軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

100.十億以上の企画

なんとも言い難い沈黙が訪れたその時、

「お父様!」

別荘からヒルデトーラが走ってきた。どうやら見つかってしまったようだ。

「ニアはまだ六歳ですよ!? 私より年下なんですよ!? こんな幼児を口説くなんてどんな変態ですか!」

……ん? なんだかすごい誤解をしていないか?

「この国の婚姻は十五歳からと決まっている。俺が口説くのは十五歳からだ」

おい王様。否定するのはそこじゃないだろう。

「ガキのくせに王としての俺に物怖じせず直訴し、あまつさえ馬鹿にする度胸と胆力を持つ女だ。見逃すのは惜しい。

優秀な女は優秀な人材を増やすために、優秀な俺の子を産むべきだ」

――おっと危ない。反射的に思わず手が出るところだった。パーンとやってしまうところだった。というか私以外の対象に言っていたら殴っていたと思う。

なるほどな。

王様の女好きの噂は、次代に優秀な子供を残すためのものか。

女好きを隠すための方便、というわけでもなさそうだ。

優秀な人材のために。

王様は、本気でそう考えているようだ。

しかし、だ。

「この人の頭、大丈夫?」

「大丈夫じゃないから会わせたくなかったんです。大丈夫じゃなかったでしょう?」

「うん。大丈夫じゃなかったわね」

そうか、実の子供の目から見ても大丈夫じゃないのか。

そりゃヒルデトーラも、父親の話になると渋い顔をするわけだ。

「……ふん。王の賢慮は王にしか理解できん」

子供二人に「大丈夫じゃない」と言われた王様は、こちらに背を向けてデッキチェアに横になった。

悲しげな背を見せる中年男性の姿は、愛娘に邪険に扱われて拗ねた父親のようである。……まあ間違ってはいないか。

「それよりニア・リストン」

寂しそうな背中が語る。

「その計画は俺も考えていた。まだ時期が早いとは思うが、やることに否はない。準備さえ揃えば今すぐでもやるべきだ」

つまり……大会の企画に協力する、ということか?

「しかし問題は資金だ。大まかな計算では、少なくとも一億クラムは必要になるだろう」

ほう。一億クラムか。

「い、一億!? ニア、これはなんの話ですか!?」

ヒルデトーラが驚いているのは、それがかなりの大金だからだろう。

しかし実は、私は貨幣の価値がよくわからない。

自分で買い物をすることなんてないし、欲しいものがあれば貯まりに貯まっている小遣いでリノキスが買ってくるくらいだ。

それにしたって月に一回二回で、学院で使うものが主である。所持金も残金もわからないし、そもそも金に触ったことさえない。

「少なく見積もって、だ。俺としては最低でもその十倍は欲しい。もっとあってもいいくらいだ。それだけの価値がある」

十倍。

十億クラムか。……ヒルデトーラがまた驚いているので、相当な大金なのだろう。

「そして開催の時期は再来年……二年後がいい。

一年掛けて下準備をして、残りの一年で国中から出場者を募り、他国に招待状を送る等の準備期間とする。

――という計画だけは思いつくが、絶望的なまでの資金不足だ。

俺個人が即金で出せるのは五千万クラムがいいところだ。国の支援は二億くらいは出せるか……しかし表向きは娯楽の面が強い以上、下々の反感を考えると愚策に近いな」

ふむ。要するに金がいるわけだな。

「ではその一億クラムなり十億クラムなりを用意すれば、実行は可能で、王様も力を貸してくれるんですね?」

「力を貸す? 笑わせるな。資金さえあればどんな手を使ってでも、俺が計画を乗っ取ってやる」

――面白い。

「じゃあお金だけ用意すればいいわけですね?」

むしろ願ったりではないか。

ごちゃごちゃ考えるのは性に合わないのだ、金さえ出せばいいなら話は早い。

どうせ私一人で、金だけあっても、実現はできないのだから。

逆に金さえ出せば面倒事をすべて引き受けて実現してくれると言うなら、文句なんてあるわけがない。

しかもその相手は国王だ、持ち逃げするにも家から離れられない国一番の大物である。

ついでにこっそり金を貯めておいて、リストン家が傾きそうな時のための予備金を作っておくのも悪くない。

というか、家のことに関しては 魔法映像(マジックビジョン) 普及よりこっちの方が手っ取り早い。

「ヒルデトーラ」

背中を向けたままの王様が娘の名を呼ぶと、娘はそれにも驚いたように「は、はい」と上ずった声を上げる。

「俺とニア・リストンの窓口はおまえに任せる。ニア・リストンが俺に用事があると言った時は、何をおいても最優先で俺に直接持ってこい。いいな?」

「……そもそも何の話なんですか? 一億だの十億だの」

「これからそいつが稼ぐ金の話だ。詳しくは本人に聞け」

王様はまた読書に戻り。

私とヒルデトーラは離れた場所で、改めて国で一番強い者を決める武闘大会の企画を話した。

「ああ……納得しました」

納得したようだ。

ということは、一億だの十億だのという金額は、彼女的にも結構妥当な額なのかもしれない。

……実際どのくらいの価値があるんだろうか。

「え? 十億クラムはどれくらいか、って? そうですね……大型飛行船がだいたい一隻一億ですから、そこそこの大きさの浮島が買えるかも、くらいですね」

…………

それでもいまいちよくわからないな。

「ニア、大丈夫ですか? 十億クラムって、人が生涯必死で働いても全然手が届かない金額ですよ?」

うん、まあ、なんだ。

「なんとかなるでしょ」

「ならないですよ!? 絶対になんともならない金額ですよ!?」

「二年で十億だから、一年で五億ずつね」

「なぜそんなに軽く考えてるんですか!? 十億は普通なら一生掛けても稼げない額ですよ!?」

「がんばるから大丈夫よ」

「がんばるという言葉はそんなに万能じゃないですよ!」

その後、修行を終えて帰ってきたリノキスにも「無理でしょ」と、ヒルデトーラと同じことを言われたが。

「――あ、でも、お嬢様なら本当になんとかなりそうですね」

だろう?

手頃な浮島で金になりそうな魔獣でも狩っていれば、なんとかなるだろう。

まあ――予想外にも王様という強力極まりない後ろ盾が得られたのだ、これはなんとしても実現させたい。