軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第157話 奪還

出口を見つけることに比べたら、あの吹き抜けの広いエリアに戻るのはとても簡単だった。

ただただ気配が強い方向に進めばいい。

その道中で、何度も野良ガイアたちと遭遇した。

当然、俺に気づくなり臨戦体勢になり——

けれど攻撃を仕掛けてくることはなかった。

むしろ気圧されたように後退る。

俺はそんなガイアたちの横を素通りした。

襲ってこないのであれば、わざわざ切り伏せる必要もない。

彼らに恨みはないのだ。

脇腹に痛烈な一撃をくれたボスガイアに対してもそうだ。

相手の縄張りに踏み込んだのはこちらなのだから。

排除しようとするのは当然のこと。

かといって、じゃあ俺が悪いのかというと、そういうわけでもないのだけど。

土地の占有権だとか不法侵入だとかは、人間が定めたルールに過ぎない。

もちろん法律や秩序を蔑ろにするつもりはないけれど、ダンジョンでは通用しないのもまた事実。

縄張りを作る自由と同じくらい、縄張りを侵す自由がそれぞれにあるのだ。

そこに善も悪もない。

そんなことを考えているうちに、あの吹き抜けのエリアに辿り着く。

階下を見下ろして、自分が五階にいることを知る。

野良ガイアたちは俺の捜索に駆り出されているようで、数が半分くらいに減っていた。

残った半数は、相変わらず直立不動の姿勢をとっている。

逆にボスガイアの数は増えていた。

捜索は全部、野良ガイア任せのようだ。

まあその巨体のせいで、捜索に向いていないというのもあるのだろうけど。

あれだけ体が大きいと、通れる通路が限られてくる。

野良ガイアたちに比べてボスガイアたちの到着が遅れた理由も、きっとそこにあるのだろう。

俺は吹き抜けのエリアに辿り着いても、一切に足を止めなかった。

当たり前のように宙に身を投げ出し、回廊から飛び降りる。

呑気に自由落下して、ボスガイアが待つ一階に着地する。

俺はキョロキョロと辺りを見回した。

瓦礫の隙間に、見慣れた球体の姿を認める。

ドローンだ。

よかった、破壊されていなかったようだ。

”うぉおおおおお!!! ジロォオオオオ!!!”

”生きとったんかワレェ!!!”

”生存確認できたのはよかったけど……”

”なんで戻ってきたんや!?”

ほっと胸を撫で下ろした時だった。

ボスガイアが瞬時に距離を詰めてくる。

振り下ろされるバールのようなもの——

それごとボスガイアを両断した。

腰から上が、ごとりと地面に落ち、粘性を帯びた血が溢れ出す。

一体目と同様、酷い臭いが辺りに漂う。

”えぇええええっ!?”

”一撃っ!?”

”ぶっ飛ばされた先で修行でもしてきたんか”

”一回死にかけたから強くなったんちゃう?”

”サイヤ人かな”

”いや強くなったというより、あの武器じゃない? 元々持ってたのは、ぶっ飛ばされたときに砕けてたし”

”そういや武器を手に入れるのが目的とか言ってたな”

”さすが特殊ダンジョン。武器の性能が段違いすぎる”

”あの剣がやばいというより、元々持ってた武器が弱かった可能性あるけどな。動きでは圧倒してたのに、なかなかダメージを与えられずに苦戦してたって感じだったし”

”これまでが原付で首都高走るくらいの無茶をしてたんかもな”

”逆にそれでよくあそこまでやりあえてたな……”

こうなることはわかっていた。

この剣を手にした時から。

だからさっさと逃げてしまいたかったのだ。

切り伏せた爽快感なんて微塵もなかった。

善悪はなくとも、罪悪感はどうしたって生まれてしまう。

「…………」

俺は神経を研ぎ澄ませ、相手の出方を伺った。

ボスガイアは他にもたくさんいるのだ。

このまま連戦になるのか、次こそ数に物を言わせて襲ってくるのか。

ドローンを確保して逃げ出すことも考えたけれど、相手に背を向けることに抵抗があった。

一度痛い目を見ているのだ。

これから何が起ころうと——それこそ裏ボスガイアなんてものが現れようと、慌てず対処できるように気を張り詰める。

睨み合うような時間が続いた。

十秒ほどして、一体のボスガイアが動いた。

一歩——後ろに下がったのだ。

そのままくるりと背を向けると、回廊から立ち去ってしまった。

それが何かの合図にでもなったみたいに、一体、また一体とボスガイアたちが姿を消す。

「……え?」

何が起ころうと、なんて考えていたくせに、予想だにしていなかった事態に間抜けな声が漏れる。

ボスガイアたちが全員いなくなり、後には俺と野良ガイアたちだけが取り残された。

「…………」

「…………」

相変わらず直立不動で、なんとなく気まずい空気が漂う。

横目だけでお互いの様子を確認し合うような間があって——くるりと踵を返すと、我先にと通路に駆け込んで行った。

それこそ慌てて逃げ出すみたいに。

「……ボスガイアを二体倒したら儀式が終了、みたいな?」

”絶対に違う”

”モンスターがあんなあからさまに逃げることなんてあるんか……”

”いつも通りっちゃいつも通りだけど……”

”ジローはこうでなくっちゃ”

ドローンが瓦礫の隙間から飛び出してきた。

「ピピッ、ピピピッ」

電子音を発しながら俺の周りを飛び回る。

何か不具合でも起きたように思えるけれど——長い付き合いだ。

喜びを表現しているのだと俺にはわかる。

”うわぁああああ、エゲツない画面の揺れ……”

”酔う酔う酔う!”

”落ち着いてドローンちゃん! 気持ちはわかるけど!”

「あはは。なんだよ、大袈裟だなぁ。置いてかないって約束したじゃんか」

「…………」

ドローンがゆっくりと近づいてきて、俺の目の前にまでやってくる。

どうしたんだろうと手を伸ばすと、頬擦りするみたいにスリスリと体を擦り付けてきた。

アルゴリズムに則った挙動だってわかっているけれど……。

(……可愛いな)

心からそう思った。