軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

36話 天壊旅団「うちも来ちゃった」

前世を含めて、俺の人生では”遅刻してくる”やつらなぜか愛されるやつらばかりだった。

一番古い記憶では、高校の頃の同級生。イケメンで実家も金持ちの彼には、遅刻癖があった。

しょっちゅう寝坊しては、1限目の途中に登校してきて「さーせん。遅刻しました」と陽気な感じでクラスの中に加わり、先生もその陽気さに「ったく。次はねーぞ(笑)」と楽し気に返事をする。(笑)ってなんだよ。遅刻してんだぞ。(殺)だろ。

次によく覚えているのは、会社にいた美人さん。それほど仕事ができるわけではなかったが、会社内でも他社の方にも非常に人気があった。

彼女もまた遅刻癖があった。「あっ、部長ごめんなさい。昨日夜遅くまでバトロワしてたら寝坊しちゃって」と愛嬌を前面に押し出して謝罪。それを受けた部長は「やれやれ。ダブハンは取れたかね?(癒)」とデレデレしていた。(癒)じゃねーよ。遅刻してんだぞ。(首)だろ。

ちなみにその美人さん、ダブハンを取っていた。俺は持っていない。

そんな遅刻魔たちの中でも最も許せないやつらがいる。

ヒーローだ。

あいつら、いつも遅刻する!

なんで5分前に到着しない!

天候とか公共交通機関とか、遅れることを考えて早めの行動を意識しろ!

家族の団欒にかまけている場合か。妻に、あなたは仕事ばかりねとプレッシャーをかけられて、日常に縛られるあのやり取りたち。

いらん!

ヒーローにそんなものはいらん!

お前たちは天より多大なる力を貰ったんだ。常に危機に備え、常に人々を守ることにこそ生きる意味を見出せ。

それこそが真のヒーローってものだ。

闇夜から現れた8人もそうだ。

彼らが遅れて現れ時、俺は本能で悟った。

今回の一連の事件がようやく終幕を迎えたのだと。これで俺は家に帰れる。本当に危機が去った安心感で、体から一気に力が抜け落ちる。

彼らにはそう思わせるだけの絶対的な何かを感じさせられた。

安心感と同時に、感謝や疑問やら、そして同時になんでもっと早く来てくれなかったんだという気持ちも湧いてくる。

将軍の腕落ちたんだぞ!

盾持ちボロボロだぞ!

ジンもこんな瀕死だし!

あと、小物の俺にこんな無茶させんな!

言葉にならない文句が心の奥から湧き出るが、彼らに歯向かう程の勇気もない。猛気持ちを抑えるため、8人の中にいたお姉さんを見つめた。

美人を見つめると不思議と心が癒される。スタイル良いー。

「守ってあげるから、もう安心してね」

「はっはいぃ」

お姉さん、好き。

「ぬかったわ。よもやこのような姿で、貴様ら”神殺し”に遭遇しようとはな」

生命の神エルフィアは、傷口を押さえつけながら8人を睨みつける。

その顔には一切の余裕無し。

神が初めて、自分の死を覚悟しているかのような、そんな感じの表情に見えた。

「生命の神エルフィア。天壊旅団の名においてあなたを拘束する。万全ならばまだしも、今の状態で勝ち目がないことはご自身でもわかっているはずだ」

「……ぺっ!」

黙ったままのエルフィアは、最後の抵抗といわんばかりに唾を吐きかけた。

「好きにするが良いわ」

唾を吐きかけられた先頭の男が頬の唾を拭う。

被っていたフードが取れて、横顔がちらりと見えた。

銀青色の長い髪の毛が登ったばかりの太陽に照らされる。深い碧色の瞳にはまるで感情が一切備わっていないみたいに、冷たくただ目の前の神を見据えていた。

「いいか?俺はこの世で神という存在が最も嫌いなのだ。旅団の命に従い貴様を拘束することになっているが、本当は殺してやりたい気持ちでいっぱいだ」

放っている言葉は恐ろしいが、感情が籠っていないような抑揚のない声で淡々と告げられる。

視線がやはり恐ろしく冷たい。

そしてそんなことを言われたにも関わらず、エルフィアはあろうことかまた唾を吐きかけた。そして不敵に笑う。

「やってみろ」

気の強い女は得てして魅力的に見えるものだが、気の強すぎる女は見ていてとても不安になる!たとえ神であっても!

「そうか。じゃあ死ね」

手をかざしてスキルを発動しようとしたとき、先ほどまで俺の頭を撫でてくれていた美しい女性が男の手を掴んだ。

いつのまに!?……速い!

本当に見えなかった。俺の視界から美女が消えたというのに、反応できなかっただと!?

一生の不覚。

「事を荒立ててどうすんのよ、団長。あなたの神嫌いには本当に困ったものだわ。あとね、エルフィアちゃんも挑発しないの。もー、あんまり調子に乗ってると殺しちゃうわよっ」

キュン、みたいな効果音がつきそうな可愛らしい笑顔と仕草で場を取り持つ。言ってること、団長って人と変わらないと思うんだが?

「すまない、冷静になった」

「ふふっ、大人しく従うとしよう。しかし、妾を生かしたこと後悔させてやる。体調が戻り次第、貴様ら神殺しを片っ端から殺していく」

不気味なことをいうエルフィアに構わず、他のメンバーたちが彼女を拘束する。拘束に使うロープは神秘的な輝きを放っていて、あれもおそらくアーティファクトなんだろうなと、なんとなくわかった。

「将軍の手当てを急げ。他の盾持ちたちも、重症の者から手当てにあたれ」

団長と呼ばれた男の指示に従い、6人が動き回る。

お姉さんは拘束したエルフィアの見張りと治療にあたっていた。ヒーラースキルの持ち主らしい。今のところこの人だけ感じが良いので、近づいて話しかけてみた。

「ねえ、その神生かしていいの?復讐するとか言ってるけど」

「ふふっ、怖いの?かわいい子ね」

「怖いよそりゃ。めちゃくちゃだったもん」

使用するスキルは人の域を超えたもの。それでいて、人の感情に疎く、残忍さを持ち合わせている。生かしておいていい存在ではないと思うのだが……。

頭を下げていた神がくつくつと笑い出し、パッと顔をあげてこちらを見てきた。その瞳が蛇みたいに縦に長細くなっている。

「小童、妾が復活した暁にはお主から殺してやろう」

ひいいいいいぃ!!

「聞いた!?聞いたよね!!やっちゃって!今やっちゃってよ!」

「あらあら。あんまり意地悪しちゃダメよエルフィアちゃん。坊やが怖がってるじゃない」

母ちゃんくらい慈悲深い人だ。

けど今そんなの求めていません。

今はやっちゃってくれる人が欲しいんです。

「くっくくく、顔は覚えたからな。お主の顔は忘れんぞ」

ヤダーーーッ

怖い思いをさせられたのに、悪いことは続くようであの団長と呼ばれた男がこちらに歩み寄ってくる。

勘違いでなければ、その冷たい視線が俺に向けられていた。

海……いいや深海のごとく深い青の瞳が、本当に体に寒気を感じさせるほど冷たく射抜いてくる。

……なっなんだ!?

金なら持ってねーぞ。カツアゲなら他でやんな!

「背中に背負っている男を渡せ」

カツアゲの相手は俺じゃなかった。ジンから金をふんだくるつもりだ!

「……断る。なんであんたらにジンを渡さなきゃならない」

怖いが、渡してたまるか。ジンにはまだ教わることが沢山ある。

「お前が引き取ってどうする?」

「ワレンジャールの地に連れていく。そこで我が家の一員として暮らして貰う」

「人斬りと?そいつがこれまでに何人の人を殺めて来たか知っているのか?我々の管轄ではないが、拘束して担当部署に引き渡すつもりだ。それが誰にとっても良いことである」

ちらりと辺りを見た。

他の神殺したちの様子を伺うためである。

戦っても勝てないことは明白。ジンを連れて逃げようかと思ったが、他の7人も薄っすらとこちらに意識を向けている。命令があればすぐさま動けそうだ。

先ほどのお姉さんの動きの瞬発さには驚かされた。彼らも大差ない実力の持ち主だろう。

「逃げることを考えても無駄だ。さあ渡せ」

一瞬で目の動きの意図がバレた。

どうする。一戦構えてみるか?流石に子供相手なら手加減してくれるんじゃ、とか思ってみたり。

「甘い考えを捨てろ。大罪の紋章は変われはせん。こいつらは生まれながらにしての罪人。関わらぬことが最も良いことだ」

団長のこの言葉に、少しぴきっと来た。

ダメだ。怒っちゃダメだ。相手はあの神殺しと呼ばれる最強の集団。おそらくこの世界の頂点レベルの達人たち。

なのに、どうしても言い返したくて仕方ない。

「……あんたに何が分かんだよ。なんで変われないって言えんだよ」

「何人か見えてきたからだ」

「は?その何人かにジンが当てはまらない可能性だってあるだろ!」

「当てはまったらお前が責任を取るのか?」

「……うっ」

この理詰めやろうめ。

決めつけは腹が立つ。

そんな生まれの良し悪しで人生を値踏みされちゃ、溜まったもんじゃない。

「ふざけんな、あんたらに大罪の紋章の気持ちがわかんのかよ!ジンには仕方がない事情があったかもしれないだろ!」

お前ら勝ち組紋章に、わかんのかよ……。

豊饒の気持ちが分かんのかよ!臍に紋章が出た気持ち、わかんのかよ!

俺だって大物に生まれたかったよ。でも小物に生まれちまったんだ。それでもなんとか大物っぽく振舞って頑張ってるんだ。偏見で見るんじゃねーよ!

大罪の紋章の辛さ、お前にも俺にも推し量れないはずだ。ジンの涙の理由、一体どれほどの過去を背負っていたらこんな強い男が戦いの最中に涙を流すんだよ。

それを知らないこいつに、ジンのことを決めつけないで欲しい。

「……なぜお前がこいつを庇う?」

「仲間だからに決まってんだろ」

横から大きな影が差し込んできて、よくない顔色で、脂汗を流している将軍が近寄って来た。会話に割って入ってくる、というより俺に助け舟を出しに来てくれたらしい。

「坊主、そこまでだ。こやつらが誰かわかっておらぬじゃろう」

「天壊旅団」

知ってるさ。

イレイザーから彼らのことは聞いていたし、エルフィアも神殺しと呼んでいた。そして秘められた実力を考えても、それ以外にはあり得ない。

「神と戦うやばいやつらでしょ」

「知っておったか。じゃあ尚のこと、逆らうでない。良いから言われたとおりに」

片腕の治療は済んだが、あくまで止血が終わっただけ。神との激戦とその後のジンとの死闘。満身創痍の将軍は、俺を心配してわざわざこうして助言しに来てくれたのだ。

その気持ちは嬉しいが、納得いかないものはいかない。

しかし、状況がよくないのもわかっている。

俺は将軍の助言に従い、渋々背負っていたジンを団長に渡した。

これでは終わらない。ちゃんと言うべきことはまだある。

「いいか!あんたがどんだけ偉かろうがこれだけは覚えておけ」

人差し指を向けて宣言する。怖いけど、ちゃんと釘を刺さなければ。

「ジンは一旦渡す。けどな、ジンに酷いことをしてみろ!あんたをぶっ飛ばす!!……将軍が」

「ワシ!?」

うん。将軍がやるんだよ。

脅しの宣言をしてやると、あの冷たい視線を送ってきていた団長の口元が一瞬ほほ笑んだように見えた。勘違いか?口角が一瞬だけ……。

「ふん、こんな人斬りが随分と幸せ者だな。……こいつの処遇は要検討ってとこだ」

ジンを担いで背を向けた団長。少し歩き出してまた止まった。

「もしもこいつを返すことがあるとすれば、誰宛に送ったらいい?」

「ハチ・ワレンジャール宛で。送料はそっち持ちだ」

「ハチ……覚えておこう。もちろん着払いだ」

飛行機便使うんじゃねーぞ。一番安いやつな。

粗方の治療を終え、ジンとエルフィアを連れて天壊旅団たちは、登場した時と同じようにまた静かに去って行った。彼らがなぜここに来たのか。伯爵と陰謀を働いた人物たちとどう関係しているのか、何も分からないまま姿を消す。

最後にお姉さんが振り返って手を振ってくれた。いつかそのマントの下も拝ませて下さい。手を振って別れを告げる。

「あれが天壊旅団か……」

これが俺と天壊旅団、団長との初めての邂逅だった。

「ふう、伯爵様も逃げおおせたらしい。一件落着である」

ドカッと音と振動を立てて将軍が座り込む。

切り落とされた腕に巻かれた包帯から血が滲んで痛々しいことこの上ないが、本人は満足そうに笑っていた。

「引退ですかね?その体では」

「何をいうか。片腕が残っておれば、盾は持てる。まだまだ現役よ!」

誇りだねえ、この人は。

流石あの最強の盾持ちたちが絶対の忠誠を誓う人なだけはある。

俺も短い間だというのに、すっかりこの人に感化されてしまっている。今ならこの人の言う気合理論に則り、気合で世の中の試練の9割は突破できそうである。

「なあ坊主。お前に言っておきたいことがあるんだが」

「何ですか?」

「やっぱり盾持ちにはしてやれそうにもない」

「へっ。もう一度言われているし、知っていますよ」

別になりたい訳でもない。

何を今更と、不満げに将軍に顔を向けると、将軍はまだ話を終えていなかった。これから戦いが始めるのだと言わんばかりに猛々しいしい表情と少しの笑みを含んでこう告げてきた。

「一人の盾持ちにしておくには実に惜しい存在!お主はワシの後継にこそふさわしい器よ!どうじゃ?全てを捨ててワシの元に来ぬか?お主が引き継げば、ワシの作り上げた盾部隊に今以上の、正に黄金時代が登場しようぞ!」

腕を広げて、夢を語る将軍。落としたはずの腕も精いっぱいに広げて、まるで本当に腕が残っているかのような迫力がある。

たった今死にかけておいて、しかもおもっくそボロボロの体で、この人はもう未来を見ているのか。

けれど、俺はそれには応えてやれそうにはない。

小物には小物の人生があるのだ。

「すんません、将軍」

「ん?」

「俺は盾持ちよりも、せいぜい太鼓持ちがお似合いです。ありがたいお話ですが、後継はまた別でお探し下さい」

クラウスの太鼓持ちの後継が見つかるまでは、俺が叩き続ける他ないでしょ。いよっ、大将!

大物貴族たちは放っておくとすーぐトラブルを起こすからな。

尻ぬぐいは小物の立派な仕事だ。

「そうか、そうか!考える時間が欲しいとな!がっはははは!ゆっくりと考えるがよい。で?いつ来るんじゃ?」

いや、聞いてねー!

この人、全然話聞いてねー!