軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

096:レアスキル

報酬に釣られた――と言われれば正直否定はできないのだが、結局俺は教授に協力することとなっていた。

と言っても、それほど作業量があるわけではない。

スキルオーブを起動して表示された大量のスキルリストには、きちんとソート機能が付いていたのだ。

しかもプラチナでのみ取得できるスキルもソートできたため、教授に提供する情報を探すのにはそれほど苦労しなかった。

彼に求められるままにスキルを一つ一つ表示しつつ、俺はもう一つ新たなスキルを得ていたことを思い出す。

それは緋真と同じ、二つ名称号と呼ばれる特殊な称号だ。

(……嫌な予感はするんだがな)

緋真の称号にあったフレーバーテキストを思い返し、思わず頬を引き攣らせる。

とは言え、手に入れたものは仕方ない。確認もせずに放置しておくことはできないだろう。

小さく嘆息を零しつつ、俺は新たな称号スキルを表示させていた。

■《剣鬼羅刹》

彼の者は、鋭き刃を手に戦場を駆ける剣鬼。

屍山血河を踏み砕き、血染めの悪鬼は不敵に嗤う。

自身を中心に半径20メートル以内の敵対者の数×1%の割合で攻撃力と防御力を上昇させる。

……フレーバーテキストに関しては何も言うまい。

それはともかくとして、この効果だ。これはつまり、敵の数が多ければ多いほど、俺の攻撃力と防御力が上昇するということか。

敵の数が少ない内はあまり効果を実感できないだろうが、今回のイベントのような状況であれば話は別だ。

あれだけ多くの敵に囲まれている状況ならば、攻撃力もそこそこ上昇することになるだろう。

「ふむ……とりあえずセットしておくか」

《一騎当千》の効果もそこそこ使えるのだが、HPの回復手段についてはそれほど困っていないのが現状だ。

正直な所、HPというのは体力と言うより、《生命の剣》を使うためのゲージという印象が強くなってきている。

しょっちゅう乱高下しているため、高く保たねばならないという意識があまりないのだ。

とりあえずは、こちらのスキルの方が多少なりとも効果があるだろう。

「おや、それは……君が先程得た称号スキルですかな?」

「あ、ああ……こいつの情報も必要ですかね?」

「ふむ、興味はありますが、二つ名称号については情報的価値はそこまで高くないのですよ」

「珍しいスキルには違いないが……」

「そうですな。しかし、それはそのプレイヤーだけに意味のあるユニークスキル。例え情報があったとしても、他の者に同じスキルを取得する方法はありませんのでね」

まあ、それは確かにその通りだろう。

二つ名称号のスキル効果は、あくまでもそのプレイヤー個人にしか意味のないものだ。

他のプレイヤーに取得できない以上、その情報を得ることは興味本位以上の意味を持たないものとなってしまう。

尤も、その二つ名称号持ちに挑むプレイヤーキラーがいるならば話は別だが。

ともあれ、必要ないというのであれば公開する理由もない。軽く肩を竦め、俺は称号スキルの画面を閉じていた。

「ところで、スキルの確認は終わりましたかね」

「ああ、ありがとう。色々と興味深い情報を手に入れることができましたよ」

「そいつは何より。それで、俺に役立ちそうなスキルは何かありましたかね?」

「ふむ……まず、君に最も役立ちそうなスキルはこれですかね」

そう言って、彼は一つのスキルを指し示す。

その名を確認して、俺は眉根を寄せていた。

「……《魔技共演》? これが、俺に役立つと?」

「説明を読んでみるといいですよ。プラチナ限定のスキルの中では、これが最も合っていると思います」

名前からは効果が予想できないスキルに疑問を抱きつつ、俺はそのスキルをタップする。

途端、表示されたスキルの効果に――俺は、目を見開きつつも納得していた。

■《魔技共演》:補助・パッシブスキル

単発攻撃の攻撃・アクティブスキルを二つ同時に発動する。

発動される効果は、一つだけで発動した時よりも減少する。

効果の減少幅はスキルレベルに依存する。

ショートカットワードでパターンの登録が可能。

「簡単に言えば、君の扱っている《生命の剣》や《収奪の剣》といったスキルを二種同時に発動できるようになるスキルですね。組み合わせによっては、色々と悪さができそうなものですが……このレアスキルを前提にスキルを構築するのは少々難しい話です」

「だが、俺には確かに有用ですね。効果の減少はあるようだが……レベルが上がれば、それも緩和されるか」

例えば、《生命の剣》と《収奪の剣》ならばどうだろうか。

《生命の剣》を発動した瞬間にHPが減少するが、上がった火力で敵に攻撃すれば、その分だけ《収奪の剣》の吸収量も多くなる。

減った分を即座に回復できる、便利な組み合わせだ。

また、時折威力負けで貫通ダメージを負っていた《斬魔の剣》も、《生命の剣》と組み合わせれば対応力は上がる。

……まあ、結局HPが減っていることに変わりはないが、魔法の効果を直接受けるよりはマシなはずだ。

《斬魔の剣》と《収奪の剣》は――これはあまり意味はないか。

「他には……デメリットのある短時間ブーストスキルもありますが、これはあまり好まないでしょう?」

「……その通りですが、何故そうだと?」

「貴方のスキル構成は、継戦能力に特化していましたからね。短時間で動けなくなるようなデメリットは扱いづらいかと」

確かに、時間切れと共に動きが鈍るようなスキルはあまり好みではないが、よくもまあそこまで読み取ったものだ。

確かに切り札としてはアリなのかもしれないが、大幅な感覚のズレは修正に僅かな隙が生じてしまう。

恐らく、達人相手には容易に突かれてしまう隙となるだろう。

俺たちにとっては、呼吸の隙すらも致命的なものとなることすらあるのだから。

「他に使えるスキルがあるとすれば……そうですね、少々特殊ですが、この《宣誓》というスキルがあります」

「《宣誓》? そりゃ一体どんなスキルなんで?」

「教会関係のクエストで、名前だけ確認されていたスキルですね。現地人の上位聖職者が持っているらしく、その効果は謎に包まれていましたが――いや、これは確認してもやはり謎が多いですね」

何とも要領を得ない教授の言葉に、俺は思わず眉根を寄せる。

とは言え、オークスの例もあるし、現地人の持つスキルというものは中々油断ならないものだ。

上位の聖職者が持つスキルとなれば、それだけ強力なものである可能性が高いだろう。

その考えと共にスキルの効果を表示してみたが――

■《宣誓》:特殊・パッシブスキル

スキルの取得時に、女神アドミナスティアーに対して誓いを立てる。

その誓いを守っている間、誓いの内容に応じた効果を得る。

誓いが困難なものであるほどに高い効果を得ることができる。

誓いが破られた場合、ペナルティが発生する。

「……本当に謎だなこりゃ」

「ええ。現在効果が確認されている《宣誓》は、『聖盾』と呼ばれている教会の騎士が使用するものですね。『万人の盾となること』を誓って、大幅なダメージカット効果を常時得ているとか」

「ほー……成程、誓いに則した効果を得られるってわけですか」

その判定は誰が行っているのかはよく分からないが、確かに有効な効果を得られる様子ではある。

問題は、自らに制限を掛ける必要があるということだ。

俺が行動する上で邪魔にならない制限ならばいいのだが、それで望む効果を得られるのかは分からない。

ハイリスクハイリターンな効果、ということだろう。

で、あるならば――

「よし、それなら選ぶのは《魔技共演》だ」

「ははは、やはりそうでしたか。そちらの方が扱いやすいですからね」

「流石に、貴重なアイテムでギャンブルする気にはなれなかったのでね」

《宣誓》も少々気になるスキルではあったが、やはり分かりやすくメリットのある《魔技共演》を取得するべきだろう。

プラチナのスキルオーブはそうそう手に入るものではないだろうし、あまり確実性のないスキルに使うのは勿体なく感じてしまう。

それに自分に制限を掛けるというのも難しい話だしな。

「プラチナでの限定スキルは15個……今後情報が必要であれば、無償で15個まで提供しましょう。ありがとうございました、クオンさん」

「いや、こちらも参考になりましたよ」

「ははは、お互い様ですね。では、フレンドを交換しておきましょう。欲しい情報があればご連絡ください――ああ、情報を売ってくださってもいいですよ」

「そりゃまた、いい稼ぎになりそうなことで」

あんな金額をポンと出してくるぐらいだからな。

これまで金にはあまり頓着してこなかったが、この金額を持ち歩くのは少々腰が引ける。

どこかに銀行のような施設は無いだろうか――と、そんなことを考えていたちょうどその時、クラン部門の表彰が終了し、アルトリウスが壇上から姿を消していた。

それと共に、二体の運営アバターが声を上げる。

「では、これにて上位入賞者の表彰を終わります。そして――」

「――これより 異邦人(プレイヤー) の皆様に、グランドクエスト《人魔大戦》の概要を説明します」

その声と共に、中央にある画面にある画像が表示される。

あれは――見覚えのない形であるが、恐らくはこのゲーム世界の地図だろう。

一つの大きな大陸はいくつかの国に分けられ、それぞれが色で塗られている。

「現在このメザニア大陸において、人類と悪魔の抗争が続いています」

「この地図は、その勢力図を示しています。白に近い色の国は人類が優勢であり、黒に近い色の国は悪魔が優勢な状況です」

その言葉に、周囲のプレイヤーたちからはどよめきが上がる。

隣で身を乗り出した教授の表情も、酷く真剣なものへと変化していた。

無理も無いだろう――何故なら、ほぼ大半の国がグレーから黒に染まっていたのだから。

俺たちが今いる場所、アルファシア王国はかなり白に近いグレーだ。これは、今回のワールドクエストで勝利を収められたからこそだろう。

対し、隣国のベーディンジア王国はほぼ中間色のグレー、その東にあるミリス共和国連邦はそれよりは若干薄いがグレーだ。

そして最も酷いのは、ベーディンジアの北にあるアドミス聖王国。ここは、ほぼ黒に近いグレーとなっていた。

さらに北の小国群もグレーであり、一番マシだと思われる聖王国の西、シェンドラン帝国も白に近いグレーと言った所だ。

間違いなく、人類は危機的状況に立たされていると言えるだろう。

「皆様の使命は、悪魔の駆逐」

「悪魔を滅ぼし、人類の勢力圏を取り戻すこと」

「聖火の塔を取り戻し、悪魔たちの力を削ぎなさい」

「悪魔と戦い、それを率いる爵位悪魔を滅ぼしなさい」

『さすれば、この世界の未来を掴めるでしょう』

その声に、プレイヤーたちはしばし呆然と沈黙し――しかし、やがてゆっくりと伝播するように、高揚の熱が立ち上り始める。

それは歓声となり、瞬く間にこの広場を埋め尽くしていた。

響き渡る騒ぎ声の中、横から聞こえてきたのは嘆息の音。

そちらを見れば、僅かに視線を細めたエレノアがこちらを見つめていた。

「また派手な動きになりそうだけど……貴方はどうするつもり?」

「どうするも何も、言われた通りだろう? 聖火の塔に行き、それと悪魔を殺すだけだ」

「そっちじゃないわよ。貴方、もしかして忘れてないわよね?」

「おん? そりゃ何のことを――」

言っているのだ、と聞こうとして――この歓声の中を近づいてくる気配に、俺はエレノアの言わんとしていることを理解していた。

数人を伴いこちらに歩いてきたのは、先程まで壇上にいたアルトリウス。

周囲の視線が壇上に集まっている間に、こちらまで移動してきたのだろう。

成程、どうするのかと言うのはこれのことか。つまり――

「アルトリウスとの……いいえ、私たち三つの勢力での同盟。貴方、どうするつもり?」

そう口にして、エレノアは小さく笑う。

それはどこか挑戦的な笑み。エレノアは、その困難に挑むつもりなのだろう。

思わず苦笑を零しながらも、俺はアルトリウスの到着まで口を噤んでいた。