軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23話 繁殖期 その1

繁殖期(はんしょくき) とはダンジョン内で魔物が大量に生まれる過酷な一カ月間の事である。

期間中、ダンジョンで生まれた魔物達はダンジョンからあふれ出し周囲の人々を襲う。

なので繁殖期の間、ギルドは各村々に冒険者達を派遣し、戦えない人々を守っていた。

俺達は冒険者組合の命令で、三十人程度の小さな村の護衛任務を受け、その村に向かっている最中である。

移動中に俺は初めて繁殖期を迎えるダンに繁殖期の事を説明していた。

「ラベルさん、俺達はその繁殖期の間、魔物から村人を守るのが仕事って訳?」

「あぁそうだ。冒険者組合が魔石の売買の独占を国から認められているのも繁殖期に国民を守っているからなんだ。冒険者組合の下部組織に含まれる全てのギルドは冒険者組合の命令に従う義務が発生する」

「へぇーそうなんだ」

「お前は初めてだから知らなくて当然だ。リオンは去年の繁殖期はどう過ごしたんだ?」

「私は商人の移動中の護衛したり、人手が足りないギルドの応援をしたりしてたかな」

「それが一般的だな。ギルドに所属していない冒険者は繁殖期の護衛の任務から外されている。だけど繁殖期の間はダンジョンに潜れないから、何処かのギルドの応援をしたり、民間の依頼を受注して過ごしているんだ」

「でもさぁ、繁殖期って一カ月間だけなんだろ? 始まる前に全部のダンジョン攻略したら守る必要なくね?」

「おっ。中々いい質問だな。ダンが言った事は基本的には合っている。だけど全部のダンジョンは駄目なんだ。何故だかわかるか?」

「うーん」

ダンは一生懸命考えていたが、直ぐには答えが出なかった。

「C級ダンジョンは一カ月以内に再び出現するから?」

黙って話を聞いていた、リオンが正解を答える。

「その通りだ。C級だけは一カ月以内に復活してしまう。しかも復活する場所がランダムだ。もし手薄な場所の近くでダンジョンが出現したらどうなる?」

「たぶん、守り切れない?」

「そうだ。だからC級ダンジョンだけは残しているんだ。そしてダンジョンの近くには多くの冒険者で護衛させ、逆に安全な場所には少人数で護衛させる。そうやってバランスを取っているんだ」

「へぇー ラベルさん。よくわかったよ」

「よし、少しずつ覚えていけば良いからな。そうだなあと一つ…… 緊急クエストについても教えておこうか」

「緊急クエスト?」

「そうだ。ギルドに所属している冒険者達だけでは対応しきれない状況が発生した時、冒険者組合から緊急クエストが発動されるんだ」

「私はまだ一度も緊急クエストを見た事がない」

「そりゃそうだ。頻繁に発せられるクエストじゃないからな、だけど発せられた時は普段より何倍も高い多額な報酬が支払われるから、野良冒険者にとっては美味しいクエストになっているんだ」

繁殖期は冒険者を続けている以上は必ず関わり続ける事になる。

今の内に繁殖期がどういう物なのかを知って欲しかった。

「駆け足で説明してしまったが、どうだ? 何となくわかったか?」

「何となくわかったよーな?」

「うん。とても分かりやすい説明だった。理解できないダンが悪い」

「リオンねえちゃん、そりゃないぜ」

俺達はその後も雑談などをしながら冒険者組合から聞いた村を目指した。

★ ★ ★

冒険者組合の職員に聞いた話によれば、俺達が守る村の近くにはダンジョンも無く、もし魔物が現れたとしても遠い場所のダンジョンから流れ着いた少数の魔物位だろうとの話だ。

ならそれ程気負う事もないだろう。

俺達は繁殖期が始まる三日前の正午には担当する村に到着していた。

リオンとダンは普段と同じ装備だが、俺は少し違っていた。

俺が背負っているポーター専用のアイテムが詰まったリュックの大きさが普段の倍以上なのだ。

これは一カ月間という長い間を戦い抜く為のアイテムを詰め込んだ結果である。

重量も倍以上なので少々動き辛いが、重くて動けない程でもなかった。

「ちっちぇー村だなぁ。ラベルさんこの村を俺達が守るのか?」

「ダン、そんな事言っちゃダメ」

能天気なダンに引き換え、リオンは少し緊張している様に見える。

「ダン、リオンの言う通りだ。どんな村だって住んでいる人達には大切な場所なんだ決して馬鹿にしてはいけない。それと油断は決してするなよ。俺達の油断で村人が命を失う事だってあるんだからな」

「あっそうか。ラベルさん、ごめんよ」

「ダンが解ってくれたのならいいんだ。村に着いたから、まず村長に挨拶をして村の周囲の事を案内して貰おう」

「うん。了解した」

「だけど繁殖期って三日後なんだよな? ラベルさん、俺達ちょっと来るの早くないの?」

「いいや。俺は最低でも三日前には到着する必要があると思っているぞ」

「早く来てどうするんだよ?」

「ダン、考えてみろ。俺達は三人しかいないんだ。村の周囲の確認もあるし、繁殖期の期間中、何処から魔物が現れるか解らないんだ。安全を考えて防護柵の設置と補強。後、アイテム作製とかやる事は一杯あるからな。ダンも休んでる暇はないと思っておけよ」

「ひぇぇぇ。そんなにやる事あるのか?」

「当然だろ。繁殖期が来る前に村の周囲の地形を把握する事は戦う時でも逃げる時でも有効だ。それに防護柵を補強すれば、その分俺達の負担が減って余裕を持って村を守れる様になる。全ては村人を守る為なんだ」

「ぐへぇぇ…… 話を聞いただけで疲れてくるぅぅ」

「ダンは男の子なんだよ。だから頑張らないと」

「へーい」

リオンはダンの事を弟の様に扱っていた。

ダンもリオンの事を先輩冒険者としてちゃんと慕っており、パーティー内は良い雰囲気を作れている。

村に着いたのは昼を過ぎた頃、家が十軒ほど建てられており、情報通り本当に小さな村の様だ。

俺達は近くにいた村人に声を掛けて、打合せていた通り村長の家を訪れた。

村長は六十歳を過ぎた位の老人だった。

「冒険者組合から派遣されたギルド【オラトリオ】と申します。今回は精一杯守らせて頂きますのでよろしくお願いします」

「いえいえ。こんな小さな村まで来てもらって、本当に感謝しております。どうかよろしくお願いします」

「それじゃ、まず最初に村の周辺を確認しておきたいのですが、地理に詳しい人を一人付けて貰えませんか?」

「解りました。直ぐに手配いたします」

「それと俺達が休める場所を貸して欲しいのですが」

「それなら、空き家がありますので、ご自由にお使い下さい」

俺達は村長に案内された空き家で荷物を整理した後、案内役の男性に村の周辺を案内して貰う事となった。

案内役の村人と合流した俺達は早速村の周辺を案内して貰いながら、俺は村の周辺の詳細な地図を作っていく。

村の周辺は深い森が広がっていた。

村の近くには水量が十分な小川もながれているので、水不足になる事もない。

森の中では多数の動物たちも生息しており、動物を獲る事で肉も得られる。

村人は山に入り山菜や木の実、罠で動物を仕留め干し肉を作ったりしていた。

それを定期的に訪れる商人に売ったりして、生活しているようだ。

「ラベルさん、何やってるの?」

俺は鉤を先につけたロープを至る所に投げつけていた。

俺の行動に興味をもったダンが尋ねてきた。

「これは高さを測っているんだ。ロープには一定間隔に印がつけてある。高さを知りたい場所はこれを使って高さを調べるんだ」

「へぇー。でも高さを調べて何の役にたつの? 地図だけじゃダメなの?」

「どの情報が必要で、必要じゃないないなんて、今の段階じゃ分からないからな。調べる手間が余り変わらないなら測っておいた方がいいだろ?」

「多少の手間は惜しむなって事?」

「そういう事だ。ダンももっと経験を積めばきっと解ってくる筈だ。ただ今は俺がやっている事を見ていてくれ」

「うん。わかったよ」

俺は作成中の地図に測量の数値を書き込んでいった。

「これは……」

あと少しで村の周囲が大体把握できるという時、俺達はとんでもない物を見つけてしまう。

「ラベルさん!! これってダンジョンの入り口!?」

引きつった表情でリオンが叫ぶ。

俺の方も同時に気付いており、今後どうすればいいのか?

思考がフル回転し始めた。

「とにかく。一度村に戻って、すぐ村人に逃げる様に伝えよう。俺達三人だけで繁殖期の間、村を守る事なんてできる訳がない」

俺達は直ぐに村へと引き返すと、村長にダンジョンの事を伝えた。

その時点ですでに日も暮れかけている。

「なんですと!! 村の近くにダンジョンが……」

「はい、繁殖期に入ればダンジョンから魔物が這い出てきます。我々三名だけでは村人全員を守る事なんてできません。なので一度街に避難するべきです」

「わかった。至急村人に伝えて村から出る準備をしよう。村人全員に周知をして、その後支度を急いだとしても、村を出るのは明日の朝になるかと」

「大丈夫ですそれで十分間に合います。繁殖期は明後日の早朝からですから。もちろん村を出てからの護衛は我々が行いますので、ご安心ください」

「どうか…… 宜しくお願いします。我々を助けて下さい。繁殖期以外の時なら村が潤うダンジョンだと言うのに、何と運が悪い事だ」

「それでもし避難するなら少し遠いですが、冒険者組合に行く事をお勧めします。冒険者組合は大ホールも持っていますので、一カ月間住む場所を無償で提供してくれますし、食事などの手厚い保護も受けれます」

「おぉぉ、それは助かります。それでは私達は冒険者組合に向かう事にします」

村長と話を終えた俺達は直ぐに次の行動へと移す。

「ダン、リオン今から見つけたダンジョンに潜ってみるぞ」

「えっラベルさん、もしかして繁殖期が始まるまでにダンジョンを攻略する気なの?」

リオンが驚いた顔を浮かべた。

「何を言っているんだ。俺がそんな危険な事をする訳がないだろ。出現したダンジョンが何級なのか調べておく必要があるだけだ。幸いにも俺は大体の魔物を知っているからな、ダンジョンの上層に出てくる魔物を見たらおよその見当もつく。今はまだ繁殖期は始まっていないから潜る位は可能だ。今の内に調べて冒険者組合に情報として併せて伝える」

「うん。了解した」

俺達はダンジョンの一、二階層だけ探索を行った。

その結果、このダンジョンがC級ダンジョンだという事、そして出現する魔物を知る事が出来た。

「ダン。悪いが今から全力で街の冒険者組合に戻って、このC級ダンジョンの事を伝えてくれ。そうすれば応援の冒険者が駆けつけてくれる筈だ」

「うん。解ったよ」

俺は村までの地図と村人の逃避ルート、ダンジョンの情報などを書いた紙をダンに渡した。

ダンも一刻を争う状況とちゃんと理解しており、そのまま休む事なく街に向かって走って行く。

「足の速いダンなら。五時間もあれば街に戻れると思うが、冒険者組合が緊急クエストを発動したとして、集まった応援の冒険者が馬車で向かってくれたとしても…… これは本当にギリギリだな。こっちは応援が来る間、たった二人で三十人の村人を守りながら移動しなくちゃいけないとはな」

結構ヤバい局面となってしまった。

俺は幾つもの死線をくぐり抜けてきたが、今までは対象が俺自身や仲間の冒険者達であった。

今回のように、戦えない普通の村人を魔物から守りながら数十キロも移動する方が、遥かに難度が高い。

俺が苦渋の表情を浮かべているのを見てリオンが俺の手をとる。

「ラベルさんなら大丈夫。きっと今回の事も乗り越えられる。私も何でもやるから」

二十歳近くも年下の少女に慰められてしまった。

それ程までに俺は焦った顔を浮かべていたのだろうか?

けれどリオンのおかげで落ち着きも取り戻せた。

俺達は出来る事しか出来ない。

なら出来る事は全てやるしかないだろうと考えを改める。

「ありがとう、もう大丈夫だ。さっそく行動に移るぞ」

「うん。何でも任せて」

やる気を取り戻した俺は直ぐに行動に移す。

準備する時間も余りなく、今日は殆ど眠れないだろう。

けれど俺の気力は充実していた。