軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

118話 ホテルで長期滞在は高くつく

新章≪砂の章≫

――いい匂いがする。

香ばしくて、少し甘いような、でも香草の匂いも混じってる。室内でなにかを作っておられる!? 鼻腔が勝手にひくひく動いたのが分かった。俺の鼻って勝手に動く機能があったのか。

目を開けると、真っ白な帆布が頭上に揺れていた。陽の光を透かして、金色の粒がちらちらと舞っている。

……砂か。

風に乗って、どこからか入り込んでくる。体の下はやわらかい。マットレスや布団とはまた違う感触。乾いた草と獣の毛皮を重ねた寝台。草の香りまでとても良い。

なんだか温暖な気候の土地だ。湿気がない。空気が軽い。時たま流れて来る熱気が肌を撫でても、不思議と息苦しくはなかった。

……なんだろう、バカンス地にでも来たみたいに心地よい気分だ。

酷く喉が渇いていた。

体の奥にまで乾いた空気が染み込んで、口の中がきしむ。

風の音と一緒に聞こえてくるのは、どこか穏やかなざわめき。

外で人が話している声、金属の鳴る音、砂を踏む足音。

遠くで笑い声も混じる。

あれ? ここどこだ? 少し記憶があやふやだ。

腹が鳴った。

ぐうううううううううう、と、天幕の空気を震わせるほどの音で。

思わず自分の腹を押さえて、小さくうめく。俺の腹減り履歴の中でも過去一くらい腹が減ってしまっている。

頼むから、今の誰も聞いてませんように。小物の俺にも少しばかりの自尊心は残っている。

天幕の入口の丈夫な布がめくれた。

乾いた風と一緒に、外から焦げた肉の匂いが流れ込む。に、肉を焼いておられる!?

顔を出したのは、日焼けした壮年の男性だった。

淡い砂色の瞳に、これまた砂と同じ色のような髪。額に古い傷跡が一本、斜めに走っている。

「ようやく起きたか。族長様の言う通りだったな」

低い声。……なぜだか聞き覚えのあるような。

でも全く知らない顔。

背後から照り付ける砂の光が、彼の輪郭を金色に縁取っていた。か、格好いいかも。

「……誰?」

それが、最初に出た言葉だった。自分の声が随分とかすれていた。乾燥のせいかな。

うーん、知らない場所に知らない人。でも、誘拐では無さそう。

こんな小物を誘拐したとしても、搾り取れる金額はたかが知れている。

男は、何も言わずにコップを差し出してきた。

中に水が注がれ、透き通った液体が揺れる。

それは手作りのガラスのようだった。

縁は少し歪んでいて、指先に小さな凹凸が伝わる。

けれど、奇妙なほどに美しい。

それ以上は観察できなかったというより、我慢できなかった。

コップを傾け、ひと口で行った。

冷たさが喉を滑り落ち、胃の奥まで届く。

乾いた砂に水を注いだように、細胞が一気に動き出すのが分かった。喉が勝手に動いて、最後の一滴まで飲み干していた。

「お、お代わりを!」

男は嬉しそうにまたコップに水を注いでくれる。

動作に、無駄がない。

この男のことは知らないけど、予感だが……とても強い人だと思う。長い年月をかけて、砂と生きる手をしている。この地に長く生きて来たのだろう。

また一気に飲み干す。

喉が鳴る音が、やけに大きく聞こえた。

「……うまい! ありがとうございます」

思わず口から漏れた。

「気に入ったか。その水は、この地の底から湧き出たものだ。砂を越えて届く、恵みの水だ」

“恵みの水”。

その響きが、やけに心に残った。とてもありがたいものを頂いたようだ。食べ物飲み物をくれる人は……仲間!

口元を拭いながら、ふと思う。

ここはどこなんだ?

「すみません。ここって?」

男は俺が飲み終わったコップを受け取り、少し考えるようにしてから言った。

「そうだな。砂の一族の領地……とでも言えばいいかな。このあたりは、ハチの住む王国では、“アーレ=ザル砂漠”と呼ばれていたりするな」

アーレ=ザル砂漠!

クリマージュ王国の南に広がる広大な砂漠地帯。

一応王国の領土ではあるのだが、砂漠地帯故にほとんど王国の手が入っていない。

開発も調査も、広大すぎる砂漠の前に何もかもが遅れている。

あ。

今さらのように不安が浮かぶ。

砂漠に、こんなに澄んだ冷たい水があるのか? と。

「……砂漠なら、水は貴重なんじゃないんですか? 俺、こんなに飲んでよかったのか?」

男は人の良いおおらかさ全開に笑った。

大きな声ではないけれど、天幕の中に響く。

「気にするな。ハチは大事な客人だ。水くらい、いくらでも出すさ。それに見た目は乾いてるが、ここは案外、恵まれた土地なんだ」

その声が不思議と心地よくて、気づけば安心した気持ちになった。

場所はわかった。

でも、やっぱり俺、なんでここにいるんだろうか?

本当に記憶が曖昧なんだよな。

実家の借金で砂漠地帯にでも売られたか? 我が父も俺と遠からず小物なので、大金を借金するほどの度胸なんて無さそうだが。

「すみません。あなたのことを知っているようで、知らないのですが……。失礼を承知で、どなたかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ははっ。私を知らなくても無理はない。では、これではどうかな?」

男は腰に括り付けていた何かを顔に装着した。

げっ。

体から鳥肌が立つ。

鉄の仮面をつけると、急に記憶が鮮明になって来た。

こ、この人まさか……。立ち上がるとその強靭な体つきにも気づく。

「まだはっきりしないかな?」

彼はそういうと、天幕の外に出て“あれ”を持って入って来た。

あれとは、先に進むにつれて太くなる特殊な作りのこん棒。

げげげっ。

「す、砂の戦士長……様!?」

「正解だ。命のやり取りをしたからな。流石に簡単には忘れられまい」

なっ、なんでそんなお方が俺のお世話なんて!?

「カイネルにも久々に会いたいものだな。あれは、強くて賢い良き戦士だ」

「はえー」

砂の戦士長って本当にいたんだ。

いや、いるけど!

でもなんか、あんなに強かった人がこんな普通な感じの人で、親切で、気さくだなんて、とても驚きだ。

戦士長って物語の中のお人じゃなかったんだね。なんだかありがたみがあるので、筋肉隆々の肩を触らせて貰った。かなり不思議そうな顔をされた。

ありがたやーありがたやー。

いつまでも寝ているわけには行かない。働かざるもの食うべからず。体力には自信があるので、なんだかお世話になった戦士長様にお返ししなくちゃ。自分、小物なので雑用でもなんでもやらせて頂きます!

体を起こそうとした瞬間、視界がぐらりと傾いた。

あ、やば。

次の瞬間、床と顔がものすごい勢いで接近して――

「うわっ!」

派手な音を立てて倒れた。

体が自分のものじゃないみたいに重い。

天幕の中で、寝具や木の器があっちこっちへ転がる。

ごっごめーん。修理しときますー!

「ご、ごめんなさい!」

慌てて起き上がろうとするけど、脚に上手に力が入らない。

ちぐはぐな動きの体をまた制御しきれず、また尻もち。

「なんだか……まともに立てないや」

少し不思議な感覚だ。今までに味わったことのない。

戦士長様が落ち着いた声で言う。

「無理をするな。長く寝ていたんだ。体が慣れ、思い出すまで、しばらくかかる」

長く、寝ていた?

言われてみれば、頭の中がずっとぼんやりしている。

景色も、時間の感覚も、どこか現実味がない。まだ夢の中のようなふわふわした感じもある。

「……そっか」

そう呟いた瞬間、夢の断片がふっと浮かんできた。

変な夢を見ていた気がする。

ずっと何かに追われてて、息もできないくらい苦しくて。

でも、いつも誰かが助けてくれた。

震える俺をノエルが暖かく抱きしめてくれたりしていた。ありがたい許嫁だ。

化け物みたいなのも出たりしたが、姉さんたちが次々と斬り倒してくれた。夢の中でも、天才の姉さんたちは強かったのだ。

あの背中を見てるだけで安心して、気づけば俺は、また目を閉じて静かに眠れたんだよな。

ズキン、と体の奥が痛んだ。

「っ……!」

思わず服の裾をめくる。神経が痛んだような鋭い痛みだ。

腕から胸にかけて、右半身に、細い黒い筋が血管みたいに走っている。

……なんだよ、これ?

「しょ、食あたり……?」

変なキノコでも食べたか? 俺のことだ。全然、ありそう!

戦士長が、すぐそばにしゃがみ込み、静かに答えた。

「“黒血管紋”だ。静かに深く眠っている間も、お前が生きていた証でもある」

黒血管紋。聞き覚えの無い単語に不安な気持ちになる。

やっぱり食べた? 変なキノコ。かなり、ありそう!

自分の体をもう一度見る。

黒い筋は、ただの傷じゃない。

微かに光を帯びて、まるで脈を打つように動いていた。

「逆に、こちらからも聞きたいことがある」

「な、なんでしょう?」

試験のときに負わせた傷のことなら謝罪しませんよ。あ、あれはもうチャラですよね! こっちの方が傷は深かったし。

「ハチの記憶は、どこからある?」

「え?」

どこからって。

頭の中がふわっと霞んで、すぐには答えられなかった。

思い出そうとするほど、映像が砂のように崩れていく。

すんごい美味しいものを食べていたら覚えているはずなんだけど。美女も忘れないはず。なのに。

「……わからない、です。気づいたら、ここにいた。その前……たぶん、誰かと戦って……」

言葉を探していると、戦士長が頷いた。

「魔獣と戦っていた。お前は魔獣化した少女を助けるため、代わりに魔獣化する程の量の“マグ・ノワール”を、その身に背負ったのだ」

「……背負った?」

ケチで有名なこの小物が、そんな誰かのためだなんて。

「そうだ。あの黒い魔力の奔流を、自分の体に取り込んだ。普通なら、即死だ。だが、お前は生きた。お前は強い。その結果が、その黒血管紋だ」

戦士長の視線が、俺の腕をなぞる。黒い筋が心臓の鼓動に合わせて脈を打つ。

「あ……俺、魔獣だったりする?」

「そう見なされていた。私が駆けつけた時、お前は完全に“魔獣”として扱われていたよ。天壊旅団団長ゼルヴァンによって討伐の命が出ていた」

その言葉で、記憶が一気に戻ってくる。

――神殺しの団員たち。

――イレイザー先生の叫び。

――ジンの背中。

世話になったウィルバート隊長とヘーゼルナッツ博士の姿も。

血と風と、魔力の咆哮。

あの光景が、音と熱を伴って甦る。

最後の光景がなんとなく思い出される。俺は体の制御が効かなくて、随分と狼狽していた。

ジンが俺を庇って立ち、イレイザー先生が、あの神殺しの面々を制御していた。ああ、最後に強烈な砂嵐が来たんだっけ?

「……思い出したか?」

戦士長の声が静かに響いた。

俺は小さく頷いた。

彼の表情には、少しの安堵と、それ以上の重みがある。

「私は別件であそこにいて、偶然お前を救い出した。砂の一族の中でもお前はもう、死んだと思っていた者が多い。マグ・ノワールをあれだけ取り込んで、生き残る人間はいない。だがこの地には、過去に似たような者がいた」

「マグ・ノワールを体内に?」

「あれ飲み込み、生き延びた者だ。その生還をもとに、我らはこの地の砂を使った療法を確立した。お前は運が良かった。この地に流れ着いたこと自体が、奇跡に近い」

奇跡……。そうなんだよ。俺ってなんだかずっと、運に恵まれている。特に人との縁という部分で、とんでもない強運の持ち主だ。それだけが取り柄の小物。

「ハチは、アーレ=ザル砂漠の歴史をどれほど知っている?」

かつて読んだ書物の記憶を辿りながら、知っていることを口にする。

「少しだけ。……ここは、かつて神々が戦争をした土地、であっています?」

戦士長は静かに頷く。

「その通り。この砂漠は、かつて“神々の戦場”だった。あまりに多くの力がぶつかり合い、精霊たちは怯えて逃げ出した。その傷跡が、いまも残っている。だからこの地は、今なお不毛のままなんだ」

風に揺られて開いた入り口の外を見た。

風が、乾いた音を立てて砂を運んでいる。

どこまでも続く金色の地平線。

生き物の気配も薄い。

でもどこか、息づいている感じがした。

「けど、悪いことばかりじゃない」

戦士長は微笑んだ。

「砂は、ただの砂ではなくなった。神々の戦いの影響が、深く残ったからな。この砂には魔力が籠っている。まるで意志を持つように、常に魔力を飲み込む」

「魔力を飲み込む?」

「そうだ。何かを燃やせば灰になるように、この砂は“魔力”を飲み込み水に変える。精霊が逃げ出した地と言ったが、全ての精霊ではない。精霊王ミトリア様だけがこの地を見放さず、この循環システムを我らに授けてくだった。だからこそ、我らは生き延びていられる」

「ミトリア様が……」

あの美人精霊王ですね。はい、わかります。記憶が曖昧な中でもよく覚えています。

「ミトリア様の存在を知っているようだな。ハチは本当に不思議な男だ。ミトリア様は豊饒の紋章を司る精霊王。敬意を表して、我ら砂の一族は豊饒の紋章を最上の紋章として扱う」

なるほどね。

あのー、すみません。役所の方いませんかー?私の戸籍ですが、こちらに移しても宜しいでしょうか? 王国では、豊饒のスキルは大事にされていなくて!

「そういえば……書物にも書かれていた気がする。砂の一族は、砂に魔力を吸われるから、上手く扱わないと生きていけないって。だから、幼少期より自然と魔力の制御が身に付き、砂の一族は強いんだって」

戦士長が静かに笑う。

「称賛をありがとう。確かに、我らは砂に選ばれねば生きられない。魔力の扱い方を間違えれば、砂そのものに喰われる。だから、弱い者はこの地で育たない。それが“強さ”と呼ばれるなら、そうかもしれん」

俺は同意するように強く頷いた。

「あんたの強さは誰より俺が知っているからね。イェラもシアンも、めっちゃ強いもんなぁ」

「そして、この砂はお前の治療にも役に立った」

「治療に?」

砂に俺も救われたの?

「ああ。お前の体に残っていた“マグ・ノワール”を、この砂が、ゆっくりと吸い上げてくれた。時間をかけて、少しずつ、な」

自分の腕を見下ろす。

黒い筋が、脈のようにかすかに光る。

その線を指でなぞると、微かな熱を感じた。

「この筋がマグ・ノワールの逃げ道だったのか?」

「そう。“黒血管紋”。それが、お前の体にまだ少しだけ残ったマグ・ノワールの痕跡だ。完全に抜けたわけじゃない。けれど、今のお前は、それを辛うじて制御できている」

魔獣化したのは夢じゃなかったし、影響はまだ残っている、という訳か。

「……変な感じだな」

そう呟くと、戦士長はにやりと笑った。

「変だろうとも。生きながら、マグ・ノワールを飼っている人間など、滅多にいないどころか……魔獣化するだけの量を考えれば史上初だろうな」

俺が情報をなんとか咀嚼している間、戦士長がゆっくりと待っていてくれた。

なんとかでかすぎる情報を飲み込むことに成功したタイミングで、戦士長がまた口を開いた。

「ハチ、提案がある」

「提案?」

「ああ。お前の体内に残ったマグ・ノワールは、まだ完全に制御できているわけではない。だが焦る必要はない。この地なら、砂がその力を鎮めてくれる。それに知識を有している族長様を始めとした老獪な方たちも多い。しばらくアーレ=ザル砂漠で修業していくといい」

ありがたい話だ。

砂の一族は接近するのでさえ難しいと言われる一族。俺は今正確にどこにいるか知らないが、彼らの内部にいるということだ。

こんな機会は逃したくないが……。

「それに砂の一族は豊饒のスキルにも長けている。王国では見ることが出来ない珍しいスキルを多く見られるはず。お前にとって学ぶことの多い土地になるだろう」

少し黙って考える。

ありがたい。本当にありがたい。

けど、学園は?

皆、どうしてるだろうか?

ノエルは、姉さんたちは?

自分がいない間に、何かが変わってしまっていないか。

それが不安だった。

言葉にしようとしたその時――

ぐぅうううううう。

腹の音が天幕の中に響いた。

……よりによって、こんな時に。

あのー、聞かなかったことにしてもらえませんか?

戦士長が目を瞬かせ、そして静かに笑った。

「……やはり、腹は正直だな」

彼は天幕の入口近くに置いてあった布包みを手に取り、こちらへ差し出す。

包みの中には、香ばしく焼けた肉の塊。香草と塩だけで味付けしたシンプルな肉塊!

野生動物の肉だろう。湯気が立ち上り、脂の匂いが鼻をくすぐる。そういえば、戦士長が入って来た時に良い薫りがしてたんだよな。私の鼻は見逃しませんよ?

「砂の一族は、こういう天然のものを食す。調味料は少ないが、旨味はどこの食べ物よりも生きている」

遠慮は、もちろんしません!

「いただきます!」

感謝、感謝!!

手づかみでちぎり、口に放り込む。

塩気と肉汁が舌を満たした瞬間、世界、時代が、命が戻ってきた気がした。

気づけば、夢中で食べていた。

戦士長が嬉しそうに頷く。

「喜んでもらえて何よりだ。この地の食は質素だが、味は間違いないだろう?」

もぐもぐを止めず、頷いた。

「……うん。すごく、うまい!!」

戦士長の微笑が、どこか安堵を含んでいる。

よし、決めた。

自分、残ります!

「しばらくお世話になります。戦士長様」

「そうか。そうすると良い。お前の存在を砂の一族も歓迎することだろう」

戦士長はやるべきことを追えたのか、立ち上がって天幕を出て行こうとした。俺にゆっくりくつろいで欲しいのだろう。けど、呼び止めた。

「すみません、聞きそびれていたことがあります」

「どうした?」

「俺って……どのくらい寝ていました?」

戦士長がこちらを振り返る。

一拍の沈黙。

そして、低く静かな声で言った。

「二年と半年だ」

その言葉が、天幕の空気を止めた。

「はえ?」

頭が真っ白になる。

……に、にねん……?

心臓が、どくんと跳ねた。

時間の感覚が一瞬で崩れ落ちる。

自分だけが、世界から取り残されている感覚。

二年って何? え、何日だ?

「俺ってその間、ずっと砂の一族の世話に?」

「ああ、砂の移動都市アラ=ファルマで預かるという意見も出たのだが、私が反対した。私の生まれ故郷の集落で預かり、世話をさせて貰った」

ちょいちょいちょい。

噓でしょ?

二年半って何日だ?

七百日以上は確定。半年も加えると九百日行くのか?

待て、待て。俺は九百日以上も泊まっていたの?

寝ていた間も水やご飯の世話をして貰っていたのだろう。嘘だろう? それってさあ。

「……すみません。あのー、宿泊費ってどのくらいになります?」

目覚めてから一番の不安が、俺の身に襲い掛かる。

ぶ、分割の支払いって可能でしょうか?

「はい?」

戦士長様の酷く戸惑った声が天幕に響いた。