軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

285.空賊列島潜入作戦 11

「――なんなんだあのガキはぁ! ふざけやがって!!」

悪態をつくフラジャイルを、比較的軽傷な 白鯱空賊団(ホワイトオルカ) の船員たちがなだめながらどこぞへと連れて行く。

「――見せもんじゃねえぞ! 散れクソども!」

傘下の空賊たちに八つ当たりしながら、ゆっくりと撤収していった。

そして港に残ったのは、荷下ろしの奴隷たちと、出迎えに集まってはみたが色々と考えることができた空賊たちである。

なんというか、案の定、という感じだった。

「――は……!?」

「――ま、マジか!?」

空賊たちは顔を青ざめた。

引き上げたふりをして様子を見ていた空賊狩りの子供が、しれっと港に戻ってきたのだ。

さっきの今である。

散々フラジャイルを小ばかにするように立ち回り、物のついでのように 白鯱空賊団(ホワイトオルカ) の船員たちをなぎ倒していき、堂々と去っていった脅威の存在。

それが、再び舞い戻ってきた。

空賊狩りの子供は、到着するなりボコボコにされていた空賊たちのキャプテンの前に立つ。

「――逃げたくなったんでしょ?」

戻ってきて何をするかと思えば、そんなことを言った。

そう、完全に図星を突いた。

空賊の多くが思っていたのだ。

「どんなに強い者が相手でも、あのフラジャイルに勝てるわけがない」と。

彼らのフラジャイルへの想いはまちまちだが、唯一共通している思考は、「暴走王フラジャイルはとにかく強い」ということだ。

だからこそ、毎晩のように空賊狩りに襲われようが船を墜とされようが、赤島を去るという選択肢を選ばなかった者が多いのだ。

フラジャイルが帰ってきたら、すべてが元通りになると信じていたから。

しかし、ついさっきの戦いを見て、当然疑問が湧いた。

――フラジャイルは空賊狩りに勝てるのか、と。

要は、認めていた強さが揺らいだことで、忠誠心が目減りしたのだ。

ゆえに、明日の再戦でフラジャイルが負けることを見越して今すぐ逃げるべきではないか――そんな気持ちが芽生えるのも無理はない。

港に残っている空賊たちは、「今逃げるべきじゃないか」と、そう考えていた。

まだ無事な内に。

まだ逃げられる内に。

そんな風に迷っていた時に、最悪の脅威の再来である。

「逃げていいわよ」

だが、望外にして希望となる言葉を吐いた。

「代わりにやってもらいたいことが二つあるの。条件を聞いてくれるなら、今日この時だけ見逃すわ。好きに逃げなさい」

――こうして、フラジャイル傘下の空賊たちの半数以上が、赤島を去ることになった。

「よし」

空賊たちと話をつけたリリーは、次いで 白鯱空賊団(ホワイトオルカ) の空賊船に乗り込むと、あっという間に船を制圧した。

見張りに残っていた船員たち五名を静かにのして、乗っ取り成功だ。

そう、リリーはこのために戻ってきたのだ。

残った空賊たちに頼み事をするより、こちらがメインの目的だ。

フラジャイルの逃走を、逃げる手段を奪うために。

もし彼らが島ではなく船に引き上げるようなら、それを阻止するべく出てきていたはずだ。

「――食料と酒だけ持って行っていいわよ。あとは残しておいて」

呆気に取られている荷下ろしの奴隷たちにそう指示を出し、船内に入る。

背後で「食料と酒だけ運び出せ!」と慌ただしく動き出したのは、揉め事に関わりたくないからだろう。貰うものだけ貰って引き上げるつもりなのだ。

男だらけのむさ苦しい空賊団だけに、船内も取っ散らかっているかと思えば、意外と綺麗である。

これは 白鯱空賊団(ホワイトオルカ) だけではなく、他の空賊船も同じだった。ちゃんと整頓されていた。

やはり空賊たちにとって、船は大事なものなのだろう。

清潔感や小綺麗とは無縁の、ただの荒くれのならず者にしか見えない空賊たちなのに、船だけは本当に大切にしている。

まあ、歩きやすいので結構なことである。

――ここか。

そしてリリーは、探していた「機関室」のプレートが着いた、頑丈そうな金属製ドアの前に立った。

手のひらより大きなごつい錠前が付いていて、厳重に封鎖してある。

「おーい。誰か返事してー」

ガンガンとドアを殴るようにノックすると、「はい!」と中から若い男の声が即座に返ってきた。

「この船を制圧した者なんだけど、ここ開けるからドアから離れてくれる? あ、別にいいか」

外側に(・・・) 錠前が付いているのは、中から開けられなくするため。

リリーはその錠前を掴んで無理やり引きちぎり、普通にドアを開けた。

「あ……」

そして中にいるのは――奴隷たちである。その数は十名ほどだろうか。薄暗い明かりの下、床に座ったり転がったりしている。

「ああ、いるわねぇ……噂で聞いてはいたんだけど」

でも、この目で見るまでは、半信半疑だった。

「――あなたたち、『エサ』って呼ばれてる人たちよね?」

白鯱空賊団(ホワイトオルカ) の機関室には、特殊な魔法陣が描かれている。

まあ簡単に言うと、魔力を流し込むことで動力部の出力を一時的に増加し、航行速度を上げることができるんだとか。

その「魔力を流し込む」という役割のために動力源の一部として置いているのが、この奴隷たちである。

彼らは魔法陣に食わせる「エサ」……そういうことだ。

奴隷たちは、基本的に一度の航海での使い捨てで、この赤島で補給する頃には死んでいるか瀕死になっているのが常なのだとか。

吐き気がするほど不愉快な話だ。

だから、これだけは嘘であって欲しかったのだが――見事にリリーの期待は裏切られた。

フラジャイルを潰す理由がまた一つ増えた。

「あ、あの、制圧って……?」

さっき返事をした若い男が、恐る恐る聞いてくるが、

「その前に、死にそうな人いる?」

話は後でもいいが、命は間に合わない。

「あ、だ、大丈夫、です。急に港に引き上げることに、なったから……」

いつも通りの航海ではなく途中で引き返して来たから、命が尽きるまで食われたわけではないようだ。

「ということは、元気はある? 歩ける?」

「は、はい」

「じゃあ、――この船動かせる?」

「え?」

「これからすぐに、玄関の島にこの船で行って、みんなに伝えてほしいの」

ようやく。

ようやくここまで来た。

色々と予定にないことが多かったせいで、特に暴走王フラジャイル不在というどうしようもない理由で、作戦自体の成否が危ぶまれていたが。

だが、ようやくここまでこぎつけることができた。

「――私は空賊団 雪毒鈴蘭(スノー・リリー) の船員で、暴走王フラジャイルをぶっ潰しに来たの」

向こう側(・・・・) の作戦が順調に進んでいれば。

これで新入りには破格の、凶悪にして最悪の空賊団が誕生するはずだ。