作品タイトル不明
365.アルトワールアンテナ島開局セレモニー 04
今回の旧空賊列島の一部「赤島」改め、アルトワールアンテナ島と新しい名が付けられた上で、 魔法映像(マジックビジョン) 総括を勤める支部放送局の開局と、中継塔の起動という諸々を含めた開局セレモニーは、アルトワール側がホスト役となっている。
各国要人たちを呼んだのはアルトワールである。
それゆえ、やはり最低限はもてなす方に回る必要がある。
ぱらぱらとやってきた子供たちの相手をしている間に、アルトワールの四人は自然とばらばらになった。
ヒルデトーラは、アルトワール側で一番身分が高い者として、小さな子たちに声を掛けている。
困ったことはないか、楽しんでいるか、と。
できるかぎり大人を排したパーティーなので、十四歳というぎりぎり大人寸前という年齢上、やはりこういう役回りは年長が負うのが自然なのかもしれない。
同様に、ニールも小さな淑女たちに手を引かれて行ってしまった。
彼も十四歳でホスト側だ。ヒルデトーラと同じように、小さい子を気に掛けるよう立ち回るつもりである。
そんな中、レリアレッドは貴族の貴婦人らしく、さりげなく、優雅に、しかし貪欲に己が家の利益を求めて動き出した。
環境も文化もまるで違う外国には、アルトワールでは見られない文化、風習があるものだ。
当然、新しいデザインや衣服、アクセサリーなども含まれる。
ここまで多種多様な国々から人が集まる場など滅多にない。ここで商談はできないまでも、一人二人くらいは文通できそうな相手を仕留めるつもりである。同性でデザインや装飾品に興味があり気弱であれば言うことはない。そういう淑女を探すつもりだ。
そしてニアは――
「あまりサイズが大きいと大味になってしまいます。身が詰まってなくてスカスカみたいな。小さいのから中くらいのものが安定しておいしいですよ」
「へえ」
軽食とお菓子が用意してあるテーブルで、年若い見習い料理人とカニについて話していた。
昨日、カニを始めとした海の幸を仕入れた時に顔見知りになったのだ。彼もまだ未成年でアルトワール側の人であり、今は給仕代わりに手伝いに入っている。
諸外国の子供たちは、ニアのことを知らない者が多かった。
今どこぞの部屋で流れている映像も、昨今のものばかりで、ニアが出ている映像はない。
そして知っている者は、半ば「自国の王様を落とし穴に落とすようなクレイジーな奴だ」と思われている。
何かやらかしてとばっちりがきてはたまらない。
そう――普通に考えれば、国のトップを罠にはめるなど、一族全員の首が飛んでもおかしくない事件なのである。
その点のみで言えば、許したアルトワール国王は平和ボケしている……というより、もはやそこまで平和ボケしているならいっそ立派だと思われている。
いろんな憶測もあるし真実もあるが、とにかく今は、触らぬ神に祟りなしとばかりに敬遠している者が多かった。
――ニアは、誰も寄ってこないこの状況が望ましいと考えている。
今、ちょっとカニをつまみながら、屋敷周辺……いや、この浮島全体まで「八氣」で警戒網を敷いている最中だ。
あまり他所事にかまけて気が散ると、警戒網が維持できない。
念のために広めに軽々している分だけ集中力が必要なのだ。
特に、頭を使うような会話は駄目だ。
屋敷周辺に動きはない。
港には、各国の要人たちが連れてきた船乗りたちがいるが、今頃は船番を兼ねて料理や酒を楽しんでいるはずだ。
「――」
「――」
そして、個人的に注目しているハーバルヘイム貴王国のアルコット王子。
彼は顔見知りらしいどこかの国の少年と話をしている。その態度や物腰、物言いには、なんら不自然な点はない。
強いて言うなら、アルコットの従者のように付いている、後ろの二人だ。
なんのために一緒にいるのかと、ちょっと引っかかるレベルでアルコットから離れようとしない。
時折アルコットやもう片方の従者に耳打ちするくらいで、このパーティーに対して何かをしようという気はないようだ。思えば紹介もされていないし名乗りもしなかった。
いろんな意味で不自然である。
要人の息子であるなら、外国の貴族と知り合いになるこのチャンスを、こんな形で逃すのは愚の骨頂である。
ならば、あるいは、アルコットの護衛というだけなのだろうか。
こんな子供だけの場で護衛が付きっきりというのもまた不自然だと思うが。
まあ、傍目からは計り知れない事情でもあるのかもしれない。
だが、見た目だけ見れば、いつ賊に襲われるかわからないから警戒しています、という体である。
護衛として油断せずアルコットから離れない、という感じで。
あるいは、もしや――とつい思考が深まりそうになると警戒網が揺らいだので、慌てて思考を打ち切って皿にボイルしたカニの身をよそってもらった。
しばらく「おいしいカニだ」とだけ考えていようと思っていると――アルコットらが動き出した。
広間を出て行き、バルコニーへと向かっていく。
酒が給されているわけでもなし、身体が温まるほどのダンスをしたわけでもないのに、夜の冬空の下に出ようというのはいささか不自然。
「……面倒なことにならないといいけど」
だが、港でアルコットの浮かない顔を見てから、ずっと勘が騒いでいる。
よくないことが起こるかもしれない、と。
何かあってからでは遅い以上、何か事を起こす前になんとか止めたいところだ。
「はい? こちらのカニクリームパスタも食べますか?」
「いえ、ひとまずご馳走様。また来るかも」
「ははあ、食休みですね? ニア様はカニが好きですね」
なんとなく食いしん坊的な意味合いで言われた気がするが、断じてカニが嫌いというわけではないので、強いて言い返すことはなかった。
まだカニが残った皿を見習い料理人に返し、ニアはさりげなくアルコットらの後を追った。
ちょうどその頃、大人たちの社交場となっている一階で、ちょっとした揉め事が起こっていた。
「――どうだろう? 永久凍土の彼方から来た田舎者の私に、噂に聞いた武術外交というものを見せてくれんかね?」
子供たちなんかとは比べ物にならないほど、深い深い闇のような腹の黒さを持つ大人たちは、常にはなごやかに、時々チクチクと交流を計っていた中。
傍目には、どんな話の流れでその発言が出たのかは定かではないが、氷上エスティグリア帝国からやってきた元騎士団長ダンダロッサ・グリオンが、武勇国ウーハイトンの外交官リントン・オーロンにそんなことを言ったのがきっかけだった。
武術外交。
武勇国と言われるウーハイトンでは、昔はよく求められたのだ。
――果たして、その名に恥じない強さを持っているのか、と。
ウーハイトンは武人の多い国である、というのは有名だ。
その看板を背負って諸外国を回っているウーハイトンの使者は、昔はよく、こういう挑発めいたことを言われて試されてきたのだ。
異国情緒溢れるウーハイトン流のドレスに身を包んだ優しげな淑女にしか見えなかったリントン・オーロンは――躊躇なくにっこりと微笑んだ。
「もちろん。ウーハイトン台国の外交使として、それを避ける理由はありませんが。ただ――」
ふう、と物憂げに息を吐く。
「――かのエスティグリア帝国の使者様に恥を掻かせてしまうかもしれませんが、それでも構いませんか? 国に帰れなくなっても私は知りませんよ?」
挑発である。
あえてリントン・オーロンは、癪に触る言葉を用いて、言い出したダンダロッサが逃げられないようにした。
これで応じないようなら、エスティグリアの汚点となるのは確実だ。
「――……面白い」
初老になろうという年齢と大きな顔の傷に相応しい凄惨さを感じさせる笑みを浮かべて、ダンダロッサは了承した。