軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

言われなければ分からないんですか?

言ってくれれば……ってなんだ。

「言われなければ、ひとが嫌がることも分からないのですか?とても無神経ですね。それに、ジュリアン様」

私は、彼を見た。

ジュリアン様は困ったものを見るように──まるで、駄々をこねる子を見るように。私を見ていた。

もう、関係の修復は不可能だ。

たとえ記憶が戻ったとして、私はもう彼を好きになることはない。

「上から目線で婚約をしていただいて、ほんとうに私が喜ぶと思ったのですか?」

「……少なくとも、きみは喜んでいた、よ」

声がひっくり返っている。

私は、そんな彼をじっと見つめていたが、満面の笑みを浮かべた。

知らなかったわ。私、怒りが限界値に到達すると笑顔になるタイプの人間だったのね。

「偽善者ですね。私のために婚約する。そう言っておきながら、あなたはご自身の欲求を満たすために私を利用している。ひどく、独善的です」

そう、言い切った時だった。

また、ピシリと音がして──気がつけば。

ジュリアン様の足元一歩手前まで、カーペットが凍りついていた。

(…………えっ!?)

それに驚いて私が見ると同時にジュリアン様が叫ぶように言う。

「わかった!すべてきみのいうとおりだ。だから、異能を収めてくれないか!」

異能。それは──。

(私は、異能を使えなくなったのではなかったの?)

私の異能。

それは、氷を生み出す能力。

そして。

《こんな暴力女、誰が好きになるかよ。偉そうに尤もらしいこと言ってるけど、どうせルアンナへの嫉妬だろ。これだから女は嫌なんだよ》

──他人のこころを読む、能力。

今、聞こえたのは……。

呆然とする私に、ジュリアン様が苛立ちを見せた。

「以前のきみは、少なくとも腹が立つからと言ってこんな暴力的な真似はしなかった。きみは淑女失格だよ」

なぜ、能力が突然使えるようになったのかはわからない。

異能保持者なら必ず着用を義務付けられる装身具は今、身につけていない。

装身具は修理に出していた。

事故の時、派手に転落したために一部壊れてしまったためだ。

事故のショックのためか、異能も使えなくなっていた。

だから、身につけていなくても構わないだろうと判断されたのだ。

だけどまさか、こんなタイミングでふたたび使えるようになるなんて。

しかも、ふたつとも。

絶句する私に対し、ジュリアン様が貼り付けた笑みを浮かべる。

先程から顔色が悪く、突然謝罪を口にしたのは私の異能が原因だったのだ。

知らず知らずのうちに、私は氷を生み出し、カーペットを凍らせていたらしい。見れば、家具や置物も凍りついている。

先程から聞こえていたピシピシという音は、ものが凍っていく音だったのね……。

「一度落ち着いて考えなさい。そんな暴力的な力を持ったきみを受け入れられるのは、僕だけだよ」

《だいたい装身具はどこ行ったんだよ。あれがあるから婚約してやってもいいと思ったのに。冗談じゃないぞ、こんな野蛮な女》

ジュリアン様は、私の第二の異能──ひとのこころを読む能力、については知らないようだ。

知っていたらもっと取り乱すはず。

私は自身を落ち着かせるために、短く息を吐き出した。

彼との話し合いは平行線だ。

だって、彼は私を対等な人間として見ていない。私の言葉はすべて、【格下のシャーロットが言う言葉】として処理され、まともに受け取って貰えない。

それなら。

私は手のひらに氷を生み出した。

(……うん。使えるわ)

使い方が全く分からなかったけれど、いわゆる、体が覚えている、というやつだろうか。

感覚的に動かせば、そのまま氷が生成される。少し感動したが、今はそんな場合ではないとハッとする。

そのまま私は手のひらにひとを象った氷を生み出した。

「ご覧くださいませ、ジュリアン様。ルアンナ様」

彼らは訝しげに私の手のひらに生み出した氷を見る。

《なんだ?今のシャーロットは頭がおかしい……。妙なことをする前に、ルアンナは守らなければ》

相変わらず、ルアンナ脳で何よりである。

そして、ルアンナの方は。

《お義姉様ったら一体どうしてしまったのかしら?以前はあんなに弱気で言いなりだったのに。急に自我が出たみたいでやりにくいわ~……》

やはり、お腹の中は真っ黒だったようである。

というか、こころの中でもお義姉様呼びなの?

あなたの義姉になる気は無いのだけど。

私はふたりの視線が自分の手のひらに注目していることを確認すると──。

バキッとそれを、握り潰すようにして破壊した。

「──」

ふたりが絶句する。

粉々になった氷の人形は、カーペットに落下する前に消えた。

もちろん、私が消したのである。

「……こうは、なりたくないですよね?」

脅しである。

仕方ないじゃない。

話が平行線の上、彼らは私の話を聞く気などないのだから。

私の話を一切聞く気のなかったジュリアン様だが、これは効果てきめんだった。

まさか、同じように氷漬けにされた挙句、破壊される、とは思わなかっただろうが、【もしかしたら】とは感じたのかもしれない。

化け物を見るような目で見られたものの、構わない。

婚約解消がいちばんの目的ですので。

ジュリアン様は、 話の通じない化け物(いまのわたし) に、ルアンナが害される前に、と大慌てで彼女を連れて退室した。

その彼の後ろ姿に、私は声をかける。

「婚約解消の手続きは、後ほど子爵家にお送りしますので~」