軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第160話 水辺、空間

「水辺の妖怪は鉄板だからなぁ」

河童やら海坊主やら、パッと思いつくだけでもかなりの数だ。

それだけ昔は水難事故が多かったということだろう。

腐敗して肌が変色し、髪も抜け落ちてしまった水死体が河童の伝承を生んだ、なんて説もあるし。

その辺の事情は、きっと別世界も同じなのだ。

(さっきのモンスターには、どんな 謂(いわ) れがあるのかな)

あの憤怒に歪んだ顔や、黒目がひしめき合った眼球から考えて、きっと愉快な逸話ではあるまい。

お菊さんみたいな辛い話が元になっていそうだ。

(そういやお菊さんも水辺関係か)

なにせ井戸だ。

一枚、二枚、三枚……。

そう考えると、ぶん殴ってしまったことが申し訳なくなる。

それから俺は異形の神を思い出した。

ただでさえ八つの目を持つのに、切り傷を負うたびに目玉が増えていく。

それだけで関連性を見出すのは無理があるけれど、別世界では目がとても象徴的なものと考えられているのかもしれない。

そんなことを考えた。

滝壺の水面は当然、激しく波立っている。

底を見通すことができず、ただただ闇が広がっているように見えた。

試しに水面に顔を突っ込んで、ようやくそこが地下駐車場だと知る。

しかも並の広さじゃない。

ところどころ床が抜けていて、少なくとも地下三階まであるのがわかる。

その地下三階のフロアを、すっと何かが横切った。

大きさからして、さっきゲンコツを食らわせたのとは別のモンスターだ。

俺はぷはっと水面から顔を出した。

「なんかいた! なんかいた! あはは!」

”お前……”

”よくあんなバケモノがいた滝壺に顔を突っ込めるな……”

ペロリと口の周りを舐める。

「うん。変な味も臭いもしないし、問題なく飲めそう」

水筒を取り出して水を汲んだ。

「それにしても、地下にもあんな巨大な空間が広がってるなんて。ちょっと潜ってみたいけど……でもなぁ、さすがに危ないか。さっきはゲンコツで追い払えたけど、水中だとそうはいかないだろうし。ワニとか想像するとわかりやすくて、地上で襲われるのと水中で襲われるのとでは危険度が桁違いでしょ? ああいう水中のモンスターも同じで、強さも生態もわからないのに、相手のテリトリーに踏み込むのはなぁ。常識的に考えて、ね」

”お前が常識を語るな”

”まず「潜る」って選択肢がある時点でバグり散らかしてる”

「ま、いつか機会があればでいいか。今すぐじゃなきゃいけないわけじゃないし」

立ち上がり、滝壺を後にした。

”まだ潜るの諦めてなくて怖”

”何がこいつをそこまで駆り立てるんや……”

”その辺の冒険者より冒険してる”

それからも俺はショッピングモールを探索した。

でもやはり、一向に何も見つからない。

本当にただの廃墟を探検しているような気持ちになってくる。

気配はするのに、ガイアたちとも全く出くわさないし。

「あれ? ここ、さっきも通ったような……勘違いかな?」

”勘違いじゃないで”

”めっちゃ非効率な探索してる”

”ぐるぐるぐるぐる、同じとこを何度も……”

”マッピングとか知らんのかな、ジローって”

”考えてみたらジローがアイテム求めて探索してるの初めて見るかも”

”確かに。これまではずっと風の吹くまま気の向くままって感じやったしな”

”ソロキャンプばっかしてて効率のいい探索の仕方を学んでないんだからしゃーない”

”それでこれまでやってこれたのがおかしい”

一階から順番に探索して、かなり上にまでくる。

ちゃんと数えていなかったけれど、多分十階は越えているはずだ。

この高さで上の階層と繋がっていないということは、別世界のダンジョンも、こちらの世界のダンジョンと同様に空間が歪んでいるようだ。

このショッピングモールが複数の階層に跨って存在している可能性もあるけれど、

(でもまあ、地下にあれだけの空間があることを考えたらね)

どちらにしても空間が歪んでいるのは間違いないだろう。