軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

094:餓狼丸の謎

――その一振りは、俺にとってあまりにも見覚えのあるものだった。

一体俺は、どれほどその雄姿を目にしてきたことだろうか。

柄や鍔の色など、俺の見知っているものとは異なる部分もある。

だが、刃の反りも、刃文も、刀身の長さも……それら全てが、俺にとっては目に焼き付いて離れない一振りだったのだ。

あれは――

「……天狼丸重國。そんな、馬鹿な」

「『聖剣コールブランド』に続く二つ目の成長武器! ご存知の方も多いとは思いますが、成長武器は敵を倒すことで経験値を獲得し、使い手と共に強化されていく武器です。このアイテムは譲渡不可、本人以外には装備不可のアイテムとなります」

俺の小さな呟きは、報酬の解説を行うGMには聞こえなかったのだろう。

その間に、俺は一度深呼吸して動揺を鎮めていた。我ながら、あの刀を見ただけで動揺してしまったのは未熟の極みだ。

だが、それでも疑問は尽きない。何故この刀が、このゲーム内にあるというのか。

「では、早速特別報酬の授与を行います。クオンさん、こちらへ」

「……ああ」

気になることはあるが、受け取らなければ始まらない。

フラウゼルに促されるまま目の前まで移動すると、彼女はその腕を広げるように前に差し出していた。

そして次の瞬間、金色の光の粒子が集まるように、彼女の手の中へと収束する。

そこに現れたのは――黒い鞘と黒い鍔、黒い柄の目立つ一振りの太刀。

小さく頷いた彼女に目礼し、俺はその一振りを握っていた。

『成長武器『餓狼丸』を入手しました。成長武器のヘルプが追加されます』

『称号《剣鬼羅刹》を取得しました』

それと同時に、二つのインフォメーションが耳に入る。

称号スキル……これは、緋真の持っている《緋の剣姫》と似たようなものだろう。

あの妙なスキルを自分も手に入れるというのは少々微妙な気分だが、今はそちらを気にしている場合ではない。

今確認すべきは、先ほど目にしたこの太刀だ。そう己に言い聞かせて柄を握り――俺は確信していた。

(間違いない、間違えるはずがない……これは、天狼丸重國だ)

柄を握っただけで分かる、これは間違いなくあの刀だ。

そのまますらりと抜き放てば、輝く刀身が露わになる。

二尺六寸五分、反りの浅い鋒両刃造の一振り――その形状、重さ、重心のバランス、全てがあの刀と同一だった。

そう、あのジジイの愛刀である、天狼丸重國と。

天狼丸重國は、久遠神通流に伝わる宝刀であり、我らにとっては至上至高の刀である。

この刀工の刀は全て久遠神通流が扱う上で最適化されており、その内の最高傑作こそが天狼丸重國の名を冠している。

実際のところ、これに関しては真打が一振りと影打が複数存在しており、真打は未だうちの家の蔵の奥に秘蔵されている。

ジジイが持っていたのは影打の一振り、最高の刀というわけではないが、それでも凡百の刀とは比べ物にならぬほどの名刀だった。

あのジジイは、俺にあの刀を使わせることは無かった。

だが、二十歳の祝いだと言って、一度だけ握らせて貰ったことがあったのだ。

握り、抜いて、ただ数度振るっただけ。ただそれだけで、俺にとっては忘れがたい記憶として脳裏に刻まれている。

これほどの刀があるのか、と。名刀とは、これほどまでに違うものなのかと。

「……GM、アンタはこの刀の由来を知っているのか」

「――え? あ、は、はい!? えっと、由来、ですか?」

「この刀は、現実に存在する刀だ。どうやってこのデータを手に入れた?」

「そ、そうなんですか? 私は制作側の事情は把握しておりませんので……その本物のデータを取って再現したということでは?」

「……分かった」

あのクソジジイが刀を奪われるということはあり得ない。

であれば、あのジジイはこのゲームの製作陣と関わりがあるということか?

出奔して以来行方が知れないジジイであるが、何故唐突にゲーム制作に協力を?

……連絡が付かないため何をしているのかは分からないが、どうやら温泉道楽というわけではなさそうだ。

(問い詰めにゃならんことが増えたな……だが、この刀を扱えるのは素晴らしい)

餓狼丸と名付けられた、この黒い刀。

由来がどうあれ、この造りは紛れもなく天狼丸重國のものだ。

あの名刀と同じものを扱えるのであれば、俺にとってこれほど嬉しいことはない。

これがあれば、より効率的に敵を斬ることができるだろう。

餓狼丸を鞘に納め、俺は小さく笑みを浮かべていた。

「2位以降の入賞者の方々にも、個別に賞品を送付させていただきます。後ほど、メールをご確認ください。それでは、このままパーティ部門の表彰に移りたいと思います」

また、中々あっさりとしたものだ。

俺に関する騒ぎの件で出てきたのだと思ったのだが――これはどちらかと言うと、問題が起こった際の対処の為と言った所か。

一応、公式サイトの記載が運営の見解であるということなのだろう。

「パーティ部門では、パーティリーダーの名前で順位を発表していきます! それでは、こちらもサクサクと出していきましょう! クオンさん、少し横に避けていてください」

「ああ、承知した」

どちらかと言うとさっさと戻して貰いたかったのだが、この状況では仕方あるまい。

と言うか――どちらかと言うと、これはわざと戻さなかったのだろうか。

若干半眼になりつつ、再び中央に出現した画面へと視線を向ければ、先程と同じように十人の名前が順番に表示されていた。

■パーティ部門成績順位

1位:クオン

2位:アルトリウス

3位:皐月森

4位:K

5位:エレノア

6位:JADE

7位:ライゾン

8位:プロフェッサーKMK

9位:スカーレッド

10位:蘇芳

流石にパーティは微妙かと思っていたのだが、どうやら思ったよりも多くを狩れていたらしい。

これに関してはアルトリウスの采配に感謝するべきか。

北の戦場に移らなければ、恐らくアルトリウスたちの方が成績は上だっただろう。

「なんとなんと! パーティ部門においても、クオンさんが1位となりました! おめでとうございます! テイムモンスターの子も一緒に壇上へどうぞ!」

「――わっ!?」

先ほどの俺と同じように、唐突に壇上に出現したルミナは、驚いて背中から光翼を出現させていた。

唐突に空中に浮かんでいれば驚くのも無理はないが、中々大きな反応になってしまったな。

予想通りと言うべきか、光の翼を広げたルミナの姿に、聴衆たちからはどよめきが上がっていた。

まあ、こちらに関しては好意的な感情が多いようだったが。

「クオンさんのパーティは、クオンさんとテイムモンスターのルミナちゃんの二人だけとなります。と言うか、二人だけでよくそこまで行けましたね?」

「普通に狩ってただけなんだがな」

「私は、お父様に付いていくだけで精一杯でした……」

ふわりと浮き上がって俺の隣に着地したルミナは、嘆息を零しながらそう口にする。

精一杯とは言え付いてきたのだ、それは十分に誇れることだと思うのだが。

ともあれ、1位を取れたことは喜ぶべきことだろう。

「ポイントとしては、2位のアルトリウスさんとはほとんど僅差でした。6人パーティでも追い付けなかったことが驚きでしたが、討伐数を見るとちょっと納得ですね」

「……私、そんなに敵を倒せていましたでしょうか?」

「俺が動きを止めて、お前がトドメをさすってパターンも結構あったからな。数は稼げていたんじゃないか?」

ルミナにとっては、あれは自分の手柄であるとは考えづらいのだろう。

とは言え、あれらにトドメを刺したのがルミナであることは事実。

それがパーティの討伐数として計上されているのだから問題はあるまい。

「さて、気になる特別報酬ですが……1位になったクオンさんパーティには、このアイテムが配布されます」

ばん、と効果音と共に画面に表示されたのは、何やら白銀に輝くオーブのような物体だった。

そのような色ではなかったが、以前にゲリュオンを倒した際に手に入れたスキルオーブに似ているように思える――というか、隣に書かれている名称は正しくスキルオーブだった。

しかし、あの時手に入れたスキルオーブとは、少々名称が異なる様子だ。

「こちら、『無記名のプラチナスキルオーブ』です!」

「無記名、とは?」

「はい、無記名のスキルオーブとは、様々なスキルから選んで一つを習得できるスキルオーブです。通常のスキルオーブでは1種類の決まったスキルのみの習得となりますが、無記名のスキルオーブの場合は複数のスキルの中から選んで習得することができます」

ふむ、あの時俺が手に入れたのは死霊魔法のスキルオーブだったが、あれがもし無記名だったならば、攻撃だろうが回復だろうが好きなスキルを習得できたということか。

成程、それは中々に興味深い。先ほど手に入れたチケットで増やすスキルスロットに、面白いスキルを入れられるかもしれないな。

そうして、どのようなスキルがあるのか想像を巡らせていた俺に、GMフラウゼルは若干申し訳なさそうに視線を伏せて口を開いていた。

「申し訳ないのですが、テイムモンスターはスキルオーブを使えないため、クオンさん一人のみの配布となります」

「俺は構わんが……」

「いえ、私の分をお父様に差し上げるべきです!」

「あー、ごめんなさい、元々このスキルオーブは一人一個しか手に入らない、譲渡不可アイテムなんです。なので、ルミナさんの分をクオンさんに分配することはできません」

正直、開いているスキル枠は一つだけなので、スキルが二つ増えても困るのだが。

と――そんなことを考えていた所で、脇に無言で控えていた他の管理アバターが唐突にこちらへと接近してきていた。

「神託が下りました。テイムモンスターへの特別報酬にはこちらをどうぞ」

「お? おう……何だこりゃ?」

「『神威の刻印』。装飾アイテムとなります」

差し出されたのは、一枚の札のようなアイテムだ。確かに、装備であればルミナも扱うことができる。

しかし、どのような効果があるのか……疑問符を浮かべつつ受け取ると、運営アバターは空いた手を巨大な画面へと向けていた。

その瞬間、画面には今のアイテム、『神威の刻印』の効果が表示される。

それを読んでも良かったのだが、運営アバターは淡々とした口調のまま説明を行っていた。

「『神威の刻印』は特殊な装飾アイテムです。装備すると右手の甲に刻印が刻まれ、一日に一回だけ、光属性魔法の効果を大きく上昇させます。しかし、これを装備すると外すために儀式を受ける必要があります」

「……その儀式ってのはどこで受けられる?」

「一定以上の大きさを持つ教会ならば可能です。この都市にある教会でも可能でしょう」

「外したら再度装備は可能なのか?」

「可能ですが、外す場合の手順も同じとなります」

要するに、着け外しが面倒なブーストアイテムということか。

とは言え、回数制限があるにしても、お手軽に攻撃の威力が高められるのは便利なものだ。

これならば俺にもルミナにもメリットがあるだろう。

まあ、装飾品の装備枠を一日一回しか使えないアイテムで埋めるだけのメリットとなるかどうかはまだ分からないが。

「えーと……統合管理AIの判断で出された報酬のようです。運営管理チームの許可もおりましたので、ルミナさんへの報酬はそれということで、問題ありませんか?」

「ああ、大丈夫だ。感謝するよ」

「はい、了解です。えー、ではスキルオーブも配布いたします。なお、2位から4位まではゴールド、5位から7位まではシルバー、8位から10位まではブロンズのスキルオーブとなります。取得できるスキルに差がありますのでご注意ください」

その言葉と共に、GMの手の中に出現した白金色の球体を受け取る。

これでどのようなスキルを覚えられるかは――まあ、後でじっくり確認することとしよう。

「それでは、個人部門とパーティ部門の表彰でした! クオンさん、ありがとうございました!」

フラウゼルは大きくそう宣言すると、その場で拍手を行う。

そして次の瞬間、ある一定の方向から俺たちへと向けて拍手の音が響いていた。

見れば、そちらにいるのは『キャメロット』の面々――どうやら、アルトリウスが率先して拍手を行ったようだ。

それに続くように『エレノア商会』が拍手をし、徐々に釣られるような形で拍手の波が伝播する。

そんな二人のお節介に苦笑を零しながら、俺はルミナと共に元の席へと戻されていた。