軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22.王都アルトワール

「また腕が上がってますね」

「ええ。将来が楽しみだわ」

――兄ニールの剣術訓練を見学したり。

「ニアちゃん、今日もよろしくね!」

「はい、よろしくお願いします」

――「ニア・リストンの職業訪問」の撮影をしたり。

「なぜまだ届く……一度しか出ていないのに……」

「お兄様ったら人気者ね」

私の生存報告以降、一度も 魔法映像(マジックビジョン) に出演していない兄への熱烈なファンレターが途切れることなく届くことに嘆く兄を「可愛いな」と思いながら見守ったり。

そんな毎日があっという間に過ぎて行き――

元々短かった兄の春期休暇が終わると同時に、私も荷造りを済ませた。

と言っても、私は専属侍女のリノキス任せにしただけだが。

島のはずれにある飛行船発着場には、すでに飛び立つ準備ができている小型飛行船がスタンバイしていた。

「お兄様の飛行船は安心します」

飛行船自体にはもう何度も乗っているが、未だに金属の塊が飛ぶというのが信じられない私がいる。不信感を抱かずにはいられない私がいる。

兄の小型飛行船は、外側だけは 懐古趣味(レトロ) な木造仕立てなので、なんというか、ほっとするのだ。

少なくとも金属剥き出しよりは浮きそうだし、飛びそうだから。

「中身はすごいぞ。機関部とか見るか?」

「いえ結構」

金属金属したものは見せなくてよろしい。見たくもない。

「お二人とも、お気をつけて。――リネット、リノキス、ニール様とお嬢様を頼みますぞ」

老執事ジェイズに見送られ、 懐古趣味(レトロ) な飛行船はリストン家から飛び立った。

――今度の役者の仕事は、王都アルトワールの劇場で行われる。

飛行船を使えば半日ほどで到着するが、稽古をするたびに移動するのでは時間が惜しいので、私はしばらく王都に泊まり込みになる。

ついでというわけではないが、時期もほぼ重なるので、兄が学院に戻るのに便乗することにした。

「向こうに着いたら王都を案内しようか?」

「ありがとうお兄様。予定がわかったらお願いするわ」

王都観光に興味がないわけではないが、遊びに行くわけではないので、それは空いた時間に頼みたい。

まず、王都に着いたら第三階級貴人であるライム家夫人と会う予定になっている。

ライム夫人は、「ニア・リストンの職業訪問」第一回撮影で、私の礼儀作法の教師を務めてくれた方だ。

元々両親と仲が良いことから出演を頼み、快く請け負ってもらったとか。

そして今回は、仕事の依頼……いや正確には依頼人は別にいるので、仲介というのだろうか。紹介してもらったという形になる。

リストン領のチャンネルへの出演と、今回の仕事の紹介と。

見える部分でさえ結構お世話になっている。

恐らく見えない部分も含めれば、もっとお世話になっていることだろう。

ライム夫人には頭が上がらない。

「それより、学院でのお兄様はどうなの? しっかりやれている? ちゃんと食べてます? 己の過失でお友達とケンカしたら、自分から謝らなければいけませんよ。あと脱いだ服をその辺に放り出してはいけませんよ」

「母上か」

あ、そういえば母親も似たようなことを兄に言っていた気がする。

しかしまあ言うだろう。

年端もいかない子供が寮生活をしていて、離れて暮らしているのだから。心配しない方がおかしい。

「リストン家長男として恥ずかしくない程度にはがんばって過ごしているよ」

ほう。

「それは結構ですね。それで? ほかは大丈夫ですか? 女の子を泣かせたりしていませんか?」

「…………」

あ、この沈黙。目の逸らし方。すでに泣かせているな、これは。

「まあ……まあ、大丈夫だ。人との付き合い方にはリネットも厳しいしな。少なくとも、未熟ではあってもだらしない生活はしていないと思う」

ふうん。

専属侍女リネットか。

常に兄の近くにはいるが、あまり私とは接点がないので彼女の人となりはよくわからない。話をしたのも数えるほどしかない。というかそこにいるし。

もう少し強ければもっと気にもなるんだろうが……まあ、侍女に行き過ぎた強さを求めるのも酷な話である。

そういえばリノキスとは、アルトワール学院で同級生だったとか言っていたかな。

……まあ、今は気にしなくていいか。

「そういえば、王都でも空いた時間に『職業訪問』の撮影をするんだって?」

「ええ、そうらしいわ」

せっかく王都に行くんだから、王都で撮影をしようと。

くどい顔のベンデリオが、久しぶりに直接リストン家にやってきて、私に提案したのだ。

彼が案内する「リストン領遊歩譚」は、リストン領地内で、という括りがあるので、王都での撮影は基本的にない。

だが私の場合は、あくまでも「職業を体験する」という趣旨なので、場所はあまり問わないのだ。

なので急遽、王都での撮影という企画をねじ込まれたのだ。

きっと今頃、放送局では予定を詰めたりスケジュールを調整したり訪問する先に約束を取り付けたりと、大急ぎで企画書を作っている真っ最中だろう。

まだ何も決まっていないだけに、どんな撮影になるのかは私にもわからない。ちょっと楽しみでもある。

「お兄様も出る? せっかく王都で撮影するのだし」

「……いやだ。私はもう出ない」

あら。きっぱりと。むくれる兄も可愛いな。

のんびりした空の旅は、予定通りに終了した。

朝早く出発したリストン領から半日、夕方には王都アルトワールが見えてきた。

――海に根付く広大な大地が、夕陽を浴びている。

大地の欠片たる浮島ではないその堂々たる姿は、王都と呼ぶに相応しい威厳と力強さを感じさせた。