軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

289.空賊列島潜入作戦 本体 1

眩しいほど白い中型船が迫っていた。

外観からして、飛行皇国ヴァンドルージュ産の広く普及している型だ。

空賊船とは、その空賊がどういう存在かを知らしめる顔のようなものだ。

威圧と畏怖の念が強い黒や奇抜なペイントが入った船は多いが、ただ真っ白な船というのは大変珍しい。

そんな見覚えのない空賊船が、空賊列島に近づいてくる。

港の荷運びが作業の手を止め、四方にある国からの空軍襲来を警戒している多数の見張りが、その白い空賊船を油断なく見据える。

彼の船は大砲を向けることもなく、ゆっくりゆっくり、正体を見極めたい者たちを焦らすかのように鈍足飛行でやってくる。

――誰かが叫んだ。

船体にペイントされた、ドクロが背負う白い花束のマークを見て――襲われたことがある空賊たちの目撃証言そのものだ。

「 雪毒鈴蘭(スノー・リリー) だ! 雪毒鈴蘭(スノー・リリー) が来たぞ!!」

その声に、「玄関の島」は騒然となった。

数々の略奪を行い、どんな空賊船相手でも襲い掛かるという、すでに空賊列島では知らない者はいないほどの新入り空賊団。

まさに猛毒のような空賊団 雪毒鈴蘭(スノー・リリー) 。

噂に聞く「聖女誘拐」は彼らを有名にする悪事の一つだが、もう一つ。

これは空賊列島に現在進行形で起こっている、目に見える事件。

暴走王フラジャイルを排した、 雪毒鈴蘭(スノー・リリー) の船員の存在だ。

よくよく聞くと、たった一人で赤島を制圧してみせた黒髪の少女は、彼の空賊団のキャプテンでもなんでもない、ただの船員だという。

無名の新入りには破格極まりない実績に、あっという間に「狂乱のリリー」という二つ名が付けられたことは、ここ数日のことだ。

リリーは「朝ならいくらでも戦うし、その時は命までは奪わない」と公言し、有名無名を問わずあらゆる挑戦者を毎日数百名単位でなぎ倒している、正真正銘の化け物である。

――そして、今。

猛威を振るう「狂乱のリリー」の本体あるいは母体とも言うべき、空賊団 雪毒鈴蘭(スノー・リリー) が上陸しようとしていた。

新入りにしては鳴物入りと言える、上陸前に四空王入りという前代未聞の実績を引っさげた脅威の空賊団が、いよいよ降りてくる。

大小百を超える空賊船が並ぶ港、白い空賊船は空いた桟橋にゆっくりと停船する。

「――上陸していいか?」

まず、ボロボロの水夫服を着た大柄な男が、甲板から顔を出して港を見下ろす。

「あ、ああ! あんたら 雪毒鈴蘭(スノー・リリー) だろ!?」

荷運びの見張りが確認し水夫服の男が頷くと、荷運びたちが仕事も何も放り投げて最優先でタラップを設置する。

噂の海賊団を一目見ようと、他の空賊やここの住民も集まってくる。

人口密度は高い。

なのに、あまり音がない。

誰もが無駄話もせず、作業の手を止め、固唾を飲んで彼らを見ていた。

「狂乱のリリー」の強さを思えば、あんなガキを抱えた空賊団が弱いはずがない。

普通に考えて、キャプテンなどはリリーより確実に強いはず。

むしろリリーは下っ端なんじゃないか?

下っ端だから先行して送り込まれたのではないか――そんな恐ろしい予想をしている者もいる。

ここで 雪毒鈴蘭(スノー・リリー) のキャプテンや船員を見知っておかないと、知らない間にケンカを売ったり売られたりしてしまい、予想外に蹂躙されてしまうかもしれない。

さすがに四空王レベルと突発的に戦うのは勘弁だ。

いざやるにしても、準備は必ず必要だ。知るという行為は、そのための前準備である。

まず、水夫服の大男が降りてくる。

鍛えられた体躯にヒゲ面の、いかにも空賊という男だ。だが白地に水色のセーラーカラーがなびく格好はちょっとかわいい。

次に、黒いスーツを着た細身の男が降りてくる。

空賊には正装している者は非常に少ないだけに、むしろ異様に見えた。

――襲われた空賊たちは、主にこの二人にやられたと言っていた。「狂乱のリリー」の仲間らしく滅法強いらしい。

次は――

「なっ……!」

「あれまさか!」

「聖女……!?」

頭に赤いバンダナを巻いた軽装の女が降りてくる。

彼女自身は、格好からして割とよく見る普通の女空賊っぽいが――問題は 連れている者(・・・・・・) だ。

この女は鎖を引いていた。

その先には、後ろ手に縛られ目隠しをされた、簡素な白い服を着た銀髪の女の首輪に繋がっていた。

銀髪の女は、力の強い聖女の証明のようなもの。

あの奴隷のような扱いといい女の見た目といい、噂と照合するのであれば、あれこそ聖王国アスターニャの聖女である。

略奪品(・・・) を見せびらかすようにしてへらへら笑いながら降りてくる女空賊は、なぜだか、奴隷を粗末に扱っていた暴走王フラジャイルより嫌悪感を煽った。

神に仕える聖女を粗末に扱う姿に、反感を持つ者が多かったのだ――自分たちも大して変わらないのに。

そして。

「――ろくでなしども! 出迎えご苦労!!」

タラップの前に立ちすべてを見下ろす、豪奢な赤いコートを着た女が吠えた。

豪華な身形からして、恐らく――

「私がキャプテン・リーノだ! 命が惜しくない奴はいつでもケンカを売ってこい! 火海蛇(カカジャ) のエサにしてやる!」

あれが 雪毒鈴蘭(スノー・リリー) のキャプテン、リーノ。

若い女である。さして強そうにも見えないが――しかし「狂乱のリリー」を知った今、見た目など当てにならないだろう。

堂々たる啖呵を吐き、無数の空賊たちが敵意と殺意を向けてくる中を上陸する姿は、新人空賊団の長とは思えないほど堂々としていた。

水夫服のガンドルフ。

いつものスーツに髪を結んだだけのアンゼル。

聖女を連れたフレッサ。

そして、キャプテン役のリノキス。

雪毒鈴蘭(スノー・リリー) の船員ことニア・リストンの弟子たちは、こうして空賊列島へと乗り込むことに成功した。