作品タイトル不明
130.ヴァンドルージュの出稼ぎ 四日目 談話
ザックファード・ハスキタンからの紹介で、女二人と面通しをするが――だいたい読み通りだった。
大きく予想が外れることもなく、順当と言ったところか。
クリストそっくりの女は、クロウエン・ヴォルト・ヴァンドルージュ。案の定妹だった。異母兄妹ではあるらしいがとてもよく似ている。
軽薄な優男を絵に描いたような兄と違い、こちらは少し堅そうなイメージがある女性だ。やはりキリッとした目元の差だろうか。
あと、この四人の中では……いや、ヒエロ王子も含めて五人の中では、一番強い。まあ人間の壁を越えていない辺りでは、大抵はどんぐりの背比べでしかないが。
ダークブラウンの髪の女性は、フィレディア・コーキュリス。
機兵王国マーベリアの、王族の遠縁にあたる高位貴族で、姫君という扱いで間違ってはいないという結構な大物だった。
整いまくった顔立ちもそうだが、暗めの色の髪と白い肌のコントラストが美しい。男じゃなくても髪の色と首筋の白さの差に生まれるなまめかしさに息を飲むかもしれない。
で、彼女がザックファードの許嫁なんだそうだ。
あと、彼女が一番弱い。まあ弱いというか、貴族の女性として、肉体を鍛えたことなどないというだけだが。普通の女性である。
「クロウ以外は同い年で、来年修学館を卒業する。ザックとフィルは、それからすぐに結婚ってことになってるんだ」
一通りの自己紹介が終わり、暖炉に集めたソファーに座ると、クリストが雑に関係性の説明をする。
修学館というのは、アルトワールで言うところの学院のことだろう。そこで同級生で友人の三人と、なんだかんだ縁があったのだろう年下のクロウエンが混じった。
いわゆる仲良し貴族四人組である、と。
「初めてじゃない? ザックを怖がらなかった子供って」
フィレディアがすぐ横にいるザックファードに、なかなか強気な笑みを向ける。あ、あれは知っている。好きな異性に意地悪をしたくなるタイプの女だな。
「初めてじゃない。二、三人はいた」
心外とばかりにザックファードは答えるが、完全に内容が指摘に負けている。――なるほど、あの許嫁同士はあんな関係か。まあ仲が良さそうで何よりである。
ちなみにザックファードの顔はそんなに怖くはない。眉がはっきりした精悍で厳しそうな顔立ちだ。しかし不器用そうだから、きっと対応が下手なのだろう。
「ニア・リストンって、あの犬の子か。 魔法映像(マジックビジョン) の。クリストも好きだな」
おいクロウエン。犬の子は意味が違うだろ。
「そうそう、あの犬の子な」
そうそうじゃないだろ、なぜクリストは同意する。犬の子では意味が違うだろう。
「 魔法映像(マジックビジョン) か……ヒエロ王子の顔を立てるためにも検討はしたいが、額が額だからな」
ザックファードの真剣味を帯びた呟きに、三者三様の反応を見せる。
フィレディアはあまり興味なさそうにワインをあおり、クロウエンは我関せずという態度で意志を見せない。
「あれだけすごい技術なんだぜ? 元くらいすぐ取り返せるって」
前傾姿勢かってくらい前向きに考えているのは、クリストのみか。……前向きというか、深く考えてないだけという気も――いや、彼は頭が回る。軽薄で適当に見えても打算や勝算はしっかり考えている気がする。
「実際あれは、どんな形で利益が出るものなんだ? 軍事利用ならいくらでも利点が出そうだが、アルトワールではその手の使い方はしていないようだし」
ザックファードの疑問は私も気になる。
あれはどういう形で利益が発生しているのか、私もよくわかっていない。
確か広告料がどうこう、という話は聞いたことがあるが……でもどの程度の金が、どのように動いているかは、さっぱりだ。
「私も気になる。すでに何度かヒエロ殿からは聞いているが、できれば売り込みたい経営者ではなく、ただの関係者の意見を聞いてみたい」
そうだな。クロウエンの言う通り、私もちょっと気になる…………ん?
…………
あ、ここで言う「経営者ではなく、ただの関係者」って、私のことか。経営者はヒエロで、私は 魔法映像(マジックビジョン) の関係者だから。
気が付けば、全員が私を見ている。
――ヒエロが何も言わないので、私が答えていいようだ。まあまずいと思えば止めるだろうし、気にしなくていいのかな。
「子供だけに詳しくは教えてもらっていませんが、広告料が動いていると聞いています」
「広告料?」
「商品、あるいは場所、もしくはイベントなどを知らせる方法です。皆さんはもう観ていると思いますが――」
私は、番組で酒を飲む企画……まあベンデリオの出ている「リストン領遊歩譚」だが、それを例に出して簡単に説明した。
番組で酒を飲む。
その番組を観て酒に興味がある者が、その酒を買う。
この二つの仕組みで利益が発生する、というものだ。……たぶんこれ以外にもあると思うが、私が知るのはこれくらいのものである。
「あとはそれの応用ですね。
新しくできたレストランの告知、名物料理の告知、劇の告知と、『広く知らせる』という点においてはこれほど優秀なものはありません。何せ大抵は視覚も付いてきますから。ほんの少しでもどんなものなのか窺い知れれば、興味を抱きやすいです」
こんなものでいいだろうか。ヒエロが何も言わないので、これでよさそうだ。
「ニア、大事な話を忘れていないか?」
いや、まだのようだ。
「――もし嫌じゃなければ、君の生い立ちの話を聞かせてあげたらどうだ?」
生い立ち?
…………
ああ、あの話か。
アルトワールではだいたいの人が知るところとなっているくせに、逆に当人がもう忘れがちという、あの話か。
「少し話が長くなるかもしれませんが、よろしいですか?」
そして私は、リストン家が 魔法映像(マジックビジョン) 参戦を決定した、ニア・リストンの命に拘わる話をするのだった。