軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

931:不明のままに先へ

このエリアでの戦闘を行うにあたり、個人的な内容ではあるが思ったことがある。

今の戦闘――即ちスキルを使わない戦闘において、後手を選ぶことが多くなっているのだ。

基本的には、先手を取る場合には剛の型を使うことが多く、後手の場合には柔の型――というか流水で受け流して対応することになる。

スキルを使用しない戦闘に於いては、相手の動きが読みやすく対応もしやすい。スキルのように、何をしてくるか分からないというパターンが少ないのだ。

逆に普段の戦闘に於いては、先手を取って相手の出方を潰しておいた方が安心という場合も多い。スキルによる攻撃だと、技術だけで対処できないものも出てくるからな。

まあ、結局のところ――

「俺たちにとっちゃ、ここの戦闘は素直なもんだな」

「突然何です? まあ、その通りだとは思いますけど」

俺の言葉に、緋真は面食らった様子ながらも首肯する。

あそこから更に進んだところ、敵の数は再び増加を開始した。

とはいえ、あのレベルの技術を持った敵が突然増えるということはなく、先ほどまでの敵が追加で出現するという程度の内容に収まっていたが。

だが折角なので、あの準達人級程度のエネミーについては緋真に任せることとした。

何だかんだで、パターンは多彩かつそれなりの実力者だ。緋真にとっては、技術を磨くのにちょうどいい相手だろう。

「いや、こいつが複数出てくるならもうちょっと工夫の必要があったんだが、単体だとそこまで困らんと思ってな」

「また無茶を言いますね。一体ならともかく、二体以上は私はきついですよ?」

「私も、単体なら何とかするけど、複数相手は無理ね」

強化されたエネミーは、二体同時に相手をすれば達人級に届くだろう。

複数で当たれば、師範代たちにも勝てるであろう実力、ということだ。

まあ、普段から師範代たちを相手に五対一で戦っている俺からすると物足りないレベルなのだが。

「まあ確かに、お前もまだこの強さの敵を複数同時は無理だろうが……」

「それプラス弱い個体を同時、なんてのも止めて下さいってば。スキルなしでそれは対処が間に合わなくなりますって」

やろうと思えばできると思うのだが、緋真は断固拒否の構えであった。

一体ぐらいは流してやろうかと思いつつ、とりあえずはそのまま先へと進む。

まあ、今の目的はあくまでも攻略であり、修行のためにきているわけではないので、ここでは止めておくことにするが。

「敵の数は増えていたし、方角はあっていそうよね」

「そうだな、恐らく間違いではあるまい」

「その割には何も見えてきませんけど……他のエリアはどうなんですかね?」

「さてな、まだ最深部まで到達したという話は聞かんが」

その辺りの情報が出てくるには、今しばしの時間が必要となるだろう。

せめて、『キャメロット』が本格的に参戦してくれれば話は別なのだが、どうにもアルトリウスたちは慌ただしそうだ。

状況が状況なだけに、仕方のない話ではあるのだが。

「正直、このエリアは私たち以外にここまで進めるとは思えませんし、他も似たような難易度かもしれませんよ?」

「私たちとは相性がいいけど、他のプレイヤーがさっきみたいな敵を相手にし切れるとは思えないわね」

「そうか? 数で当たれば何とかできると思うけどな」

「その敵の数だって増えるんだから、時間の問題じゃない」

俺の言葉を半眼で否定するアリス。その言葉は否定できず、こちらも肩を竦めて返すに留まった。

確かにその言葉の通り、この第四のエリアは俺たち以外に攻略することは難しいだろう。

仮にこの先、更に敵が強化されて達人級の技術を持った存在が現れるのならば、一般的なプレイヤーはスキルなしで対処することは困難だ。

パッシブのスキルは動いているため、探せば何かしらの対策があるかもしれないが、対処はほぼ不可能であると考えてもいいだろう。

他のエリアも同様の難易度であるというならば――想像以上に、攻略は困難なのかもしれない。

(もしも、それぞれのエリアが大公の能力を再現しているのであれば……)

アルフィニールの場合は、無尽蔵に出現し続ける化け物と、フィールド全体に影響を及ぼす異常効果。

エインセルならば、破壊しても即座に再召喚される兵士と兵器の数々。

ヴァルフレアは特殊な能力があったのかどうかは不明だが、恐らく純粋な意味で難易度が高いだろう。

果たして本当に、今のプレイヤーたちの手で攻略することが可能なのかどうか。

「不安は残るが、少なくともこのエリアが俺たちと相性がいいことは事実だ。なら、俺たちの手でまずは一ヶ所を攻略してやろうじゃないか」

「……今更ですけど、この四つのエリアの攻略ってプレイヤー全体でなんですかね? パーティ単位だとすると、先代の所まで辿り着けるプレイヤーなんてほぼ出てこない気がするんですけど」

「それは……全体じゃないと無理じゃないか、流石に」

パーティごとに四つのエリア全てを攻略しろとなると、難しいというレベルではなくなってしまう。

それは流石に無い――と言いたいところだが、相手はあのマレウスだ。

最悪の場合、そのパターンであることも考慮に入れておくべきだろう。

眉根を寄せつつその可能性を脳裏に置いて――そのタイミングで、唐突に耳元で呼び出し音が響いた。

「む……ちょっと待て、アルトリウスから連絡だ」

「このタイミングでですか?」

「状況が変化するようなタイミングでもないし、緊急ではないと思うんだがな」

どこかしらのエリアが攻略完了するにも、マレウス側が動き出すにしても流石に早すぎる。

このタイミングで何の連絡があるんだろうかと、疑問符を浮かべながらも通話を繋げた。

「どうした、アルトリウス。何かあったか?」

『はい、クオンさん。少しだけですが、お爺様と源十郎氏の足取りを追えましたので、その報告です』

「……それは確認しても大丈夫だったのか?」

アルトリウスの仕事にはある程度の情報規制が敷かれていたはずだ。

その領域に踏み込む内容かと思ったのだが、アルトリウスは否定を交えて声を上げる。

『どうやら、ある程度は制限が解除されたようです。既に、ゲームという状況自体が崩壊しつつあるという判断からのようですね』

「それはそれで大丈夫なのか……?」

『この状況が長期間続くことは避けたいですが、とりあえずすぐに問題が発生するというほどではないですね』

ゲームという建前が崩れ、移住計画そのものが露わになろうとしている。

都合の良い展開とは言えないだろう。だが、いずれはこうなっていたことでもある。

同時に、少しずつ致命的な状況に近づいてきている予感もある。

小さくため息を吐き、かぶり振って話題を戻す。

「それで、どこまでわかったんだ?」

『東の大陸のことについてです。元々、この箱庭は東と西、両方の大陸の対処が必要でした。僕らは、西の大陸の担当だったわけですね』

「話の流れからして、東の大陸の担当チームにジジイがいたのか?」

『……判明した事実ベースで言いますと、東の大陸の担当はお爺様が一手に引き受けていたようです』

アルトリウスの言葉に、思わず眉根を寄せる。

あの時の発言から、ジジイが竜一郎氏に接触していることはまず間違いない。

ジジイは、そこで竜一郎氏からスカウトされたのだろうか。

或いは――最初から、そのつもりで久遠家から出奔したのか。

『ゲームのような形式で東の大陸に対応することはできず、何かしら特殊なチームを送り込んでいるのかと考えていましたが――』

「そこにジジイを送り込んでいた、と」

『確定ではありませんが、可能性は高いと思います』

果たして、竜一郎氏はどのような形でジジイを送り込んでいたのか。

そして、アルトリウスが言うようにチームを送り込んでいたわけではないのか。

不明点は多いが、どうやら竜一郎氏の思惑も知る必要がありそうだ。

『少しだけで申し訳ありませんが、判明しているのはここまでです。また何かわかりましたら』

「了解だが、攻略の方も忘れないでくれよ? こいつは、思った以上に難しいかもしれんぞ」

『ええ、わかっています。そろそろ本格的に動けそうですので、情報があれば共有します』

通話が終了し、小さくため息を零す。

手短な通話であったが、気になることの増える話でもあった。

まあ、詳細を知るにはジジイか竜一郎氏に接触しないことにはわからんだろうし、結局は攻略を目指すことに変わりはないのだが。

(竜一郎氏か……一体、何をしていたんだかな)

マレウスと同じ、過去の箱庭計画の中核人物。

そんな人物が、果たして何を狙っていたのか――全ての答えは、そこにある気がしてならない。

マレウスとの戦いの前に、ジジイにそれを問い質してみることとしよう。