軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

確かに『いや』って言ってたけどぉ!!

クリストファー殿下との話も終わり、私は帰宅することにした。

早いところ部屋にひきこもりたい。

ひとの目を見れば、強制的に他人のこころの声が聞こえてきてしまうのだ。

私はひとと目を合わせないよう細心の注意を払いながら、若干挙動不審になりながらも王城の回廊を歩いていた。

すると、反対方向から歩いてくるひとがいた。

遠目でも、すぐにわかる。

糸が張るような緊張感、とでもいえばいいのだろうか。冷たくて、冴え冴えとしていて、氷のような雰囲気をまとったひと。

私より、氷系の異能を持つに相応しい容姿をしている──リュカ・ツァーベルである。

そういえば、以前の私と彼は仲が悪かったのよね……。

今の私は、彼とどう接すればいいのだろう。

そう思って、リュカの顔を見た、瞬間。

しまった、と思った時には既に遅い。

《あれ、シャーロット……だよな?なんで 城(ここ) にいるんだ》

リュカは怪訝に眉を寄せた後、口を開いた。

「こんなところでどうしたの」

咄嗟にリュカの目から視線を逸らす。

かなりあからさまになってしまったが、仕方ない。

これ以上、私は他人のこころの声で無駄にダメージを負いたくない……!!

そう思ったのだが、一瞬遅かったようだ。

《うん、今日も可愛い。……クリストファー殿下に用があったのか?》

「…………へ?」

かわ、いい。

誰が、誰を?

思わず、逸らした視線をまた戻してしまったのがいけなかった。

リュカの灰青の瞳と視線が絡む。

その、瞬間。

《好きだよ、シャーロット》

優しい声が聞こえた。

一瞬、あまりにも優しいその声が誰の声のものなのかも分からなかったし、その言葉の意味も分からなかった。

隙だよ。

鋤だよ。

空きだよ。

…………好き、だよ!?

シャーロット……私!?

「し、ぇ、あっ!?」

驚きが振り切って、公爵令嬢として有るまじき声が飛び出した。

咄嗟に手で口を覆う。だけど頭の中はそれどころではない。

(え?好き?誰が?誰を?)

リュカが、私を。

今の声は、リュカの声だ。

というか、今私の目の前にはリュカしかいない。

この状況でリュカ以外の声が聞こえてくるはずがない。

「…………!?…………!?」

(ま、待って。リュカは私が嫌いなんじゃなかったの?)

いや、待て。……思い返してみれば。

リュカは私の質問には答えていない……!?

『リュカ様は、私のことを嫌っておられましたの?』

『いや、俺は……』

!!!!

【いや】!!

いやって言ってる!

否定してるわ!?!?

でもまさか、その【いや】が否定の【いや】だとは思わないじゃない!?

応答の類だと思うじゃない……!!

私はぐるぐると考え込んだ。

驚きのあまり、地面が歪んでいるようにすら見える。幻覚である。

というか、今のは幻聴なのでは??

いや、私の異能が本物であることは既にわかっている。この数日の間、嫌というほど理解したのだ。

ていうことは……つまり?

リュカは私を好きで……

シャーロット(わたし) が一方的にリュカを嫌っていた??

……ということ?

…………なぜ!?

考えてもわからないことだと理解していても、思考を巡らせてしまう。そんな私はよほど挙動不審で怪しい人物と化していたのだろう。

リュカの戸惑うような声が聞こえてきた。

「大丈夫か?体調が悪いんじゃ……」

「え!?い、いいえ!?そんなことないですわ。ものすっごくパワフル最高に元気です。今なら雪山であろうと一周できます!」

……咄嗟に誤魔化そうとして、なんだかのものすごいアホの子になってしまった。

なんだ、雪山って。

さっき大雪が降ってるなんて話を聞いたからよ……!

私はクリストファー殿下に責任転嫁した。

とにかく地面!地面を見つめるのだ。

これ以上の不慮の事故を防ぐために。

リュカだって、勝手に気持ちを暴かれるのはいい気がしないはず。

私はひたすら地面を凝視した。

しかし、そんな異常行動に出る人間がいれば、大多数のひとが心配することだろう。

今の私はあきらかに挙動不審だ。

リュカが、屈み込んで私の顔を覗き込もうとした。

「……シャーロット?」

(ちょ、待っーー!)

だめだって見たらだめよ見たら死……ぬことはないけど!!

リュカの 秘密(プライバシー) は死ぬわよーーーー!!!!

だから顔を覗き込むなぁーー!!

私はもういっそ、顔を手で覆うべきか考えた。

だけどそんなことしたらますます変人だ。

気分はもはやメデューサである。

メデューサもこんな気持ちだったのかしら……。

そんな現実逃避をするくらいには、混乱している。

膠着状態に陥った私に、救いの声が背後から聞こえてきた。

「ああ、まだいたね。シャーロット嬢!」

先程の雪山発言の起因になった、クリストファー殿下である。