軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

956:数多の障害

「何というか……単純に、過酷だな」

こちらへと突進してきた大トカゲの攻撃を躱しながら餓狼丸を振るい、小さく嘆息する。

頑丈な鱗に身を包んだ、四足歩行のトカゲ。名前はグレイヴリザード――濃いグレーの体表は、丸まっていると岩と見分けがつかない面倒な魔物である。

コイツがまた、地上からはぼこぼこと雨後の筍の如く姿を現すのだ。

単純な戦闘能力で見れば、そこまでの戦力ではない。だが、空中を警戒しなければならない状況で、地上の攻撃にも対処しなければならないという点は中々に面倒である。

しかも数が多く獰猛で、こちらの姿を見るや否や、状況の不利など関係なく突っ込んでくるのだ。

空はワイバーンたちの領域だが、地上の獲物は自分たちのものだとでも言いたいのか。

「――『生奪』」

鱗が頑丈であるため、普通に斬っただけでは致命傷を与えられない。

振るった刃で目を斬って怯ませたその瞬間に、返す一閃にスキルを乗せてトカゲの首を斬り落とす。

個体としては本当に強くはないため、対処することは難しくないのだ。

ただし――

(何とも、足場が悪いな)

傾斜のある山道。しかも、石や砂利でデコボコしていて踏ん張りづらい。

この状況で普段通りに動くというのは、中々に難しい仕事だ。

対し、相手は軽快に走ってくるのだから困りものだ。

まあ、俺は『エレノア商会』で作った靴があるので、砂利で滑って足を取られるということは無いのだが。

しかし、それでも山道の傾斜が障害となっていることは事実であり、この状況下で数の攻撃を受けることの面倒臭さは否定できなかった。

一体を倒した瞬間に突進してきた別のトカゲ。

その横っ面へと蹴りを入れつつ位置を移動し、それと共に振るった刃で前足の関節を斬り裂く。

骨まで断つことができずとも、半ばまで斬り裂かれたその足ではこれまでのような動きはできないだろう。

まあ、四足歩行なので転倒するようなことも無いのだが――それによって動きを止めた個体は、他の門下生たちによってあっという間に処理されることとなった。

「さて、とりあえずは片付いたか」

上空にいたワイバーンたちはセイランたちによって叩き落され、師範代たちがメインとなってその処理を行っている。

今のところ問題は無いのだが、中々に忙しい戦いであることが実情だった。

動きを鈍らされていることもあるが、レイドのメンバーのほとんどを動員しなければならないのは中々に大変な戦いである。

「被害状況を確認! ダメージを受けていたら回復しておけ!」

このエリアは、中々に敵の出現頻度が高い。

戦闘が終わったからと言って、その場にいつまでも留まっていればまた襲撃を受けかねないのだ。

状況を確認し、問題が無ければさっさと先に進むべきである。

(今のところ、消耗は抑えられている。物資もあまり消費してはいない……だが、多少は使わされていることも事実か)

基本的には、自動回復やルミナ、ベルの魔法によって補っている。

だが、緊急対処として回復アイテムを使わされる場面も少しずつ出てくるようになった。

可能な限り動きは最適化して、少しでも被害を押さえるように立ち回るべきだろう。

「となると、警戒すべきは新たな敵ってところか……アリス頼りだな」

先ほどまで戦闘に参加していたアリスの方へと視線を向ければ、彼女もまたこちらへと目を向けていた。

どうやら、彼女も既にこの後の行動を考えていたらしい。

小さく頷いたアリスは、いつも通りに姿を消して偵察へと向かっていった。

アリスの持つ《超直感》ならば、隠れている敵を炙り出すことも容易い。

初見の敵が出現したとしても、奇襲を受けることは無いだろう。

「結構進んで来たと思いましたけど……まだ、先は長そうですね」

トカゲを斬り、燃やして処理してきた緋真が、頂上へと視線を向けてうんざりとした様子でそう口にする。

そんな緋真の頭を軽く小突きつつも、その言葉自体は否定できず、俺は苦笑を零しながら頷いた。

「山登りなんてそんなもんだ。これでも、まだ進みやすい方ではあるぞ」

「まあ、歩ける道はありますからね……絶壁を登るなんてことにはなっていませんし」

この第三エリアの山であるが、それ自体はそこまで険しいものではない。

上空、そして地上からの魔物の襲撃という要素はあるものの、山道としては穏やかなものだ。

これでロッククライミングなどさせられて、その上でワイバーンが襲撃してきたなら堪ったものではない。

ただ傾斜のある道で戦うだけでも面倒なのだ。そんな過酷な環境での戦闘は勘弁してほしいところである。

尤も、この先までそれを期待できるかどうかはわからないのだが。

「せめてボス戦のエリアは戦いやすい場所だといいんですけどねぇ」

「さて……あの塔の上になるのか、或いは塔自体が次のエリアで、その手前でボス戦になるのか。それによるんじゃないかね」

そもそも今のところ、あの塔の存在自体が謎のままだ。

見た目からして登ることになるのは間違いないだろうが、果たしてどのような役割があるのやら。

まあ、行ってみないことにはその正体も不明なままだ。

とにかく、このまま進んでみるしかあるまい。

消耗状況の確認を終え、アリスが先行した状態で先へと進み始める。

このエリアは、そこそこに敵の襲撃頻度が高い。

少し進んでは戦闘――その繰り返しだ。

雑に戦っていれば、あっという間に消耗してしまうことだろう。

(正攻法、ではあるんだがな)

このヴァルフレアのダンジョンは、あまり前回のダンジョンのようなギミックは存在していない。

純粋に厳しい戦いの連続を強いられる、そんな場所だ。

無論、トネリュドの時のように魔物の性質として搦め手を取ってくることもあるのだが――それを含め、『厄介な魔物との戦い』をコンセプトにしているようだ。

魔物自体の能力、そして周囲の環境、全てが俺たちに牙を剥く。

その上で――

「最後に立っていた者が勝者、ね」

誰にも聞こえぬように小さく呟き、口の端を笑みに歪める。

ヴァルフレア、あの強大極まりない怪物の言葉は、俺にも納得できる言葉であった。

あの大公は、ただ純粋に強かった。あの在り方こそがこのダンジョンの本質であるなら、ただ一歩ずつでも先に進むことができればそれでいい。

最後まで辿り着くことができたなら、その時点で俺たちが勝者となるのだから。

(そのためにも、まずは辿り着かんとな)

道はある程度分かりやすく示されており、傾斜の角度もそれほど変わりは無い。

無論、山を直線に登れるわけではなく、ある程度蛇行しながら進むため、どうしても見た目より時間がかかってしまう。

そして時間がかかればかかるほど、敵と遭遇する可能性も高くなるのだ。

足場が悪いうえに、この戦闘頻度。しかも、半分は上空の敵が相手となる。

まだまだ先は長いと感じてしまうことも仕方のない話であった。

「今、どれぐらいですかね?」

「ふむ……道の調子が変わらないなら、半分は進んだだろうな。新しい障害の追加が無いうちに、距離を稼ぎたいところだ」

尤も、相手は大公のダンジョンだ。そうそう容易く行くものではないだろう。

さて、次なる障害は何が立ちはだかってくるのか――

『……クオン、ちょっと面倒臭そうなものがあったから、私のところまで来たら全体を停止させて』

「噂をすればすぐにか。全く、退屈しない場所だな」

皮肉を交えて嘆息と共にそう口にして、俺は先に待つアリスのところへと歩を進めたのだった。