軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

097:同盟

「どうも、お二人とも。お疲れ様でした」

「私は壇上には登っていないけどね」

「壇上云々についてはお前の方が注目されていただろうに」

「いや、それに関しては僕よりクオンさんだと思いますけどね。と、それよりも――クオンさんも早く動きたいようですし、さっさと本題に入りましょうか」

俺に対しそう告げて、アルトリウスは淡く笑みを浮かべる。

俺が既に目的地を定めていることを、アルトリウスは察しているのだろう。

この男のことだ、既に聖火の塔のことを掴んでいたとしてもおかしくはない。

アルトリウス自身、さっさと行動に移るつもりなのだろう。

「同盟の話、考えていただけましたか?」

「ええ、話はもう通してあるわ。こちらとしては基本的に問題はないわ――尤も、やることは後々詰めさせて貰うけど」

「そうですね、『キャメロット』と『エレノア商会』の間では、色々と取り決めが必要になるでしょう。けれど――」

そこまで口にして、アルトリウスは俺の方へと視線を向ける。

口元には相変わらず笑みを浮かべ――しかし、その瞳の奥に油断ならぬ光を宿しながら。

「クオンさん、貴方については、特に複雑なことはないんです」

「あ? どういう意味だ?」

「『キャメロット』からは、クオンさんには情報と、数が必要な時に戦力としての協力を約束します」

「……そういうわけか。それなら、『エレノア商会』からは貴方にアイテム関連の支援を行うわ」

「おいおい……ちょっと待て、どういうことだ? 何でそうも俺にばかりメリットを提示してくる?」

俺から二人に対して提示するメリットではなく、二人はただ俺に対してのメリットばかりを強調した。

同盟関係だというのに、なぜ俺ばかりが恩恵を受けるような形になっているんだ?

二人の意図が読めずに困惑する俺に対し、エレノアは軽く苦笑しながら声を上げていた。

「それはね、クオン。貴方が思う存分動けることが、私たちにとってのメリットとなるってことよ」

「……何だそりゃ?」

「ワールドクエストの発端となったこともそうですが、クオンさんはこのゲームの最前線を突っ走れる実力を持っています。貴方が動くことは、自然と新たな領域の開拓に繋がるわけです」

「まだ見ぬ素材やクエストを、発掘できる可能性が非常に高いのよ。それで手数が足りないとなった時に、この同盟を頼ってくれればそれでいい」

二人の言わんとしていることは分かる。

今回のワールドクエストの発端となったのは間違いなく俺であるし、前例がある以上今後もそうなる可能性は否定できない。

だが、それは即ち俺がそれらを独占できることに他ならないだろう。

確かに俺たちだけでは手数が足りなくなることもあるだろうが、逆に言えばそうではないパターンも多いのだ。

まさか、それらの独占を許すということだろうか。

「懸念されているようですが……そこまで気にすることではないですよ。この世界も広いですからね、クオンさんが突出しても、他に進出できる余地はいくらでもあります」

「貴方の独占を咎める権利は私たちには無いわ。まあ、不要だと言うなら情報は欲しい所だけど……好きにしたらいいと思うわよ。貴方のやることはどうせ、大事に発展するんだから」

「……どういう意味だよ、そりゃ」

「分かり切ってるじゃない。貴方、あんなに悪魔を敵視しているんだから。悪魔に喧嘩を売るってことは、即ち 大事(グランドクエスト) に繋がるってことよ」

……つまり、俺は俺の思うように動けばいい、ということか。

俺が拾ってきた物や情報は自然と『エレノア商会』に伝わり、それが『キャメロット』まで流れる……そうすれば両者にとってもメリットがあるということだろう。

それに、大規模なクエストを発見した場合、俺だけでは手が足りずにアルトリウスに救援を要請することがあるかもしれない。

それこそ、まさにアルトリウスの望むところということか。

「それで、どうするのかしら、クオン?」

「この同盟、参加していただけますか?」

エレノアとアルトリウスは、並ぶようにしながら俺へと問いかける。

その言葉に、俺はしばし瞑目していた。

メリットは十分。そして、普段と変わらぬ動きをしているだけでも、二人の期待には沿うことができるだろう。

それだけでいいというのであれば、これまでと何ら変わることはない。ただ敵を探して戦うだけだ。

「ふむ……であれば、俺も協力しよう。何かあったら、お前さんらにも声を掛けるさ」

「よろしくお願いします、クオンさん」

「成立ね。貴方が居るかいないかで同盟の価値もかなり変わってくるし、助かるわ」

そこまで持ち上げられるような話ではないと思うのだが、と嘆息したいところだが、実際のところ実績があるから何とも言えない。

まあ、結局の所普段と変わらず、いつも通りに行動できるのだから、それほど気にする話でもないか。

納得しつつ緋真たちを呼んでさっさと目的地に向かおうとしたところで――先ほどから近くで話を聞いていた人物が口を挟んできた。

「成程、そのような話になっていたのですか……できれば、私たちも一枚噛ませて頂きたいのですが」

「教授さんですか。済みませんが、今回はこの中に限った話ですから」

黙っていたので忘れていたが、この状況で口を挟まないような人物ではなかったか。

教授としても、この同盟は決して無視できるようなものではなかったらしい。

あれだけ知識欲のある人物だ、色々と情報が手に入るかもしれない同盟には興味津々と言った所か。

「貴方がたの情報収集能力は理解しています。手を貸していただければ心強いことも事実、ですが――クオンさんに付いていきたいと、そう言い出す人は果たしてどれだけいますか?」

「……ふむ、それは……恥ずかしながら、多いでしょうな」

「『エレノア商会』の方であれば、クオンさんと直接顔を合わせる人間は僅かですし、そこはエレノアさんが完璧に統制できる範囲内です。ですが『MT探索会』は、同好の士が集まった団体。情報の収集と考察に特化していますが、集積した後の情報に対する取り扱いはまだしも、行動そのものは統制していないでしょう」

アルトリウスの言葉に、教授は渋い表情を浮かべる。

その様子から、ある程度『MT探索会』の内情を理解することができた。

彼らは要するに、学者の集まりのような連中なのだろう。

趣味で情報を集め、それに対して考察を行うことが好きな連中、とは聞いていたが……情報を集めることが主目的であり、そのための活動は特に規定していないようだ。

つまり個々人が好き勝手に動いて情報を集めている状態であり、教授はクランマスターであるものの、あまり統治しているわけではないのだろう。

「……つまり、それができなければ参加させるつもりは無いと?」

「今回はテストケースです。しばらくこの状態で運用して、大丈夫そうであれば拡張しますよ」

「そうですか……それならば、今回は止めておきましょう。急いては事を仕損じる、ということですな」

一応理性的ではあったようで、教授は素直に引き下がっていた。

ここで話が拗れていたら面倒だったが、やはり彼は結構年の行った人物なのだろうか。

振り返った教授の表情の中には既に苦い色は無く、どこかバイタリティに溢れた笑みを浮かべていた。

「課題ができてしまいましたね。次は参加できるよう、組織体制を整えておきます。それでは、次の機会に」

そう口にして俺たちに頭を下げると、教授はそそくさとこの場を後にする。

この様子だと、早速クランの中で議題に挙げる気が満々であるらしい。

まあ、邪魔をしないでくれるのであれば、あの情報能力は役立つものであるし、何とかして貰いたいものである。

「さて、話はこれでいいか? それなら、俺たちはそろそろ自由にさせて貰うが」

「ええ、勿論。僕たちは少し、同盟の約定について話を詰めていきます」

「必要なものがあったら連絡を頂戴。用意しておくから」

さて、この同盟が上手いこと運用できるかどうかはまだ分からないが、何かあれば協力を仰ぐとしよう。

互いに笑みを交わし、俺は踵を返して緋真たちに声を掛けていた。

「おい、そろそろ行くぞ」

「あの、先生。それは良いんですけど……あっち」

「あん? 何かあったのか?」

眉根を寄せた緋真と、キョトンとした表情のルミナ。

その様子に疑問符を浮かべつつ、緋真の示す方向へと視線を向ければ、そちらからは見覚えのない一団がこちらへと近づいてきていた。

先頭に立っているのは大柄な男だ。巨大な戦斧を背負ったその男の視線は、一直線に俺へと向けられている。

どうやら、俺に用事のある人物のようだが――

「緋真、あいつらは誰だ?」

「『クリフォトゲート』の連中ですよ。そのうち来るだろうと思ってましたけど、このタイミングとは」

「ほう……?」

緋真の説明に眉を跳ねさせつつ、俺はちらりと視線を壇上へと向ける。

そこには、未だに三人の運営アバターの姿があった。

用事が終わったらそそくさと消え去るかと思っていたが、残っているのであれば都合は良い。

さて、どう対応したものか――と考えている内に、件のクランの連中は俺たちの目の前まで到着していた。

それと共に、先頭に立つ大男は、にやりと笑みを浮かべながらでかい声を上げる。

「よう、アンタがクオンか!」

「その通りだが、アンタは?」

「オレはライゾン、『クリフォトゲート』のクランマスターだ! なあクオン、アンタ強ぇんだろ?」

「ま、そこらの連中よりは強いだろうな」

「そうか! ならクオン、オレの仲間になれ!」

強気に笑い、ライゾンはそう口にする。

そんな彼の言葉に、俺は少々驚いて目を見開いていた。

どうにも、事前に聞いていた印象とは少々異なるが――いや、統治する気が無いだけで人を集める気だけはあるのか?

それはそれで問題児だが、この男からは全くと言っていいほど悪意を感じない。

それでいて、立ち姿は中々のものだ。動きに隙は多く、武術を学んでいるようには見えないが、体幹はしっかりしていて重心も安定している。

これは天性のものだろう、武術を学べば大きく成長できるかもしれない。

まあ、それはともかくとして――俺には彼の誘いに乗る気は一切ない。しかし少々言葉は乱暴だが普通の誘いであったことだし、普通に対応することとしよう。

「悪いが、誰の誘いにも応える気はない。勧誘なら他を当たってくれ」

「何でだ? 強い奴同士組んで戦った方がいいだろ?」

「俺の弟子より強い奴がいるなら考えなくもないが、そうでないならこいつの稽古にならん」

「弟子って……おー、そういやそうだったか」

中身はガキっぽい印象だが、意外と話は通じるな。

しかし、これだけだったらああも悪名を轟かせるようなことは無いと思うのだが……何か裏があるのか?

そんな疑問はおくびにも出さず、俺は言葉を重ねていた。

「アンタの所に、こいつよりも強い奴はいるのか?」

「……そいつは、いねぇけど。だがなぁ――」

「ライゾン、そこからは私が交渉しましょう」

と――そこで、ライゾンの後ろから一人の男が姿を現す。

ライゾンが大柄であるのもあるが、こっちは中々小柄だ。

灰色のローブを纏い、杖を持った魔法使い然とした姿。

その姿を目にし緋真が、俺に対し後ろから小声で囁いていた。

「『クリフォトゲート』のサブマスター、マーベルです。あんまり話にあがってくるタイプじゃないんですけど――」

「ああいい、分かってる」

フードの下から覗いているのは、欲望に淀んだ下卑た笑みだ。

こちらに伝わってくる感情も、決して心地の良いものではない。

どうやらこの男、妙な悪意を以て俺と話をするつもりらしい。

何をするつもりなのかは知らないが、『クリフォトゲート』の評判にはこいつを始めとした人間が関わっているように思える。

(さて、どうしたもんかね)

視線を細め、胸中で呟く。

相手が悪意を持っているのであれば――こちらもまた、相応の対応をさせて貰うとしよう。