軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

132話 私の宝物

私は今、オラトリオの仲間と共にアドバンス工房へと向かっている。

発注していた新しい装備の試着が目的だ。

新しい装備について楽しそうに予想を口にする仲間の姿を見て、私は微笑みを浮かべる。

今回、私の装備はない。

装備を発注した時、私はまだオラトリオに加入していなかったからだ。

そういう理由なので仕方ないと割り切っていた。

それに私はS級ダンジョンでも通用する装備を既に持っているし、新しい装備を手に入れて仲間が強くなるのは本当に嬉しい。

私達がアドバンス工房に到着した後、店員に奥の部屋に通された。

アドバンス工房は首都で一、二を争う人気店である。

そのアドバンス工房で作った装備なら、高ランクダンジョンで強い力になってくれるのは間違いない。

そのまま待っていると、木箱に収納された装備が運ばれてきた。

私は試着の邪魔にならない様に、少し離れた場所から全員の様子を見ていた。

最初に目に入ったのはダンくん。

彼は目を輝かせていた。

ダンくんの事は素直で可愛らしい弟の様に思っている。

「うふふ、ダンくん。はしゃいじゃって! おもちゃを貰った子供みたいね」

次にリオンちゃんへと視線を変えた。

リオンちゃんも普段では見せない極上な笑顔を浮かべている。

今の笑顔を見せれば、殆どの男性冒険者は恋に落ちてしまうんだろうと思った。

「リオンちゃん、可愛い! 新しい装備を着る時って、流行の洋服を買う時より嬉しいもんね」

今の感想は女性として自分でもどうかと思うが、冒険者の女性はだいたいそんな感じだろう。

私がそのまま視線を横に滑らすと、リンドバーグさんが真剣な表情で新装備を見つめていた。

「この様子だとまだ気にしているんだろうな…… リンドバーグさんは悪くないのに」

リンドバーグさんの複雑なその表情を見て、私は今日までの事を思い返す。

元S級冒険者ハンスの暴走によってラベルさんがギルドから追い出され、退職金として支払われた三千枚の金貨が奪われた。

そしてその金で注文していたのが今回の新装備だ。

その後ハンスは断罪されたのだが、発注してから時間も経過しており、キャンセルをしても全額は戻らない状態だった。

知らずに片棒を担いでいたリンドバーグさんは、自分の犯した罪の重さに潰れそうになっていた。

そこでラベルさんは装備を自分達用に作り直して貰う事としたのだ。

そして不足額の返済という名目でリンドバーグさんがオラトリオに加入する事にもなった。

「本当、色んな事があったよね」

次にラベルさんに視線を向ける。

ラベルさんはアドバンス工房の店主であるアドバンスさんと楽しそうに話をしていた。

最近はラベルさんを見つめる事が多くなった気がする。

気付いた時にはラベルさんに視線を向けてしまっているのだ。

(どんな話をしているんだろ?)

そんな小さな事でも気になる自分がいる。

自分の気持ちはもう理解していた。

私はラベルさんの事が大好きで、ラベルさんに私の気持ちを伝えたいと思っている。

しかし今はオラトリオが飛躍する為に頑張っている最中だ。

私の行動でギルドの状態をギクシャクさせる訳にはいかない。

だから今は自分の気持ちと行動にブレーキを掛けている。

(ずっと一緒にいるんだもん。落ち着いたら勇気をだして……)

私は決意を新たにガッツポーズを取った。

その間にもラベルさんは新しい装備を身につける為に着替えをしていた。

「えっ、うそっ!? 裸!!!」

私は着替え中のラベルさんを見て固まってしまう。

顔を両手で隠したが、目の部分だけは隠していない。

上半身だけ裸となったラベルさんは鍛えられた肉体をさらけ出している。

ダンジョン内でも何日も共に夜を過ごしてきたが、着替えなどは当然別々でこんな近くで裸をみる機会が無かった。

「お父様は筋骨隆々って感じだけど、ラベルさんは無駄な筋肉が一切無い感じ……」

私はラベルさんの裸体に釘付けとなっていた。

心臓の鼓動が大きく激しくなっていく。

これだけ緊張したのはS級ダンジョンのダンジョンマスターと対峙した時以来だ。

その後ラベルさんは、職人から手渡された服に着替え始める。

(もぅ、着替えちゃうんだ……)

残念そうに私は呟いた。

着替えた服は特別な糸で製作された戦闘用の服だった。

シンプルなデザインだが、オーダーメイドという事もありラベルさんの身体にフィットしている。

(どうしよう、格好良すぎるんだけど……)

そして戦闘服の上から軽装特有の防具を取り付ける。

私は新装備に着替えたラベルさんから目が離せなくなっていた。

もしこのままダンジョンに潜ったとしたら、きっと私はラベルさんばかりを見て、魔物が目に入らないかもしれない。

「このままじゃ駄目だ!!」

私は首を左右に振り、邪念を頭から追い出した。

ダンジョンで足を引っ張る事があれば命に関わるかもしれない。

「うん、これは慣れておかないと駄目だよね」

そう考えた私は、ラベルさん耐性を付ける為にその後もラベルさんを見つめ続けていた。

◇ ◇ ◇

全員の試着が終わり、私達は店内へと戻ってきた。

装備は想像以上で誰も文句を言う者はいない。

小さな修正を行うらしいので、次が納品と言う事になるだろう。

「アリス、約束のアクセサリーの件だけど、この店で良い物がないか見てみたらどうだ? もし無かったら別の店でもいいけど」

店内に戻った瞬間、ラベルさんが私に話しかけてきた。

「それじゃ、ちょっと見て回ってみてもいい?」

「おう、いいぞ」

ラベルさんは即答してくれた。

「ラベルさん、俺帰ってもいい?」

「俺が残っているから用がある者は気にせずに帰ってくれよ」

ダンくんは帰りたそうにしていた。

「リオンさん、ギルドホームで見せたいものがあるのですが、これからどうですか?」

「あっうん、それじゃ…… 私もリンドバーグさんと先にホームに帰ってるね」

「おう、気を付けて帰れよ」

リンドバーグさんはリオンちゃんに用事があるみたいで、リオンちゃんと一緒に帰っていった。

(どうしよう…… いきなり二人きりになっちゃったんだけど……)

私の後ろにラベルさんが立っていた。

(これって…… 久しぶりの買い物デート!?)

私が鏡が付いたアクセサリーを覗き込むと、私の後ろに立っているラベルさんの顔が見える。

(どうしよ、嬉し過ぎるよ)

「ラベルさん」

「何だ? 欲しい物が決まったのか?」

「ううん、まだ。それで参考に教えて貰いたいんだけど、ラベルさんはどんなアクセサリーが好きなの?」

「どんなアクセサリー…… そうだな…… 付属の効果がわからないと何とも言えないなぁ~」

「付属効果って……」

(私が聞きたいのは、そういう答えじゃない!!)

私は心の中で地団駄を踏んだ。

すると女性の店員さんが私に声を掛けてきた。

「お客様、何かお探しでしょうか?」

「アクセサリーを探してて」

「アクセサリーですね。色々ありますよ」

「何かお勧めはありますか?」

このまま自分で探していたら、迷って時間がかかってしまう。

ならばプロである店員さんのお勧めを買うのもいいかもしれない。

「はい、お客様にお似合いの商品が幾つかございますので、お持ちしますね」

店員さんは小走りで私の前から離れて行った。

アドバンス工房は武器防具の総合店舗であり、アクセサリーも数多く取りそろえている。

アクセサリーは付属効果や性能はもちろんだが、デザインでも販売価格が変わる。

その後、戻ってきた店員さんは私に似合いそうな可愛らしいデザインのアクセサリーを幾つか持ってきてくれた。

「これなんていかがでしょう? 最新作のネックレスです。大きな魔石が取り付けられており、魔石の効果によって装備者の魔力量が増加します」

「それはいいかも。付けてみていいですか?」

「どうぞ」

私は店員さんからネックレスを受け取ると、服の上からネックレスをぶら下げてみる。

「ラベルさんどうかな? 変じゃない?」

そしてラベルさんに相談してみる。

「あぁ、似合っているぞ。効果も魔力増加ってのも珍しいし、良いんじゃないか?」

ラベルさんも良いと言ってくれた。

「他にはどんな物がありますか?」

取り合えず店員さんが用意してくれたアクセサリーは全て確認してみる。

残りのアクセサリーはイヤリングと指輪だった。

どちらも使い勝手の良い効果が付いていたが、最終的に私はネックレスを選んだ。

私は店を出た所で待っていた。

そして店内から出て来たラベルさんの元に駆け寄る。

「ありがとうございます。あのネックレス高くなかったですか?」

レジの後ろで支払いを見つめるのも失礼だと思い、先に店から出ていた訳だ。

「想定の範囲内だったから、アリスも気にしなくていいぞ」

「何だかおねだりしたみたいで、すみません」

「それは良いって! このネックレスを大事に使ってくれよ」

「うん、大事に使うから」

私に差し出されたネックレスが入った袋を私は笑顔で受け取る。

「それでだな…… えっと……」

ラベルさんが顔を指でかきながら何かを言おうとしていた。

「どうしたの?」

「えっと、レジの近くでこれを見つけてな! アリスに似合いそうだからついでに買ったんだ。付属効果もない安物のアクセサリーなんだけど」

そう言いながら私に可愛らしい 髪留め(バレッタ) を差し出した。

「えっ…… 私の為に買ってくれたの?」

つい困らせる様な事を口にしてしまった。

だけど仕方ない。

こんな嬉しいサプライズをされたら、本音を聞きたくなってしまう。

「そんな大層な物じゃないけど、アリスには本当に世話になっているからな! ただ俺はセンスが悪いから気に入って貰えるかはわからないけど」

ラベルさんも慣れていないのだろう、とても恥ずかしそうにしていた。

「ううん、凄く素敵。ありがとう、大切にします」

一瞬、抱き着きたくなる衝動に駆られたが、何とか思いとどまる。

大好きな人が私の為に選んでくれた事が本当に嬉しかった。

ネックレスも嬉しいが、私にとっては心がこもっている分 髪留め(バレッタ) の方が嬉しい。

この髪止めは私の宝物となった。

(私達がS級ダンジョンを攻略したら私はラベルさんに想いを伝えよう)

ネックレスと 髪留め(バレッタ) を大事に抱え、私はそう決意した。