軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59話 熟達者

抜き足差し足、小物の足っと。

山の麓に到着次第開始を告げられた2次試験。

みんなが正面に見える道から登り始める中、俺だけ忍び足でルートから逸れた。

地図に記された目印の大木を目指して、そそそそそそっ。

それにしても、凄いスキルだ。

これ程広大な山を氷で覆いつくすラン姉さんの力。そして先ほど突如氷を突き破って出現した牙を持つ植物。あれは絶対にカトレア姉さんのスキルが生み出したものだ。

踏んだ場所が悪く、まるで地雷のように出現したところを見るに、山中にもこんな感じの罠が沢山仕掛けられているに違いない。

2人の規格外さに圧倒される。学園で2年学び、今は14歳。いくら天才とはいえ、14歳でこれか……。

今現在俺は身体強化を解除している。白の追跡者は全員が出発したのを確認して、5分後に放たれると聞いている。

始めは身体強化を使って距離を引き剝がそうと考えたりもしたが、狼型の追跡者がいることを思い出してやめておいた。もしも痕跡なんかも追えるなら、かなりきつい試験になりかねない。相手のスピードも判明していないしな。

となると、素の体での雪山登山となる。今現在防寒性の無いジャケットを羽織っているだけだ。風こそ防げるが、身体強化を解除した途端に強烈な寒さが体を蝕んだ。

身体強化は体を強くするだけでなく、免疫力を上げたり、怪我しにくくなったり、防寒性、暑さ対策まで兼ねている優れものの技術だ。

感覚としてはダウンジャケットを着ていた状態からTシャツ姿になったくらい急激に寒くなる。

「ううっ、早めに登らないとまずはこの寒さにやられそうだ」

目印となる大木を見つけて一安心した。そこから見えるルートは地図に記された通り。思わず笑った。

「バルド試験官様! 感謝しますよ~」

さっそく登って行く。

あまり道が楽になっている感覚はなかったが、他のルートを知らないのでこんなものなのかなと。それにルートがきつくても、最短なルートかもしれない。

とにかく、今のところは地図が正確なので信じて登るだけだ。

なんどかカトレア姉さんの罠を踏んだり、既に開花している化け物植物はルートを迂回して避けたりした。

危険な生物も出てこないので、やはり寒さ対策だけが必要そうだ。

この分なら、調子よければ今日中に登り切れそうだと思った。

空気が冷えてところどころ雪が積もり始めたが、むしろそれが氷の地面を覆って滑りづらくしてくれている。

足元に注意して登っていると、何か速い足音が聞こえた。咄嗟に警戒の態勢に入り、木々に身を隠す。

俺が先ほどまでいたルート上を駆け上る『白の追跡者』。大獣型で、クマっぽい見た目をしたやつ。

4足歩行で駆け上る姿と、あまりの速さに驚かされた。そしてドキドキも止まらない。

あれって、俺の追跡者だったのかな?

分からない。誰か別の人を追っているのか、それともただ駆け回っているだけなのか。

自分の追跡者がどのタイプかわからないのも不安な心を煽ってくる。ああいうでかいのだと知っていたら警戒もしやすいが、スピードとパワーは桁違いみたいだ。

追跡者が姿を消したのを見て、またルートに戻った。

「どちらにせよ、急いだ方が良さそうだ」

このルートには競う相手こそいないが、周りの進捗状況もわからないのなら早く着くことに越したことはない。

それから、耳と鼻の感覚がだんだんと無くなってきて、5分おきに耳と鼻が俺の体から独立宣言していないか確認してひたすら登った。

無我夢中で登り、半日は経っただろうか。

休憩場所や飲食のことも考え始めた頃、目の前に聳え立つ崖が見えた。

「え……!?」

立ち尽くす。

いや、え?

90度の崖。いや、もうこれは壁だ。

それが100メートル以上も続いていた。

迂回できそうなルートは無い。地図を何度も確認したが、絶対に間違っていないはずだ。

崖を見上げると、掴む場所こそ少ないが、身体強化をすれば登れないことはない。けれど、そうしたら追跡者に勘づかれてしまう。この崖の先がすぐにゴールなら良いんだが、広く見回し 見渡し ても、山頂って感じの高さではない。ようやく中腹といったところか。

その時、後方よりパチパチと拍手が鳴り響いた。

警戒して振り返ると、知った顔、バルド2次試験官であった。

「バルド試験官!? なんでここに。地図を貰ったのはありがたいですが、直接手を貸して貰うのはあまりにもずるいというか……」

地図の時点で既にずるいのだが、小物にも不正許容ラインというものがある。直接助けて貰うのは、小物界のルールに抵触する可能性あり。

「試験のことなどもう気になさらないで下さい」

笑顔でニコニコと近づいてくる。あの人……身体強化を使用している?

「試験のことなどって。俺は試験中です。気にしない方が無理ですよ」

「おやおや、なぜですか? 君は今から死ぬというのに、試験の結果など関係ないでしょうに」

……一瞬、何を言っているか分からなかった。けれど、バルド試験官の笑顔の底に殺意の狂気を感じた時、急いで身体強化を発動した。

ほとんど本能的な反射だったと思う。

けれど、身体強化発動から体に魔力が回り切るまでに1分かかる。

もう演技をやめて走って距離を詰めてくるバルド試験官。

――間に合わない!

攻撃を読んで腕でガードする。

けれど、身体強化、そして肥満体型とは思えない素のパワーによって繰り出される恐ろしい威力の拳。ガードした腕ごと殴りつけられ、体が吹き飛ぶ。

背後にあった崖へと衝突し、口から胃の中身を吐き出しかけた。

「……愚かですね。くくくっ、こんな単純な手口に引っかかってくれるなんて、なんと愚かな子でしょうね!」

狂気に満ちた笑顔。

紳士を気取るのはもうやめたらしい。

ようやく体に魔力が回って身体強化が出来た。けれど、一撃目が重たすぎて、両腕が痺れたまま。内臓のダメージが下半身にも及んでいる。

「あんた本当は何もんだよ」

てっきり俺を合格に導く恵比寿様だと思っていたのに。

「答えることは出来ません。それに死にゆくあなたに教えても仕方ないでしょう?」

……やるしかない。なんとか一人で。

――。

密書が届いたのは3か月前。

学園のvipだけが利用できる個室に呼び出された。官僚たちが案内するなか、窓辺に座る生徒の元へと導かれる。

逆光を浴びて顔こそ見えなかったが、雰囲気と声で誰かなどすぐに判明した。開いた本から目を離すことなく、彼が口を開く。

「バルド・フェルマータ。君は官僚たちの斡旋で王立魔法学園に入ったと聞いている。ということは、私の派閥の一員と考えて宜しいかね?」

第二王子ロワ・クリマージュの声。

実際その通りなので、肯定した。

「その通りでございます。派閥の一員にしてあなた様に忠誠を誓う者でございます」

「良い返事だ。君の実家のことは調べさせて貰った。次男として生まれ、家督は引き継げないらしい」

その通り。だからこそ死ぬほど努力してこの王立魔法学園の教員というポジションを得た。貰える個人的給金だけでなく、研究費、特別な施設へのアクセス権、更には大臣クラスへ意見する権力まで。今ではこの地位に満足し始めている。

「家督は欲しいか?」

「え……いやそれは我が兄のものですので」

「欲しいかと聞いている」

「……死ぬほど、欲しゅうございます」

これが本音。

弟故に生まれた時より我慢していた。しかし、子爵家の実家が持つ領地や資金力は、当然弟ながらに羨ましく思っていた。

それが手に入るなら欲しくないわけがない。兄から奪ったとしても。兄弟だからなんだというのだ。弟だから何も貰えないって? 了承はしたが、納得したことは一度も無い。

「一つ仕事をこなしてくれれば、後は私が上手に事を運んでやろう」

「……可能なのでしょうか?」

王家とはいえ、子爵レベルの家への介入。しかし、目の前のまだ15歳のロワ王子は一切の躊躇なく答えた。

「多少の犠牲は払うが、可能だ。仕事を受ける気はあるかね?」

「有ります」

内容こそ気になったが、こちらも即答しておいた。王子も犠牲を払うというのならば、こちらも多少は支払う必要があるだろう。

「よろしい。君を王立魔法学園の2次試験官に推薦しておく。仕事内容はそこに参加するであろう男を殺すこと」

「試験官ですか」

あまり出世に関係せず、ただの面倒ごとと今まで一度も受けて来なかった役職。仕事はそこでの暗殺らしい。

「舞台は貴様が考えて用意しろ。そして、試験中の事故に見せかけて、証拠を残すな」

試験官に与えられる権力は大きい。試験中に限って言えば神にも等しい存在。あらゆるパターンが脳内に思い浮かぶ。造作ないことだ。肝心なのは、相手が誰かということ。

「承知。誰を殺せば良いのでございますか?」

「ハチ・ワレンジャール。後より似顔絵を渡す」

「……まさか、ワレンジャール家!? あの姉妹と血縁でしたら、確実にとは行かぬやもしれません」

天才たちの弟。今回の仕事は確実に、そして証拠を残さないのが大事。相手が強敵であればあるほどそれは難しくなる。

「心配いらぬ。あの姉妹程の大物ではない。むしろ小物だな。不思議と運の良いやつで手が出しづらいだけだ。バルド、お前の実力なら造作も無い事よ」

「それならば安心して仕事に臨めます」

「一つだけ注文がある。苦しませてなぶり殺しにしろ。それだけだ」

「ふふっ、得意ですな。そういう仕事は」

このバルドに情は通用しません。どれほど泣き落としされても、地獄に叩き落す自信がある。

「では、手続きに入る故。もう立ち去るが良い。……そうだ、バルド。何があってもこの件では私の名を出すな」

「ええ、ええ。承知しておりますとも。今回の暗殺計画は、このバルド・フェルマータ個人の思惑ですので」

「ふんっ、賢い男で良かった。私が王になった暁には、今日の出来事をしっかりと思い出すことにする」

「ありがたき幸せ」

深々と頭を下げて、その場を後にした。

計画はその日よりスタートし、いくつかプランを立てる。ハチ・ワレンジャールと1対1になれるシチュエーションを。

これが成功した暁には、兄に代わって私が領地を……。罪悪感は一切ない。ただ偶然に血の繋がりがあっただけで、私より先に生まれた目の上のたん瘤なぞに同情する必要など、どこにある?

――。

「ふう」

なぜか時間を与えてくれたバルド。

あのまま追撃があれば、俺の身体強化が間に合わず、しかもダメージも残っていて一方的だっただろう。

理由はわからないが、それでも助かった。

「何をホッとした顔をしているのですか? もしや、身体強化やスキルを使えれば私に勝てるとでも?」

「……やってみるしかないだろ」

後ろには崖。正面にはバルド。逃げ場が無いのなら、あがく他ない。

「君を殺してくれと依頼して来た方が注文を付けたのですよ。なぶり殺しにしろと。それも苦しませてから。時間を与えたのはそれだけの理由」

「ふーん。人違いってことはないの?」

なんで俺みたいな小物が、王立魔法学園の教師やってる大物から命を狙われてやがる。どう考えたっておかしいだろ。

「ハチ・ワレンジャール君。私が殺す相手はあなたであっていますよ。いろいろ計画を立てていたというのに、まさかこの手が採用されるとは。くくっ、一番時間に猶予があるコースです。1時間はなぶりますから、ご覚悟を」

あの恵比寿様を連想させる笑顔が、今じゃ薄ら寒いものに感じる。

くそっ。なんて浅いんだ、俺は。

カイネル試験官がわざわざ忠告してくれたのに、自分のことを特別扱いしてくれていると信じてまんまと釣られた。

まさか人に恨まれているなんて思わず、こんな事態に。

人って本当に見た目じゃないんだなぁと今更に学ぶ。

「では、お楽しみを開始いたしましょう。来なさい」

さて、どうやって戦ったものか。あいてはジンレベルの人物と見て良い。そして違うのは、本気の殺意を持って臨んでいるってこと。

「何を固まっているのですか? 教師が『来なさい』と言っているのですから、来なさい! ―― 黒掌引律(こくしょういんりつ) 」

警戒して間合いを取っていたのだが、謎の言葉と同時に体を強く引っ張られる。まっすぐバルドの元へと引き寄せられて、驚きと、足が宙に浮いた状態で何もできずに引っ張られた。

身体強化された強烈な拳が顔面に叩きつけられる。

……うわっ、なんだよこの威力。殴られた威力に引っ張られた力も加わって、尋常ではないダメージとなる。

一発でKOされそうだった。

氷の地面に叩きつけられた。急いで立ち上がって距離を取ろうとするが。

「来なさいと言っているのです」

まただ!?

吸い寄せられるようにバルドの方へと動いてしまう。

足を動かしていないのに、強制的に引きずられてまた拳の迫る距離まで。

仕組みはわからない。けれど、やられっぱなしじゃダメだ。

バルドの攻撃に合わせて、ガード無し、こちらも拳を出して殴りかかった。

けれど、根本的に身体強化の力が違う。そして引っ張られる力もあって、こちらのパンチに踏ん張りが効かない。

お互いに殴り合ったが、受けたダメージは10倍以上もありそうだった。

口の中が切れて血が垂れた。意識が朦朧とする。たった2発でこれかよ!?

けれど、甘い罠に誘われて自らの失態で招いた事態だ。自分でなんとかしないと。修理スキルを発動し、一発に賭ける。魔力線を何とか体に突き刺せれば。

「何か企てている顔ですね。 ―― 反掌放律(はんしょうほうりつ) 」

目の前にいたバルド。なのに今度は体が吹き飛ばされるように彼から遠のいた。

触れられてすらいない。なんなんだよ、この力。そしてその格好いい技名っぽいの!

あまりにもレベルが違う。戦闘経験、身体強化、スキル。全てで熟達した相手ってのは、これ程までに強く、絶望感を与えてくるのか?

技名もめちゃくちゃ強そうだ。

俺の修理スキルに技名をつけるとしたらなんだ? 『ぐにょぐにょ』か?

他に持っている技は、『服ビリ』と『ハグ乱れ咲き』くらいだ。大物と小物の間に技名の格差がありすぎる! どうなってやがる!

「私の生まれ故郷は磁石の一大産地でしてね。子供のころから良く触れたものです」

磁石……。その単語を聞いてなんとなくわかった。

そうだ、この引き寄せられる感覚と、反発する感覚。まさに磁力みたいだ。

「魔力の性質変化を強化するスキル。そして幼き頃より慣れ親しんだ磁力へのイメージ。魔力の性質変化こそ至高。王立魔法学園にて性質変化の最高峰に立つバルド・フェルマータ。一小物受験生に負けるはずもなし」

これが魔力の性質変化だって?

俺の魔力の性質変化へのイメージは、固くしたり、紐みたいに頑丈にしたりするだけのものだ。まさか魔力を磁力みたく性質変化させられるなんて夢にも思わなかった。

……これが、王立魔法学園の教師!

レベルが違い過ぎる。

「黒掌引律! さあもう一度殴り合ってみましょう。手を出すチャンスはあるんです。あんまり早く諦めないで下さいよ。楽しみが減りますので」

技名と共にまた引き寄せられる。

殴り合っても無駄なことはわかっている。ならば、この推進力を利用して、修理スキルでお前の魔力線を突き刺してやる。

そう目論んでいたら、途中で引っ張られる力が弱まった。

バルドへの距離が3メートルという地点で体が止まる。

「へっ?」

予想外のストップに一瞬気が抜けた。

そこへ走り込んで来たバルドの強烈な拳が胸に突き刺さる。虚を突こうとして、こちらが虚を突かれた。また痛烈な一撃が入って悶え苦しむ。

呼吸が苦しい。あばら骨をやられたかもしれない。

「あなたが何かを狙っているのは見え見えでした。目の光が死んでいない。何か逆転の一手があるのでしょう?」

分かっていないはずなのに、読まれている。届きそうで、あまりにも遠い。

「黒掌引律」

呼吸が戻らないまま、また吸い寄せられる。

伸ばした腕に吸い寄せられて、両腕で首をがっしりと掴まれた。ぎゅっと絞められると、一気に呼吸が苦しくなり、死の恐怖が迫って来た。

「どうしたのです? 離れないと死んでしまいますよ。さあ、早くお逃げなさい」

ふざけたことを! 強烈に腕へと引き寄せられて何もできない。修理スキルを発動しようにも、あまりにも命に必死でスキルが出てこない。

「身体強化を解除したら私の磁力の影響は受けませんよ? まあそしたら勝負にすらなりませんが。それに、まだ死なせませんから、安心なさって」

首を絞める力が弱まって、ようやく息が吸えた。5年ぶりくらいに息を吸ったんじゃないかってくらい大きく息を吸う。けれど、まだ引力は弱まっておらず、苦しいことに変わりはない。

「君には私の野望のため犠牲になって貰います。天才たちの中で育った私の魔臓才能値は7200。随分と惨めな思いをしましたよ」

馬鹿野郎。こっちは4444だ。

それで惨めって、こっちは人生羞恥プレイじゃないか。

話してくれている間にもなんとかもがくが、息があまり吸えないのが痛い。体がだんだんと痺れて、眠くもなって来た。力が上手に入らない。魔力も……。

「ようやく手に入る栄光。それなのに、こんな簡単な仕事で終わっても良いのでしょうか? 離れてくれないんだもの。これで私が殺したと言われても困る」

磁力が更に強まる。首を絞める手が両手から片手になったが、力が弱まらない。

開いた片手で顔を殴りつけられる。ガードできず、一方的に何発も何発も。

「弱く、脆い。才能もないのに、良く王立魔法学園を受験しようと思いましたね。君みたいな勘違い野郎は、私も大嫌いなのだよ。今にして思う。この仕事はまさに私に適任だ。教師として死ぬ前の小物に教えてあげます。君はゴミです」

もはや言葉の暴力は届かない。それほどまでに意識が遠ざかる。

体の痛みもあんまり感じなくなってきていた。

意識が薄れる。視界も狭い。眠気が強烈に襲ってくる。酸素が足りていないのだ。

「そうだ。取引をしましょう。君にチャンスをあげます」

この人には騙されたっていうのに、その言葉に少し希望を感じた。

「君の生意気な双子の姉がいるでしょう。彼女たちを侮辱しなさい。地の底まで貶める言葉を吐けば、君の命を救って差し上げましょう」

何の保証もない取引だ。

けれど、この苦しさを思えば、極上の餌に思えた。

言えば、楽になれるのか。言うだけで。侮辱を口にするだけでいいのなら……。

手の末端まで血が回っていないのか、青黒くなった手を挙げた。教師に発現の許可を求める生徒のごとく。

「さあ、言ってごらんなさい」

一瞬首を掴む手の力と磁力が弱まる。久々に息が吸えた。俺の意志を伝えてやる。

「……やなこった。へっ、命惜しさに姉さん達を貶めたりしない」

「ガキが」

強く睨まれる。また磁力が強くなってきたのを感じた。最後の酸素を全部使って言ってやった。

「こんな小物の命一つで、姉さん達の気高さを守れるなら本望だ!」

思いっきり叫んで、最後に一あがき。

首を掴まれた腕からもがいて動き、その手に噛みついた。死んでも離すか。いや、死んでもこのまま噛み続けてやる。消えゆく小物の最後のあがきだバカヤロー!

へへっ。涙が流れたが、俺は今嬉しいんだ。

こんな小物でも、最後の最後に誇りを捨てなかった。俺は自分の命惜しさに、姉さんたちを売らなかった。それが今、ただただ嬉しい。

「どこまでも愚かですね。よろしい。では愚か者に相応しい最後を。首を圧し折って終わりにして差し上げます」

首を絞める力が強まる。視界が暗くなり、感覚も遠のいた。

けれど、最後に幻聴を聞いた気がする。

――咲き誇れ、 氷華螺旋樹(ひょうからせんじゅ)