軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117話 報酬

首都に帰ってから十五日が経過した頃、俺達はギルバード伯爵家に招待された。

伯爵家の紋章が刻まれている豪華な馬車で迎えに来たから、道行く人々に注目されて少々恥ずかしい。

到着したギルバード伯爵家は完全修繕されており、襲撃された面影は見当たらない。

その外観は以前よりも煌びやかに感じる位だ。

正門の門兵の顔にも見覚えがあり、俺達の顔を見ると笑顔で手を上げてきた。

俺の記憶が正しければ傭兵団の一員で間違いない。

馬車を降りると玄関の前には、メイドを筆頭に料理人や庭師など伯爵家で働く使用人の人々が横一列に並んでいた。

そしてその一番前に執事長のマルセルさんが立っている。

マルセルさんには俺達も色々と世話になっていたので、会えて嬉しく感じた。

「オラトリオの皆様、この度は大変お世話になりました。使用人を代表しまして、お礼を申し上げます」

マルセルさんが頭を下げた後、全員が呼吸を合わせて同時に頭を下げる。

「いえ、俺達だけの力じゃありません。俺の手紙をマルセルさんが届けてくれなければ、違う結果になっていたかも知れません」

「そう言って貰えると、私も報われます。さぁ旦那様がお待ちです。どうぞ屋敷の中にお入り下さい」

マルセルさんに案内され、俺達は客間に通された。

その後、飲み物が運ばれる。

「皆様、飲み物は紅茶でよろしいでしょうか? 冷えた物が良いのなら果実を絞った飲み物もご用意できます」

最初にマルセルさんが部屋に入って来た後、二名のメイドが台車を押しながら入って来る。

台車の上には二つの容器が置かれている。

一つは熱い紅茶で、もう一つは冷たい果実水なのだろう。

「俺は紅茶でいい、みんなはどうする?」

「私も紅茶かな、リオンちゃんはどっちがいい?」

「紅茶でいいです。あっ砂糖が在れば欲しいかも」

「俺は冷たい物がいいなー ねぇ果実って何の果実?」

「私も紅茶でお願いします」

最後にリンドバーグが告げたとほぼ同時に、それぞれのリクエストした飲み物が前に並びだす。

(流石、手慣れているな)

紅茶に口を付けると、香りも良くとても美味しかった。

アリスに視線を向けて見ると、アリスも満足そうに紅茶を楽しんでいる。

(アリスが満足しているんだ。やっぱり最高級の紅茶なんだろう)

「これ、うっめぇぇぇっ! お代わり!!」

「ダン、恥ずかしいから、本当にやめて……」

アリスの横では、ブレないダンと突っ込むリオンのいつもの風景が繰り広げられている。

美味しい飲み物を飲んでリラックスしていると、扉が開きギルバード伯爵とミシェル令嬢が並んで入ってきた。

「久しぶりだね。元気そうで何よりだ」

「今回はお招き頂き、ありがとうございます」

俺達は客間から隣の部屋へと案内された。

隣の部屋には大きなテーブルと豪華なソファーが向かい合う様に置かれており、ソファーに座る様に促される。

三人が座れるソファーに俺とアリスとリオンが座り、ソファーの後ろにリンドバーグとダンが立つ。

向かい合わせのソファーにギルバード伯爵とミシェル令嬢が座る。

俺達の挨拶が終わった後、ギルバード伯爵が話し出した。

「申し訳ないね。本当はもっと早く来て貰うつもりだったけど、事後処理に手間取ってしまって、こんなに遅くなってしまった」

「気を使って頂きありがとうございます。しかしそれほど待ったという感じはしておりません」

「そう言って貰えると助かるよ。ブロッケンを拘束した後、屋敷を捜索して余罪を探していたんだよ」

「なるほど、それで何か出てきましたか?」

「あぁ、ブロッケンは鉱山から掘削された資源の一部を横流ししていたよ。証拠の裏帳簿が出てきたからね」

「横領ですか…… 裏帳簿が出てきたとなると、もう言い逃れはできませんね」

「その通りだ。それに街の人々に圧力をかけていた事が発覚した。街にブロッケンが捕まったと知れ渡った途端に今までの悪行があふれ出てきて発覚した」

「それは何となくわかっていました。街で飲んでいる時に探りを入れていたんですが、街の人々の多くがブロッケンに味方をしていたんで」

「ブロッケンが犯した犯行で一番罪が重い事、それは最愛の娘であるミシェルを巻き込んだ事だ。幾ら兄弟だと言っても、これだけの裏切り行為の数々、もはや掛ける情も残っていない」

ブロッケンが最終的にどうなったかは口にはしなかったが、その言葉だけでブロッケンの運命がどうなったのかは容易に想像できた。

「事後処理の話はこの位にして報酬の話をしよう。今回の事件で【オラトリオ】には大変世話になったのは事実。その功績に対して報酬を支払いたいのだが、もし希望があるのなら教えてくれないか? 金銭ならば、ある程度の要望にも応える事も出来ると思う」

俺は目を閉じて無言になると、一連の出来事を思い出す。

そして出した結論を口にした。

「オスマン支部長から今回の依頼の話を提案された時に、報酬金額も提示されています。それに報告済みなので知っているとは思いますが、ブロッケンの屋敷に潜りこんでいる間にブロッケンから百枚以上の金貨を受け取っています。その金貨だけでも報酬としては十分だと考えています」

俺の回答を受け、ギルバード伯爵が少し笑った様に見えた。

「実は報酬の件でオスマン支部長に相談していたんだ」

「相談ですか!?」

「そういう答えが返って来るだろうと支部長は言っていたけど、本当にその通りの返事が返って来るとは思ってもみなかった。今回で【オラトリオ】の功績は誰もが理解している。もし無欲が美徳だと勘違いしているのなら【オラトリオ】の未来は短いかもしれないよ」

つき放すような言葉だが、ギルバード伯爵は俺達の事を気遣って言ってくれているのが俺には分かった。

要するに取れる時には利益を取っておけといいたい訳だ。

そこまで言って頂けるなら、これ以上報酬を拒めば失礼に当たるだろう。

しかし追加で報酬を要求するなら一体何を貰うのがいいのか?

そんな事を考えている間、沈黙が続いた。

「それじゃこうしよう、報酬は当初に約束した報酬金に加え、ブロッケン捕縛に協力してくれた報酬として金貨二百枚を追加する。だがそれだけではミシェルの命を守り切ってくれた事に対する礼としては、不十分だと私は考える。なので後日もう一度話し合う事でどうだろうか? だからその時までに欲しい物を考えていてくれ。もし何も要求がない場合は、今回支払う金額の倍の金貨を支払おう」

もしかして、この状況すらも予想していたのだろうか?

ギルバード伯爵は事前に用意していた報酬を提示する。

「今回頂ける金貨の倍!? それは余りにも多すぎるのでは?」

ブロッケンからは金貨百五十枚を手に入れていた。

街で飲み歩いた金と【ブルースター】に支払った金を引いても半分位は手元に残っている。

全ての金貨を足したら物凄い利益になる。

確かに命の危険は何度か感じたが、それはダンジョン攻略でも同じ事だ。

ギルバード伯爵が提示した報酬金の多さに正直戸惑いを覚える。

「それだけ私達が感謝をしているという事だよ。ミシェルは私の宝物だ。ミシェルを無傷で守ってくれて本当にありがとう」

ギルバード伯爵は父親の顔に変わり、隣に座るミシェルの頭を優しくなでる。

ミシェル令嬢も頬を朱色に染めながらも、そのまま受け入れていた。

「わかりました。追加の報酬に関しましてはオスマン支部長にも相談して決めたいと思います」

「あぁ、それでいい。日時は…… 一カ月後はどうだろう? 一カ月後に屋敷に来てくれ」

「一カ月後ですね。わかりました」

「私の話は以上だよ。さっき話した報酬は別室に用意してある。マルセルに声を掛けてくれ」

「はい。ありがとうございます」

「あの、お父様私からもお礼を伝えたいのですが、いいですか?」

ミシェル令嬢が立ち上がる。

ギルバード伯爵は笑顔を浮かべて了承する。

「【オラトリオ】の皆様、今回は助けてくれてありがとうございます。私の我儘で皆さんには多大な迷惑を掛けてしまった事を、この場を借りて謝罪します」

ミシェルは頭を下げた。

「頭を上げて下さい。私達はミシェル様の護衛として雇われたのです。ミシェル様が何処に行くにしても同行し、お守りするのが役目です。あの時も言いましたが、ミシェル様がその事に対して気にする事は何もございません。私達の事をそこまでお考え頂き、光栄に存じます」

俺も頭を下げた。

「今回の一件で、私はお父様がどの位私を愛して下さっているのかを再確認できました。私もお父様の事が大好きです。私は今後も勉学に励み、お父様が大切にしているこのギルバード伯爵領を豊かに、そして誰もが笑っていられるような場所にしたいと思います」

「機会がございましたら、またお手伝いさせてください」

「うふふ、言質は頂きましたよ。勿論そのつもりです」

ミシェル令嬢は、俺の答えを予想していたと言わんばかりに満足気に笑う。

この親にしてこの子あり、ミシェル令嬢が居ればギルバード伯爵領は安泰だと感じた。

「ダン、今回貴方には色々と教えて貰いました。私の専属として昼夜に渡って守ってくれて、本当にありがとう」

その後、視線をダンに向けると話し出した。

「いいって事よ。あっやべっ!! ありがとうございます」

ダンはどういった風に返せばいいか、解らずに動揺している。

今後はもう少し言葉遣いも教えて行かなければいけないだろう。

「ダン、私から別の贈り物があります」

「俺に?」

「えぇ、今日の為に私自ら買いに行った物よ。貴方の兄弟にお土産として持って帰って下さい」

そう言うと外に控えていたメアリーさんが、台車を押して部屋に入って来る。

台車の上にはお菓子が山の様に積まれていた。

その時、台車を押すメアリーさんの動きが俺の知っている感じと少し違う事に気付く。

「もしかしてあの店のお菓子!? こんなに…… 貰っていいのか?」

「えぇ、私からのお礼の気持ちです。貴方には高価なアイテムよりもこっちの方が喜ぶと思いました。職人さんにお願いしたところ、喜んで作ってくれました」

「これだけあれば、兄弟達も取り合いにならないぞ。ありがとうございます」

ダンが喜んでいる姿を見て、ミシェル令嬢も嬉しそうに笑った。

「皆さまの分も用意してありますので」

俺達の事まで気遣ってくれるとは、流石である。

その後全員がミシェル令嬢のお礼を受け取り、軽い別れの挨拶を済ませた後、俺達は帰る事となった。

「私達はこれで失礼させて頂きます」

俺を先頭にそのまま客室を出て行く。

廊下を歩いていると、メイドのメアリーさんが俺達を待っていた。

「皆様、お世話になりました」

「メアリーさんもお疲れ様でした」

その時、俺は先ほどメアリーの動きに違和感があった事を思い出す。

「メアリーさん、何処か身体を痛めていますか?」

メアリーさんは意味が解らないと言った様子だ。

「どういう意味ですか?」

「いえ、先程台車を押している時、動きに違和感を覚えたので」

「あれだけで気付くとは流石ですね。実は私も今回の事件を経て考えを改める事にしたんです」

そう言うと、無言で長いスカートを少したくし上げた。

「えっ!?」

突然の行動に全員が驚いている。

メアリーさんは素早い動きで太ももに手を伸ばすと次の瞬間、ナイフを握り構えを取っていた。

「なるほど、暗器ですか」

「そう言う事です。一度は戦場から逃げ出しましたが、これからもミシェル様の傍にお仕えする為には私も変わらなければいけません」

そう告げたメアリーさんは、手慣れた動きでナイフを太ももに固定したホルダーに仕舞う。

その瞬間に細く白い生足が見えていたが、本人は特に気にしていない様子だ。

「メアリーさんが傍にいる限り、ミシェル令嬢は安全ですね」

「ミシェル様に害を成す者は全て排除します」

ミシェル令嬢は凄腕の護衛を手に入れた事になる。

「ダンさん、これはミシェル様から預かった手紙です。家に帰った時でも読んで下さい」

「えっ!? 俺に?」

「きっとお礼状だろう。メアリーさんの言う通り家に帰ってから読んで差し上げろ。必ず返事は返すんだぞ」

俺はダンの背中を押す。

「わかった。んじゃ、読んで返事を出すって言っておいてくれよ」

「わかりました。お嬢様に伝えておきます」

「ダン君に手紙って怪しいなー もしかしてダン君の事が好きになったとか!?」

アリスが嬉しそうにリオンに話しかけている。

「伯爵令嬢があの馬鹿を好きになる訳がないと思いますよ」

「ですが、ダン君とミシェル令嬢の歳は近いですし、案外わかりませんよ」

リンドバーグまで話に乗っかっている。

リンドバーグがまさか恋話に入って行くとは思いもしなかった。

「無駄話はこの位にしておいて、マルセルさんの所へ行って報酬をもらってギルドホームに帰ろう。明日からはまたダンジョン攻略だからな!」

「「はーい」」

俺はダンの話題で盛り上がっていた三人の背中を叩く。

今回の依頼で、俺達は多額の報酬とお菓子を手に入れた。

帰りの馬車の中、俺は追加報酬の事を考えていたが、良い案は浮かばない。

幸い一カ月間も猶予があるので、無難にオスマンに相談した方が良いと諦めた。

しかしホームに帰った後に届いた一つの連絡で、追加の報酬内容が案外簡単に決まる事となる。