軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

092:師範代たち

「はああああああああッ!」

撃ち降ろされる長大な木刀。大太刀のサイズにまで達しているそれは、命中すれば木刀とは言え命が危ういであろう一撃だ。

それを放ったのは、身の丈は2メートルを超えている大柄な男――久遠神通流の斬法剛の型が師範代、 草場(くさば) 修蔵(しゅうぞう) だった。

こちらを防御の上から叩き潰そうとする剛剣を、俺は同時に木刀を振るうことによって迎撃する。

斬法――柔の型、流水。

竹別でこちらの流水を突破しようとしていたようだが、僅かに角度を崩してやれば受け流せないものではない。

その一閃はするりと横に逸れ、しかし床を叩くことなく停止する。

以前、その勢いで床板を破壊し、散々な注意を受けたのだ。その時の教訓は生かせているようである。

それが実戦であった場合、切っ先で地面を斬りつけているわけだからな。硬い地面であったら刀が折れかねない。

修蔵はそのまま即座に横薙ぎの一撃を振るってくるが、それはむしろ望むところだ。

俺は木刀を立て、篭手で押さえるようにしながら足を前へと踏み出す。

斬法――柔の型、流水・浮羽。

修蔵の一閃の勢いに乗りながら、俺はこの男の背後に移動する。

ぴたりと張り付いたまま移動すれば、他の連中も手出しはしづらいのだ。

そして――

打法――破山。

床が割れぬ程度に抑えた威力で、当てた左肩から衝撃を徹す。

その瞬間、修蔵の巨体は冗談のような勢いで前方へとすっ飛んでいった。

「どあああああああああああああっ!?」

「く――っ!?」

歩法――烈震。

そのまま前傾姿勢に倒れつつ、修蔵の後を追うように飛び出す。

そうすれば、吹き飛ばされた修蔵に衝突しかけ、何とか回避していたもう一人――俺の姪たる薙刀術の師範代、 久遠(くどう) 幸穂(さちほ) に肉薄していた。

「っ、お兄――」

「――遅い」

斬法――剛の型、竹別。

下から掬い上げるような一閃で、幸穂の持つ薙刀の柄を叩いて弾き飛ばす。

流水で受け流そうとしていた様子ではあるが、体勢が崩れている状態では俺の一撃を受け流すには至らない。

両腕を跳ね上げられた幸穂は、僅かに仰け反るような体勢だ。俺はそんな彼女へと更に接近し、その踵の後ろへと足を踏み込みながら振り上げた刃の柄を放っていた。

打法――討金。

「ふぎっ!?」

軽くではあるが柄尻で額を打たれ、幸穂は背中から転倒する。

何とか受け身は取っていたものの、額の痛みで起き上がれないようだ。

後で色々と言われるだろうとは思いつつも、俺は横薙ぎに木刀を振るう。

斬法――柔の型、刃霞。

振り返り様の一閃は短いサイズの木刀に受け止められ――その瞬間、俺の一撃は跳ね返ったかのように軌道を変えて、こちらに攻撃を繰り出していた男、柔の型の師範代である 水無月(みなづき) 蓮司(れんじ) の肩口を狙っていた。

もう片方の小太刀でこちらに攻撃を仕掛けようとしていた蓮司であるが、攻撃を受けてはたまらないと中断して防御へ動く。

その瞬間に、俺は刃に力を込めていた。

斬法――剛の型、竹別。

「ぐ、お……ッ!」

一閃に押し切られそうになり、蓮司は咄嗟にもう一方の木刀で俺の木刀を受け止める。

交差する小太刀で俺の一閃を受け止めた蓮司であったが、その重さに耐えきれず膝が折れてしまっている。

足を潰したならばどうとでもなると踏み出し――そこに、二つの気配が接近していた。

「ぬん……ッ!」

「はああああっ!」

それは、動きを止めた俺に一撃を加えようと迫る明日香と、打法の師範代である 獅童(しどう) 厳太(げんた) である。

機を窺っていたか、俺が足を止める瞬間を狙っての行動だ。

蓮司ならば俺の足を止めることはできるだろうと狙って、そのタイミングを合わせてきたのだ。

確かに、いい判断だと言えるだろう――だが、ほんの少しだけ疑念があったのだろう。それにはワンテンポ遅かった。

「よっと」

「何ッ!?」

「ちょっ――」

俺は地を蹴り、受け止められている木刀を支点として蓮司の頭上をぐるりと回転する。

明日香たちの攻撃は蓮司に命中しかけて急ぎ動きを止め――その無理な制動から、僅かに動きが止まっていた。

着地間際に蓮司の背中を蹴り飛ばし、ぐるりと放った振り向き様の一閃で明日香の木刀を弾き飛ばす。

そして蓮司と衝突して足がもつれた厳太へと木刀の切っ先を突きつけ、蓮司の足を踏みつけたところで全ての動きが止まっていた。

「ふぅ……よし、こんなもんだろう」

「うっす……師範よぉ、何か俺だけ遠慮が無くなかったか?」

「お前は頑丈だからな。多少は本気でやっても問題ないだろう?」

破山で吹き飛び、壁に激突していた修蔵が、強打したらしい顔面を押さえながら抗議してくる。

それに対して木刀で己の肩を軽く叩きながらそう告げれば、修蔵は深々と嘆息を零して肩を落としていた。

まあ、そう言う本人こそ、何の遠慮も無く剛の型を叩き込んでくるのだ。

多少手荒くやった所で罰は当たらないだろう。

「さて、今日の乱取りはこれで終わりだ。各自、反省点を探して次に生かせよ」

「承知しました、師範。しかし……最近また、腕が上がっているようですが」

「ん? いや、そんなことは無いと思うがな……まあ、昔の勘が取り戻せてきている実感はあるが」

「昔の勘? それは……」

俺の返答に対し、蓮司は視線を細め――その視線を、明日香の方へと向けていた。

気づけば、他の師範代たちも同様に、明日香へとその視線を集めている。

それを向けられた当の明日香はと言えば、表情を引き攣らせ、若干慌てた様子で俺に駆け寄り強引に背中を押していた。

「さ、さあ行きましょう先生! 今日はやることありますもんね!」

「あん? ああ、そう言えばそうだったな……んじゃ、サボるなよお前ら」

背中を押してくる明日香に導かれるまま、稽古場を後にする。

しかし、そんな俺たちの姿が扉から消えるまで、師範代たちの視線はずっと途切れぬままだった。

* * * * *

ログインして感じたのは、普段よりも弛緩した空気――まあ要するに、祭りの際に感じるような雰囲気だった。

悪魔共の大襲撃からこの街を守り切れたのだ。現地人たちが浮かれるのも無理はないであろうし、イベントの結果発表は異邦人たちにとっても気になる話だ。

結果として、このような半ば祭のような状況へと発展していたのだろう。

「……若干裏を感じないではないがな」

すっかりと親しい間柄となったエレノアのことを思い浮かべながら、俺は取りだした従魔結晶でルミナを呼び出す。

あの商魂たくましいエレノアのことだ。この状況を利用してセールでも行っているに違いない。

まあ、ただの想像に過ぎないのだが……エレノアがこの状況で何もしないとは考えづらい。

『エレノア商会』に行って確かめてきてもいいのだが、成績発表まであまり時間も無い。ここは後回しにしておくべきだろう。

「お父様、なんだかとても明るい雰囲気ですね?」

「戦勝だからな。よく見ておけ、お前が護ったものの一端だ」

「……私が?」

「お前が悪魔を斬ったことで、救われた者がいたということだ。そのことを、よく理解しておけ」

戦場に立つ心構えというものは、そう容易いものではない。

俺とて、今に至るまでに多くの葛藤があったのだ。後ろを顧みて、そこに価値を見出す生き方も考えなかったわけではない。

尤も――俺にその生き方は合わなかったわけだが。

ちらりと確認すれば、ルミナはこの周囲の光景を目にし、淡く笑みを浮かべていた。

どうやら、何かしら思う所はあったようだ。

「……私にも、できることがあったんですね」

「お前は、自分でやりたいことを選んでここまで進んできた。だが、その結果がお前自身にしか影響を及ぼさないなんてことは無い。それは良い意味でも、悪い意味でもな。だからこそ、よく考えることだ」

「はい、ありがとうございます、お父様」

ヴァルキリーへと進化し、戦ったルミナは、ある意味一つの目標を達成したようなものだ。

俺の剣に憧れ、剣で戦う道を選んだ妖精。その果てに得た答えであるが、彼女の道はまだ続くのだ。

未だ学ぶことは多い。戦う術以外にも、教えていかなければならないだろう。

オークスが言ったように、ルミナは俺の弟子という訳ではないが、顧みてやる必要がある筈だ。

視線を細めて周囲を眺めているルミナの姿に思わず笑みを零し――そこで、近づいてくる気配へと視線を向けていた。

「済みません、先生。少し待たせてしまいました?」

「大した時間じゃない、気にするな……とはいえ、あまり時間的余裕はないがな」

「ですね……さっさと行きましょう」

成績発表が行われるのは、この街の中心地である王城の前だ。

王がスピーチを行うための構造となっているため、かなり広いスペースがあり、聴衆に話を聞かせるにもちょうどいい構造となっている。

とはいえ、それでも全てのプレイヤーを敷地内に収めることは不可能だろう。

そういった、広場に入れなかったプレイヤーについては、動画配信による生放送で見ろということらしい。

まあ、俺たちについては既に対策しているのだが。故に慌てることなくのんびりと歩きながら、俺は隣を歩く緋真へと問いかける。

「で、緋真。成績発表ってのはどんな基準での発表になるわけだ?」

「ええと……表彰は個人部門、パーティ部門、クラン部門に分かれていて、主に敵の討伐数と現地人の護衛が評価項目になってるそうです」

「現地人の保護ねぇ……東側は全く攻撃を受けなかったが?」

「その場合は全体に大きくボーナスが付いてるらしいですよ。成績上位者には賞品もあります」

悪魔共をまとめて威圧してしまったのは、果たしてどのように計上されているのか、というのは少々気になるが。

その辺りはこちらで計算できるわけでもないだろうし、計算式は気にしても仕方ないだろう。

とにかく、討伐数が計算に組み込まれているのであれば、俺は中々にいい成績を収められたのではないだろうか。

少なくとも、個人での討伐数はトップクラスである自信がある。

そう考えると、こういった発表というものも少々楽しみではあった。

「それで、先生。席は取ってあるって言ってましたけど……」

「ああ、装備の修復を依頼しに行ったときに、エレノアから誘って貰ったんでな。あいつらなら、席の確保には困らんだろ?」

「確かに、そうですね。あとで修理した装備も受け取りたいですし」

破損寸前までいった武器も、フィノの手にかかれば新品同然まで戻すことができる。

まあ、流石に緋真の使っていた一振り、折れてしまった白鋼の打刀については造り直しだが。

使い切ってしまうならまだしも、受け損なって折るというのは少々見過ごせない事態ではあったが――それに関する説教は既に済ませている。

「あ、お父様、あそこに商会の方々がいますよ」

「おお、よくやった、ルミナ」

人の姿が多くなり、周囲の見通しが悪くなった状況で、少しだけ翼で飛び上がったルミナが『エレノア商会』の面々を発見していた。

光り輝く翼を広げたルミナの姿は目立っていたのか、向こうも反応してこちらに手を振っていた。

どうやら、トップであるエレノア当人が出張ってきたようだ。

「よう、今日は仕事はいいのか?」

「仕事って言うかゲームなんだけどね。いや、仕事でいいのかしら……? まあとにかく、私がいないと回らない部分については昨日のうちに終わらせておいたから、問題はないわ」

まあとにかく、色々と忙しそうな様子ではあるが、時間の捻出程度は問題ないらしい。

ゲームの中でまで、そんな仕事のような動きをせんでもいいのでは、と思うのだが……エレノアの場合、そうでなければ既に組織が動かない状況にまでなってしまっているようだ。

高い能力故の弊害と呼ぶべきなのか……どうも、エレノアにはワーカホリックの気があるような気がしてならない。

「場所はもう確保してあるわ。行きましょう」

「ああ、世話になる」

発表が始まるのは後数分後だ。席を取ってあるとはいえ、これ以上のんびりしている暇はない。

エレノアには軽く礼を返しつつ、俺たちは発表会場へと足を踏み入れていった。