軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

093:成績発表

王城前の広場、国王からのスピーチが行われるための場所。

そこでは、既に多くのプレイヤーが詰めかけ、ごった返している状況だった。

一応、席が設けられていることもあり、通路そのものは確保されている。

人々の間を縫うように進んでいけば、そこには『エレノア商会』のトップ生産職の姿があった。

「あ、姫ちゃーん、ルーちゃーん」

「やっほー、フィノ」

「お世話になっています」

相変わらず寝ぼけた面で手を振っているフィノの姿に、緋真とルミナは相好を崩す。

まあ、彼女にはすっかりと世話になっている。最も交流のあるプレイヤーは、恐らく彼女だろう。

見れば伊織や勘兵衛たちの姿もある。クランの運営の方は大丈夫なのか、と一瞬考えたが――エレノアが大丈夫だと言っている以上は問題ないのだろう。

小さく苦笑を零しつつ、俺たちは商会の面々の隣に腰かけていた。

(しかし……)

フィノと談笑している二人を尻目に、俺は周囲の気配へと意識を向ける。

普段から視線を集めている自覚はあるが、今日のそれはどうも普段とは様子が異なるものだ。

負の感情を交えた視線と、それに加えて隔意のようにも感じる視線。

無論、それに心当たりがないとは言わない。現実でも度々、このような視線には晒されてきたのだ。

一々気にしていても仕方ないし、特に何かしてこない以上は無視するだけである。むしろ、余計な干渉が無くなるだけ都合がいいかもしれない。

「……貴方も派手にやったものよね」

「相手の数が数だったからな。久しぶりに本気で戦ったよ」

「でしょうね。おかげで、色々と厄介なことになったみたいだけど」

エレノアは武人ではない。俺に向けられている視線の気配に気づいているわけではないだろう。

だが、彼女には人並外れた情報収集能力がある。この現場の状況以上のことを、彼女が知っていてもおかしくはない。

「チートを疑われているのは……まあ、上位のプレイヤーにはよくあることだけど」

「何だ、そのチートってのは?」

「ああ、今更だけど初心者なんだったわね。チートは……色々と定義はあるんだけど、簡単に言えば違法な改造での強化って所かしら」

「はぁ? そんなこと、俺にできるわけが無いだろう。機械音痴とまでは言わんが、そんなもんのやり方なんぞ知らん」

「でしょうね。と言うか、そんなことを成功させたなんて話は今まで一度も聞いたことが無いわ。このゲーム、並大抵のセキュリティじゃないって話だし」

エレノアの言葉は一部理解できなかったが、俺には不可能な芸当であるということは理解して貰ったようだ。

しかし、成程。違法行為に手を染めたと思われているわけか。いや、疑念の段階なのか?

まあ何にせよ、そういった理由で警戒されていることは理解できた。

「ま、気にしないでおくさ。何もおかしなことはしていないんだからな」

「いや、おかしいことはおかしいと思うわよ? 一応、運営からのお墨付きがあるわけだし、問題はないんでしょうけど」

「運営から?」

「貴方がやったことに対して問い合わせが殺到したんでしょうね、公式サイトで貴方の行動に不正行為が無いことが正式発表として出されていたわよ」

「……我ながら、中々妙なことになっているな」

まさか公式発表をされるとは思わなんだ。

とは言え、問題が無いと明言されているのであれば堂々としていればいいだけの話だ。

何か言われたところで、探られて痛む腹があるわけではないしな。

そう判断して周囲の視線を完全に無視した所で、広場の中心、ステージのようになっている場所に変化があった。

ステージの両脇、ちょうど中央を空けるような形で、二本の光の柱が発生したのだ。

その唐突な変化に周囲がざわつく中、光の柱が内側から弾けるように、二人の人影が出現する。

それは――

「天使、か……?」

「運営アバターね。運営のアバターは、女神アドミナスティアーの使いであるという設定らしいわよ」

「ふむ、女神の使い、ね」

ルミナの光の翼とは異なる、生物的な白い翼を背中に生やした二人の少女。

その由来を聞き、俺は思わず胸元を押さえていた。

以前から装備したままの、アドミナ教の聖印。その女神とやらを祀っているのがアドミナ教であったはずだ。

「運営は女神の立場ってことか?」

「さあ……? 世界観の設定の考察は『MT探索会』の専門だし、私はそこまでよく知らないわ」

今考えたところで、答えは出ないだろう。ここは気にせず、運営の話に耳を傾けておくとするか。

二人の天使はゆっくりと壇上に舞い降り、揃った動作で礼をしていた。

どこか、機械じみた印象を受ける動きだ。運営のアバターと言うが、人間が操っているわけではなさそうである。

「皆様、どうか静粛にお願いいたします」

「異邦人の皆様、ようこそいらっしゃいました」

「これより、ワールドクエスト《悪魔の侵攻》に対する報告を行います」

やはり機械的な棒読みの言葉と共に、周囲のざわめきが一斉に収まっていく。

いや――これは、周囲の音の大きさを強制的に小さくしたのか?

まあ何にせよ、これによって話は聞き易くなっただろう。

「まず初めに、ワールドクエストに参加していただいた皆様に、この方からのご挨拶がございます」

「皆様、上方をご覧くださいませ」

告げて、運営アバターたちは頭上を示す。

釣られるように視線を上げれば、頭上にあるテラスに、一人の人影が現れていた。

王冠を被り、豪奢なマントを羽織った壮年の男性――その姿からも、彼が何者であるかは容易に想像がつくだろう。

「異邦人の諸君。余は、オンストール・アウグスト・ゼラ・アルファシア――アルファシア王国が国王である」

低く威厳のある響きに、俺は僅かに視線を細める。

その一言だけで、場の空気を飲み込んでしまった。やはり、国王というだけはあると言うべきか。

「諸君らの働きにより、我がアルファシアは未曽有の危機を脱することができた。その奮闘、実に大儀であった!」

国王はぐるりと俺たち全体を見渡し――ほんの僅かに、その視線を止める。

その視線は間違いなく、俺へと向けられていた。内に秘められている感情は警戒か、或いは――

まあ、色々と心当たりがないわけではない。大っぴらに敵対されていないのならば問題は無いだろう。

「諸君らの働きに、ささやかながら報酬を用意した。今後の悪魔との戦いに役立てることを期待する」

『――通常イベント報酬を配布します』

国王のその言葉と共に、俺たちの目の前にウィンドウが表示される。

そこに表示されていたのは、今の言葉通りプレイヤーに対する報酬だった。

金額はそう多くはないが、金や各種悪魔の素材類、それからポーションと――スキル枠の増設チケットか。

素材やポーションでは確かにささやかでしかなかったが、スキル枠が増えるとなれば中々のものだ。

さて、《魔力操作》はこの前取得したし、後は何を取得するべきか。

「では、後のことは使徒殿にお任せする。諸君らの更なる活躍を楽しみにしているぞ。さらばだ」

報酬に盛り上がるプレイヤーたちを尻目に、国王はさっさと退場する。

どうやら、向こうもあまり俺たちには関わらない方針なのか――いや、関われないのか?

何かしらの制約はあるように思えるが、その辺りは俺が持っている情報では判断が付かない。

『MT探索会』とやらなら何か知っているのかね。

「通常報酬の配布が完了しました」

「次に、成績上位者に対する特別報酬の配布に移ります」

相変わらず、淡々とした調子で運営アバターたちは話を続ける。

どうやら、ようやく本題に移るらしい。イベントでの成績と、その成績に応じた特別報酬――さて、どうなっていることやら。

子供じみているとは思うが、やはり勝敗というものは気になってしまうものだ。

「個人部門の成績から発表します」

「成績はポイント制です。ポイントは悪魔の討伐によって加算され、反対に戦闘エリアの被害状況に応じて減算されます」

「爵位級悪魔やデーモンナイトの場合はより多くのポイントが加算されます」

「それでは、順位を発表します。ご注目ください」

淡々と告げて、二体の天使は同時に腕を掲げる。

その示した先、壇上の中心部には、俺たちが普段操作するものと同じデザインのウィンドウが表示されていた。

個人部門と記載されたそれに表示されているのは、10本の横線である。

それは下から順番に外れ、成績上位者のプレイヤーたちの名前が表示されていた。

■個人部門成績順位

1位:クオン

2位:緋真

3位:デューラック

4位:皐月森

5位:アルトリウス

6位:ディーン

7位:ライゾン

8位:JADE

9位:スカーレッド

10位:アリシェラ

その結果に、ふむと呟く。

アルトリウスはもう少し上になるかと思っていたが、指示で忙しかったか。

それに関しては、俺が戦場を引っ掻き回していたのが原因だろう。

成績に響いたとなると少々悪いことをした気になるが……あの男のことだ、そこは大して気にしてはいないだろう。

どうせ、クラン部門では一位だろうからな。

「流石ね。おめでとう、クオン。けどこれ、減算計算が中々きついみたいね」

「そうなのか?」

「ええ、多少被害を出したウチや、被害度外視で殲滅を優先した『クリフォトゲート』は殆ど入っていないわ。大体は貴方たちと『キャメロット』と『剣聖連合』ね。10位の名前は見たことが無いけど」

つまり、運営の意図はそちらであったということか。

図らずとも、アルトリウスの思惑が正解だったというわけだ。

それでも緋真が2位を取れているのは、恐らく俺が来る前にデーモンナイトを狩り尽くしていたからだろう。

周囲の護衛のため、大物をひたすら狩り続けていたらしい。尤も、そのおかげで爵位悪魔に付け狙われることになったわけだが。

ともあれ、成績の順位に周囲がざわめく中、壇上の天使たちはそんな反応を気にした様子もなく続けていた。

「それでは、使徒フラウゼルより特別報酬の授与が行われます」

「おいでください、使徒フラウゼル」

その言葉と共に、成績順位表の前方に再び光の柱が発生する。

そこから現れたのは、先程の二体と同じく天使の姿をしたアバターだ。

ただし――その表情は、先の二体と違って無表情ではない。

人間らしい、感情の色が見える表情だった。

「皆さん、こんにちは。GMフラウゼルです。ここからは、管理者GMである私も交えて進行します」

どうやら、人間が操っている運営アバターもあるようだ。

名前を名乗っている辺り、普段から姿を現しているGMなのだろうか。

「……クオン、GMが出てきたのって貴方のための措置じゃない?」

「俺のやったことに対する説明のため、ってか?」

「管理者GMの答えじゃ信じる他ないものねぇ」

からからと笑うエレノアに、こちらは苦笑を返すしかない。

騒ぎになってしまっていることは間違いのない事実、エレノアの言葉を否定することはできなかった。

しかし、何故途中から出てきた? 国王がいる場所では都合が悪かったのか?

そんな疑問を抱き首を傾げている内に、フラウゼルと言うGMは話を進めていた。

「では、個人部門第一位のクオンさん、前にどうぞ!」

「む――!?」

その声が響いた途端、俺の周囲が青い光に包まれる。

そして次の瞬間、俺は一瞬で壇上に移動させられていた。

椅子に座った体勢のまま浮いており、困惑しつつも足を地面へと向ければ、そのままゆっくりと着地する。

視界いっぱいに広がるのは、様々な感情を込めて俺へと向けられる視線の山。

多すぎる気配に眉根を寄せつつも、俺は横に立つGMへと視線を向けていた。

「……呼び出すのであれば、あらかじめ言っておいてほしかったのだが」

「ああ、ごめんなさい。一応、公式サイトでは告知していたのですが、ここでは説明しておりませんでしたね。どの部門でも、一位の方は呼び出すことになっています」

「あー……そうか、了解した」

となると、パーティ部門でも呼び出される可能性があるわけだが。

まあ、あらかじめ告知されていたのであれば文句は言うまい。

「えー、クオンさんの成績ですが……爵位級悪魔が2体、デーモンナイトが7体、大型レッサーデーモンが36体、その他が……え、これ本当ですか?」

「事実です。使徒フラウゼル、そのまま読み上げてください」

「……失礼しました。その他のレッサーデーモン及びスレイヴビーストが1107体。合計1152体の討伐です! えー、信じがたいですが、管制システムの集計なので間違いはないようですね」

《一騎当千》の称号を取っていたから分かってはいたことだが、千体を超えていたか。

我ながら、中々に暴れたものだ。南の爵位級悪魔の討伐にもう少し時間がかかっていたら、更に記録を伸ばせていたのだが。

「映像記録でも見ていましたが、信じられない記録ですね……何か、乱戦時のコツとかってあるんですか?」

「コツねぇ……本来はそもそも乱戦にすることが間違いだ。アルトリウスや『剣聖連合』のように、理路整然と敵を処理した方が良い。俺は単純に、そのまま大将首まで向かえる手段があったから実行しただけだ」

「は、はぁ……そ、その手段っていうのは?」

「そりゃあウチの飯の種だからな、流派の秘伝は明かせんよ。極論で言うなら、『相手の攻撃に当たらずにこちらの攻撃を当てる』ってのを続けるだけだが」

面倒な手合いは増えそうであるし、多少のリップサービスはしておくことにする。

俺が何らかの武術流派を扱っていることは、これで事実として認めたことになる。

緋真の件で半ば暗黙の了解と化していただろうが、これで正式に喧伝することとしよう。

「何だか分かるような分からないような……とりあえず、特別報酬の授与に移りましょう! 個人部門一位の授与に移りましょう! クオンさんに授与される報酬は、これです!」

その言葉と共に、フラウゼルは勢いよく空中のモニターを示す。

次の瞬間、その画面に演出と共に映し出されたのは――説明文と、一振りの太刀の画像。

「二つ名称号スキル、《剣鬼羅刹》! そして、成長武器『餓狼丸』です!」

――その映像に映し出された刀の姿に、俺は思わず眼を見開いて言葉を失っていた。