軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

391.暗部の侍女に世話を頼んだ

「――あのさ。やっぱりこういう関係じゃないと思うの」

「――まあまあ。いいじゃない。自分でやったことなんて数えるほどしかないのよ」

リノキスがいないと、身の回りのことが疎かになってしまう。

そもそも私が最低限しか気にしないからだが。

いつも流している長い髪は結べばいいし、服だって丈夫な一張羅があれば多少汚れても平気だし。

気を付けたいのは、毎日入りたい風呂くらいである。それ以外は割とどうでもいいのだ。

まったく。

ハーバルヘイムの暗部の女が、侍女仕事も習得済みで助かった。

「報酬くらい出すから、しばらく面倒見てよ。キトン」

「今現在所持金なしでしょ。普通現金も持たないで他国へ向かう直通便に乗る? しかも少ない荷物も着替えくらいしか入ってないし」

「お金か。あまり持ったことないのよね」

「チッ、これだから貴族の娘はっ……!」

舌打ちしながらも、キトンは背後で私の髪を優しく梳いている。

今日も一日が終わり、消灯時間間近である。

ウーハイトンからハーバルヘイム行きの直通便に乗って、数日が過ぎた。

飛行船は途中途中で補給をしつつ、目的地へと向かっている。

私の屋敷を襲ったハーバルヘイムの暗部五人と一緒の船旅である。

男たちは家族用の大部屋、私と暗部で唯一の女性キトンは一緒に個室である。セミダブルの狭いベッドで二人で寝ている。

旅の間、彼女は私の身の回りの面倒を見てくれている。

というか私が頼んだのだが。

ウーハイトンに来た暗部の代表は、ダリルという男だ。

五人の内で一番の古株で、また実力が抜きんでているのだとか。

私の首を絞めた大男は、サエド。

暗部のくせに仲間を見捨てない、暗部に向いていない男だ。でもこういう奴がいるだけで、意外と暗部の仲間意識をギリギリで繋いでいたりもするのだ。いるのといないのとでは組織は大違いなんだよな。

五人の内、唯一の女性であるキトン。

情報収集から後方支援を専門とする裏方で、侍女仕事の習得も潜入用である。暗器使いだ。

あと、まだ若いバックスと、暗部に所属したてのヤクト。

ダリル含め私が寒波責めした二人で、この船旅では普通に避けられている。どうやら嫌われてしまったようだ。まあそりゃ好かれはしないか。

「……ねえ、本当に王宮に攻め込むの?」

お互い薄手の寝間着に着替えており、そろそろ寝るところだ。

キトンは私の髪を梳きながら、もう何度も繰り返された質問をもう一度する。

「もしかしてやめてほしい?」

「どっちでもいいわよ。ただ……いえ」

「何? 言いたいことは言えば?」

「……あんた死ぬわよ。きっと殺され――なんで笑うのよ!」

はっはっはっ。

うんうん、思わず笑ってしまったけど。

死ぬかもしれない、だとさ。

「護国獣だっけ? ハーバルヘイムの王族は神獣を呼べるのよね?」

暗部たちにそこそこ脅されるように聞いたが、ハーバルヘイムの王族は神獣を呼べるのだそうだ。

アンテナ島でアルコット王子の使用した「 神獣召喚(バルヘルム) 」は、本来は国を護る強力な神獣を呼び出す召喚魔法なのだとか。

古来より王侯貴族に引き継がれてきた神獣を含めた召喚獣の存在が、魔力が強いことを貴ぶ彼の国の風潮を作り上げてきたのだ。

魔力が強ければ、強力な魔法も使えるし、何より強力な召喚獣と契約できるから。

わかりやすい理屈である。

それにしても、神獣か……

あまり戦った記憶がないんだよな。

楽しみだ。楽しみで仕方ない。 戦闘(そっち) は行く理由のついででしかないが、メインになりそうなくらい楽しみだ。

――まさか大地を裂く者ヴィケランダなど呼ばないだろうな? 今の私では奴には勝てんぞ。それもまた一興だがな。クックックッ……

「だからなんで笑ってるの? ヤバイって話をしてるのに。……変わった子ね」

――まあ、それはそれとしてだ。

「そっちの方針は決まったの?」

「まだかな……ダリルはまだ決断できないみたい」

そう。

「まあ、悔いがない決断をしてね」

予定では、明日ハーバルヘイムに到着することになっている。

ハーバルヘイムのこれからを左右するであろう決断だ、悩むのも迷うのもわかるが――考える猶予はもうあまりない。

翌朝。

キトンが運んできた朝食を取って着替えると、ダリルとサエドが部屋を訪ねてきた。

「もう一度だけ話を聞かせてくれ」

おいおい。

「昼過ぎには到着するんでしょ? まだ迷ってるの?」

「そりゃ迷うだろ……」

大きな溜息を吐いたのは、ドアを背に腕を組んでいるサエドである。

「ハーバルヘイムの王族を全員殺すかもしれないんだろ? で、彼らを助ける選択肢を俺たちが握っているんだろ? ……こんなの迷うだろ……」

――そんなに迷うこともないと思うけど。まあいい。

「じゃあもう一度言うわね」

と、私はウーハイトンで彼らに話したことを、もう一度伝えることにした。

「私はハーバルヘイムの王城へ向かう。

すると、王様の命令如何では、城の人間の多くが私と敵対し、戦うことになるわ。まあそれは普通よね? 騎士なり兵士なり、乱入者である私を排除しようとするでしょう」

私としては、穏やかに話し合いで解決してもいいと思う。

が、国が子供一人と対等な交渉などするわけがない、というのはわかっている。

普通であれば、私のような子供が「国王に会いたい」と言っても会えるものではない。だから当然強行するとして。

きっと揉めるだろう。

国王はアルコット王子の犯行を認めないし、そもそも私と交渉する気なんてさらさらないだろう。

最初は(・・・) 。

こっちは意地でも交渉してやるつもりだが。

――そして、揉め方やこねる理屈によっては、その場でさっさと殺すつもりだ。

王族に要職にいる貴族たちを、場合によっては各領地をまとめている貴族たちも。

全員殺して、今回の不始末を清算する。

「あなたたちはそれを事前に知ることができた。

つまり、あなたたちだけは、王城にいる自分の大切な人や、 これからの(・・・・・) ハーバルヘイムに必要な人を無傷で助けることができる立場にある。

暗部の仲間を救うなり、助けたいと思う個人を助けたり、好きにしたらいいわ」

――というのが、私が彼らに提案したことである。

私はハーバルヘイムの内情を知らないので予想でしかないが、きっと跡取りの派閥やら虎視眈々と玉座を狙う高位貴族やら、完全な一枚岩とは言えなかったりするのだろう。

つまり、今回の私の行動を利用すれば、うまくやれば色々利益があるかもしれない。自分たちが応援する国王を据えることができるかもしれない。あるいは恩人や大切な人を助けられるかもしれない。

そんな選択肢を与えたのだ。

……まあ、確かに迷っても仕方ないのかな。王命に従う忠実な影なら、政治には関わらないだろうから。

「ちなみに私のお勧めは、お偉いさんたちに事前に話を通しておいて、状況に応じて逃げられるよう準備だけしておくことね。

だって普通信じないでしょ? 私が一人乗り込むとか、国王と直談判するつもりだとか。だから信じられるタイミングまで動かない、というのがいいと思うわ。

あ、でも、国王とアルコット王子に アレ(・・) を命じた者は逃がさないわよ。私の目的はその二人だから、空の果てまででも必ず追い詰めるから」

まあ、さすがに国王が逃げることはないとは思うが。

国のトップが子供一人を前に逃げるようでは、もう二度と玉座には座れまい。そんな王など誰も認めないだろうから。

「あと、 次の世代(・・・・) に必要な人材は、王城から遠ざけておいた方がいいわね。世代交代はかなり高い確率で起こると思うし」

死ぬにしろ死なないにしろ、今回の不祥事の責任を取らせる段で、きっと国王は引きずり降ろされるだろう。

果たして今現在のハーバルヘイム国王が御年いくつなのかは知らないが、次の王が育っていなければ、これからかなり大変だろうな。

案外マーベリアみたいに変わったばかりだったりして。

「……おまえの話はすべて信じられない、というか……いや、もはや信じたくないというのが率直な気持ちだ」

それなら信じなくてもいいと思うが。

いやまあ、もし本当だったらと考えたら、看過も放置もできないだろう。

だからこそ、暗部五人は私から目を離さないよう同行し、一緒に一時帰国することを選んだのだ。

アルコット王子の居場所はわかった。

だがその前に、私という障害が立ち塞がっている。

一旦国に帰って報告をしてもいい案件だと思う。

――ちなみにアルコット王子とミトは、ウーハイトンの皇帝ジンジに任せてきた。今頃は王宮で守られて過ごしているはずだ。

だからこそ、私もアルコット王子から離れて行動で来ているのだ。

「もう時間がないわよ。早く決めないと」

結局ダリルは主立った決断を下せないまま。

飛行船は無事、ハーバルヘイムへと到着したのだった。

「あっ!」

いざ目的地に到着し、目に見える大きなハーバルヘイム王城へ向けて歩いている最中――私はある物を見つけて思わず声を上げた。

「なんだ!?」

私を逃がさないよう……傍目には護衛のように囲んでいた暗部ダリルが声を上げ、全員が私を見た。

だがそんな彼らの様子も見えず、私はあれから視線が外せない。

――そうか。ハーバルヘイム貴王国か。だったらこれがあったか。

アルトワールから離れているので、あまり馴染みも文化もよくわからない地だが……さすがにこれは知っている。

「ダリル。サエド」

「な、なんだ」

「どっちでもいいから、百万クラム貸して」

「は……?」

「今日一日時間をあげる。城には明日の朝行くことにするわ。だから百万貸して。見張りはキトンがいればいいでしょ?」

と、そんなことを言いながら、私はかの古めかしい木造の、いかにも老舗という威厳ある建物を指さす。

「あれ、『 薔薇の聖棺(アークローズ) 』の本店でしょ? 紅茶好きとしてはどうしても見逃せないのよね」

私の行動によっては、ハーバルヘイムは荒れる。

もしかしたら、あの世界一の紅茶専門店さえ、潰れてしまうかもしれない。

ならば、今、まさに今、行くしかないではないか!

こうして、貴王国ハーバルヘイムでの活動が始まった。

正確には明日からだが。