軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78話 幸運の部屋

学園生活にも、授業にも徐々に慣れて来たここ数日。

夕食を食べ終わると寮の1階が騒がしかった。1階は1年のフロアなので、おそらく新入生同士でゴタゴタがあったのだろう。

そろそろ誰かが騒ぎを起こす頃だと思っていたよ。まだみんな12,3歳そこらの坊ちゃんだ。それが300人も集まれば、トラブルがない方がおかしい。

誰がやらかしたのかと興味本位で覗いてみると、集団の中心にいたのはあのテオドール・レナトゥス。ダンスパーティーでエンヴィリオを使役して暴れたことで知っているだけじゃない。有名すぎるその家系で知っていた。

貴公子然とした、侯爵家の次男坊テオドール。

あの栄光の大侯爵家レナトゥス家、レ家の直系血筋である、本家の男。

もはや“国”では? とよく間違えられる程の領地を持つ大貴族。地図帳でレ家を探すと1ページまるまる塗りつぶされていたりする。

レ家の私兵団は、他国の正規軍より数段装備が豪華な程金持ち。主戦力は『いとこ部隊』と呼ばれる有能すぎる親族から作られる軍。家系図が複雑すぎて敵味方ともに情報を把握しきれない程の規模。

実家の屋敷も凄いらしく、主屋から門までが徒歩120分。屋敷内に街が三つ、湖が一つ、魔獣の死体保護区まである。

それでも、婚姻と縁戚があまりに広範囲に及ぶため、年始の親族集合では領内に臨時宿泊村を建てる必要があるらしい。どんだけ!?

屋敷の領地だけでワレンジャール領より広い可能性もある。

あの有名な家訓も当然聞き覚えがあった。

『1土地は腐らぬ。人も腐らせるな。ついでに野菜も腐らせるな

2会議は収穫後に限る。騎士より鍬を持て

3汗を愛せ。泥は誇れ

4隣家との距離より、畑との距離を測れ

5神より先に土に感謝せよ

6税は取れ。だが宴も開け

7レ家の名に泥を塗るな。ただし泥遊びは許す』

流石王国一の領土と領民を誇るレ家。家訓からしてもう面構えが違う。結構好きな考え方なので、よく覚えていた。

レ家の子どもは7歳で地図を読むより先に帳簿を読む。

使用人にも爵位がついている。

分家筋が桑だけで蛮族を追い払ったなどその逸話にはいとまがない。

ヘンダー伯爵家をも超える王国最大貴族、つまり超大物が、集団の中心にいて激怒していた。

こりゃあかんで!

あんな大物怒らせたの誰やねん! 巻き込まれんうちに逃げ出して仕舞おうかと思っていたが、なんと俺の部屋444号室の前で怒鳴り散らかしているじゃないか。

「誰がやったと言っている! 名乗り出よ。僕はこんな汚いマネが大嫌いだ。文句があるなら正々堂々彼に言ったらどうなんだ!」

強い口調で、まくし立てる。

まだ内容が見えてこないが、俺に関することで怒っていることが徐々にわかって来た。

「あ、ハチだ」

誰かが俺の名前を呼ぶと、自然と集団が道を作る。存在がバレてしまい、辺りの空気感でテオドールの前に押し出される。

「ハチ!? すまない!」

「はい? 何事?」

あのレ家の次男坊に頭を下げられてしまった。この行動に集まっていた野次馬たちも驚く。

今年は伯爵領から多くの合格者が出ているのだが、侯爵家はその比ではない。そもそも領地の規模からして違うので、侯爵家の影響ある者が100名ほど合格したと風の噂で聞いている。

彼らにとっては、直系の次男坊であるテオドールは神にも等しい存在だ。俺がクラウスの太鼓持ちをしているとすれば、彼らはテオドールの神輿を担ぐ存在。

そんな大勢力を持つ大物が、小物の俺に頭を下げる。これはあかん。

急いで頭を上げさせる。

「まあまあ、何があったかは知りませんが、テオドール様が頭を下げるようなことじゃないですよ」

「僕のことは是非テオドールと呼んでくれ。共に4年間同じ学園で学ぶ身だ。この学園にいる間は身分など関係ない。……それに、君には大きな恩があるからね」

恩とはなんだろう。

心当たりはなかった。

テオドールはたしか、ここ数日停学処分を受けていた。ダンスパーティー会場で騒動を起こしたからだ。この場にエンヴィリオがいないが、あの生物はまた別の場所にいるのだろうか? 寮には入れそうにないしな。

ちなみに、警備担当で真面目に働いはずのロガン先生も数日の謹慎を食らっている。故意ではなかったとはいえ、第二王子のロワを殴りつけて入院させたからだ。

学園側が全力で庇ったらしいが、王子派閥からの猛反発で謹慎は免れなかったらしい。それをやらせたのが俺なので、あまり大事にならなくて良かったと思っている。こんど謝罪しとこう。

少し話が逸れたが、とにかくテオドールが怒っている理由が分からなかった。

「ところで、何事でしょうか?」

俺はお腹一杯、心一杯、ついでに座学で頭も一杯なので早く休みたかった。できれば早々に騒動が収まって欲しい。

「何事か……。すまない、ハチ。今から見せる光景にショックを受けないで欲しい」

一応心の準備はしておいて欲しいと言われたので、構える。

俺の部屋が開かれ、そこには赤い文字で『コロス コロス コロス コロス コロス コロス』と壁、天井に大量に書かれている。ベッドは清潔で、本棚も教科書と娯楽書をしまっている。床も綺麗。窓は開けて外出したので、換気も出来て空気も澄んでいる。虫一匹すら入っていない。

……いつも通りだ。

ん? いつも通りだよね?

むしろ良いまである。

「ど、どうかしましたか?」

「……君は本当に強いな」

はい?

いつも通りの部屋を見せられたかと思えば、テオドールが目を潤ませ始めた。

「実は昨年、君の双子の姉と僕の兄さんが騒動を起こしたんだ。随分と大きく揉めたらしい。レ家は影響力が大きく、派閥を持っているからね。きっと誰かがあの時の仕返しとばかりに……こんなことを!」

姉さんたちにそんなことが!?

ちょっと待って。全然知らなかった。

姉さん達とは定期的に手紙のやり取りをしているが、そんな話を書かれたことは一度たりとてない。新しいグカップが欲しいと言われたが、もしかしてそれ関連なのか?

どんな大物に喧嘩を売ってるんだとハラハラするが、考えてみれば姉さん達の方が大物なので問題なし。むしろよく姉さんたちに喧嘩を売れたなとテオドールの兄に感心した。

姉さん達には怖くて仕返しできないから、弟の俺に仕返しか。いかにも派閥の小物たちが考えそうなことである。

しかし、俺の部屋はいつも通りなんだよなぁ。何も起きていない。

「酷いやり方だ。僕はこういう陰湿なやり方が最も嫌いだ! 今からでも名乗り出よ! 誰だ、ハチの部屋にこんな酷いいたずら書きをしたのは!」

ようやく理解した。

ああっ、それのこと?

すみません。入った日から全然気にしてなかったし、すっかり慣れてしまったもので、全く気づけなかった。

赤い文字で『コロス』と大量に書かれたことを、テオドールは怒っているらしい。同級生たちのいたずらだと勘違いしたんだろうな。

これは訂正しなければ!

「違うんだよ、これは」

「違う訳あるか! ハチ、君が優しい男なのは知っている。けれど、こんなことをする連中まで庇う必要はないんだ! 卑劣な連中には、容赦しなくて良いと僕は考えている!」

熱い!

そして良いやつだけど!

テオドール、めっちゃ良いやつだけど、もう騒動を大きくしないで!

これ違うから!

周りに聞かれるのが恥ずかしくて、テオドールに耳打ちした。

「これ違うの。嫌がらせじゃなくて……いや、嫌がらせではあるんだけど。生徒じゃなくて、心霊的なあれで」

上手に説明できたかわからないけど、なんとか必死に伝えた。

それを聞いて、手を震わすテオドール。あっ、これ通じてないや。

「まさか学園総出で君にいやがらせを!? くそっ。レ家の影響はそこまで広いのか。僕が抗議してくる! そして、このいわくつきの部屋は僕が住むことにする」

「いやいやいやいや」

ちゃいますやん?

好んで住んでますやん?

この部屋大好きなんですわ。

どう説明したものか。恥ずかしいけど、全部白状してしまおう。

「ここに住んだら、毎月3万バルの商品券と毎日の夜食が貰えるんだよ。……それ目当てで住んでるんだ。ごめん、黙ってて」

全部正直に言った。

すまない。俺だけこんな特典を貰っていることを隠したかったのと、ちょっと恥ずかしくて言えなかったんだ。

ずるい男だろ?

笑い話で済むかと思いきや、テオドールは涙を流した。あっ、これやっぱ通じてないや。

「ハチ、君はどこまでも他人を庇うんだね」

「はい?」

「たかが三万バルのため! たかが夜食のため! こんな心霊が出るような部屋に誰が住みたがる! 僕らのためにこんな部屋を選んでくれたんだろう? 153期の皆を思って!」

違うけど!

マジもんじゃねーかこいつ。そして俺もマジもんの勿体ない精神でこの部屋を選んだだけなんだが?

めっちゃ心の底から満足していますよ、ほんと。

「ハチ、君は……。君のその優しい心には、そのうち報いさせてくれ」

……なんか貰えそうな雰囲気だし、まあええか。

444号室。この部屋ってお得だわー。やっぱり最高の部屋を貰えたな。幸運の部屋とでも呼ぼうかな?

立ち去っていくテオドールに少しだけ言葉をかける。

「テオドール! あんまり騒ぎは起こさないようにな。俺たちは史上初めて300人で入学した153期だぞ。出来れば、みんなで笑って共に卒業したい」

「……うむ、賛成だ」

立ち去ろうとしたテオドールにそう提案した。同意してくれるらしい。

大物がいいやつだと話が早い。

ひと騒動あったが、俺たち153期の未来は明るいのでは? たぶん。

――。カイネル視点

「では、これより153期のドラフト会議を始める」

尖塔内にある大会議室にて、学長の一声で開始されるドラフト会議。

俺は2段目の席。1段10人が座れ、学長席と司会席を囲うように椅子が並べられた配置。古株から前の段だ。

この学校で自分が16番目の古株なのかと今更に実感して、嬉しいやら、年を取ったようで悲しいやら。

手元には153期入学生たちの詳しい資料が配られている。皆ここ一週間で資料を読み込んで、ゼミに欲しい生徒をリサーチしているはずだ。

ドラフト1位指名は被ると抽選が行われる。

今年のターゲットはハチだ。たぶん被らない。というか確実に被らない。

ドラフト2以降で指名しても取れそうな気もするが、そこは欲張らないでおく。ちゃんとドラフト1で指名して、立派な『倹者ハチ』にして卒業させてやるつもりである。

「先生方、資料はしっかり読まれましたかな? ゼミ、通称お弟子制度は、先生方の研究を手伝わせる目的もあるが、その真の目的は弟子をしっかりと一人前に育て上げること。それを今一度思い出していただき、責任を持って指名して頂きたい」

毎年学長から告げられるこの言葉。

弟子を持つからには、しっかりと責任を持て。

学長自身、多くの弟子を羽ばたかせてきただけではなく、この制度を作ったきっかけが学長の師匠に関係しているらしい。

その方への恩。育てて貰ったことを次の世代へ引き継ぐ。

100歳越えの大爺の師匠なんて、そんな存在誰も知らないが、結構有名な逸話でもある。

「2,3年生のドラフトに関しては1年生の後に行う故、そちらもしっかりと再度考えて頂きたい。それと逆指名があった者は指名のタイミングで知らせるように」

2,3年生の遅咲きたちのドラフトもある。生徒の成長は皆一律ではないし、授業を通して生徒の良さが見えてくるということもある。そのための制度だ。

こちらは毎年ごく少数しか取られることは無く、俺も取る予定はない。今年は1年を3名リストアップしている。

逆指名があれば、抽選免除で確実に取れる。ハチめ、あれだけ言ったのに逆指名しなかったな?

まあそれでも、タイプや名前の知名度的にもおそらく全員抑えられる。俺の動物たちの世話を手伝って貰う代わりに、しっかりと育ててやろうじゃないか。

そんなことを考えていると、とうとう学長から開始の号令があった。

「叡智は選ばれる。教師諸君──戦いの始まりじゃ!」

今年の一番手はたしかイレイザー・ディサイド。俺は21番目。学長は毎年最後と決まっている。まあどうせ指名が被ってもドラフト1位は抽選だ。後ろだからって不利なことは無い。

むしろ他の先生方の指名を観察できる分有利だとも思っている。先に指名すればそれだけ他の先生方を牽制して、意見を曲げさせるということも可能だが。まあこの辺りはそれぞれの考え方次第だな。

「1番、イレイザー・ディサイド。俺の指名はもう決まっている。こんなの悩むまでもない。当然、紋章の覚醒者アーケン。まあ競合するだろうが、俺は引かないね」

「イレイザー先生、アーケンを指名」

賢老エルダが司会を進め、書記が傍で記録を取っている。

紋章の覚醒者は有名だ。あまりにも有名すぎる。絶対に競合するだろうってのは皆が考えているため、早々に指名が出たことも特に驚きもない。

「2番、ロガン・ヴァルク。こちらも既に迷いはない。クラウス・ヘンダー一択だ」

謹慎明けのロガン。王子とひと悶着あったらしいが、無事にドラフトには間に合った。彼が指名したのは伯爵家のクラウス。それも面白い。これは競合するかどうか微妙なところ。一本釣りもある良い択だと思われる。

「3番、ヒナコ。イェラ・ナクサを指名致します。初めてのお弟子なので、指名出来たら大事に育てていかせて頂きます」

ありゃ、確かハチの言っていたヒナコか。まだ教師歴が浅く、しかも魔融学の先生なので、俺とはほとんど関りがない。

くくっ、ハチのやつがっかりするだろうな。ヒナコが指名したのはどうやらお前じゃないぞ。

「4番、運び屋。えっほえっほ。同じく砂の一族、シアン君を貰います。あっ、シアン・ヴェルネ君です」

運び屋も砂の一族か。流石というべきか、余るはずもない砂の一族。今年は粒ぞろいなだけあって、未だに指名が被っていない。例年なら紋章の覚醒者に10名被ってもおかしくない程の逸材だというのに。

「5番、ミンジェ。クラリス・クリマージュ=ラヴァンドール公女を指名しますわ。あの子は器用そうですから、わたくしと相性が良いでしょう」

ミンジェはクラリスを指名。そこも当然指名が入るだろうなと思っていた。けれど、とてもホッとした。ハチを指名する可能性があるとしたらきっとそれはミンジェだろうと思っていたからだ。

やはり一本釣りできる。今年は皆が満足できるドラフトになりそうな予感がした。

「6番、ユラン・ミルフィア。ギヨム王子を貰います。あっ、名前で言うんだっけ? ギヨム・クリマージュね」

ユランが王子を指名か。資料には驚きの、大罪の紋章という記録がある。特殊過ぎるその力を、ユランが指名するとは驚きだった。まあ、あれでも操糸の極みに立つ女。しっかりと考えがあることに違いは無い。

「7番、アグナ・リェーリス。ハチ・ワレンジャールを指名する」

はいはい、アグナは……って!?

「ああん!?」

「どうなさいました? カイネル先生。出来れば、ドラフト中は静かにしていただきたいのですが」

賢老エルダからの注意。すぐさま謝罪して、席に座った。

おいおいおい。あり得ないだろ。なんでハチを指名した?

資料には魔力量4444。豊饒の紋章。あとは学長の注釈で魔力線2本持ちという特殊な情報が記載されているだけだ。

普通に考えて、アグナがハチを指名するわけがない。

「驚いたようだな、カイネル。あれは魔融の天才だよ。大人しく私に任せれば良い」

そこからは淡々と使命が続いた。

シロウやテオドールといった名の知れた者が指名されていく。ハチが先に指名された衝撃で、ほとんど頭に入らなかったが、今年は本当に指名かぶりが少ない。

それなのに、なんでハチでこうなるかね。

「21番、カイネル・フォーン。……ハチ・ワレンジャールを指名します」

「ハチ・ワレンジャール、二人目の指名。指名が全部出揃った後のタイミングでの抽選になります」

ここは強気に押す。もともとドラフト1指名の予定だったんだ。確率は半分に一つ。まあ、行けなくはない。

その後も、淡々と指名していく。

やはり20番手以降ともなると、指名が被っていった。特に紋章の覚醒者と侯爵家のテオドールの人気が加速していく。

そして、迎えた最後の指名。グラン学長だ。毎年あの方の指名が終わって抽選に入ることとなる。

「39番、グラン・アルデミラン。ハチ・ワレンジャールを指名」

「グラン学長、ハチ・ワレンジャールを指名。3名での抽選になります」

「ああん!?」

また黙っていられなかった。

「学長、あんたまで!?」

学長はハチの姉を弟子として育てている。まさか弟にまで目をつけているとは思わなかった。

「すまんの、カイネル。ワシもあれを育ててみたい」

あまりにも予想外だ。

ハチを評価しているからこそのドラフト1位使命だが、それでも競合するなんて夢にも思っていなかった。

そして始まる抽選。

まずは紋章の覚醒者。それを引き当てたのは、最初に指名したイレイザーだった。

テオドールの抽選もあったが、ほとんど耳に入らない。

とうとうやってくるハチの抽選。

学長と、アグナ、俺がクジ引きに順々に手を入れてクジを引いた。俺は残り物。

さて、どうなる。

「……アタリを引いたのは、アグナ・リェーリス先生。ハチ・ワレンジャールはゼミ『アーティファクト強化失敗報告会』へ加入するものとする」

賢老エルダから告げられる無情な言葉。

ああ……、ハチすまん。お前を立派な『倹者』にしてやる俺の使命が終わったようだ。

――。無名の3年生視点。

「おい、聞いたか?」

「ドラフトの件だろ?」

「そうそう。魔融の極みに立つアグナ先生が、すんごい小物を指名したらしい。魔力量も少なく、豊饒の紋章だとか」

「納得いかねーよな。なんで俺たちみたいな才能ある者が指名漏れして、そんな小物が」

「しかも競合したらしいぞ」

「ほんと謎」

「姉妹の弟なんだってさ」

「は? 七光りかよ。納得いかねー」

「……部屋でも荒らしにいかね? 生意気な一年への制裁だ」

「へへっ、いいねそれ」

話は終わりだ。

さっそく取り掛かるとしよう。

生意気な一年坊主には、上級生から洗礼をしてやらにゃ。このくらいでメンタルやられるようじゃ、この学園では通用しないぜ?

まあ、ありがたく先輩からの差し入れを受け取りな。

2人で大量の毒虫や毒蛇を袋に詰めて、ハチの部屋444号室へと行く。

扉の鍵は締まっていない。

こういうところがもう一年って感じだ。甘いな。

次からはちゃんと鍵を閉めるんだな。入ってみるといきなり違和感を覚える。

「……なんか、この部屋寒くないか?」

「確かに。あれだろ。一階だから日当たりが悪いんだろう」

多分な。知らんけど。少し寒すぎる気もするが。

先を行き、部屋に入る。ベッドが見えた。清潔な部屋には悪いが、ベッドの中に毒虫と蛇をばらまこうかと思っていた時、背後からドンっ! と強い音がした。

「おいっ! ビビらすなよ」

「……俺じゃねーよ」

「じゃあ誰だよ」

「知らない」

ドンドンドンドン!!

今度は風呂場から音がする。

「え、人がいるのか?」

「いいや、一年は今風呂の時間のはず。ハチも大浴場に行っているはずだ」

じゃあなんだよこの音は。

サッ。

突如、足首を掴まれた気がした。

冷たい手の感覚。

「ひゃっ!?」

「おいおい、何が起きてるんだ!? この部屋どうなってる!」

ぽたりと赤い液体が肩に落ちて来た。

天上を見上げると、赤い文字で『コロスゾ、雑魚ドモ』と書かれている。

耐えられるのはそこまでだった。

ぎゃああああああああああああああ!!

共に悲鳴をあげて、逃げ出す。

もう嫌だ! この部屋怖すぎる!

1年の寮に忍び込んだ上級生二人が後日停学処分を受けたことを、ハチは全然知らない。風呂でうつぶせで浮かび、死体ごっこをしている最中だったから。