で読んだ通りの使い方だけしてみよう。

探すものは――魔核。さっき見た黒皇狼の魔核だ。

――見えた。

青い光が、地面を抜けて下の方に見える。

「体熱視」では「視え」ないが、しかしまだ山にいる。

この矛盾に対する俺の答えは。

もしかしたら――もう手負いの黒皇狼は死んでいる、という結論だ。

足一本を失っているのだ。

出血多量に加え、怪我をしたまま休憩も満足に取れず追われていれば衰弱もする。

気力を振り絞ってここまで来たけど、助からなかった。

ありえない話じゃない。

ロープを結んで崖を降り、上から見たのではわからない森の中に埋もれている洞穴を発見した。

「血の臭いが……」

一緒に降りてきた日焼けの女性が、洞穴の奥から漂う濃い血の臭いに気づいたようだ。奥底までは見通せないが、なんらかの亡骸があることは確かだろう。

「たぶん中にいる」

「中に……黒皇狼が?」

「うん」

「体熱視」では「視え」ないが、「魔核」としては見える。

たぶんここで力尽きたのだ。

「……行ってくる。少年はここにいて」

返事も聞かず、日焼けは行ってしまった。

そしてすぐに戻ってきた。

彼女の手には、血に濡れた俺の頭ほどもある魔核があった。

「いたよ。私たちが追ってきた奴だった」

そっか。よかった。長々考えてはずれていたら恥ずかしいからね。

「よくわかったね。全部当たっていた」

「違ったらお手上げだったけどね。これ以上はどうしようもなかったよ」

むしろ、追いかけてきた騎士たちが確信を持って「この山にいる」と信じていたからこそ、それを元に考えられたのだ。

そこが間違っていたら、考える余地さえなかったと思う。

目撃情報を追ってきたと言っていたけど、急いでいたわりには、確実かつ丁寧に情報を拾ってきた、ということだ。

腕っぷしが強いだけじゃなくて、かなり優秀な人たちだと思う。

「――ところで少年」

日焼けは、持っていた魔核を革袋に収めた。

討伐の証に魔核だけは持っていくそうだ。

そして、魔核を抜いたもう一頭の黒皇狼は、全部ハイディーガに引き渡すそうだ。元々そうしようと決めていたらしい。

「はい? あ、もう戻る? 戻ろうか」

「いや……おほん。まだ言っていなかったので、今言おうと思う。

――ありがとう。助けてくれて。君は命の恩人だ」

あ、はい。

「あの時、全員がそうしていたように、俺もやれることをやっただけなので。気にしないで。……というか本当に気にしないでください」

あの件については、あんまり思い出したくない。怒られたし。失敗したし。

「じゃあ戻りましょうか」

よく知らない人といるのは居心地が悪い。

しかも相手は毒とか棘とか持っていそうな綺麗な女性である。あんまりお近づきにはなりたくない。

「え、ちょ、まだ早くないかな……? ちょっとその辺を少し散歩とか……」

「はは、面白い冗談だなぁ。じゃあ戻りましょう」

いくら魔物が減っているとは言え、危険な場所には違いないのだ。こんなところを散歩感覚で歩けるとか、やっぱり騎士はすごい。でも俺は無理。

しかも、もう一頭も見つけた以上、こっちも回収しなければいけない。早く戻って報告して回収して撤収だ。うん、それがいい。

「あ、あの! あ、改めてお礼もしたいし! 街に戻ったら会えないかな!?」

「すみません。俺すぐにハイディーガから去る予定なんで、ちょっと先の予定はわからないんです。だから約束はできないかな」

まだロダから指示はないが、暗殺者の村に戻りたい旨は話してある。

実際、本当にどうなるかはわからないので、約束はできない。

まあでも、何があろうと「黒鳥」への挨拶だけは外せないけど。

あの姉がお世話になっている人たちだから、決しておざなりにはできない。決してだ。

「じゃ、じゃあ今晩! 食事を!」

「今日は身内と 鉄兜(アイアンヘッド) の舌を食べる予定なので、ちょっと空いてないですね」

「――なんだ少年は! いつなら空いてるんだよ!」

え、えぇ……確かに断りまくったけど、怒られるのは違うと思うんだけど……

「しかも全部即答!! せめて迷ったり悩んでしてから断りなさい! 全部即答!! ぜんっぶ即答!! その上言い訳もスラスラと!! 淀みなく!!」

えぇ……そんなこと言われても……