軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

950:奇怪な大樹

大樹が揺れる。その枝葉の隙間から無数に伸びてきたのは、緑色のツタであった。

その先端は様々で、槍のように鋭く尖っているものもあれば、フレイルのように棘付きの球体になっているものもある。

変わり種にはそれ自体が口のようになっているものもあったが――ともあれ、地面からの根以外にはあのツタで攻撃してくるらしい。

「……数が多いな」

眉根を寄せつつ、こちらを貫こうと閃いたツタの一撃を斬り捨てる。

速度はかなりのものだ。これが全方位から飛んでくるとなると、かなり危険だっただろう。

人数を増やして戦っているからこそ、ある程度余裕を持って対処することができていた。

「しかし――」

中央に聳え、蠢く大木。それによって攻撃を受けていることはまず間違いない。

しかしながら、俺はその大木から殺気を感じ取ることができなかった。

植物だからか、単純な防衛反応なのか――或いは、何か別の要素があるのか。

魔物名前としてはブラッドトレント。トレント系の魔物であることは間違いないのだが、何とも妙な感覚であった。

――刹那、足元に蠢く感触。

「チッ」

再び、地面の下から飛び出してくる木の根。

だが今度は攻撃ではなく、こちらの足を封じる目的であったらしい。

絡みつこうと伸びてきた根を躱し、そのまま地を蹴って大木へと肉薄していく。

そして当然のように迫ってくるのは、頭上から降り注ぐツタの先端だ。

歩法――陽炎。

その悉くを、緩急を付けながら回避する。

やたらと狙いが正確なだけに、場所をずらしてやれば攻撃に当たることも無い。

その攻撃の正確さにも違和感はあったが――まあ、いい。

「とりあえず、斬ってみればわかるだろうさ――《練命剣》、【命輝一陣】!」

鋭く唱え、餓狼丸に宿した生命力の刃を飛ばす。

飛翔した刃はツタの群れを斬り裂きながら大木へと迫り――その身に、一筋の傷をつけた。

思ったほど頑丈ではないが、しかしながらダメージが通っている手応えも無い。

傷をつけたことでの反応が無いために、攻撃が効いているかどうかが分かりづらいのだ。

つけた傷からも血が流れるわけではないし、何とも反応しづらい相手である。

「チッ……シリウス!」

ならばと、大木へシリウスを向かわせる。

巨大な樹木が相手でも、容易に伐採できてしまうであろう巨大な刃。

その一撃ならば、ブラッドトレントとて無反応とはいかないだろう。

地響きを立てながら大木へと向かっていくシリウスに対し、ブラッドトレントは太い木の根を大量に出現させ、シリウスの巨体を縛り上げた。

だが――全身を縛り上げられて尚、シリウスは強引に前へと進んでゆく。

「近くにいる連中はその根を叩き斬れ! 足元には注意しろよ!」

俺の言葉に、近くにいた門下生たちはシリウスの元へと集まってゆく。

本体に攻撃が届かずとも、あの根を切り落とすことは可能だろう。

それに、シリウスはその鱗の刃で身を拘束する根を削り落としている。

あれでは、そう長くはシリウスを留めることはできないだろう。

(……だが、相手も根を追加してくるか)

しかしながら、当然ブラッドトレントの方もそれを座視するような真似はしない。

次から次へと根を再生、追加し、シリウスの体を拘束しようとしていた。

それが無尽蔵なのかどうかは気になるところだが、ともあれそちらに対処している分はこちらの圧力が減った様子であった。

『同志よ、私が出ましょうか?』

「いや、お前さんは援護を頼む。レイド全体に支援ができるのはベルだけだからな」

シリウスの動きを鈍らされたことでベルがそう提案してくるが、言葉の通りレイド全体の支援ができるスキルは貴重だ。

魔法による支援もあるし、今のところベルを前に出すメリットはあまり多くはない。

とりあえずは《 軍勢の守り手(ヘルヴォル) 》を使って貰いつつ、全体の回復支援をしてもらった方が効率はいいだろう。

何しろ、ベルも巨体だ。前に出ると、それだけ前衛の連中が戦いづらくなるからな。

「さて……『呪命閃』」

歩法――間碧。

地面から飛び出る、或いは樹上から降り注ぐ鋭い槍。

その隙間を縫いながら、俺はブラッドトレントの幹へと接近していく。

トレントというとあの洞のような顔があったと思うのだが、その貌は生憎と見当たらない。

とりあえず、目の前の幹へと向けて刃を振るうこととしよう。

斬法――剛の型、輪旋。

大きく旋回させて振るった刃は、虚空に軌跡を描きながら《奪命剣》の刃を発生させる。

黄金の光を纏う黒は、俺の振るった通りにブラッドトレントの幹へと突き刺さり――そこに、大きな傷を残した。

そして、同時に感じた違和感に、俺は眉根を寄せて距離を取る。

反撃とばかりに迫る根やツタに対処しつつ安全圏まで離れ、俺は目を細めてブラッドトレントの全体像を見据える。

「……生命力が、少ない?」

俺が使用したテクニックは《奪命剣》が主体となっているものだった。

当然ながら、命中すれば相手の生命力を大きく奪い去る能力を持っている。

だが、今の一撃では、あまり多くの量のHPを吸収することができなかったのだ。

このスキルは、与えたダメージの量に対して割合で生命力を吸収することができる。

つまり、今の一撃ではあまりダメージを与えられなかったということだろうか。

「あれだけ、明確に傷が残っているのにか?」

俺が叩き込んだ一閃は、今も大きな傷を残したままとなっている。

通常のトレント種であっても、大きなダメージは免れないような一撃だった。

しかも《練命剣》での強化まで含めていたのだ。攻撃力そのものもかなり強化されていたはず。

だというのに、これほどまでにダメージが通らないものだろうか。

「……アリス!」

『そっちも感じたの? 悪いけど、私もまだ分析できてるわけじゃないわ』

「つまり俺だけの違和感じゃないってことだな。それが分かるだけでも十分だ」

俺が感じているだけの違和感だったならば、まだ気にしすぎという可能性もあっただろう。

だが、《超直感》を持っているアリスまでもが違和感を覚えているのであれば、可能性はかなり高いと言える。

あれは、見た目通りの魔物ではない。必ず、何かしらの隠されている要素があるのだ。

だが生憎と、それをどのように炙り出すかの案も無い。

現状、あのブラッドトレントがどのような存在であるのか、その仮説すらも立っていない状況なのだから。

(あの木が攻撃してきていること自体は事実。だが、あの木に攻撃しても大したダメージは通らない……攻撃への耐性? 或いは――)

戦刃たちの攻撃や、緋真の魔法も巨木に命中している。

当然ながら炎の属性による物理、魔法の両面からダメージを与えている状況だ。

しかし、明らかに弱点属性であろう炎の攻撃すら、ブラッドトレントにはあまりダメージが通っていない様子であった。

あれほど、あらゆる攻撃に対する耐性を獲得しているというのは違和感しかない。

となれば――

「――セイラン、シリウスの援護に回れ!」

「ケェエッ!」

今のところ、ブラッドトレントが最も警戒しているシリウスの存在が有効であると見た。

その翼に嵐を纏うセイランが、強力な風でシリウスの巨体を包み込む。

鋭い風の刃は、シリウスに纏わり付く根やツタを斬り裂き、削り取り――身軽になったシリウスは、自らを包む嵐など物ともせずにブラッドトレントへと突撃する。

そしてその巨大で鋭利な竜爪は、巨木の幹を容易く引き裂いて見せた。

(さあ、どう反応する?)

幹を大きく削り取られたブラッドトレントは、自重に耐えきれず崩壊し、ゆっくり土地へ向けて倒れ――地から生えてきた無数の根が、倒れようとする大木を支えた。

「……!」

ツタと根、絡み合ったそれらが樹木を飲み込み、形を変えていく。

そして、ここまで来て俺はようやく理解した。

生えていたツタと根、これらはそもそも、別の存在だったのだと。

あの巨木は、この魔物の本体ではなかったのだ。

「『寄生竜樹トネリュド』……それが、お前の正体ってわけか」

絡み合ったツタと根、それによって構成された巨大な竜蛇の姿。

それこそが、このダンジョンの第二層における真のボスモンスターだった。