作品タイトル不明
111.冬休み直前に集めてみた
「氣」は八つの要素で成り立っている。
大まかに、「内氣」と「外氣」という二つの括りに、四つずつ分かれている。
「内氣」。
「浄氣」「硬氣」「柔氣」「流氣」。
「外氣」。
「斬氣」「兆氣」「打氣」「呼氣」。
そして九つ目の……いや、それは己の力で辿り着くべきものだから、やめておこう。
「内氣」「外氣」には、元からそれら四つの要素が含まれていて、技を使う時に最適な割り振りを自分で調整するのが原則なの。
例えば「氣拳・雷音」なら、「内氣」の「柔氣」と「流氣」の割り振りを大きくすることで成功する。
ん? 理想の割り振り?
私なら「硬氣」で拳を硬くし、「流氣」に大きく振って速度を上げて、「柔氣」で動きと「氣」の緩衝を促す。
言っておくけどリノキス、「流氣」の極振りで「雷音」に成功してもそれは成功ではないから。
当てた相手が「硬氣」で対抗したら、確実に拳が砕けるわよ。速度は諸刃であることを憶えておきなさい。
――それにしても、偶然とはいえバランスがいいわね。
リノキスは「流氣」。
リネットは「柔氣」。
ガンドルフは「硬氣」。
アンゼルは「硬氣」と「流氣」で、フレッサは「柔氣」と「外氣」の素質が高い。
見事にばらばらというか、足りない部分を補える関係ね。
それぞれもう基本は教えてあるから、あとは修行あるのみよ。
……なんて、今更言う必要もなかったわね?
めっきり寒くなってきた、冬休み直前のある日。
ようやく稼ぎ頭どもが一堂に会する場が設けられた。
秋から始まった本格的な「氣」の鍛錬と、出稼ぎと。
やることがとても多くなった日々は飛ぶように過ぎてゆき、あっという間に学院は冬期休暇を間近に控えていた。
この前夏休みが終わったと思ったら、もう冬休みである。
日々が充実していたと言えば聞こえはいいが、やることが多すぎて多すぎて仕方なかった。
もうすぐリストン領へ帰省するので、その前に。
それぞれ出稼ぎで顔を合わせることはあったが、改めてということで、同じ場所と同じ時間に、全員を集めてみた。
場所は高級レストラン「黒百合の香り」の個室。
少し人数が多いから目立ちそうだったので、アンゼルの酒場に集まるのは避けた。
それに、たくさんがんばってくれた弟子たちへの労いの気持ちもあるので、私のおごりである。
まあ、厳密に言うと弟子はリノキスだけだが。
しかし、ほかの四人も、もはや弟子と言っていいくらいの存在である。
そんな弟子たちが、今、同じテーブルに着いている。
――そして、しばらく会えなくなりそうなので、基本的な「氣」についてのおさらいをした。
皆真面目な顔で聞いていたので、一応念押しした甲斐はあったのかな。
「今いくらくらい貯まってるの?」
フレッサの疑問は、ほかの者の疑問でもあったようで、リノキス以外の全員が私を見る。
目指す十億クラムはまだまだ遠いが、この数ヵ月、皆しっかりがんばって稼いでいるのは、周知の事実である。
「一千万は超えてるだろ」
言いながら食すアンゼルのテーブルマナーは、なかなか堂に入っている。
裏社会で生きてきたせいか、割と身形には気を遣っているアンゼルとフレッサは、黒いスーツでやってきた。
アンゼルは前に聞いたが、実はフレッサも元ボディガードをしていたらしい。道理で二人ともボディガード感が強い格好である。
「どうなの?」
皆の視線は、隣に座るリノキスに投げる。
その辺の管理は全部リノキス任せなので、私も知らないのだ。
「皆さんから預かったセドーニ商会の証文を全部合わせると、だいたい二千万弱ですね」
おお、なかなかの稼ぎ。
「このペースでは全然間に合いませんね」
……十億ってとんでもない大金じゃないか。まったく。安請け合いしてしまったものだ。
「しかし、冬休みは師が浮島に出られると聞いております」
安物だが一応ドレスコードを気にした一張羅スーツが似合わないガンドルフが、「ぜひ同行したいです」と瞳を輝かせている。
まあ、そんなに期待された目で見られても、同行はちょっと無理そうだが。
「計画自体は少し話したわよね? 本決定したから通達しておくわ。
私は冒険家リーノの付き人として、飛行皇国ヴァンドルージュへ出稼ぎに行ってくるから」
冬休みの数日を使って、隣国へ行き、そこでしっかり稼いで来ようと思っている。
目的は二つ。
来る二年後の大会へ向けて、リノキスの名を売ってくること。
もう一つは、私が動ける場に行くこと。
冒険家リーノはすでに有名人となっている。
新人にしては異例の強さで魔獣を討つ者として、かなり評判になっている。
アルトワール王国周辺では、何かと周囲の目が向いてきているので、すでに私が同行するのが難しくなっているのだ。
だから、他国へ行く。
金になりそうな魔獣もチェックしているので、リノキスの名前を盾にし、裏で私が効率よく仕留めて大きく稼いで来ようと思っている。個人的にも楽しみだ。私だって弟子たちのように暴力を振るいたいのだ。
「単純計算で三億くらい稼げるみたいよ」
「最大で、ですからね。都合よく上級魔獣と遭遇できて、想定した通りの数を仕留められれば、ですからね」
わかっている。
とりあえず一億クラムも稼げれば充分だ。
「さすがリリーね……小さいのにやることは大きいわ」
そう言ったフレッサは、なぜだか呆れているように見えた。
さて。
冬休みにまとまった休日を得るために、私は再びあの地獄へ舞い戻ることになる。
「――待ってたよニアちゃん! さあ行こうか!」
リストン家に帰省するなり、待ち受けていた顔のくどいベンデリオに、撮影班用の飛行船に連れ込まれた。
数ヵ月ぶりに帰ってきたのに屋敷に入ることさえできないまま、夏の再来とばかりに、地獄の撮影スケジュールに突入するのだった。
……本当に忙しくなったものだ。病床に伏していた頃が懐かしいくらいだ。