軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

098:クリフォトゲートの実態

「お初にお目にかかります、クオンさん。私はマーベル、『クリフォトゲート』のサブマスターです」

「クオンだ。勧誘なら断ったぞ」

ライゾンを大きく後ろに下がらせて、マーベルは声を上げる。

こいつ自身は小柄なのだが、何故か三人ほど、随分と大柄で柄の悪い連中を後ろに引き連れていた。

これで威圧しているつもりなのだろうか? 俺としては、余計に身長差が目立ってこの男がチビに見えるのだが。

そんな俺の内心など知らず、マーベルは薄ら笑いを浮かべたまま声を上げる。

「まあ、そう仰らず。一人で動かれるよりも、集団の方ができることは多くなるでしょう。その点、我々は――」

「くどい。こちとらやることがあるんだ、セールスに付き合っている暇はない」

「貴方は勘違いしている、一人でできることなど、決して大きくはないのですよ。我々と一緒であれば、もっと大きな戦果を望めるはずだ」

「それなら『キャメロット』の方がよほど期待できるな。尤も、どちらにも所属するつもりは無いが」

嘆息してそう告げると、マーベルの頬がピクリと揺れる。

あまり我慢強い性質ではなさそうだな。まあ、根気のある奴ならばこのような恫喝じみた交渉はしてこないだろうが。

やれやれと肩を竦めて踵を返そうとし――そこに、先程までよりも僅かながらに声が揺れるマーベルの声が響いていた。

「……いいのですか、我々を敵に回しても? 我々『クリフォトゲート』を敵に回すことがいかなることであるのか――」

「無論、構わんとも」

そう来るか。下策も下策、と言うべきだが――その対応は俺好みでもある。

口元を歪め、僅かに気を昂らせながら、俺は恫喝を行ってきたマーベルを、そしてその後ろに控える『クリフォトゲート』の連中を睥睨していた。

思わず息が詰まったように仰け反るマーベルであったが、それでも多少は根性があった様子で、彼は続けて声を上げる。

「は、ははは……構わない、ですか。『クリフォトゲート』はトップクランの一つ、その戦力を甘く見てもらっては――」

「言っただろう、構わんと。敵対するならどんどん来るといい。百人か、千人か、一万人か――楽しい殺し合いにしてくれるんだろう?」

評判が悪いとはいえ、上位のクランなのだ。戦力は並のクランとは比べ物になるまい。

それが集団で襲ってきてくれるのであれば、多少は楽しい戦いになりそうだ。

「それとも、今襲ってくるか? 構わんぞ、こいつの試し斬りをしたいところだしな……そういう用事であれば時間を割いてやる価値はある。さぁ、どうするんだ?」

「ッ……で、できるはずがない! どれだけの数の差があると思っている!」

「できるとも、俺が何匹悪魔を斬ったと思っている? 今は壊れない武器も貰ったわけだし、幾らでも斬ってやれるぞ?」

あのイベントも、戦闘を続けられたとしても討伐数二千には到達しなかっただろう。その前に武器が限界を迎えていたはずだ。

しかし今は、耐久値という制限が存在しない餓狼丸がこの手にある。

これならば幾らでも斬り続けることができるだろう。それを確かめてみるのも一興だ。

くつくつと笑えば、マーベルは気圧されたように一歩後退する。

「ふ、ふ、ふざけるな! 不正だ、不正行為に決まっている! あんな大群の動きを止めることなど……『キャメロット』共々チートを行ったに違いない!」

「不正、チートねぇ……自分たちが下手なことへの言い訳を他人に求めるなよ」

「下手、だと……ッ! 我々の方が『剣聖連合』よりも早く爵位悪魔を倒していた! それなのに順位が下だったのは――」

「何も考えずに戦って街に被害が出たからだろう? 戦いの趣旨も理解せずによくやっていたもんだ」

イベントの概要には、悪魔の軍勢から人々を守れと記載されていた。

つまり防衛こそがイベントの趣旨であり、こちらから攻めていく必要は本来なかったのだ。

まあ、俺の場合はそちらの方が効率が良かったため、さっさと潰しに行ったわけだが。

しかし尚も納得できていないのか、当初の慇懃な態度を取る余裕も無くしたマーベルは更に言い募る。

「NPCなど関係ないだろう! 速く悪魔を倒せればそれでよかったはずだ!」

「……速く、などと言う割には、俺が二匹殺すまで倒せなかったようだが?」

「それはお前がチートを使ったからだ……!」

「はぁ……二言目にはそれか。なら、試してみるとしようか……なぁ、GM。改めて、不正があるかどうか確認してくれるかい」

「ふぁっ!?」

突如として話を振られたためか、奇妙な声と共にGMフラウゼルは佇まいを直す。

そんな慌てた様子の彼女を尻目に、その横に控えていた二人の運営アバターは、相変わらず淡々とした調子で声を上げる。

「申請を受理しました」

「 異邦人(プレイヤー) :クオンのデータ、パケットダンプの確認・計測を開始」

「ちょっ、ガーデナーちゃんいいんですか……!?」

……ふむ、ガーデナーね。動揺した様子のフラウゼルが零した言葉は少々気になったが、それを問い詰められる状況じゃない。

小さく嘆息し、俺は『クリフォトゲート』の連中の方へと向き直って――己の視線に、殺気を込める。

その瞬間、喚き散らしていたマーベルや、その後ろでこちらを睨んでいた男たち、その全てが目を見開いて沈黙していた。

「どうした、クソガキ共。この強度は、あの時悪魔共に向けていたのの一割程度のものでしか無いぞ?」

今、俺が放っている殺気は、鬼哭と比べれば10%程度の強さでしかない。

この程度、達人同士の戦いにおいては挨拶にすらならない程度のものだ。

とは言え、相手は素人の集まり。殺気に晒されるという経験そのものが少ないだろうが――

「殺気……気当たりなんざ誰にでもできる。お前がさっき、その図体ばかりでかいだけの木偶の坊を後ろに並べていたのと同じことだ。恫喝、脅しだよ。言葉を使わず、意思で、態度で――『お前を殺してやる』と、そう宣言するだけだ」

口元を笑みに歪めながらそう告げ、俺はゆっくりと『クリフォトゲート』の連中へと向けて歩を進める。

彼らはびくりと反応するが、それでも足が竦んでいるのかその場から動けない様子だった。

そんな様子にますます笑みを深め、俺は告げる。

「どうして威圧が通用するのか――それが理解できるか?」

「っ、ぁ……!」

「答えは単純だ。 生きているから(・・・・・・・) だよ」

俺の言葉を理解できていないか、はたまた聞く余裕も無いのか――連中は顔色を失ったまま沈黙している。

だが、構わずに俺は言葉を重ねていた。

元より、こいつらが理解できるとは思っていない。俺はただ、事実を端的に伝えるだけだ。

「生きているから、生物であるからこそ、『死にたくない』という感情が生まれる。そして俺が生存するにあたっての脅威であるからこそ、恐ろしいと思う感情が生まれるのさ。それは 異邦人(プレイヤー) も、現地人も、悪魔ですら変わらない」

それは生物としての生存本能、あって当然の感情だ。

目の前に、己の命を害しうる存在がいるのであれば――それを恐れるのが、生き物として当然の情動だ。

ゆっくりとマーベルの目の前まで歩み寄り、恐怖に歪んだその表情を嘲笑と共に見下ろす。

ようやく理解できたのだろう。目の前にいる相手が、己を殺し得る存在であるということが。

「さて……どうだ、GM?」

「計測終了。ツールの使用など、一切の不正行為はありませんでした」

「結果は良いんですけど……え、いいのかな、これ……」

困惑している様子のGMフラウゼルに苦笑しつつ、俺は殺気を解く。

どうやら、彼女は使い走りの類のようだ。彼女の上役に何かしらの思惑があるのか……あるいは、二体の運営アバターに何か秘密があるのか。

少々気にはなるが、この衆人環視の中では流石に質問することはできない。

軽く嘆息し――俺は改めて、『クリフォトゲート』の連中の方へと視線を向けた。

「さて、お前たち」

「ひっ!?」

殺気から解放され、その場に座り込んでいたマーベルを見下ろし、俺は嗤う。

これ以上虐めてやるつもりは無いが、このままというのも面白くない。

少しぐらいは楽しませて貰いたいところだ。

「下らない話はここまでだ。殺し合いがお望みであれば、喜んで相手をするところだが」

「や……ち、違うッ、そんなつもりは!」

「おいおい、お前が喧嘩を売ってきたんだろう? それを買ってやろうと言っているんだ。それとも、前言を撤回するか?」

「撤回する! 悪かった、この通りだ! もう仲間になれなんて言わないッ!」

「……そうかい。なら、もう用はない。所詮はその程度か」

軽く嘆息し、俺は緋真たちに合図をして歩き出す。

その際、かなり後方に追いやられていたライゾンとすれ違ったが、彼は何か言いたげにこちらを見るだけで、それ以上何かを口にすることは無かった。

そのまま広場を離れ、街の北側の門へと向かって歩き出す。

――そこで、横に並んだ緋真が意外そうな表情で声を上げた。

「先生にしては、ちょっと大人しい決着でしたね? もっと挑発して戦闘に発展させるかと思ったんですけど」

「俺としては、それでも良かったんだがな。GMの思惑に乗った形だ」

「GMって……フラウゼルさんの?」

「いや、どちらかと言えば……」

あの、二体の運営アバター。あいつらは、俺の要求に対して素早く対応してみせた。

まるで、最初からその対応を行うことを予想していたかのように。

奴らには何かしらの裏があるように思えるが――流石に、プレイヤーの立場で運営の内情を探ることは出来ないか。

餓狼丸を――天狼丸重國を用意してきたこともあるし、色々と気になることは否定できないのだが。

「……まあ、俺が不正を行っていないことを衆人環視の中で証明するいい機会だったからな。あの連中には協力して貰ったって訳だ」

「成程。それにしたって、いつもだったらもうちょっと派手にやるかなって思いましたけど」

「あのクソガキはともかくとして……他の連中は心を折らない程度にしたからな」

別に折ってしまっても良かったのだが、折角ならば再起の可能性を残しておきたかった。

そうしておけば、今度こそ俺に挑んできてくれるかもしれないからな。

目の前で俺の殺気に晒され続けたマーベルはともかく、その後ろに控えていた連中はまだまだ立ち上がれる余地はある。

それで俺に挑んでくるならばよし、更生するならそれはそれでありだろう。

「まだ俺に挑むだけの気概があるのなら、その時は派手に歓迎をしてやるさ」

「……まあいいですけど。それで先生、これからどこに行くんですか?」

「さっきGMが説明してただろ、聖火の塔だよ」

以前、現地人から話を聞いていた聖火の塔。

近づくと魔物が弱まるという話であったため、用はないと思っていたのだが――このような形で向かうことになろうとは。

グランドクエストに関わっているとなれば、何かしらの用意がされている可能性はある。

ひょっとしたら、爵位悪魔が出現している可能性も無きにしも非ずだ。

であれば、真っ先に狩り殺してやらねばなるまい。

「聖火の塔……先生、場所知ってるんですか?」

「ああ、以前に現地人から話を聞いた時、マップを確認したら表示されるようになっていたからな。迷うことは無いだろう」

「へぇ……『キャメロット』とバッティングしないといいですけど」

「いや、それは無いだろうな」

俺たちが広場から北に向かったことは、アルトリウスも確認していた。

彼からの視線を感じたし、それは間違いないだろう。

そうなれば、俺が北の塔に向かっていることは既に把握されていると見ていい筈だ。

今回の同盟の性質上、俺とアルトリウスの攻略場所は異なる方面にした方が効率がいい。

自然と、彼は別の聖火の塔へと向かうだろう。

「とは言え、他の連中が向かっていないとも限らん。さっさと向かうとしよう」

「そうですね……今日中に攻略しちゃいましょうか」

妙にテンションの高い緋真は、どうやら戦いたくてうずうずしているようだ。

恐らく、スキルオーブで何らかのスキルを手に入れたのだろう。

俺としても、新たなスキルはさっさと試してみたいところだ。

楽しげにしている俺たちの姿を、ルミナはにこやかな笑顔で見つめている。

三人とも、準備は万全という状況だ。

「よし、それじゃあ向かうとするか。気合を入れておけよ、お前ら」

『はい!』

元気のいい二人の言葉に苦笑しつつ、俺は北側の門からフィールドへと足を踏み出す。

悪魔の軍勢を退け、確かに変化しつつある世界。

一体何が起こっているのか――その好奇心の高ぶりは、俺の中にも確かに存在していた。