軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74話 二十階層

俺の目の前には巨大な凍り付いた湖が広がっていた。

試しに一歩だけ氷の上に足を載せてみると、その分厚い氷が俺の体重をしっかりと支えてくれている。

「やはり氷の上は歩く事はできそうだな」

「下に降りる階段は湖の向こう側なんだろ? それなら凍った水の上を歩けるなら真っ直ぐ進んだ方が距離が短くて速くていいんじゃね?」

ダンがいつもの調子で軽口を叩いていた。

「ダン君、君は考え無しに行動する事が多いです。何に対してもまずは疑わないと、そんな調子ではダンジョン攻略なんて出来ませんよ。安易に氷の上を移動して、途中で水中から魔物に襲われたりしたらどうします。最悪の場合、凍った水の中に引きずり込まれるかもしれないんですよ」

「ひぇぇぇ、凍った水の中はヤバすぎる。確かにリンドバーグさんの言う通りかもしれない」

リンドバーグの反論を聞いてダンも素直に反省をはじめた。

リンドバーグが【オラトリオ】に参加してまだ短期間であるにも関わらず、二人の信頼を得ていた。

その理由は真面目な性格と豊富な経験から導き出される的確なアドバイスがあったからだろう。

なのでダンとリオンもリンドバーグの意見は素直に従っていた。

二人のやり取りを見て、俺も雰囲気の良いギルドとなってくれた嬉しさから自然と笑みが浮かんでいた。

しかし今は進行ルートを決める事が最優先事項。

俺が決めない事には攻略は止まったままとなるからだ。

俺はしばらく考えた後、進むべきルートを口にした。

「このまま湖の周りを左から迂回して進もう」

「ラベルさん、本当に氷の上を真っ直ぐ進まないでいいの?」

「リオンも氷の上を進んでショートカットした方がいいと思うか? 俺も最初は真っ直ぐ進もうかとも考えたが、リンドバーグが説明してくれた通りだ。やはりリスクが高すぎる。ローブの保護色は雪に紛れる白色だから、氷の上では効果は薄く確実に戦闘になる」

「あっ、そうか」

「それにだ、迂回ルートでもし戦闘になったとしても、俺達は地上での戦闘にはなれているから、地上の方が安定して戦えるはずだ。だから安全を確保する事を優先した。これでもし別の冒険者パーティーにダンジョンを攻略されたら俺の事を罵倒してくれて構わないぞ」

「ラベルさんに文句を言うメンバーなんていないよ。でも攻略を目指すなら真っ直ぐ進むものだと思っていたから」

リオンはそれだけ言うと、真っ直ぐに俺を見つめてきた。

リオンの信頼を壊したくは無いので、俺も気持ちを引き締め直した。

その後、俺達は湖を左に迂回していると湖の中央部分で魔法が発せられたのが見えた。

どうやらどこかのパーティーが戦闘を行っている様子だ。

他にも別の場所から火柱が立ち上がったりもしており、湖の上を渡る事を選択したパーティーが複数いるって事なのだろう。

「湖を横断する事を選択したパーティーがいるみたいだな。迂回する分俺達の方が移動にも時間が掛かるから急ごう」

俺達が速度を上げて進んでいると、リオンが急に叫びだした。

「気を付けて、この先に魔物がいる!!」

俺達がいくら保護色のローブを着ていたとしても、魔物と目と目が合ってしまっては仕方ない。

現れたのは二匹のジャイアントベアーだ。

目が合った事でジャイアントベアーの方も俺達に気付き、そのまま初めての戦闘へと移行する。

「リオンさん、ジャイアントベアーの攻撃を真正面から受け止めるのは危険です。出来る限り避けて下さい」

「うん。了解した」

前衛のリンドバーグとリオンがジャイアントベアーの前で剣を抜き構え取る。

中衛の俺は魔石を手に取り、戦闘に参加する準備へと取り掛かった。

選んだ魔石はブラックドッグの魔石で、素早い動きで敵の注意を惹きつけることができるのが選択した理由である。

後衛のダンは弓を構えて放つタイミングをうかがっている。

最近のダンは俺が指示を出さなくても、自分の仕事をちゃんと理解している。

戦闘に入った瞬間から、いつものふざけた様子は何処にも見えない。

ダンの様子を見る限りは、声を掛けなくても大丈夫だと判断して、俺も戦闘に参加するべく【ブラックドッグ】の魔石を飲み込んだ。

その間にも戦況は進み、リオンとジャイアントベアーは互いに見合っていたのだが、痺れを切らしたジャイアントベアーの方が先に動き出す。

相手に恐怖を植え付ける為、太い腕を振り上げて雄たけびを上げた。

ゴガァァァー!

その後、叫び声と共に腕を振り下ろした。

その巨体から繰り出される攻撃をまともに食らえば、小柄なリオンは一撃で殺されてしまうだろう。

しかし先読みのスキルを持つリオンは軽やかにサイドに移動すると、ジャイアントベアーの攻撃を余裕を持って避けてみせる。

空を切ったジャイアントベアーの爪は雪の絨毯を跳ね飛ばし地面を抉り、その威力の高さを俺達に見せつけた。

攻撃を避けたリオンは剣に力を込めてジャイアントベアーの腕に向けて剣を叩きつける。

「毛が邪魔で、私じゃ致命傷を与えられない!?」

非力なリオンの攻撃はジャイアントベアーの腕を軽く切った程度で、致命傷を与える事はできなかった。

「ジャイアントベアーの固い体毛が邪魔をして剣で切るのは難しいのなら、喉や急所を突いて倒しましょう!!」

リンドバーグもジャイアントベアーの攻撃を上手く流しながら、横目でリオンにアドバイスを送る。

けれどリオンと違って、リンドバーグには余裕は余りなさそうだ。

その事をジャイアントベアーも本能で感じ取っていた。

グォォォォ

狙いをリンドバークに定めたジャイアントベアーは大きな雄たけびを上げながら立ち上がり、リンドバーグに対して再度攻撃を仕掛けた。

リンドバーグは必死の形相で迎え撃とうと動き始める。

「俺がいる事も忘れるなよ! くらえぇぇぇっ!!」

その瞬間、ダンの叫びと共に矢が放たれた。

放たれた矢は立ち上がったジャイアントベアーの片目に吸い込まれていく。

ギャァァァー!

ジャイアントベアーの片目に矢が刺さり、痛みに狂ったジャイアントベアーは振り上げた腕を無作為に振りまわしている。

「ダン君、助かりました」

落ち着いたリンドバーグはタイミングを計り、無防備になった状態の喉に剣を突き刺した。

ジャイアントベアーはリンドバーグの攻撃を受けて、大量の血を喉から放出させながら雪に倒れ込んだ。

残る一匹と向かい合っていたリオンの横には俺が寄り添っていた。

「リオンは俺が手伝おう」

それだけ伝えると俺はリオンの前に移動し直し、ジャイアントベアーに対して剣を振りぬいた。

男の俺の方がリオンよりも深い傷をつける事ができるので、ジャイアントベアーの標的がリオンから俺へと移り変わる。

俺はジグザグに動きながらジャイアントベアーに突進を仕掛ける。

ジャイアントベアーも横殴りに腕を振り回した。

俺はその攻撃を急停止する事で避ける事に成功する。

その間にリオンがジャイアントベアーの死角を突いて後方へと回り込んでおり、空を切った攻撃で身体が流れて無防備な状態のジャイアントベアーに攻撃を仕掛ける。

リオンは全力の突きを放ち、ジャイアントベアーの喉に剣を喰い込ませた。

ジャイアントベアーは口を大きく開きながら苦しそうな表情を浮かべると、その動きを停止させる。

そしてそのまま前方に倒れ込む様に倒れる。

同時に倒れたジャイアントベアーは二度と動く事は無かった。

「リオンナイスだ」

「うん、やったね」

リオンが嬉しそうに腕を振り上げ、ガッツポーズを取る。

俺も戦闘に参加出来た事に嬉しさを覚えた。

その後、ジャイアントベアーから魔石を抜き取り、俺達は先へと急ぐ。

俺達が対岸に着いた頃には戦闘が行われていた湖は静かになっていた。

「湖で戦っていた人たちどうなったんだろ? 静かすぎるだろ」

「本当…… さっき見た事が無かった様に静かね」

その後、二人は予想を話し合っていた。

しかし多くの者達はここまでたどり着けていないだろう。

その理由が、対岸の氷が綺麗すぎると言う事だ。

もし冒険者達が此処まで来れたなら、氷の表面に何らかの形跡が残っている。

けれど周囲の氷には傷一つ付いていない。

それが誰も此処までたどり着けてないと言う証拠だとも言えた。

しかしその予想を誰かに話すつもりは無かった。

予想以上にこの階層での脱落者が多いかも知れない。

「先を急ごう」

俺はそれだけ伝えると先に進み始める。

対岸の先には下に降りる階段があり、俺達は二十階層を抜ける事に成功した。

上層で【グリーンウィング】が引っ張ってくれたおかげで、アイテムの残量も十分残っている。

俺は今回のアタックで、ダンジョンを攻略まで突き進むつもりだ。