軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

確かに、覚えてるの

あれから部屋を出ないよう気をつけていたからか、あれ以来ルアンナと会うことはなかった。

部屋にこもりきりの生活を続け、五日後──。

私とリュカは、セレグラ地方へと降り立った。

「ここがセレグラ……さ、寒いですわー!!」

私は思わず頬を手で包んだ。

クリストファー殿下が言っていたとおり、セレグラは雪に覆われていた。

降雪量も多く、積もった雪は三メートルほどもあるのではないだろうか。

山の方などはもう、完全にあれだわ。雪山……。

防寒対策はしてきたつもりだけど、それでも露出している頬や鼻といった部分に風が直撃しますわーー!

びゅう、風がふきつけて、その冷たさに歯がカチカチと鳴った。

「さささ、寒いですわね!早いところ、本日の宿に向かいましょうか!荷物を置きたいですし」

意味もなく大声で私はリュカに言った。

それまで街の様子を窺っていたリュカが頷いて答える。

「ああ、うん。……シャーロット、大丈夫?」

「だだだ、大丈夫に見えます?」

寒すぎて、舌がかじかんで呂律が上手く回らない。ガチガチと歯を鳴らす私を見て、リュカが眉を寄せる。

「リュリュリュカ様はふふふ普段と同じ様子ででですわねねねね?」

もはや何を言っているのか判別が難しいほどである。

おかしい。私は寒さに弱いのかもしれない。いや、寒いですわ!!

セレグラの地元住人と思われるひとたちは、慣れたように雪かきをしたり、その場で話し込んでいるひとまでいる。

それに絶句した。

何ですのあのひとたちはーー!

私は寒さのあまり、洟だって垂れそうですのに!

淑女としてあるまじき姿である。

リュカは、そんな私を見て長居は禁物だと考えたらしい。短く答えた。

「早く移動しよう。あと、俺も寒いよ。顔に出にくいだけ」

か、顔に出にくいだけ、ですってーー!

この寒さを前にして顔に出ないひとがいるなんて、にわかには信じにくい。

私は、毛皮のコート、カシミヤのマフラー、厚手の手袋までしているというのに、寒くてたまらないですわよ……!

ガタガタ横に縦に震える私を先導する形で、リュカが歩き始めた。

予め、宿の予約はしていたのでその宿へと向かう。

分厚い二重扉をくぐると、途端、暖かい空気に包まれた。

「い、生き返りますわぁ~~~!」

私はこころから息を吐いた。

見れば、室内には暖炉に炎が灯っている。

コートについた雪を払っていると、ふと、リュカのコートには雪がついていないことに気がついた。

「リュカ様のコートは無事ですね?」

不思議に思って尋ねると、チェックインの手続きをしていた彼が「ああ」と気がついたように言った。

「俺の異能だよ」

「え……?雪がコートにつかない異能……?」

「いや、そうじゃなくて──」

リュカがそこまで言った時。

カウンター内の受付の女性が振り向き、私たちに言った。

「お部屋は202号室、204号室となります。こちらは、鍵となりますので無くさないようお願いしますね」

リュカがふたつの鍵を受けとり、その片方を私に手渡した。

「きみは204号室でいい?」

「構いませんわ。ありがとうございます」

結局、チェックインの手続きはすべてリュカに任せることになった。

部屋に荷物を置き、宿に併設されている食事処で昼食をとった後。

私は、早速テーブルに地図を広げた。

地図はこのセレグラ地方のものだ。

事前に確認済みのため、地図には書き込みがいくつもある。

アントニオ・アーベルの家は、ここから徒歩で二十分ほどしたところにあるはずだ。

彼は、街から少し離れた高台に住んでいるらしい。

ずいぶん不便だと思うのだけど、なぜ彼はここに住んでいるのかしら……。

少し気になったが、それは瑣末事だと私は気にしないことにした。

今はひとまず、裏の日記の鍵が解錠出来ればそれでいい。

地図を広げながら、リュカと場所を確認し、宿を出る。

途端、凍るような寒さが私を直撃し、また私は呂律が回らなくなった。

ガチガチと歯を鳴らしながら、歩くこと二十分。

いや、降り積った雪が思った以上に歩きにくく、予定より時間がかかったように思う。

アントニオ・アーベルの家がある高台の麓。

坂の手前に到着した時点で、既に宿から二十分が経過していた。

動いているためか寒さはすこし和らいだが、それでも寒いものは寒い。

その上、この坂道……。

私はうっかり、気が遠くなった。

それでも、足を動かさなければ進むものも進まない。

(ええい!ここまで来たのよ。大丈夫、あとはこの坂を登るだけだもの……!!)

もはや、気分は登山家である。

私は自分を鼓舞し、一歩足を踏み出そうとしたところで。

ふと、リュカが驚くことを言った。

「この雪だけどさ、きみの異能で消せないかな」

「……私の異能は、氷をどうにかすることだけです。これは、雪ですもの。雪は対象外ですわ……」

というか、できるものならとっくにしてますわ……。

そんな気持ちで答えると、リュカが驚いたように目を見開いた。

それから、私に言う。

「そっか。ごめん。今のシャーロットは、俺の異能を知らないんだったね」

「リュカ様の異能……。そういえば、受付で言いかけていましたわね」

リュカのコートに雪がついていなかった理由でもあるのだろう。

私が先を促すと、リュカが口を開いた、ところで。

なにかが、視界に飛び込んできた。

何だろうとそれを見た瞬間、リュカが叫んだ。

「シャーロット!!」

腕を彼に掴まれ、引き寄せられた。

「──」

彼の背中を見た瞬間、確かに、何か、を。

何かを、思い出した気がした。

(私、この光景……見たこと……ある?)

でも、どこで?なにで?

確か、そう。

その時も、こんなふうにリュカに呼ばれて……。

(ここではない、もっと、狭くて汚い道。そこでリュカが、突然、)

その瞬間、爆発が起きた。