軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31話 カインの悪だくみ

【アイスバード】に潜伏しているカインは潜伏先の部屋で一人で筋トレをしていた。

「千五百一、千五百二、千五百三」

背中には大きな鉄の塊を載せて黙々と腕立て伏せに興じている。

最初はスクワードと共に【 黒い市場(ブラックマーケット) 】の動きを探っていたのだが、スクワードから【お前が居たら目立って仕方ないから邪魔だ】と謹慎を言い渡されたのである。

カインは大けがを負って動けないという設定なので、ずっとこの隠れ家にいる羽目となった。

現場からの叩き上げで、ここまで成り上がって来たカインにとって、部屋に何カ月も籠るのは苦痛だった。

しかし相手はあの巨大組織【黒い市場】である。

不用意に姿を見せて奴らの情報網に引っかかってしまえば、この計画は失敗するかもしれない。

カインもそれが解っているので、暴れたいという自分の感情を律し、計画通り隠れ家に籠っていた。

暇なら暇で、久しぶりに筋トレを始めてみるかと思い立ち、やり始めたら楽しくなってきた所でもある。

筋トレを本気でやり始めて数カ月、衰えていた体は全盛期を彷彿させる盛り上がりを取り戻しつつあった。

元々恵まれていた身体は筋肉という鎧を纏い、更に一回り大きくなっていた。

初見の者がカインを見たのなら、体から発せられる存在感に飲み込まれ委縮するに違いない。

「ふぅぅ、次は素振りだな」

近くに置いてあった剣を模造した鉄の塊を片手で持ち上げると、ブンブンと振り回し始めた。

この鉄の塊の重さは五十キログラムあり、普通の冒険者なら両手を使っても振り回す事は出来ない重さだ。

「ガハハハ。S級ダンジョン並みって俺言ったけど、こりゃSS級のミッションだな。俺が暇すぎて死んでしまうかもしれんぞ」

筋トレを終えたカインは豪快に笑いながらそう呟いていた。

日課の訓練を終え、次に備え付けのソファーに座るとアリスから届けられた手紙に目を通した。

「俺が居ない間に【オールグランド】がめちゃくちゃになってやがるな」

カインはアリスからの手紙を忌々しそうに読んでいた。

「しかしだ。あのハンスがどうしてここまで落ちぶれたんだ。与えられた地位に目がくらんだのか? 金か? 女か? 俺に見る目がなかったのは確かだろう。しかしハンスも昔は夢を持って真っ直ぐに頑張る奴だった筈だ……」

カインは昔のハンスの事を思い出す。

カインはハンスがC級冒険者になった頃から知っていた。

昔のハンスは粗削りではあったが実力もあり、志も歪んでいなかった。

B級冒険者になった後、短期間でA級まで駆け上がってきた。

その時に今のメンバー達と出会い、パーティーを組み直している。

だからこそカインもハンスの才能を認め、もっと伸びて貰おうと思ってラベルに預けたのだ。

結果、ハンス達はたったの一年程でS級冒険者に達した。

「お前本当に何があったんだ? 誰かに誑かされたとしか…… 順調に成長してると思ったのによ。糞ったれが!!」

カインは悔しそうに悪態をつく。

「そう言えば手紙にはレミリアの事も書かれていたな。何やらきな臭い動きをしていると。どちらにせよ、この件が片付いた後、全てを解明しハンスにはシッカリと責任を取って貰う必要がある。俺自身の手でこの件は終わらせねーとな」

目をかけていた者を罰したくはないが、手紙に書いてある事が本当ならハンスはもはや手遅れで、それ相応の償いはして貰うつもりだ。

当然、自らの進退についても考えなければいけないだろう。

ハンスの愚行はそれ位、重いと言わざるを得ない。

「後、アイツには謝らないとな、あいつがギルドから追い出されたのも全部ハンスを任命した俺のせいだからな。俺が出来る償いはさせて貰う」

アリスからの手紙を読み終えたカインは体重をソファーに預け、天井を見上げた。

この件が片付いたら色々とやらないといけない事がありそうだ。

早くギルドに帰る為にも、今は【黒い市場】を潰しておかなければならない。

【黒い市場】に関する情報収集は全てスクワードが先頭に立ち、部下の冒険者達を使いながら行っている。

スクワードは優秀な人材で、この手の仕事も得意としていた。

カインも信頼しており、スクワードに任せているので口を出すつもりはない。

数日に一回、スクワードもカインの元に差し入れと手に入れた情報を持って訪れてくれる。

定期連絡という事もあるのだが、カインにとってはガス抜きという意味合いが大きかった。

今日もスクワードは大量の酒、タバコ、そして食料を抱えてカインの元へ訪れていた。

「スクワード。悪いな!! んでどうだ? 何か尻尾はつかめたのかよ?」

真新しいタバコを咥え、カインはスクワードに問いかけた。

「あぁ、長い間辛抱させたな。奴さんも用心深くてな、中々動きを見せなかったが、やっとわかったぜ」

「流石だスクワード。それで【黒い市場】の狙いは何だったんだ?」

「奴らの狙いは商業都市【サイフォン】だ。今は【サイフォン】に多くの兵隊を潜り込ませているみたいだぞ」

「【サイフォン】ねぇー。何かあったか?」

「そう聞いてくると思って、事前にしらべている。【サイフォン】と言えば、来月に同盟国【グランシール】の王族が出席する式典がある筈だ」

「そう言えばそんな式典があったな。なるほど…… 臭いな」

「確実ではないが、その可能性は高いだろうな」

スクワードは自分が掴んだ情報をカインへと伝える。

「なるほど、その為にギルド会議を襲ったっていう訳か。確かにその式典には護衛として毎回、俺達のギルドにも声が掛かっていたからな。もし俺が殺されていたら護衛どころじゃないかもしれんな。ふむ一応筋は通る。それで【オールグランド】は今回、依頼を受けているのか?」

「お前の読み通りだ。ギルドマスターが襲撃をされた情報が式典の運営にも入って、向こうの方が気を使って別のギルドに護衛の話が行っているみたいだぞ。【黒い市場】の狙いが式典の襲撃であるなら、【オールグランド】が居ない分、狙い通り警備は手薄になっていると言えるだろう」

「ビンゴだな。だが今回はそっちの方が動きやすくて都合がいい」

「それでどうする? ギルドに戻って兵隊を送り込むか?」

「いや、大人数で動けばあの【黒い市場】の連中だ。気付くかもしれん、今回は少数で行くぞ。俺とお前の部隊とアリスの部隊…… あと…… そういえばアリスが送って来た手紙に書いていたな。S級にも匹敵する末恐ろしいパーティーだったと…… よし決めた。関係はないがアイツ達も巻き込んでやろう。ついでに謝れるし一石二鳥だぞ」

「あいつ等って…… カイン、まさか!! ラベルの事か!? おいっやめておけって。ラベルは関係ないだろう。ラベル達が怪我でもしたら、どう責任をとるつもりだ?」

「分かってるって、最初に俺自身がアイツが作ったパーティーの実力を確認して無理そうならこの件は無しだ。来て貰った報酬を渡して帰って貰う」

「じゃあ、お前が認めた場合は?」

カインは上機嫌に鼻を鳴らして笑った。

「当然、餌をチラつかせて無理矢理、協力させるんだよ。なーに俺はあの【変態ポーター】が欲しているアイテムを持っているんだからな。きっと喰いつくぞ。スクワード、直ぐにアリスと連絡をとらねーとな。作戦を練り上げるぞ!!」

「はぁ~。お前は言い出したら聞かない奴だからな。ラベルに真相がバレて、お前がシバかれても俺はフォローしねぇ~からな!!! 俺までとばっちりを食ったらどうするつもりなんだよ。ラベルが本気で怒ったら怖えぇんだからよ」

スクワードはラベルが怒る姿を想像し、身を震えさせ肩を落とした。

一方、カインのテンションは上がっていく。

「俺があいつと一緒に何かやるのって何年ぶりだ!? へっ楽しくなってきやがった!!」

ずっと息を殺して身を隠し、自己鍛錬に励み続け、ストレスが溜まりまくっていたカインが遂に動き始めた。

もうカインを止める事は誰にも出来ない。